364 / 370
危険な人
しおりを挟む
子アオーンを撫で回しているうちに、私やスイレン、ペーターさんの抜けた腰は復活した。というよりも、スイレンとペーターさんは激しく怯えており、とにかくこの子から離れたいらしい。
ひとまず敷地内に全員で入り、金網の入り口を閉めると、ニコライさんは大きいアオーンを撫でながらニコニコと話し始めた。
「心配ですからまた逃げ出したり、勝手にお嫁さんを探しに行くのは禁止です。だからこの金属の網で屋敷を囲みました」
セキュリティ対策として、外側から中を守るための金網だと思っていたが、どうやらアオーンを逃がさないための金網だったようだ。
ニコライさんの発言を聞いたお父様の脳が、ようやく回復したようだ。
「ではニコライも縛り付けねばならんな。カレンだけではなく、あちらこちらで求婚ばかりしているのだから」
お父様の発言に私たちは爆笑をした。アオーンは害がないと大人たちは判断したらしく、悪ノリをしたお父様とタデ、そしてオヒシバがニコライさんを捕まえて、やいのやいのと騒いでいた時だ。
「坊ちゃまー! 皆のもの! 賊です! 坊ちゃまが賊に襲われています!」
ガチャリ、とお屋敷の扉が開くと同時に高齢の、実に執事らしい格好の男性が叫んだ。
「あぁ! エドワード! 誤解です!」
ニコライさんはそのエドワードさんに叫び返している。とはいえ、これでも王族であるお坊ちゃまを、大の男が三人で押さえつけたりしていたのだ。賊に間違われても仕方がない。
「「あの!」」
私とお母様は同時に一歩踏み出した。誤解を解くために何か言わねば……そう思った一瞬のうちに、エドワードさんはお母様と私を見て、そして腰を抜かした。
「だ……大丈夫ですか……?」
なぜ腰を抜かしたのかは分からないが、驚愕の表情をして震える老人をそのままにはしておけない。私とお母様はエドワードさんに手を貸そうと差し伸べた。
「……ぼぼぼぼぼぼぼぼ……坊ちゃまー!!!!」
今の今まで腰を抜かしていたエドワードさんは、お父様顔負けの声量で叫び、ニコライさんを睨みつけながら立ち上がった。
腰を抜かしたせいで力が入らないのか、その足はカクカクと震えた生まれ立ての動物のようで、私とお母様はハラハラとしながらその体を支えた。
「坊ちゃま! 見損ないましたぞー!」
どういうことなのかを聞く前に、エドワードさんは勝手に話し始めた。もちろんこの場の全員が状況を理解できず、ポカンとしている。
「早く坊ちゃまの奥様やお子様を見たいと申し上げましたが! まさか! リーンウン国から人をさらって来るなんて! 情けない!」
どうやら激しい誤解をしているようだが、あまりの気迫に誰も口を挟めない。
「こんな美女が! 坊ちゃまの相手をするはずがないでしょう!? こんな小さな子までさらうなんて! 何を考えているんですか!? そりゃあリーンウン国から! 奪還しに来ますよ! 恥を知りなさい!」
一言一言を区切るように怒鳴っているが、どうやらエドワードさんはお母様と私が誘拐されたと、本当に本気で思っているらしい。しかも極秘のヒーズル王国を知らないがために、私たちの見た目からリーンウン国から誘拐したと信じて疑わないようだ。
「エドワード! 誤解です! 貴方、頭に血が上ると何をするか……」
ニコライさんは必死に弁解をしようとしているが、エドワードさんの勢いは衰えない。
エドワードさんは着ているジャケットの内側から、震える手で小型のナイフを取り出した。それを振りかぶり、ニコライさんに投げつけようとしている。
危険を察知し、私は慌ててエドワードさんから距離を取ったが、今日のお母様はいつもの天然モードとは違った。
「えい!」
エドワードさんがナイフを構え威嚇していると、お母様はなんと手刀でそのナイフを叩き落とした。もちろん、私もエドワードさんも呆気にとられている。
「誘拐ではなくて、ニコライさんと遊びに来たんですよ。その武器で私の子どもたちや夫が怪我をしたら大変」
そう言うお母様はいつものように『うふふ』と笑っているが、普段は天然おっとりなせいで、たまに森の民らしさを出されると娘の私ですら困惑してしまう。
娘も困惑するくらいなのだから、エドワードさんもまた頭が真っ白になっているようで……いや、これはいつものアレのようだ……。
「……なんと……お美しい……」
陸に上げられた魚のように口をパクパクさせ、瞬きもせずにエドワードさんはお母様を見ている。いや、見ているなんてものではない。凝視している。
……これは危険なのではないだろうか?
