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二人は親子
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器用に山を降りてきたお父様と、離れたところにいた私たちはまた監視小屋の前で合流した。
タデは耳を押さえ溜め息を吐き、オヒシバはなぜか行儀良く正座をして食べ物を食べている。オヒシバの耳ではなく、心が壊れたのかと心配してしまう。
「……お父様……どこから声を出したの?」
「尻から声が出るわけがないだろう」
お父様は腕組みをし自慢気に笑うが、タデとヒイラギは呆れた表情でお父様を見ている。もちろん私もだ。やはりこういうことを言う辺り、私はお父様とは似ていない。
一人で腕組みをして納得していると、大人たち三人は同時に山の方向を見た。
「……まぁ働きだしたのなら良い」
「名指しされれば嫌でも働くだろう」
「本当に面白い人だねー」
三人の耳には向こうの状況が聞こえるらしく、どうなっているのか聞いてみた。
もちろん名指しされたニコライさんは『モクレン様!?』と動揺し、会話が聞こえるわけがないと思っているニコライさんたちは『どこかで見ているのでは……』と話し始め、恐怖心から全力で動き回っているそうだ。
「私の耳では何も聞こえないのに、三人とも聴力まで人を超えているのね……」
何気なく呟いた一言に三人は反応し、私は三人に「何を!?」と揉みくちゃにされてしまった。お父様はともかく、タデもヒイラギも人を超えてはいないとご立腹だ。
しばらく四人で騒いでいると、またお父様たちが山を見て反応する。ちなみにオヒシバともう一人の者はお昼寝中だ。
お父様はすぐに山に向かって走り、また人として気持ちの悪いスピードで山を登って行く。
「……どうしたのかしら?」
「……人を超えてはいないけれど、聞こえたから言うよ。ニコライさんが『モクレン様、どこかにいるんでしょう? 作業が終わったので、日暮れ前に爆破しますからねー!』って叫んでるよ」
機嫌が治ったヒイラギは苦笑いでそう言う。ということは、またお父様は叫ぶのだろう。
両耳に指を突っ込み、お父様を目で追いながら身構えた。
「ニコラァァァイィィィ! すぐに準備をしろぉぉぉぉ! 三十を数えたらぁぁぁ! また三十を数えてからぁぁぁ! 爆破しろぉぉぉぉ!」
自前の耳栓をしていてもお父様の声がハッキリと聞こえるが、この場にいる私たちは頭にハテナマークが浮かんでいる。
けれどお父様は爆破のゴーサインを出してしまったので、私たちは慌てて逃げる準備をする。
「オヒシバ! ツルボ! 走れ!」
お昼寝をしていたオヒシバともう一人の者はお父様の声で飛び起き、タデがすぐに走るよう叫んだ。今さらその者がツルボという名前なことを知ったが、今はそれどころではない。
お父様を置き去りにし、王国の広場方面へ向かって全力で走ると、オヒシバとツルボも慌てて駆け出した。
「モクレンめ! 事前に話し合いもなく勝手に決めて! 姫に何かあったらどうするつもりだ!」
私の隣を走るタデはかなりお怒りのようだ。私だっていきなり爆破しろと言うとは思わず、怒りを通り越して呆れている。
「だからカレンを呼んだのだ。スイレンであれば逃げ遅れる可能性があったからな」
「は!? お父様!?」
つい先程まで山にしがみついていたお父様がすぐ後ろにおり、私たちと共に走っている。しかも爽やかな笑顔を見せている。
「お父様! さっき山肌にくっついていたわよね!? いつの間に!?」
「久しぶりに全力で走った。良い運動になった」
ははは、とお父様は笑うが、会話が噛み合っていない。
「モクレン! お前、もう少し姫のことを……!」
タデがお父様に食って掛かると同時に派手な爆発音が聞こえ、次いで山が崩れる音が轟いた。
足を止め振り返ると、監視小屋の付近にまで崩れた岩が散乱していた。やはり本能的に逃げて正解だったようだ。
「お? どうやら無事に開通したようだな。戻るぞ」
お父様はそのまま笑顔でUターンしようとしたが、タデが「待て!」とお父様を止める。文句を言い足りないのだろう。
けれど私も聞きたいことがある。
「……お父様? なぜさっき、三十を数えたら三十と言ったの?」
そう聞くと、お父様は不思議そうな顔をして口を開いた。
「山を降りるのに三十、離れるのに三十だからだ」
するとタデとヒイラギが同時に叫んだ。
「「なら最初から六十と言えば良いだろう!?」」
「……なぜだ?」
二人のツッコミに対し、お父様は理解が出来ないようである。その理解が出来ないことを理解した私たちは、震える声を発した。
「……なぜって……」
「……三十と三十を足したら……」
「……六十だろう……」
私たちの言葉を聞いたお父様はおもむろにしゃがみ、地面である砂に何かを書いている。
どうやら丸のような印を描き、その数を数えているようだ。
「……本当に六十だ……お前たち、天才か……?」
お父様は震える声を発しながら私たちを見上げた。どうやら勉強はすこぶる苦手のようだが、その度合いは私以上のようだ……。
ふとタデとヒイラギを見ると、その視線は私に注がれている。
「……似ていないわ……似ていないわよー!」
まだ何を言われたわけではないが、私は思わず叫んでしまった。つい先程まで大声を出すのを控えようと思っていたのにだ。
「ぬおっ! カレン、声が大きいな! 私に似たのだな!」
