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ティージュ祭り
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一度部屋に戻って少し休憩をし、一人で厨房へ行くと、ここでもまたざわめきが聞こえて来た。
どうやら原因は、一人のお爺さんのようだった。
「ティージュ料理とお聞きし、見学に参りました。お邪魔はしませんので、どうか見学をお許しください」
騒ぐ料理人たちの間をすり抜けて来た、品の良いお爺さんはそう言って深々と頭を下げた。誰かの身内なのだろうが、ティージュ料理を楽しみにしてくれるのなら、私としてもやりがいがあるというものだ。
「えぇ! 楽しみにしていて! 最高の料理を作るわ!」
気合いの入った私は止める料理人たちを振り切り、まずは食材のチェックを始めた。今日は大量のトゥメィトゥがあったので、これを消費することにしよう。
料理人たちは私を止めるのを諦めたようだ。ちょうど今くらいの時間が普段夕食を作る時間帯らしく、私が作るものを見てから料理人たちが大量に夕食用に作ることに決まった。
まず最初に作るのはトゥメィトゥパエリアだ。マイの消費にも困っていたようだし、好きな人はとことんハマる一品だろう。
コッコの肉とオーニーオーンを炒め、そこに生米ならぬ生マイを投入する。
マイが透明になってきたら、ざく切りにしたトゥメィトゥや塩、近くにあったブイヨンスープを入れて蓋をする。あとは弱火で十五分ほどこのままだ。
その間に次の料理に取り掛かる。食材を切っている間に、モーの乳を手の空いている料理人に振ってもらう。バターが欲しいのだ。
先程のコッコの肉とオーニーオーンをこの為に少し分けていたが、追加でポゥティトゥを小さく切り、軽く茹でた。
そしてパエリアの火を止め、ティージュの中からナチュラルチーズに近いものを細かく切って振りかけ、彩りを良くするためにピーマンこと緑のペパーを細かく切り、パエリアの上に散りばめ蓋をした。あとは予熱でティージュが溶けるのを待つだけだ。
さてバターが完成したようなので、フライパンで溶かしてコッコの肉とオーニーオーンを入れ、ムギンの粉も入れる。それにモーの乳を混ぜ、塩こしょうで味を整えながらだまにならないように混ぜる。
もったりとして来たら、簡単ホワイトソースの出来上がりだ。
「耐熱用の深皿はあるかしら?」
手渡してもらった深皿に茹でたポゥティトゥを入れ、その上にホワイトソースをかける。そしてティージュの壺から、粉状のものを取り出して振りかけた。
「あとは表面に焦げ色が付くまで焼いてちょうだい」
そう言うと、一人の料理人が焼き窯に入れてくれた。簡単ポゥティトゥグラタンの出来上がりである。
さぁ、あとはサラダを作ろう、そう思っていたのだが、まな板の近くにあるグレープフルーツよりも大きな黒い実がずっと気になっていたのだ。
「これは何?」
そう聞けば、この国で採れる『卵の実』と言うではないか。調理法を聞くと、生以外なら何をしても美味いと言う。
ドキドキしながら真っ二つにしてみるとすぐに香りが立ち込め、それがナスだということが分かった。これは食べなければならない。
切り口が変色すると言われ、別に変色しても構わないのだが、作るものが時間がかかりそうなのでおとなしく水に漬けた。
肉の保管庫を見るとモーもブーも揃っていたので、どうせこれから同じものを作るのならと、料理人たちとひたすら包丁で叩きミンチにした。
そのミンチ肉の一部をトゥメィトゥやオーニーオーンや香草と共に煮て、濃いめの味付けにしながら水分を飛ばす。
これで簡単ミートソースの出来上がりだ。隠し味にセウユを使うのが私流である。
そしてざく切りにした『卵の実』を炒めて火を通し、その上にミートソースをかけてお好みでティージュをかけてもらうようにした。
「……!」
料理人たちの顔を見ると、皆生ツバを飲み込んでいる。隣にいた料理人に聞くと、普段はただ焼くか煮るかで食べていたらしい。
そして別のミンチ肉と炒めたオーニーオーンを混ぜ、中にティージュを入れて包み込んで焼いた。いわゆるチーズインハンバーグだ。
あとはトゥメィトゥとべージルとモッツァレラのようなティージュでサラダを作った。
