貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

文字の大きさ
332 / 370

なかなか出ない

しおりを挟む
 あれから数日に渡り出産ラッシュと宴を繰り返したが、大人たちは酒でヘトヘトになるどころかますます元気になり、王国内は活気に満ち溢れている。

 今はハコベさんとナズナさんの出産から一週間ほど経っている。『産後の肥立ち』なんて言葉のないこの世界では、出産直後から普段と変わらない生活をしても大丈夫なようだ。

 ただ、新米ママたちは普段通りの生活をしても問題はないのだが、あまり屈んだりすると赤ちゃんが胸元から落ちてしまうことがあるらしく、畑仕事ではなく糸作りや布作りなどあまり屈むことが少ない仕事をしている。
 これはお父様が命じたことだ。新たな国民を大切にするために、あのお父様が女性や子どもたちにな配慮したのだ。森の民としてみれば気遣いすぎという声も出たが、もちろん私は大賛成だった。

 私もまた、何も出来ないながらも新米ママたちが心配で、移民の町には行かずにお母様たちと一緒に布作りに励んでいる。
 皆談笑をし、時おり赤ちゃんの確認をしては作業をしているのだが、定期的にこの言葉が出てくるのだ。

「うーん……」
「出ない……出ないわ……」

 溜め息混じりに吐き出されるこの言葉は、もちろん便秘が理由などではない。

「そんなに焦らなくても大丈夫よ。最終的に困ったらおババがいるわ」

 お母様がそう言うと、新米ママたちは「そうよね」と納得するのだが、少し経つとまたこれがエンドレスで続くのだ。それを見て女性たちは笑いあうのだが。
 新米ママたちが出なくて困っているのは、実は子どもたちの名前なのだ。

「そんなに突然『出る』ものなの?」

「それはもうドン! ドバ! っと出るのよ」

 ハコベさんらしからぬセリフだが、もちろん便通の話ではない。出産から何日以内に名前を提出などないこの世界では、ゆっくりと名前を考えるそうだ。いや、考えるというよりも、突然思い浮かぶことを『出る』と表現しているようだ。
 父親も『出る』ことがあるようだが、確率的に圧倒的に母親が『出る』らしい。

 森の民は男女の名前の違いという概念がなく、『出た』名前をつけるらしいのだが、どんなに待っても出ない場合はおババさんに占ってもらい、いくらか候補をあげてもらって、それらを選んで名付けるらしい。
 それにしてもその『出る』名前の全てが植物由来なのが不思議でたまらない。

「……はっ!」

 急にナズナさんが動かなくなり、私たちは名前が『出た』のかとキャッキャと詰め寄った。

「……レンゲ……」

 そうつぶやいたナズナさんに、皆が「その名前にするの!?」と驚いている。
 同じ名前がいけないというルールもないそうだが、基本的に皆が違う名前になるらしい。だからこそ皆が驚いているのだ。

「レンゲ! それどころじゃないわ!」

「どういうこと?」

 鬼気迫る表情で話すナズナさんに、皆が問いかけた。

「私ったら自分のことしか考えていなかった……」

 そうつぶやいたナズナさんの言葉に、ハコベさんがハッとする。

「……そうよね……私たちは結婚しているけど、他のみんなは……」

 そう言いながらハコベさんは辺りを見回した。その仕草から皆は「あ!」と叫び理解したようだが、私は小首を傾げる。

「どういうこと?」

 私のその問いかけにハコベさんが答えてくれた。

「結婚の儀式をしていないのよ」

 ハコベさんの話によると、本来なら結婚の約束をした二人が、先祖の眠る森の中で儀式をしなければならないらしいのだ。森の一部となった先祖に、一人前として立派になった姿を見せると同時に、新たな民が増えることを願掛けする儀式らしい。
 儀式といっても重苦しいものではなく、ほとんど公認の二人を森の民たちが取り囲み、即興で踊ったりする様を見てヤンヤと野次を飛ばしたりして明るく楽しむものらしい。

「こればかりはモクレンに確認をしないと……。女たちの作業の制限までしたのだから……」

 お母様は困り顔でオロオロとしている。確かに私たちだけで決めることが出来ないと思い、私たちはお父様たちが戻るのを待った。

────

「……というわけで結婚の儀式をどうしたらいいかしら?」

 作業から戻って来たお父様にお母様が困ったように聞いている。今夜は宴はないのだが、なんだかんだで広場に集まり国民全員で食事をしているのだ。

「うーむ……動きを制限すれば……しかし即興だしな……やはり跳ねたりもするだろう……」

 食事をしながらお父様も困り顔になっている。

「それに人数も人数だ……一気にやるにしても……」

 お父様がブツブツとつぶやいていると、近くに座っていたタデが声を上げた。

「今回は結婚と出産の順番が逆という異例なことになっている。ましてや馴染みの森もない。どうせ異例づくしなら、今回だけということにして、とことん異例なことをすればいい」

 ニヤリと笑うタデを見て、ヒイラギもまたニヤリと笑いながら話し始めた。

「それ賛成! モクレンとレンゲが代表して儀式をやればいいんだよ!」

 広場は静まり返り、いきなり名前を出されたお父様とお母様はポカーンとしている。
 お父様が「……何を……」と言いかけたところで、宴なみに広場が沸いた。

「伝説の儀式をまた見れるの!?」
「死ぬまでにまた見れるとは!」
「絶対に見たい!」

 あちらこちからそんな声が聞こえる。私やスイレン、同世代の子どもたちは呆気にとられているが、大人たちは二人に儀式をやらせたいのは理解できた。

「待て待て待て……」
「無理よ……」

 お父様とお母様は唖然としながらつぶやくが、歓声にその声はかき消された。

「皆が望んでいるのに、この国の王は民の声を無視するのか?」

 タデの挑発的な発言に、お父様はぐぬぬ、となりながら渋々了承した。
 まだ儀式を見たことのない私たちも、楽しみでその日ははしゃいだのだった。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...