軽く耳を塞いだお父様は、嬉しそうに、そして自慢気にそう話す。それを聞いたタデとヒイラギは爆笑を始め、私は真っ赤になってプルプルと震えるしかなかったのだった……。
タデは耳を押さえ溜め息を吐き、オヒシバはなぜか行儀良く正座をして食べ物を食べている。オヒシバの耳ではなく、心が壊れたのかと心配してしまう。
「……お父様……どこから声を出したの?」
「尻から声が出るわけがないだろう」
お父様は腕組みをし自慢気に笑うが、タデとヒイラギは呆れた表情でお父様を見ている。もちろん私もだ。やはりこういうことを言う辺り、私はお父様とは似ていない。
一人で腕組みをして納得していると、大人たち三人は同時に山の方向を見た。
「……まぁ働きだしたのなら良い」
「名指しされれば嫌でも働くだろう」
「本当に面白い人だねー」
三人の耳には向こうの状況が聞こえるらしく、どうなっているのか聞いてみた。
もちろん名指しされたニコライさんは『モクレン様!?』と動揺し、会話が聞こえるわけがないと思っているニコライさんたちは『どこかで見ているのでは……』と話し始め、恐怖心から全力で動き回っているそうだ。
「私の耳では何も聞こえないのに、三人とも聴力まで人を超えているのね……」
何気なく呟いた一言に三人は反応し、私は三人に「何を!?」と揉みくちゃにされてしまった。お父様はともかく、タデもヒイラギも人を超えてはいないとご立腹だ。
しばらく四人で騒いでいると、またお父様たちが山を見て反応する。ちなみにオヒシバともう一人の者はお昼寝中だ。
お父様はすぐに山に向かって走り、また人として気持ちの悪いスピードで山を登って行く。
「……どうしたのかしら?」
「……人を超えてはいないけれど、聞こえたから言うよ。ニコライさんが『モクレン様、どこかにいるんでしょう? 作業が終わったので、日暮れ前に爆破しますからねー!』って叫んでるよ」
機嫌が治ったヒイラギは苦笑いでそう言う。ということは、またお父様は叫ぶのだろう。
両耳に指を突っ込み、お父様を目で追いながら身構えた。
「ニコラァァァイィィィ! すぐに準備をしろぉぉぉぉ! 三十を数えたらぁぁぁ! また三十を数えてからぁぁぁ! 爆破しろぉぉぉぉ!」
自前の耳栓をしていてもお父様の声がハッキリと聞こえるが、この場にいる私たちは頭にハテナマークが浮かんでいる。
けれどお父様は爆破のゴーサインを出してしまったので、私たちは慌てて逃げる準備をする。
「オヒシバ! ツルボ! 走れ!」
お昼寝をしていたオヒシバともう一人の者はお父様の声で飛び起き、タデがすぐに走るよう叫んだ。今さらその者がツルボという名前なことを知ったが、今はそれどころではない。
お父様を置き去りにし、王国の広場方面へ向かって全力で走ると、オヒシバとツルボも慌てて駆け出した。
「モクレンめ! 事前に話し合いもなく勝手に決めて! 姫に何かあったらどうするつもりだ!」
私の隣を走るタデはかなりお怒りのようだ。私だっていきなり爆破しろと言うとは思わず、怒りを通り越して呆れている。
「だからカレンを呼んだのだ。スイレンであれば逃げ遅れる可能性があったからな」
「は!? お父様!?」
つい先程まで山にしがみついていたお父様がすぐ後ろにおり、私たちと共に走っている。しかも爽やかな笑顔を見せている。
「お父様! さっき山肌にくっついていたわよね!? いつの間に!?」
「久しぶりに全力で走った。良い運動になった」
ははは、とお父様は笑うが、会話が噛み合っていない。
「モクレン! お前、もう少し姫のことを……!」
タデがお父様に食って掛かると同時に派手な爆発音が聞こえ、次いで山が崩れる音が轟いた。
足を止め振り返ると、監視小屋の付近にまで崩れた岩が散乱していた。やはり本能的に逃げて正解だったようだ。
「お? どうやら無事に開通したようだな。戻るぞ」
お父様はそのまま笑顔でUターンしようとしたが、タデが「待て!」とお父様を止める。文句を言い足りないのだろう。
けれど私も聞きたいことがある。
「……お父様? なぜさっき、三十を数えたら三十と言ったの?」
そう聞くと、お父様は不思議そうな顔をして口を開いた。
「山を降りるのに三十、離れるのに三十だからだ」
するとタデとヒイラギが同時に叫んだ。
「「なら最初から六十と言えば良いだろう!?」」
「……なぜだ?」
二人のツッコミに対し、お父様は理解が出来ないようである。その理解が出来ないことを理解した私たちは、震える声を発した。
「……なぜって……」
「……三十と三十を足したら……」
「……六十だろう……」
私たちの言葉を聞いたお父様はおもむろにしゃがみ、地面である砂に何かを書いている。
どうやら丸のような印を描き、その数を数えているようだ。
「……本当に六十だ……お前たち、天才か……?」
お父様は震える声を発しながら私たちを見上げた。どうやら勉強はすこぶる苦手のようだが、その度合いは私以上のようだ……。
ふとタデとヒイラギを見ると、その視線は私に注がれている。
「……似ていないわ……似ていないわよー!」
まだ何を言われたわけではないが、私は思わず叫んでしまった。つい先程まで大声を出すのを控えようと思っていたのにだ。
「ぬおっ! カレン、声が大きいな! 私に似たのだな!」
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