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職人見習い
①
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「お前、今のまんまじゃ人間社会でやって行けねーぞ? あいにく、うちの会社はお前みたいなやつがゴロゴロいる。……正確には『いた』だな。みんな学んで成長したよ。お前さん、うちの会社に来ないか?」
そのセリフに一同目を丸くします。
「ぬんさんとこで雇ったみたいだけど、引き抜いちゃダメか?」
鬼塚さんがそう聞くと、ぬんさんは間髪入れずに「いいぞ」と返答しました。少しは悩んであげてください。小滝くん、いらない子扱いです。
「おっし。お前さん今日からうちの職人見習いな。三店舗手がけるから、くっそ忙しくなるからな」
ニヤリと笑う鬼塚さん。そして小滝くんはというと。
「小滝 英雄です……。二十五歳です……。よろしくお願いします」
と土下座で挨拶をしています。この短時間で余程反省したのかまるで別人です。てか一つ歳下だったの!? 見た目も発言も幼くて、ハタチくらいだと思ってたよ!
「あの……小滝くん? 背中の傷が痛いと思うんですが……?」
福の神さんが付けた刀傷を心配しましたが。
「……百合子さんもすみませんでした……。罰として受け入れるんで、大丈夫です……」
……人格崩壊してません? ホントに大丈夫?
「大丈夫ってんなら大丈夫だな! んじゃ今から作業を始めっからよ。あぁ気にすんな、作業着も持ってきてもらうからよ!」
今からって……満面の笑みで鬼のような発言……あ、本物の鬼でした。
「ぬんさん、ぬりかべって近くにいたりするかい?」
「あぁ。呼べばすぐに来るじゃろ」
鬼塚さんはどこかへ電話し、ぬんさんも「ぬりかべ~」とか叫んでるし……。ホントに今から作業するんですか!?
一~二分後、床からスススーと現れたのはぬりかべでした。お屋敷の周りの壁よりも全体的に小さめで、ゲゲゲなアニメのように小さな手足が付いています。
……かわいい……そう思い、つんっと触ると「ぬっ!」と声をあげていました。ヤバイです、本当にかわいい。
つん、ぬっ! の繰り返しに熱中していると、入口から大きな声が聞こえました。
「しょうちゃん、遅くなった。すまない」
しょうちゃん? と思い振り返ると、これまた強面な方が立っているではありませんか。
背は高く、細身の筋肉質。三十代前半でしょうか? 結構な男前なのに強面に見えるのは、頬に付いた傷痕のせいでしょう。
「みんな紹介するぜ。俺っちの会社の副社長をやってる、小鬼の鬼頭だ!」
「……よろしく」
愛想はないようですが、嫌な気持ちにはなりません。
「ふむ? 見たことのない顔じゃのう?」
ぬんさんも初顔合わせのようです。聞けば、遠く離れた山奥で家族とひっそりと暮らしていたそうですが、近くで暴れ回っていたガラの悪い鬼に見つかり襲われてしまったそうです。その時に付けられたのが頬の傷だそうです。
鬼の世界は弱肉強食なので死を覚悟したそうですが、ご両親が身を呈して鬼頭さんを守りそのままお亡くなりになられたそうです……。
まだ子供だった鬼頭さんは仲間を求めて山を降り、恐怖と孤独に押し潰されそうになっている中、鬼塚さんと出会ったそうです。
「しょうちゃんには感謝してもしきれない」
「なるほどのぅ」
尊敬の眼差しで鬼塚さんを見つめる鬼頭さんです。
「まぁその話しは置いといて、姉ちゃんちょっと見てくれ」
鬼塚さんに呼ばれたので近くに行こうとすると、鬼頭さんは私よりも素早く鬼塚さんの元に行き、ノートパソコンを持って見せてきました。これ、知らない人が見たら親分と子分ですよ?
流れるような動きで今度は小滝くんに近寄ると、作業着を渡して着替えるように言っています。着替えは見たくないので、パソコンの画面をガン見します。
「喫茶店の内装なんだが、どれがイメージに近い?」
そう聞かれて見せられたのは、大正ロマン溢れる画像です。どれも素敵で心踊りましたが、これこれこれ、と数点選びました。
次に呼ばれたのは美容妖怪たち。同じようにイメージに近いものや要望を聞いています。元々美容関係の仕事をしていたせいかイメージもすぐに伝えており、シャンプー台や椅子などもすぐに発注したようです。
そのまま初めてのエステをやる頬撫でさんやすねこすりさんに代わり、エステ内部のイメージも伝えています。テキパキすぎてカッコイイ。
「よし! 内装だけなら二日もあれば全部仕上げられる」
「え!? そんなに早く出来るんですか!?」
驚いて聞けば。
「姉ちゃん、俺っちは鬼だぜ? 妖の本気を見せてやるよ」
ヤバイ! 今日初めて鬼塚さんをカッコイイと思ったかも!
