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いつもの騒がしさ
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「ねぇ」
ルーカス王のことで頭がいっぱいになっていると、足音と共にそんな声が聞こえた。
「僕はスイレン。あっちはじいやのベンジャミン」
ルーカス王に口を挟ませないように、スイレンは次々とタデやヒイラギたちの紹介までしていく。その顔は無表情で、いつものスイレンからは想像がつかない。
「よろしく。で、いつまでカレンに抱きついてるの?」
そう言ったスイレンは私から無理やりルーカス王の手を外し、強引に握手をする。普段のスイレンとは違う行動に、私たちも口を挟めない。
「スイレン王子、大変申し訳ない。カレン姫に何かがあったら大変だと思ったんだ」
ルーカス王は何事もなかったかのようにスイレンに向き合い、笑顔で握手を交わしている。
「……いつものカレンなら、お父様と同じくらいの速さで逃げれたはずだよね。また腐りかけのものでも食べて、お腹の調子でも悪いの?」
「え!? なっ……!」
スイレンの言葉にしどろもどろになってしまう。確かに私は熟したベーリの実やチェーリの実が好きで、たまに熟しすぎて腐りかけのものも食べてしまったりするのだ。
その甘さが良いと言っても、スイレンには伝わったことはないのだが。
「カレンは寝言でも、食べ物のことを言うくらいだもんね」
いきなり何を言い始めるのかと思ったが、恥ずかしすぎて私は真っ赤になったまま動けずにいる。
そして本当のことだけに、反論ができない。
「まぁいいや。ほらカレン、地面に穴が空いたよ? いつものカレンなら、誰よりも先に走って見に行くんじゃない? 行こう」
そう言ってスイレンは私の手を取り歩き出した。むしろいつものスイレンは、こういった危険が伴うような行動をしない。
ルーカス王を置き去りにし、振り返ることもなく歩くスイレンに疑問を感じていると、お父様の大きな声が聞こえる。
「待て待て二人とも。まずは私が様子を見よう!」
少し慌てた様子のお父様が私たちを追い越し、先に穴の近くに到達した。辺りを見回し、地面に耳をつけ、安全を確認するとお父様は穴の中を覗きこんだ。
「ぬおぉぉぉ! オアシス!」
そのお父様の言葉に私たちヒーズル王国勢は色めき立つが、テックノン王国勢は小首を傾げている。
そんな中、スイレンは私の手を引っ張り足早に歩き出した。
いつもと違うスイレンに疑問を感じつつも、やはり私は好奇心が勝り、恐る恐る穴の中を覗きこんだ。
「……これは……」
私の呟きにお父様は満面の笑みで、目を輝かせてこちらを向く。
「……お父様、これはオアシスではないわ。セノーテよ……」
セノーテとはユカタン半島にあるものを指すが、要は石灰岩などで構成された土地が侵食され、地面などが崩壊して陥没した『シンクホール』や『ドリーネ』と呼ばれるものの中に水が溜まっているものだ。
その証拠に驚くほど透明な水の底には、どれほどの年月がかかったのか分からない程の鍾乳石が確認できる。
簡単に説明をすると、あちらこちらから感嘆の溜め息が漏れ聞こえた。
「博識だと伺っていたが、これ程までとは……。その知識はどこで教授されたのですか?」
気付けば近くにルーカス王がおり、穴の中を覗きこみながら疑問を投げかけてきた。
「じ……じいやが色々と教えてくれるんです! ね、じいや!」
そう言いながらウッカリとじいやを視界に入れてしまい、吹き出しそうになるのをこらえながら反対側へと顔を向けた。今のじいやは水棲亀にしか見えない。
急に話を振られてじいやも困っているのかも……と思ったと同時に、ニコライさんの声が響く。
「どうです、王! 私のカレン嬢は素晴らしい人なのです!」
そのニコライさんの言葉にお父様が反応し、「自分でここに飛び込むのと、私に投げ入れられるのとどっちが良い?」などと笑顔で話している。
タデは「沈めるぞ!」と叫び、ヒイラギは「重石がいるね」なんて賛同している。
「そういえばニコライさん! ルーカス王の従兄弟ってどういうことよ!?」
いつものヒーズル王国らしい騒がしさで私らしさが戻り、ニコライさんに激しくツッコミをしてしまった。
そんなニコライさんが口を開くか否かの瀬戸際、静かにパニックを起こしていた男もまた動き出してしまった。
「飲める水か確認いたしますぞ!」
太陽の光を頭で反射させ、まるで光の速さのように走って来たのはじいやだ。そしてそのままの勢いでセノーテへと飛び込んだ。
「じいやー!」
「ベンジャミン様!?」
「ベンジャミン殿ー!」
あちらこちらから悲鳴のような声が上がり、皆一斉にセノーテの縁へと集まり下を覗きこんだ。
「ははははは! 飲める! 飲めますぞー!」
背負っている甲羅のおかげか、水に容易に浮いたじいやは楽しそうにセノーテを泳いでいた。ルーカス王に何かを聞かれる前に、有耶無耶にしようとしたのだろう。
そんなじいやに、空気が読めないお父様が声を投げかけた。
