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移民の町の改造
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遅くなってしまったが、今日こそは移民の町に畑を作ろう。そう決意し、黒王と松風に専用の荷車を装着した。
黒王と松風の身体が大きいので、当たり前だが荷車も巨大だ。それに輸出品や道具を載せ、空いているスペースに私たちも乗りこんだ。
我らが誇る人間重機は、もちろん黒王と松風の背中に乗っている。
私たちが作った森の中は、私たちが何回も通った証として道が出来ている。木漏れ日が気持ち良い、まるで森の回廊のようだ。
そして森を抜けると、移民の町へ向けての道の両端にデーツ並木が立ち並んでいる。
移民の町に近づくほど並木の背丈が低いのは、後から植樹したからだろう。
────
「皆さーん! 遅くなってごめんなさーい!」
町の入り口で叫ぶと、なんだなんだと人が集まって来た。皆、思い思いに時間を使っていたようだったので、予告なく突然来てしまったのは少し申し訳無い。
「どうした? いつも通りの時間だが?」
ペーターさんが代表として、小首を傾げながら口を開いた。その手にはなんちゃってクレープが握られている。環境が変わってストレスどころか、日に日に生き生きとして、若返ってきているように見えるのは気のせいだろうか?
いつもこの時間はテックノン王国へ輸出品を運びつつ、移民の町の人たちに道具や食料を売る時間帯なのだ。
「急な話だけれど、今日こそ畑を作るわ。そして突拍子もないことを言うけれど、ここを観光地にして交易所にもしたいの」
「……本当に急で突拍子もないな」
一瞬の間を置き、ペーターさんが真顔でそう言うと辺りは笑いに包まれた。
観光地にしても交易所にしても、この国の存在を知っている人たちは限られる。テックノン王国の兵士たちの一部、リトールの町の人たち、そしてリーンウン国の人たちだ。
もちろんその全員が来るわけではないが、来てくれたのならおもてなしの心で対応し、この国を堪能してほしい。
これからが如何に大変な作業なのかは、私たちの畑の拡大などを手伝って分かっているだろうに、それでも笑うこの人たちを見て、こちら側も頑張らねばと励まされる。
「私はたいして作業の力になれないが、観光や貿易をするなら町を囲った方がいい」
そうなのだ。日本に住んでいればあまりお目にかかることはないが、町や都市、城を外敵から守るために囲む防御壁というものがある。
この移民の町は山と山の間にあるので、ある程度は守られている。
外から守るのも大事だが、今回は訪れた人が不用意に外に出ないように門と門番も必要になってしまう。だが適任者がいる。元国境警備隊のジェイソンさんだ。
「ジェイソンよ」
じいやが名前を呼ぶと、目を輝かせてジェイソンさんは返事をした。こちら側は昨日、そして道中と話し合い、打ち合わせは完璧である。
じいやが門番の件を言うと、ジェイソンさんは二つ返事でにこやかに引き受けた。見事に想定通りである。
「囲うと言っても、リトールの町のような柵だと見通しが良すぎるでしょう? それに石造りだったり凝ったものだと建築が大変になってしまうわ」
この見渡す限りのまばらなクローバーと砂の景色はなかなか見れないとは思うが、いかんせん殺風景すぎる。
国境が開通したおかげで風の通りが変わったのか、砂の侵食によりクローバーはなかなか増えてくれないのだ。あまり町に砂が入らないようにもしたい。
いつか見栄えの良い景色になったのなら、囲いを変更すれば良い。なので極めて原始的な囲いを作ることを提案した。細めの丸太の先を削り地面に刺す、いわゆる杭のフェンスだ。それも人の背丈を超える高さのものである。
「ではそちらは私がやろう」
ニコニコとやる気満々のブルーノさんがそう言うが、ブルーノさんには他の仕事を頼みたいのだ。
「いえ、ブルーノさんはスイレンと話し合いをしてほしいの」
まだこの場所に住居すら建っていなかった頃、ブルーノさんに地面に絵を描いて説明したものを、この移民の町の一番の名所にしたいのだ。
スイレンには絵を描きながら原理を徹底的に説明し、私の伝えたいことは全て把握してもらっている。模型もないのに、ちゃんと理解してくれたスイレンは本当に天才なのかもしれない。
「フランクさんとミースさんも僕の話を聞いて。この町をより良くするために必要だから。お父様は杭を作って。じいやはテックノン王国に荷物を渡して来て。それ以外の人は畑の作業。始めよう!」
スイレンの号令で、のんびりとしていた移民の町が慌ただしくなった。だが、どの人も実に楽しそうにしている。
スイレンたちはブルーノさんの工房へ向かい、移民の町の人たちは汚れても良い服装に着替えに走る。
なぜかペーターさんは、じいやと共に国境へ向かって行った。ここに来てからのペーターさんは自由である。お金の管理のこともあるので、ペーターさんがいるのは心強い。
ふとお父様を見ると、恐ろしいスピードで丸太の先を削っている。
「さぁ! 準備が出来た人はこっちに集まって!」
私も負けていられない。この移民の町を、みんなの手で見事に発展させようではないか。
黒王と松風の身体が大きいので、当たり前だが荷車も巨大だ。それに輸出品や道具を載せ、空いているスペースに私たちも乗りこんだ。
我らが誇る人間重機は、もちろん黒王と松風の背中に乗っている。
私たちが作った森の中は、私たちが何回も通った証として道が出来ている。木漏れ日が気持ち良い、まるで森の回廊のようだ。
そして森を抜けると、移民の町へ向けての道の両端にデーツ並木が立ち並んでいる。
移民の町に近づくほど並木の背丈が低いのは、後から植樹したからだろう。
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「皆さーん! 遅くなってごめんなさーい!」
町の入り口で叫ぶと、なんだなんだと人が集まって来た。皆、思い思いに時間を使っていたようだったので、予告なく突然来てしまったのは少し申し訳無い。
「どうした? いつも通りの時間だが?」
ペーターさんが代表として、小首を傾げながら口を開いた。その手にはなんちゃってクレープが握られている。環境が変わってストレスどころか、日に日に生き生きとして、若返ってきているように見えるのは気のせいだろうか?