ドレッシングを作っても良かったのだが、さすがに疲れて油をかけるだけにした。
「これだけ作れば大丈夫かしら……?」
自分でも分かるほどの疲れた声で聞くと、料理人たちは一斉に手を動かし始めた。
あの品の良いお爺さんは、子どものように目を輝かせて料理を見学し、手を叩いて喜んでいるようだった。
少しほっこりとしたが、みるみるうちにティージュが減っていくではないか。焦って壺を一つ回収したが、その残量もほとんどない。
しょんぼりとしながら厨房を見ていたが、お爺さんがいかにティージュ料理を楽しみにしているのかが伝わり私は決心した。
先程と同じものを見ていてもつまらないと思い、お爺さんを呼び寄せた。
「簡単なものになってしまうけれど……」
そう言って厨房の端で作業を始めた。なんといっても宮殿の厨房は食材に困ることはほぼない。
火にかけたモーの乳にリーモンの汁を入れると、乳が分離してくる。それを集めて布である程度の時間を漉せば、カッテージチーズが出来上がる。
そのカッテージチーズを裏ごしし、いつもの目分量で砂糖を入れてよく混ぜる。それにモーの乳や玉子、ムギン粉とリーモン汁を入れて、これでもかと言うほどしっかりと混ぜる。
それを耐熱皿に入れ、焼き窯に入れる。幸いグラタンを作るために、焼き窯は火が入りっぱなしだ。
焼き上がりを待つ間に、カッテージチーズを漉した時に出た『ホエー』を火にかけ、温まったところにモーの乳を入れる。当然目分量だ。
そしてそっとかき混ぜ続けると、やがてまたこれが分離してくる。これを集めて漉せば、今度はリコッタチーズが出来上がるのだ。
どうやら焼き窯に入れたものも焼き上がったようだ。カッテージチーズの簡単チーズケーキである。
「お爺さん。これティージュの焼き菓子とすごく簡単なティージュなの。一晩冷暗所……なるべく涼しい場所で保管して、明日になったら食べてね」
そう言って渡すと、お爺さんはまだ熱いであろうチーズケーキを風呂敷のように布で包み、涙ぐみながらお礼を何回も言って厨房から出て行った。
お土産のティージュは無くなってしまったが、あのお爺さんのものすごい喜びようを見て充実感を得たので、これはこれで良しとしようではないか。
どうやら原因は、一人のお爺さんのようだった。
「ティージュ料理とお聞きし、見学に参りました。お邪魔はしませんので、どうか見学をお許しください」
騒ぐ料理人たちの間をすり抜けて来た、品の良いお爺さんはそう言って深々と頭を下げた。誰かの身内なのだろうが、ティージュ料理を楽しみにしてくれるのなら、私としてもやりがいがあるというものだ。
「えぇ! 楽しみにしていて! 最高の料理を作るわ!」
気合いの入った私は止める料理人たちを振り切り、まずは食材のチェックを始めた。今日は大量のトゥメィトゥがあったので、これを消費することにしよう。
料理人たちは私を止めるのを諦めたようだ。ちょうど今くらいの時間が普段夕食を作る時間帯らしく、私が作るものを見てから料理人たちが大量に夕食用に作ることに決まった。
まず最初に作るのはトゥメィトゥパエリアだ。マイの消費にも困っていたようだし、好きな人はとことんハマる一品だろう。
コッコの肉とオーニーオーンを炒め、そこに生米ならぬ生マイを投入する。
マイが透明になってきたら、ざく切りにしたトゥメィトゥや塩、近くにあったブイヨンスープを入れて蓋をする。あとは弱火で十五分ほどこのままだ。
その間に次の料理に取り掛かる。食材を切っている間に、モーの乳を手の空いている料理人に振ってもらう。バターが欲しいのだ。
先程のコッコの肉とオーニーオーンをこの為に少し分けていたが、追加でポゥティトゥを小さく切り、軽く茹でた。
そしてパエリアの火を止め、ティージュの中からナチュラルチーズに近いものを細かく切って振りかけ、彩りを良くするためにピーマンこと緑のペパーを細かく切り、パエリアの上に散りばめ蓋をした。あとは予熱でティージュが溶けるのを待つだけだ。
さてバターが完成したようなので、フライパンで溶かしてコッコの肉とオーニーオーンを入れ、ムギンの粉も入れる。それにモーの乳を混ぜ、塩こしょうで味を整えながらだまにならないように混ぜる。