「じいよ! 上から見ると立派なカンメにしか見えないぞ!」
そのお父様の言葉が頭の中を駆け巡り、その場の全員の腹筋を崩壊させたのは言うまでもない。
ルーカス王のことで頭がいっぱいになっていると、足音と共にそんな声が聞こえた。
「僕はスイレン。あっちはじいやのベンジャミン」
ルーカス王に口を挟ませないように、スイレンは次々とタデやヒイラギたちの紹介までしていく。その顔は無表情で、いつものスイレンからは想像がつかない。
「よろしく。で、いつまでカレンに抱きついてるの?」
そう言ったスイレンは私から無理やりルーカス王の手を外し、強引に握手をする。普段のスイレンとは違う行動に、私たちも口を挟めない。
「スイレン王子、大変申し訳ない。カレン姫に何かがあったら大変だと思ったんだ」
ルーカス王は何事もなかったかのようにスイレンに向き合い、笑顔で握手を交わしている。
「……いつものカレンなら、お父様と同じくらいの速さで逃げれたはずだよね。また腐りかけのものでも食べて、お腹の調子でも悪いの?」
「え!? なっ……!」
スイレンの言葉にしどろもどろになってしまう。確かに私は熟したベーリの実やチェーリの実が好きで、たまに熟しすぎて腐りかけのものも食べてしまったりするのだ。
その甘さが良いと言っても、スイレンには伝わったことはないのだが。
「カレンは寝言でも、食べ物のことを言うくらいだもんね」
いきなり何を言い始めるのかと思ったが、恥ずかしすぎて私は真っ赤になったまま動けずにいる。
そして本当のことだけに、反論ができない。
「まぁいいや。ほらカレン、地面に穴が空いたよ? いつものカレンなら、誰よりも先に走って見に行くんじゃない? 行こう」
そう言ってスイレンは私の手を取り歩き出した。むしろいつものスイレンは、こういった危険が伴うような行動をしない。
ルーカス王を置き去りにし、振り返ることもなく歩くスイレンに疑問を感じていると、お父様の大きな声が聞こえる。
「待て待て二人とも。まずは私が様子を見よう!」
少し慌てた様子のお父様が私たちを追い越し、先に穴の近くに到達した。辺りを見回し、地面に耳をつけ、安全を確認するとお父様は穴の中を覗きこんだ。
「ぬおぉぉぉ! オアシス!」
そのお父様の言葉に私たちヒーズル王国勢は色めき立つが、テックノン王国勢は小首を傾げている。
そんな中、スイレンは私の手を引っ張り足早に歩き出した。
いつもと違うスイレンに疑問を感じつつも、やはり私は好奇心が勝り、恐る恐る穴の中を覗きこんだ。
「……これは……」
私の呟きにお父様は満面の笑みで、目を輝かせてこちらを向く。
「……お父様、これはオアシスではないわ。セノーテよ……」
セノーテとはユカタン半島にあるものを指すが、要は石灰岩などで構成された土地が侵食され、地面などが崩壊して陥没した『シンクホール』や『ドリーネ』と呼ばれるものの中に水が溜まっているものだ。
その証拠に驚くほど透明な水の底には、どれほどの年月がかかったのか分からない程の鍾乳石が確認できる。
簡単に説明をすると、あちらこちらから感嘆の溜め息が漏れ聞こえた。
「博識だと伺っていたが、これ程までとは……。その知識はどこで教授されたのですか?」
気付けば近くにルーカス王がおり、穴の中を覗きこみながら疑問を投げかけてきた。
「じ……じいやが色々と教えてくれるんです! ね、じいや!」
そう言いながらウッカリとじいやを視界に入れてしまい、吹き出しそうになるのをこらえながら反対側へと顔を向けた。今のじいやは水棲亀にしか見えない。
急に話を振られてじいやも困っているのかも……と思ったと同時に、ニコライさんの声が響く。
「どうです、王! 私のカレン嬢は素晴らしい人なのです!」
そのニコライさんの言葉にお父様が反応し、「自分でここに飛び込むのと、私に投げ入れられるのとどっちが良い?」などと笑顔で話している。
タデは「沈めるぞ!」と叫び、ヒイラギは「重石がいるね」なんて賛同している。
「そういえばニコライさん! ルーカス王の従兄弟ってどういうことよ!?」
いつものヒーズル王国らしい騒がしさで私らしさが戻り、ニコライさんに激しくツッコミをしてしまった。
そんなニコライさんが口を開くか否かの瀬戸際、静かにパニックを起こしていた男もまた動き出してしまった。
「飲める水か確認いたしますぞ!」
太陽の光を頭で反射させ、まるで光の速さのように走って来たのはじいやだ。そしてそのままの勢いでセノーテへと飛び込んだ。
「じいやー!」
「ベンジャミン様!?」
「ベンジャミン殿ー!」
あちらこちらから悲鳴のような声が上がり、皆一斉にセノーテの縁へと集まり下を覗きこんだ。
「ははははは! 飲める! 飲めますぞー!」
背負っている甲羅のおかげか、水に容易に浮いたじいやは楽しそうにセノーテを泳いでいた。ルーカス王に何かを聞かれる前に、有耶無耶にしようとしたのだろう。
そんなじいやに、空気が読めないお父様が声を投げかけた。
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