俺氏(人間)とメメたん(宇宙人)のハッピー? ライフ☆

Levi

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躾の開始

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 ニートの俺氏は寝たい時に寝て、自然に目が覚めるまで寝る。人間社会からは逸脱しているのかもしれないが、動物として見ればそんなものではなかろうか?
 かと言って俺氏は一人でこの家から出るのは、リアルFPSをやっている気分になるので、どこに敵が潜んでいるのか分からず怖いのだ。
 とにかくそんな生活が当たり前だった。目覚ましなんてものは存在せず、起きたら時間を確認する。

「昼過ぎか……」

 掛け布団から顔の上半分を出し時間を確認する。なんだかダルいな……二度寝するかな……でも何か大事なことがあったような……。
 そんなことを思いながら微睡んでいると昨夜のことを思い出した。バッ! と起き上がり、全てが夢だったのではないかと思い始める。

 カーテンをほんの少しだけ開け外を確認するも、いつもと変わらない風景だ。うん。やはりあれは夢だ。メメたんが実体化して目の前に現れるなんてある訳がない。そんなことを思いつつ念の為ジャージを着る。
 ジャージという名の防具を身に着けた俺氏はそっと自室のドアを開ける。……家の中からは物音一つしない。階段を降り一階へ着いたがやはり家の中はシン……と静まり返っている。

「はは……メメたんの夢を見るなんて……」

 自嘲気味に独りごちた時だった。

「私がどうかしましタカ? ようやく起きたのデスか? 今日も辛気臭い顔デスね」

「キャーッ!!」

  いきなり俺氏の背後にあった浴室の戸が開いたものだから、驚いて女の子顔負けの悲鳴をあげてしまった。

「……悲鳴すらも女々シイ」

 俺氏を睨みつけメメたんはピシャリと言い放つ。夢じゃなかった! 俺氏が妄想して想像して創造したメメたんは、俺氏が思っていた以上に性格が女王様気質ではあったけど、確かに目の前に存在していた。
 俺氏は嬉しさのあまり抱き着こうとしたが、闘牛士の如くサッと華麗にかわされる。見事に転んだ。

「まずは顔を洗ったらいかがデスか? その後話がありマス」

 メメたんの話って何だろう? ……ハッ! 俺氏はご主人様、そしてメメたんはメイド……。躾か? 躾けてくださいと懇願されるのか? だとしたら手取り足取りアレもコレも教えねばならない。こんな日が俺氏にも訪れるとは思わなかった。
 よし! 顔以外も洗わねば! 俺氏は浴室へと駆け込んだ。

 メメたんが先程ここから出てきたということは、メメたんがここを使ったということ……やはりその気か!
 視界は眼球にピンクのフィルターが付いたような幻を感じて、心なしか浴室がいつもより綺麗になっている気がする。
 ……ハァハァ……ここでメメたんが……いかんいかん! 心頭滅却だ! 俺氏は烏の行水のように体を洗い、そして急いで自室へと戻った。

「こここ……これは監視カメラであって下心はない……家に侵入者が来たら危ないから……」

 そうだ。あんなにも可愛いメメたんと暮らしているのだ。侵入者に入られるかもしれない。
 俺氏は何かの時の為にと買っておいた防水機能付きの監視カメラを押し入れから取り出し、浴室とトイレに目立たないように仕掛け、メメたんが待っているであろう居間へと急いだ。

────

 おかしい。世の中、立場が上の者が下の者を叱り躾をするものだろう。上司と部下然り、飼い主とペット然り、ご主人様とメイド然り……。

「聞いているのデスか?」

「はい……すみません……」

 現在俺氏は居間で正座をしている。対してメメたんは仁王立ちで時折腰に手を当てプンプンとお怒り中だ。俺氏は虚ろな目で視線の高さにあるメメたんの絶対領域を見ていた。

「ご主人様が起きるまでにこの世界の生活や言語をだいたい覚えまシタ。調べたところによると、人間は夜に寝て朝に起きるのデスよね!? 今日は私が来たことによって、寝るのが朝だったのでそれは仕方がないデス。けれど人は住まいを快適に過ごすように掃除というものをするのデスよね!? 掃除をした跡が見られないのデスが!!」

  じいちゃんもばあちゃんもいなくなり、この家に俺氏だけになると生活リズムが狂い始めた。叱ってくれる人がいなくなった俺氏はどんどんと堕落していき……とは言っても、元々引きこもりで堕落はしていたのが。
 風呂も気が向いた時に入り寝たい時に寝て、そして掃除といった類いはほぼしなくなってしまった。

「私が人間らしいことをしようと思い、トイレと風呂場ヘ行ってみれば……人体に有害な細菌やウイルス、微生物まで大量発生していたのデスよ! 駆逐するのがどれだけ大変だったか分かりマスか!?」

「……はい……すみません……」

「この住まいは汚れていマス! 今日は掃除をしマスよ!」

「え……オギャー!!」

  怒り狂っているメメたんに「えー」と反論しようとしたところ、ビンタという名のご褒美を貰い、赤ん坊の産声のような声をあげてしまった。
 ご主人様である俺氏は、メイドのメメたんに逆らってはいけないと体で躾けられた。

  俺氏は秒で立ち上がりメメたんに掃除機を献上し、俺氏はフロアモップを携え床や廊下を掃除していく。
 ……なるほど、メメたんが怒るはずだ。今まで気にすることすらしなかったが、廊下の隅には綿ボコリが腐海のように発生し、元が何だったのか分からない細かな物体などもたくさん落ちていた。一階二階とも掃除を終え、メメたんがいる居間へと戻った。

「メメたん……掃除終わっ……おぉ!!」

  居間が変わり果てていた。物はそのままだし配置も変わってはいない。だが居間中の物がピカピカに光り輝いていた。

「終わりマシたか?」

  メメたんはそう言い、廊下のチェックを始めた。またぶたれたらどうしようかと思っていると、メメたんは振り返り見たことのないような笑顔でこう言った。

「良くできマシた。ご主人様はやれば出来る子デスよ」

  その笑顔と聞いたことのないような優しげな言い方は俺氏にとって最高のご褒美だった。
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