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メメたん、不機嫌になる
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あぁ……これはヤバいかもしれない。動悸の他に耳鳴りと目眩までしてきた。おそらく俺氏の心はまだ中学生のままなんだな。あれからだいぶ月日が経っている。普通の人ならもうとっくに乗り越えているはずなんだが、乗り越えられない俺氏は引きこもりのままだ……。
隣にいるメメたんが、あの俺氏にいつも辛辣なメメたんが「大丈夫デスか?」「どうかしまシタか?」と聞く回数が増えてきた。
俺氏も一応男の端くれであり、少しだけだがプライドもある。メメたんには大丈夫と言い、気力を振り絞ってどうにか立っていると「お待たせいたしました」と、レジの人に声をかけられた。
「……」
目眩で平衡感覚が怪しいが、どうにかレジに無言でカゴを置くと、あんなにはしゃいでいたメメたんはすっかりおとなしくなってしまっている。
申し訳なさが込み上げてきて、メメたんに対する罪悪感のせいか、耳鳴りが酷くなってきた時だった。
「……み? ……しょ?」
店内はそんなに混んでいた訳じゃないけど、レジの人が手を止めて何かを言っている。
ボーッとしていたし耳鳴りのせいでしっかり聞き取れなかったが、あまりにも久しぶりに外に出たから、俺氏は何かやらかしたのかと思って驚いて顔を上げた。
「やっぱり川上だ! 久しぶりじゃん!」
……最悪中の最悪だ。学年一のおしゃべり女で、良いことも悪いことも尾ひれを付けて言いふらすことから、名字の半田をもじって『ハンダスピーカー』と呼ばれてた女だ。
しかも俺氏がまだ声も発してないのに、そしてコイツは仕事中なのに、俺氏の初恋の人である『美咲ちゃん』に声をかけ始めた。
「美咲ちゃん! 美咲ちゃん! ちょっと見てよ! コイツ川上だよ!」
段々と呼吸が浅く早くなってきた。美咲ちゃんは困り顔で振り返って、俺氏と目が合うと驚いた顔をしたけど「川上くん……久しぶり」と言ってくれたんだ。
もちろん俺氏は何も言えず、自分の足元を見つめたまま動けなくなってしまった。
「ちょっと急いでくれる!?」
声に反応してそっちを見ると、美咲ちゃんのレジに並んでたキツそうなおばさんがそう言っていた。美咲ちゃんは「申し訳ございません!」と謝って仕事を始めた。
なのにだ。このハンダスピーカーは仕事を再開しようともせず、まだ話を続けようとする。昔からこの壊れたスピーカーは、授業中だろうと勝手に喋りだす。一度、注意した先生の酷い噂話を流して、離婚の危機にまで追い込んだ過去もある奴だ。
「ねぇねぇ、いつも川上と比べられてた『川中』って覚えてる? 美咲ちゃんと結婚したの知ってるよね?」
!!!!
ああぁぁぁぁ!! クソが! 聞きたくねぇよ! もうやめてくれよ! 一気に指先まで冷たくなってきたぞ!
「すみまセン、急いでくれマスか? それとウチの人が迷惑がっているノデ、もう黙ってくだサイ」
幻聴かと思った。隣にいたメメたんが、半田を真っ直ぐに見て真顔でそう言い放った。
幻覚だと思った。隣にいるメメたんが、そう言いながら俺氏の腕に絡みついている。絡みついている。大事なことだから二回しっかりと目視で確認したが、メメたんの温もりを感じて少しずつ体調がマシになってきている。
「え……川上の彼女!? ウソでしょ?」
ほら、メメたんの隣にいるのが申し訳なくなる発言をしやがった。さっきまであんなに楽しかったのに、昔からこの女が絡むとロクなことがない。
「ちょっと早くしてくれる!? あなたいつも仕事をサボってばかりじゃない!」
「そうよ! いい加減な仕事ばかりして! この前卵が潰れてたわよ!」
「うちなんて魚が潰れて内臓が出てたわ!」
……それは酷い。俺氏たちの後ろに並んでいたマダムたちが、一斉に半田に文句を言い始めた。嫌なら別のレジに並べばいいのに、わざわざこのレジに並んでいたということは、文句を言う機会を探っていたんだろう。
今も半田が変わってないとしたら、これから面倒なパティーンになる……。
「グスッ……みんな酷い……」
始まった! 人に嫌な思いをさせておいて、それがブーメランのように返って来るとコイツは泣く。加害者のクセに被害者ぶって泣くから、俺氏たちのクラスはいつも嫌な空気に包まれていた。
「目カラ水とかいらないノデ、手を動かして下サイ。反省もしていない謝罪も不要デス。とにかく不快デス。喋ルナ。早くシロ」
こえぇ! メメたんがこえぇ! だけどメメたんの後ろのマダムたちは「よく言ったわ!」と大絶賛だ。よっぽど酷い仕事ぶりだったんだろう。
しかもマダムたちは追い打ちをかけるように、本人に聞こえるようにわざわざデカい声で話し始めたが、半田はこの店の店長の親戚だから何をしても許されるとか言われている。
……あぁ、真っ赤になってむくれているから、本当の話なんだな。田舎のスーパーだから、万年人手不足なんだろう……。
ふとメメたんをチラ見すると、メメたんはいつの間にか俺氏の財布を持っている。……あの絡みついて来た時か!