いつもこの時間はテックノン王国へ輸出品を運びつつ、移民の町の人たちに道具や食料を売る時間帯なのだ。
「急な話だけれど、今日こそ畑を作るわ。そして突拍子もないことを言うけれど、ここを観光地にして交易所にもしたいの」
「……本当に急で突拍子もないな」
一瞬の間を置き、ペーターさんが真顔でそう言うと辺りは笑いに包まれた。
観光地にしても交易所にしても、この国の存在を知っている人たちは限られる。テックノン王国の兵士たちの一部、リトールの町の人たち、そしてリーンウン国の人たちだ。
もちろんその全員が来るわけではないが、来てくれたのならおもてなしの心で対応し、この国を堪能してほしい。
これからが如何に大変な作業なのかは、私たちの畑の拡大などを手伝って分かっているだろうに、それでも笑うこの人たちを見て、こちら側も頑張らねばと励まされる。
「私はたいして作業の力になれないが、観光や貿易をするなら町を囲った方がいい」
そうなのだ。日本に住んでいればあまりお目にかかることはないが、町や都市、城を外敵から守るために囲む防御壁というものがある。
この移民の町は山と山の間にあるので、ある程度は守られている。
外から守るのも大事だが、今回は訪れた人が不用意に外に出ないように門と門番も必要になってしまう。だが適任者がいる。元国境警備隊のジェイソンさんだ。
「ジェイソンよ」
じいやが名前を呼ぶと、目を輝かせてジェイソンさんは返事をした。こちら側は昨日、そして道中と話し合い、打ち合わせは完璧である。
じいやが門番の件を言うと、ジェイソンさんは二つ返事でにこやかに引き受けた。見事に想定通りである。
「囲うと言っても、リトールの町のような柵だと見通しが良すぎるでしょう? それに石造りだったり凝ったものだと建築が大変になってしまうわ」
この見渡す限りのまばらなクローバーと砂の景色はなかなか見れないとは思うが、いかんせん殺風景すぎる。
国境が開通したおかげで風の通りが変わったのか、砂の侵食によりクローバーはなかなか増えてくれないのだ。あまり町に砂が入らないようにもしたい。
いつか見栄えの良い景色になったのなら、囲いを変更すれば良い。なので極めて原始的な囲いを作ることを提案した。細めの丸太の先を削り地面に刺す、いわゆる杭のフェンスだ。それも人の背丈を超える高さのものである。
「ではそちらは私がやろう」
ニコニコとやる気満々のブルーノさんがそう言うが、ブルーノさんには他の仕事を頼みたいのだ。
「いえ、ブルーノさんはスイレンと話し合いをしてほしいの」
まだこの場所に住居すら建っていなかった頃、ブルーノさんに地面に絵を描いて説明したものを、この移民の町の一番の名所にしたいのだ。
スイレンには絵を描きながら原理を徹底的に説明し、私の伝えたいことは全て把握してもらっている。模型もないのに、ちゃんと理解してくれたスイレンは本当に天才なのかもしれない。
「フランクさんとミースさんも僕の話を聞いて。この町をより良くするために必要だから。お父様は杭を作って。じいやはテックノン王国に荷物を渡して来て。それ以外の人は畑の作業。始めよう!」
スイレンの号令で、のんびりとしていた移民の町が慌ただしくなった。だが、どの人も実に楽しそうにしている。
スイレンたちはブルーノさんの工房へ向かい、移民の町の人たちは汚れても良い服装に着替えに走る。
なぜかペーターさんは、じいやと共に国境へ向かって行った。ここに来てからのペーターさんは自由である。お金の管理のこともあるので、ペーターさんがいるのは心強い。
ふとお父様を見ると、恐ろしいスピードで丸太の先を削っている。
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