もったりとして来たら、簡単ホワイトソースの出来上がりだ。
「耐熱用の深皿はあるかしら?」
手渡してもらった深皿に茹でたポゥティトゥを入れ、その上にホワイトソースをかける。そしてティージュの壺から、粉状のものを取り出して振りかけた。
「あとは表面に焦げ色が付くまで焼いてちょうだい」
そう言うと、一人の料理人が焼き窯に入れてくれた。簡単ポゥティトゥグラタンの出来上がりである。
さぁ、あとはサラダを作ろう、そう思っていたのだが、まな板の近くにあるグレープフルーツよりも大きな黒い実がずっと気になっていたのだ。
「これは何?」
そう聞けば、この国で採れる『卵の実』と言うではないか。調理法を聞くと、生以外なら何をしても美味いと言う。
ドキドキしながら真っ二つにしてみるとすぐに香りが立ち込め、それがナスだということが分かった。これは食べなければならない。
切り口が変色すると言われ、別に変色しても構わないのだが、作るものが時間がかかりそうなのでおとなしく水に漬けた。
肉の保管庫を見るとモーもブーも揃っていたので、どうせこれから同じものを作るのならと、料理人たちとひたすら包丁で叩きミンチにした。
そのミンチ肉の一部をトゥメィトゥやオーニーオーンや香草と共に煮て、濃いめの味付けにしながら水分を飛ばす。
これで簡単ミートソースの出来上がりだ。隠し味にセウユを使うのが私流である。
そしてざく切りにした『卵の実』を炒めて火を通し、その上にミートソースをかけてお好みでティージュをかけてもらうようにした。
「……!」
料理人たちの顔を見ると、皆生ツバを飲み込んでいる。隣にいた料理人に聞くと、普段はただ焼くか煮るかで食べていたらしい。
そして別のミンチ肉と炒めたオーニーオーンを混ぜ、中にティージュを入れて包み込んで焼いた。いわゆるチーズインハンバーグだ。
あとはトゥメィトゥとべージルとモッツァレラのようなティージュでサラダを作った。
ドレッシングを作っても良かったのだが、さすがに疲れて油をかけるだけにした。
「これだけ作れば大丈夫かしら……?」
自分でも分かるほどの疲れた声で聞くと、料理人たちは一斉に手を動かし始めた。
あの品の良いお爺さんは、子どものように目を輝かせて料理を見学し、手を叩いて喜んでいるようだった。
少しほっこりとしたが、みるみるうちにティージュが減っていくではないか。焦って壺を一つ回収したが、その残量もほとんどない。
しょんぼりとしながら厨房を見ていたが、お爺さんがいかにティージュ料理を楽しみにしているのかが伝わり私は決心した。
先程と同じものを見ていてもつまらないと思い、お爺さんを呼び寄せた。
「簡単なものになってしまうけれど……」
そう言って厨房の端で作業を始めた。なんといっても宮殿の厨房は食材に困ることはほぼない。
火にかけたモーの乳にリーモンの汁を入れると、乳が分離してくる。それを集めて布である程度の時間を漉せば、カッテージチーズが出来上がる。
そのカッテージチーズを裏ごしし、いつもの目分量で砂糖を入れてよく混ぜる。それにモーの乳や玉子、ムギン粉とリーモン汁を入れて、これでもかと言うほどしっかりと混ぜる。
それを耐熱皿に入れ、焼き窯に入れる。幸いグラタンを作るために、焼き窯は火が入りっぱなしだ。
焼き上がりを待つ間に、カッテージチーズを漉した時に出た『ホエー』を火にかけ、温まったところにモーの乳を入れる。当然目分量だ。
そしてそっとかき混ぜ続けると、やがてまたこれが分離してくる。これを集めて漉せば、今度はリコッタチーズが出来上がるのだ。
どうやら焼き窯に入れたものも焼き上がったようだ。カッテージチーズの簡単チーズケーキである。
「お爺さん。これティージュの焼き菓子とすごく簡単なティージュなの。一晩冷暗所……なるべく涼しい場所で保管して、明日になったら食べてね」
そう言って渡すと、お爺さんはまだ熱いであろうチーズケーキを風呂敷のように布で包み、涙ぐみながらお礼を何回も言って厨房から出て行った。
お土産のティージュは無くなってしまったが、あのお爺さんのものすごい喜びようを見て充実感を得たので、これはこれで良しとしようではないか。
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