「アナタからお釣りを受け取りたくありまセン。釣りはいらなイゼ!」
そして何の迷いもなく一万円札を取り出し、カウンターに叩き付け「行きまショウ!」とサッカー台に移動した。
……メメたん? そんな言葉どこで覚えたんだ? 本当なら釣りは必要なんだが……メメたんの顔が怖すぎて、俺氏はそんなことを言えなかった……。
隣にいるメメたんが、あの俺氏にいつも辛辣なメメたんが「大丈夫デスか?」「どうかしまシタか?」と聞く回数が増えてきた。
俺氏も一応男の端くれであり、少しだけだがプライドもある。メメたんには大丈夫と言い、気力を振り絞ってどうにか立っていると「お待たせいたしました」と、レジの人に声をかけられた。
「……」
目眩で平衡感覚が怪しいが、どうにかレジに無言でカゴを置くと、あんなにはしゃいでいたメメたんはすっかりおとなしくなってしまっている。
申し訳なさが込み上げてきて、メメたんに対する罪悪感のせいか、耳鳴りが酷くなってきた時だった。
「……み? ……しょ?」
店内はそんなに混んでいた訳じゃないけど、レジの人が手を止めて何かを言っている。
ボーッとしていたし耳鳴りのせいでしっかり聞き取れなかったが、あまりにも久しぶりに外に出たから、俺氏は何かやらかしたのかと思って驚いて顔を上げた。
「やっぱり川上だ! 久しぶりじゃん!」
……最悪中の最悪だ。学年一のおしゃべり女で、良いことも悪いことも尾ひれを付けて言いふらすことから、名字の半田をもじって『ハンダスピーカー』と呼ばれてた女だ。
しかも俺氏がまだ声も発してないのに、そしてコイツは仕事中なのに、俺氏の初恋の人である『美咲ちゃん』に声をかけ始めた。
「美咲ちゃん! 美咲ちゃん! ちょっと見てよ! コイツ川上だよ!」
段々と呼吸が浅く早くなってきた。美咲ちゃんは困り顔で振り返って、俺氏と目が合うと驚いた顔をしたけど「川上くん……久しぶり」と言ってくれたんだ。
もちろん俺氏は何も言えず、自分の足元を見つめたまま動けなくなってしまった。
「ちょっと急いでくれる!?」
声に反応してそっちを見ると、美咲ちゃんのレジに並んでたキツそうなおばさんがそう言っていた。美咲ちゃんは「申し訳ございません!」と謝って仕事を始めた。
なのにだ。このハンダスピーカーは仕事を再開しようともせず、まだ話を続けようとする。昔からこの壊れたスピーカーは、授業中だろうと勝手に喋りだす。一度、注意した先生の酷い噂話を流して、離婚の危機にまで追い込んだ過去もある奴だ。
「ねぇねぇ、いつも川上と比べられてた『川中』って覚えてる? 美咲ちゃんと結婚したの知ってるよね?」
!!!!
ああぁぁぁぁ!! クソが! 聞きたくねぇよ! もうやめてくれよ! 一気に指先まで冷たくなってきたぞ!
「すみまセン、急いでくれマスか? それとウチの人が迷惑がっているノデ、もう黙ってくだサイ」
幻聴かと思った。隣にいたメメたんが、半田を真っ直ぐに見て真顔でそう言い放った。
幻覚だと思った。隣にいるメメたんが、そう言いながら俺氏の腕に絡みついている。絡みついている。大事なことだから二回しっかりと目視で確認したが、メメたんの温もりを感じて少しずつ体調がマシになってきている。
「え……川上の彼女!? ウソでしょ?」
ほら、メメたんの隣にいるのが申し訳なくなる発言をしやがった。さっきまであんなに楽しかったのに、昔からこの女が絡むとロクなことがない。
「ちょっと早くしてくれる!? あなたいつも仕事をサボってばかりじゃない!」
「そうよ! いい加減な仕事ばかりして! この前卵が潰れてたわよ!」
「うちなんて魚が潰れて内臓が出てたわ!」
……それは酷い。俺氏たちの後ろに並んでいたマダムたちが、一斉に半田に文句を言い始めた。嫌なら別のレジに並べばいいのに、わざわざこのレジに並んでいたということは、文句を言う機会を探っていたんだろう。
今も半田が変わってないとしたら、これから面倒なパティーンになる……。
「グスッ……みんな酷い……」
始まった! 人に嫌な思いをさせておいて、それがブーメランのように返って来るとコイツは泣く。加害者のクセに被害者ぶって泣くから、俺氏たちのクラスはいつも嫌な空気に包まれていた。
「目カラ水とかいらないノデ、手を動かして下サイ。反省もしていない謝罪も不要デス。とにかく不快デス。喋ルナ。早くシロ」
こえぇ! メメたんがこえぇ! だけどメメたんの後ろのマダムたちは「よく言ったわ!」と大絶賛だ。よっぽど酷い仕事ぶりだったんだろう。
しかもマダムたちは追い打ちをかけるように、本人に聞こえるようにわざわざデカい声で話し始めたが、半田はこの店の店長の親戚だから何をしても許されるとか言われている。
……あぁ、真っ赤になってむくれているから、本当の話なんだな。田舎のスーパーだから、万年人手不足なんだろう……。
ふとメメたんをチラ見すると、メメたんはいつの間にか俺氏の財布を持っている。……あの絡みついて来た時か!
「アナタからお釣りを受け取りたくありまセン。釣りはいらなイゼ!」
そして何の迷いもなく一万円札を取り出し、カウンターに叩き付け「行きまショウ!」とサッカー台に移動した。
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