「……でもあまり早く工事が済んだら、近隣の人に怪しまれませんか?」
「そこはワシの妖術やら幻術で、上手~く誤魔化すんから大丈夫じゃ」
ぬんさんも素敵! そう思って両手を胸の前で握ると、心を読んだのか照れるぬんさんです。
「そうだ、ぬんさん。このぬりかべは野良なんだってな。うちの職人に……」
「そう思って野良を呼んだんじゃ」
豪快に笑って答えるぬんさんです。
「そんじゃあ早速工事に取りかかるからよ。女子供は危ねぇから外に出てくれな! ……そこのオス猫と……ぷぷっ……黒髪切りもな……ぶふっ!」
はぁい、と片付けをして外に出るチーム猫又と美容妖怪たち。そんな中、プルプルと震える黒髪切りさんが。
「お前の髪をストレートにしてやろうか!」
暴れだしそうな黒髪切りさんをなだめないと!
「く! 黒髪切りさん!? 大丈夫です! 誰の目から見ても女性です!」
「百合ちゃん……」
若干フォローになってないフォローでしたが、なんとか落ち着いてくれたようです。でも本当に綺麗な女の人にしか見えませんよ?
とりあえずみんなで外に出ると、ぬんさんは術を発動させるので工事の間は一緒にこの場にいると言いました。
美容妖怪たちは、頬撫でさんやすねこすりさんにエステの体験をさせるので、数日エステ巡りをすると言います。鈴木さんも庭いじりの続きをやるので帰ると言いました。
なので私とユキさんは、チーム猫又を連れてお屋敷に戻ることにしました。みんなで物陰に隠れてから烏天狗さんを呼びます。……この物陰に隠れるのも大変だなぁ……これも解決しないと、そう思いながら大きなカラスの姿になった漆黒さんの背中に乗ったのでした。
そのセリフに一同目を丸くします。
「ぬんさんとこで雇ったみたいだけど、引き抜いちゃダメか?」
鬼塚さんがそう聞くと、ぬんさんは間髪入れずに「いいぞ」と返答しました。少しは悩んであげてください。小滝くん、いらない子扱いです。
「おっし。お前さん今日からうちの職人見習いな。三店舗手がけるから、くっそ忙しくなるからな」
ニヤリと笑う鬼塚さん。そして小滝くんはというと。
「小滝 英雄です……。二十五歳です……。よろしくお願いします」
と土下座で挨拶をしています。この短時間で余程反省したのかまるで別人です。てか一つ歳下だったの!? 見た目も発言も幼くて、ハタチくらいだと思ってたよ!
「あの……小滝くん? 背中の傷が痛いと思うんですが……?」
福の神さんが付けた刀傷を心配しましたが。
「……百合子さんもすみませんでした……。罰として受け入れるんで、大丈夫です……」
……人格崩壊してません? ホントに大丈夫?
「大丈夫ってんなら大丈夫だな! んじゃ今から作業を始めっからよ。あぁ気にすんな、作業着も持ってきてもらうからよ!」
今からって……満面の笑みで鬼のような発言……あ、本物の鬼でした。
「ぬんさん、ぬりかべって近くにいたりするかい?」
「あぁ。呼べばすぐに来るじゃろ」
鬼塚さんはどこかへ電話し、ぬんさんも「ぬりかべ~」とか叫んでるし……。ホントに今から作業するんですか!?
