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思い出
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ぶたれた頬をさすりながら一階へと降りる。自業自得とはいえ痛いものは痛い。
時刻はとっくに晩飯の時間だ。メメたんからもチョビからも『人間らしい生活を送れ』と言われた俺氏は、ほんの少しだけでも頑張ろうと思い始めた。
メメたんは二階から降りて来ない。きっとパーツという名のおやつを吟味しているんだろう。この間に晩飯を作ってしまわないと、人間らしい生活をしていないとまたお仕置きをされてしまう。
戸棚や冷蔵庫の中を確認すると、メザシ、もといチョビの飼い主から貰った野菜があった。
メメたんは食べなくても平気だと言うけど、金属製の物を食べたり、化学調味料が入っていないものは美味いと言って食ってくれた。
メメたんが現れたおかげで、久しぶりに一人じゃない食事をしたいと思えたんだ。
そうは思っても、俺氏は今まで一人でカップラーメン等を食べる生活をしていたから、メメたんに何かを振るまいたくても材料が足りない。
それに、久しぶりに食べたいと思ったものがある。ばあちゃんの得意料理だった煮しめだ。
だけど今は昆布もないし鶏肉もない。最低限の家事はばあちゃんが教えてくれたけど、煮しめの詳しい作り方は教えて貰わなかった。
いつも当たり前に食べていて、こんな日が来るなんて思ってもなかったからだ。
『また煮しめか!』
『一周間に一回は食べてる気がする……』
『文句があるなら食べなくてよろしい!』
ふと、楽しかったあの頃のやり取りを思い出して、涙が勝手に流れて来た。
「なぜ泣いているんデス?」
「うわわわ! メメたん!?」
いつの間にか横に立っていたメメたんは、不思議そうな顔をして俺氏の顔を覗き込んでいる。俺氏は腕で涙を拭って、メメたんに話しかけた。
「なんでもな……みょーん! みょみょみょみょーん!」
俺氏的には表情から姿勢までカッコつけて話していたつもりだったのに、メメたんはいきなり俺氏の耳に髪の束を突っ込んで来た。容赦ない。
また勝手に脳をいじられている俺氏だが、慣れてきている自分が一番恐ろしい。
「何かガ足りないのデスね? ……作り方はおバアさまガ、後日教えて下サルようデス。今はアル物でご飯ヲ作りなサイと言ってマス」
その言葉で、近くにばあちゃんがいるんだと思ったら本格的に涙腺が崩壊した。
「おバアさまが『いいから早く作れ』と言ってマス」
メメたんだけじゃなくて、ばあちゃんまでも容赦ない。
────
晩飯を食い終わる頃、メメたんが口を開いた。ちなみにここまで無言だったから、俺氏はウキウキだ。
「ご主人サマ、明日お買い物二行きまショウ」
「……え」
ウキウキだった俺氏は一気にテンションが下がった。
「エ、じゃありまセン。足りナイ物を買いに行きまショウ」
当たり前のことだが、買い出しに行くには外に出なければならない。俺氏は基本的に、家の前のゴミステーションにゴミを捨てる以外は外に出ない。
その時も人に会わないように、絶妙な時間、絶妙なタイミングをはかって外に出るくらいだ。
「ご主人サマ、チョビのお母さんが言っていた『朝市』というのに行きまショウ!」
メメたんは一人で盛り上がってウキウキしているようだが、俺氏の心拍数も悪い意味で上昇中だ。
「朝市は……食材は手に入るけど、調味料とかは売ってないんだよね……」
この近くでやっている朝市は、野菜や山菜、魚などをメインで売っていて、朝からこんなに人が集まるのかと驚くほど年配の地元民が集まる。最後に行ったのは中学の頃だから、今はどうかは分からないが。
「グホッ!!」
考え事をしていただけで、いきなり耳に髪を突っ込まれた。
「あぁ……すみまセン。ウソを言っていると思ったのデスが、本当だったのデスね」
俺氏はどれだけ信用がないんだろうか? しかしあのメメたんがシュンとし、本気で申し訳なさそうにしているので許さない訳にはいかない。
「では全てが揃う場所はないのデスか?」
「あるけど……」
メメたんがシュンとしたのはほんの数秒で、何事もなかったかのように話しかけて来た……。
いやいや、本音を言えば俺氏だって外出したい。メメたんの隣を歩き、世界中に「羨ましいだろ?」と言ってまわりたい。
だが俺氏は賢いので自分の価値を知っている。メメたんの隣にいて良いビジュアルではない。出かけるような服だって持っていないし、隣にいるメメたんに恥ずかしい思いをさせたく……。
「あっぴっぴーうっぺっぺー」
またしてもいきなり脳をまさぐられた。そしてさっきよりも丁寧にだ。
「はァ……本当~にどうでもイイことを考えていマスね。服なんテ、その服でいいでショウ!」
メメたん、さすがにこの薄汚れたスウェットはダメだと思う。だがここで適当にゴネたら、またお仕置きをされてしまう。ちゃんと説明をしよう。
「メメたん、さすがにこれは出かける服じゃないんだ……。タンスに何年も入れっぱなしの服もまずいから、洗濯して乾いてからにしよう!」
まだ怪しんでいるようだが、俺氏の次の言葉でメメたんは驚いたようだ。
「それよりもメメたん……お願い……。俺氏の髪を切って……これじゃ本当に外に出れない……」
出かけることもないから、髪は見事に伸び放題だ。邪魔になったら坊主にしたりもするが、メメたんの隣で坊主はないだろう。
俺氏のお願いにメメたんは、「仕方ありまセンね……」と言いながらも髪を切ってくれた。