「エドワードー! 見ては……見てはいけません!!」
タデもオヒシバもいつものことかと呆れ笑いをしているが、お父様はまだよく分かっていないのかポカンとしている。
そのおかげでニコライさんを掴む手が緩み、ニコライさんは全力疾走でエドワードさんの元へと向かって来た。そのニコライさんの後を、スイッチの入ったアオーンが追走するという、なかなかカオスな展開となっている。
「エドワード! 知らないとはいえ……あの方を直視することは危険なんですよ!」
私のお母様はメドゥーサか何かだろうか?
「確かにここに女性が来たのは初めてです! エドワード、気を確かに! 顔を見てはいけません! 胸を見るのです!」
何かとんでもないことを言っている気がするが、エドワードさんにまとわりつくニコライさんにアオーンがまとわりつくという、どこから手を付けたら良いのか分からない状況であり、ツッコミどころと情報量が多すぎて私ですら対処できない。
そんな中、エドワードさんはニコライさんの言うとおりほんの少しだけ視線を落としたようだ。
「……っ!」
決して谷間が見えるような服ではないが、服の上からでも分かる豊満な胸を見て、そしてまた視線を戻してお母様の顔を確認したのか、エドワードさんは真っ赤になり倒れてしまった。
「あぁ! レンゲ様! エドワードに何をするんですか!?」
「「は?」」
その言葉を聞いて、私とお母様は抗議をした。悪いが、勝手に騒ぎ、勝手に倒れたのはエドワードさんだ。それを詰めているとお父様が参戦し、「レンゲの胸などと……破廉恥な!」と、違う部分で激怒している。
「皆様、落ち着いてください。どうぞ中へ」
ニコライさん宅の玄関前には、いつの間にかまた別の高齢の男性が立っていて、物静かそうな見た目からは想像できない良く通る声で話している。
その隣にはスイレンとペーターさんがおり、どうやら収拾と助けを求めたようだ。さすがは誰よりも冷静な私の弟と、元リトールの町の町長である。
切り替えの早い私たちヒーズル王国民は、何事もなかったかのように厚かましくも屋敷に向かおうとするが、ニコライさんは震えながら何かをブツブツと言っている。
耳を澄ますと「ゴードンはこめかみグリグリ……」と、壊れたように繰り返している。
お父様はニコライさんをお姫様抱っこをし、眩しいほどの笑顔で「破廉恥なことを言った罰が下ったな」と言っている。
さあ、こめかみグリグリを見てみようではないか。
ひとまず敷地内に全員で入り、金網の入り口を閉めると、ニコライさんは大きいアオーンを撫でながらニコニコと話し始めた。
「心配ですからまた逃げ出したり、勝手にお嫁さんを探しに行くのは禁止です。だからこの金属の網で屋敷を囲みました」
セキュリティ対策として、外側から中を守るための金網だと思っていたが、どうやらアオーンを逃がさないための金網だったようだ。
ニコライさんの発言を聞いたお父様の脳が、ようやく回復したようだ。
「ではニコライも縛り付けねばならんな。カレンだけではなく、あちらこちらで求婚ばかりしているのだから」
お父様の発言に私たちは爆笑をした。アオーンは害がないと大人たちは判断したらしく、悪ノリをしたお父様とタデ、そしてオヒシバがニコライさんを捕まえて、やいのやいのと騒いでいた時だ。
「坊ちゃまー! 皆のもの! 賊です! 坊ちゃまが賊に襲われています!」
ガチャリ、とお屋敷の扉が開くと同時に高齢の、実に執事らしい格好の男性が叫んだ。
「あぁ! エドワード! 誤解です!」
ニコライさんはそのエドワードさんに叫び返している。とはいえ、これでも王族であるお坊ちゃまを、大の男が三人で押さえつけたりしていたのだ。賊に間違われても仕方がない。
「「あの!」」
私とお母様は同時に一歩踏み出した。誤解を解くために何か言わねば……そう思った一瞬のうちに、エドワードさんはお母様と私を見て、そして腰を抜かした。
「だ……大丈夫ですか……?」
なぜ腰を抜かしたのかは分からないが、驚愕の表情をして震える老人をそのままにはしておけない。私とお母様はエドワードさんに手を貸そうと差し伸べた。
「……ぼぼぼぼぼぼぼぼ……坊ちゃまー!!!!」
今の今まで腰を抜かしていたエドワードさんは、お父様顔負けの声量で叫び、ニコライさんを睨みつけながら立ち上がった。
腰を抜かしたせいで力が入らないのか、その足はカクカクと震えた生まれ立ての動物のようで、私とお母様はハラハラとしながらその体を支えた。
「坊ちゃま! 見損ないましたぞー!」
どういうことなのかを聞く前に、エドワードさんは勝手に話し始めた。もちろんこの場の全員が状況を理解できず、ポカンとしている。