一~二分後、床からスススーと現れたのはぬりかべでした。お屋敷の周りの壁よりも全体的に小さめで、ゲゲゲなアニメのように小さな手足が付いています。
……かわいい……そう思い、つんっと触ると「ぬっ!」と声をあげていました。ヤバイです、本当にかわいい。
つん、ぬっ! の繰り返しに熱中していると、入口から大きな声が聞こえました。
「しょうちゃん、遅くなった。すまない」
しょうちゃん? と思い振り返ると、これまた強面な方が立っているではありませんか。
背は高く、細身の筋肉質。三十代前半でしょうか? 結構な男前なのに強面に見えるのは、頬に付いた傷痕のせいでしょう。
「みんな紹介するぜ。俺っちの会社の副社長をやってる、小鬼の鬼頭だ!」
「……よろしく」
愛想はないようですが、嫌な気持ちにはなりません。
「ふむ? 見たことのない顔じゃのう?」
ぬんさんも初顔合わせのようです。聞けば、遠く離れた山奥で家族とひっそりと暮らしていたそうですが、近くで暴れ回っていたガラの悪い鬼に見つかり襲われてしまったそうです。その時に付けられたのが頬の傷だそうです。
鬼の世界は弱肉強食なので死を覚悟したそうですが、ご両親が身を呈して鬼頭さんを守りそのままお亡くなりになられたそうです……。
まだ子供だった鬼頭さんは仲間を求めて山を降り、恐怖と孤独に押し潰されそうになっている中、鬼塚さんと出会ったそうです。
「しょうちゃんには感謝してもしきれない」
「なるほどのぅ」
尊敬の眼差しで鬼塚さんを見つめる鬼頭さんです。
「まぁその話しは置いといて、姉ちゃんちょっと見てくれ」
鬼塚さんに呼ばれたので近くに行こうとすると、鬼頭さんは私よりも素早く鬼塚さんの元に行き、ノートパソコンを持って見せてきました。これ、知らない人が見たら親分と子分ですよ?
流れるような動きで今度は小滝くんに近寄ると、作業着を渡して着替えるように言っています。着替えは見たくないので、パソコンの画面をガン見します。
「喫茶店の内装なんだが、どれがイメージに近い?」
そう聞かれて見せられたのは、大正ロマン溢れる画像です。どれも素敵で心踊りましたが、これこれこれ、と数点選びました。
次に呼ばれたのは美容妖怪たち。同じようにイメージに近いものや要望を聞いています。元々美容関係の仕事をしていたせいかイメージもすぐに伝えており、シャンプー台や椅子などもすぐに発注したようです。
そのまま初めてのエステをやる頬撫でさんやすねこすりさんに代わり、エステ内部のイメージも伝えています。テキパキすぎてカッコイイ。
「よし! 内装だけなら二日もあれば全部仕上げられる」
「え!? そんなに早く出来るんですか!?」
驚いて聞けば。
「姉ちゃん、俺っちは鬼だぜ? 妖の本気を見せてやるよ」
ヤバイ! 今日初めて鬼塚さんをカッコイイと思ったかも!
「……でもあまり早く工事が済んだら、近隣の人に怪しまれませんか?」
「そこはワシの妖術やら幻術で、上手~く誤魔化すんから大丈夫じゃ」
ぬんさんも素敵! そう思って両手を胸の前で握ると、心を読んだのか照れるぬんさんです。
「そうだ、ぬんさん。このぬりかべは野良なんだってな。うちの職人に……」
「そう思って野良を呼んだんじゃ」
豪快に笑って答えるぬんさんです。
「そんじゃあ早速工事に取りかかるからよ。女子供は危ねぇから外に出てくれな! ……そこのオス猫と……ぷぷっ……黒髪切りもな……ぶふっ!」
はぁい、と片付けをして外に出るチーム猫又と美容妖怪たち。そんな中、プルプルと震える黒髪切りさんが。
「お前の髪をストレートにしてやろうか!」
暴れだしそうな黒髪切りさんをなだめないと!
「く! 黒髪切りさん!? 大丈夫です! 誰の目から見ても女性です!」
「百合ちゃん……」
若干フォローになってないフォローでしたが、なんとか落ち着いてくれたようです。でも本当に綺麗な女の人にしか見えませんよ?
とりあえずみんなで外に出ると、ぬんさんは術を発動させるので工事の間は一緒にこの場にいると言いました。
美容妖怪たちは、頬撫でさんやすねこすりさんにエステの体験をさせるので、数日エステ巡りをすると言います。鈴木さんも庭いじりの続きをやるので帰ると言いました。
なので私とユキさんは、チーム猫又を連れてお屋敷に戻ることにしました。みんなで物陰に隠れてから烏天狗さんを呼びます。……この物陰に隠れるのも大変だなぁ……これも解決しないと、そう思いながら大きなカラスの姿になった漆黒さんの背中に乗ったのでした。
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