もちろんこの断髪式の髪を記念に箱詰めしていると、今日も「……気持ち悪イ!」と罵られた。
時刻はとっくに晩飯の時間だ。メメたんからもチョビからも『人間らしい生活を送れ』と言われた俺氏は、ほんの少しだけでも頑張ろうと思い始めた。
メメたんは二階から降りて来ない。きっとパーツという名のおやつを吟味しているんだろう。この間に晩飯を作ってしまわないと、人間らしい生活をしていないとまたお仕置きをされてしまう。
戸棚や冷蔵庫の中を確認すると、メザシ、もといチョビの飼い主から貰った野菜があった。
メメたんは食べなくても平気だと言うけど、金属製の物を食べたり、化学調味料が入っていないものは美味いと言って食ってくれた。
メメたんが現れたおかげで、久しぶりに一人じゃない食事をしたいと思えたんだ。
そうは思っても、俺氏は今まで一人でカップラーメン等を食べる生活をしていたから、メメたんに何かを振るまいたくても材料が足りない。
それに、久しぶりに食べたいと思ったものがある。ばあちゃんの得意料理だった煮しめだ。
だけど今は昆布もないし鶏肉もない。最低限の家事はばあちゃんが教えてくれたけど、煮しめの詳しい作り方は教えて貰わなかった。
いつも当たり前に食べていて、こんな日が来るなんて思ってもなかったからだ。
『また煮しめか!』
『一周間に一回は食べてる気がする……』
『文句があるなら食べなくてよろしい!』
ふと、楽しかったあの頃のやり取りを思い出して、涙が勝手に流れて来た。
「なぜ泣いているんデス?」
「うわわわ! メメたん!?」
いつの間にか横に立っていたメメたんは、不思議そうな顔をして俺氏の顔を覗き込んでいる。俺氏は腕で涙を拭って、メメたんに話しかけた。
「なんでもな……みょーん! みょみょみょみょーん!」
俺氏的には表情から姿勢までカッコつけて話していたつもりだったのに、メメたんはいきなり俺氏の耳に髪の束を突っ込んで来た。容赦ない。
また勝手に脳をいじられている俺氏だが、慣れてきている自分が一番恐ろしい。
「何かガ足りないのデスね? ……作り方はおバアさまガ、後日教えて下サルようデス。今はアル物でご飯ヲ作りなサイと言ってマス」
その言葉で、近くにばあちゃんがいるんだと思ったら本格的に涙腺が崩壊した。
「おバアさまが『いいから早く作れ』と言ってマス」
メメたんだけじゃなくて、ばあちゃんまでも容赦ない。
────
晩飯を食い終わる頃、メメたんが口を開いた。ちなみにここまで無言だったから、俺氏はウキウキだ。
「ご主人サマ、明日お買い物二行きまショウ」
「……え」
ウキウキだった俺氏は一気にテンションが下がった。
「エ、じゃありまセン。足りナイ物を買いに行きまショウ」
当たり前のことだが、買い出しに行くには外に出なければならない。俺氏は基本的に、家の前のゴミステーションにゴミを捨てる以外は外に出ない。
その時も人に会わないように、絶妙な時間、絶妙なタイミングをはかって外に出るくらいだ。
「ご主人サマ、チョビのお母さんが言っていた『朝市』というのに行きまショウ!」
メメたんは一人で盛り上がってウキウキしているようだが、俺氏の心拍数も悪い意味で上昇中だ。
「朝市は……食材は手に入るけど、調味料とかは売ってないんだよね……」
この近くでやっている朝市は、野菜や山菜、魚などをメインで売っていて、朝からこんなに人が集まるのかと驚くほど年配の地元民が集まる。最後に行ったのは中学の頃だから、今はどうかは分からないが。
「グホッ!!」
考え事をしていただけで、いきなり耳に髪を突っ込まれた。
「あぁ……すみまセン。ウソを言っていると思ったのデスが、本当だったのデスね」
俺氏はどれだけ信用がないんだろうか? しかしあのメメたんがシュンとし、本気で申し訳なさそうにしているので許さない訳にはいかない。
「では全てが揃う場所はないのデスか?」
「あるけど……」
メメたんがシュンとしたのはほんの数秒で、何事もなかったかのように話しかけて来た……。
いやいや、本音を言えば俺氏だって外出したい。メメたんの隣を歩き、世界中に「羨ましいだろ?」と言ってまわりたい。
だが俺氏は賢いので自分の価値を知っている。メメたんの隣にいて良いビジュアルではない。出かけるような服だって持っていないし、隣にいるメメたんに恥ずかしい思いをさせたく……。
「あっぴっぴーうっぺっぺー」
またしてもいきなり脳をまさぐられた。そしてさっきよりも丁寧にだ。
「はァ……本当~にどうでもイイことを考えていマスね。服なんテ、その服でいいでショウ!」
メメたん、さすがにこの薄汚れたスウェットはダメだと思う。だがここで適当にゴネたら、またお仕置きをされてしまう。ちゃんと説明をしよう。
「メメたん、さすがにこれは出かける服じゃないんだ……。タンスに何年も入れっぱなしの服もまずいから、洗濯して乾いてからにしよう!」
まだ怪しんでいるようだが、俺氏の次の言葉でメメたんは驚いたようだ。
「それよりもメメたん……お願い……。俺氏の髪を切って……これじゃ本当に外に出れない……」
出かけることもないから、髪は見事に伸び放題だ。邪魔になったら坊主にしたりもするが、メメたんの隣で坊主はないだろう。
俺氏のお願いにメメたんは、「仕方ありまセンね……」と言いながらも髪を切ってくれた。
もちろんこの断髪式の髪を記念に箱詰めしていると、今日も「……気持ち悪イ!」と罵られた。
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