「早く坊ちゃまの奥様やお子様を見たいと申し上げましたが! まさか! リーンウン国から人をさらって来るなんて! 情けない!」
どうやら激しい誤解をしているようだが、あまりの気迫に誰も口を挟めない。
「こんな美女が! 坊ちゃまの相手をするはずがないでしょう!? こんな小さな子までさらうなんて! 何を考えているんですか!? そりゃあリーンウン国から! 奪還しに来ますよ! 恥を知りなさい!」
一言一言を区切るように怒鳴っているが、どうやらエドワードさんはお母様と私が誘拐されたと、本当に本気で思っているらしい。しかも極秘のヒーズル王国を知らないがために、私たちの見た目からリーンウン国から誘拐したと信じて疑わないようだ。
「エドワード! 誤解です! 貴方、頭に血が上ると何をするか……」
ニコライさんは必死に弁解をしようとしているが、エドワードさんの勢いは衰えない。
エドワードさんは着ているジャケットの内側から、震える手で小型のナイフを取り出した。それを振りかぶり、ニコライさんに投げつけようとしている。
危険を察知し、私は慌ててエドワードさんから距離を取ったが、今日のお母様はいつもの天然モードとは違った。
「えい!」
エドワードさんがナイフを構え威嚇していると、お母様はなんと手刀でそのナイフを叩き落とした。もちろん、私もエドワードさんも呆気にとられている。
「誘拐ではなくて、ニコライさんと遊びに来たんですよ。その武器で私の子どもたちや夫が怪我をしたら大変」
そう言うお母様はいつものように『うふふ』と笑っているが、普段は天然おっとりなせいで、たまに森の民らしさを出されると娘の私ですら困惑してしまう。
娘も困惑するくらいなのだから、エドワードさんもまた頭が真っ白になっているようで……いや、これはいつものアレのようだ……。
「……なんと……お美しい……」
陸に上げられた魚のように口をパクパクさせ、瞬きもせずにエドワードさんはお母様を見ている。いや、見ているなんてものではない。凝視している。
……これは危険なのではないだろうか?
「エドワードー! 見ては……見てはいけません!!」
タデもオヒシバもいつものことかと呆れ笑いをしているが、お父様はまだよく分かっていないのかポカンとしている。
そのおかげでニコライさんを掴む手が緩み、ニコライさんは全力疾走でエドワードさんの元へと向かって来た。そのニコライさんの後を、スイッチの入ったアオーンが追走するという、なかなかカオスな展開となっている。
「エドワード! 知らないとはいえ……あの方を直視することは危険なんですよ!」
私のお母様はメドゥーサか何かだろうか?
「確かにここに女性が来たのは初めてです! エドワード、気を確かに! 顔を見てはいけません! 胸を見るのです!」
何かとんでもないことを言っている気がするが、エドワードさんにまとわりつくニコライさんにアオーンがまとわりつくという、どこから手を付けたら良いのか分からない状況であり、ツッコミどころと情報量が多すぎて私ですら対処できない。
そんな中、エドワードさんはニコライさんの言うとおりほんの少しだけ視線を落としたようだ。
「……っ!」
決して谷間が見えるような服ではないが、服の上からでも分かる豊満な胸を見て、そしてまた視線を戻してお母様の顔を確認したのか、エドワードさんは真っ赤になり倒れてしまった。
「あぁ! レンゲ様! エドワードに何をするんですか!?」
「「は?」」
その言葉を聞いて、私とお母様は抗議をした。悪いが、勝手に騒ぎ、勝手に倒れたのはエドワードさんだ。それを詰めているとお父様が参戦し、「レンゲの胸などと……破廉恥な!」と、違う部分で激怒している。
「皆様、落ち着いてください。どうぞ中へ」
ニコライさん宅の玄関前には、いつの間にかまた別の高齢の男性が立っていて、物静かそうな見た目からは想像できない良く通る声で話している。
その隣にはスイレンとペーターさんがおり、どうやら収拾と助けを求めたようだ。さすがは誰よりも冷静な私の弟と、元リトールの町の町長である。
切り替えの早い私たちヒーズル王国民は、何事もなかったかのように厚かましくも屋敷に向かおうとするが、ニコライさんは震えながら何かをブツブツと言っている。
耳を澄ますと「ゴードンはこめかみグリグリ……」と、壊れたように繰り返している。
お父様はニコライさんをお姫様抱っこをし、眩しいほどの笑顔で「破廉恥なことを言った罰が下ったな」と言っている。
さあ、こめかみグリグリを見てみようではないか。
76
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる