幽幻會社 夢現堂

Levi

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妖怪大集合

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 私と鈴木さんは多少の耐性はありますが、鬼らしい鬼の姿を見たのは初めてで、さすがに驚きと恐怖で身動きが取れなくなりました。

「小僧……」

 一瞬、誰が発したか分からない声は、鬼となった鬼塚さんでした。人間を恐怖に叩き落とすかのような、低くて重低音のある声……。

「周りを見てみろ……」

 その声で小滝くんも私と鈴木さんも辺りを見回すと、皆さん妖怪の姿に……。
 特に猫又たちは四足歩行の体勢で、目は猫の目に、爪も伸び牙も見えます。鼻の頭に皺を寄せ、完全威嚇。ちりさんと、まさかのちらんさんが最前列で威嚇しています。

「……自分の事は我慢出来たけど、百合ちゃんをバカにするやつは許さない……」

 ちらんさんはジリジリと小滝くんに向かって行きます。

「おい。昨日あんな目にあったのに反省してないのか?」

 ユキさんも静かにキレてます。

「え……あれはマジックか何かじゃ……」

 マジックなんて言われたユキさんは、一瞬で着物姿に。これはヤバイ!

「ぬ、ぬんさん! 止めて下さい!」

「大丈夫じゃ百合子。外からは中の様子は見えんようにしとる」

 それで外に手をかざしていたんですね!? って、ぬんさん、笑ってる場合じゃないですよ!

「小僧、まだお仕置きが足りんようじゃの。毛倡妓けじょうろう黒髪切くろかみきり」

 ぬんさんが呼ぶと、「はぃよ」と返事をしたお二人。毛倡妓けじょうろうさんは何メートルあるのか分からないほどの長い髪を小滝くんに巻き付け、身動きを取れないようにしました。

 そして小滝くんに近付く黒髪切くろかみきりさんは、人間の首なんて簡単に落とせそうなほど大きなハサミを両手で持っています。
 腕を動かしたかと思うと、一瞬のうちに小滝くんの金髪部分だけが切られ、根元の黒い髪だけが残ります。恐怖で顔が引き攣る小滝くん……。

「視覚化したほうが見やすいだろぅ?」

 ハサミを見せつけながら言葉を発する黒髪切くろかみきりさんでしたが、なんかいつもより声が低い? てかその声は……。

「……もしかして、黒髪切くろかみきりさんって男性……?」

 こんなにシリアスな場なのに、うっかり心の声を口から出してしまった私……。
 そしてビクゥっと肩を揺らす黒髪切くろかみきりさん。

「お前のせいでバレただろうがよぉ!」

 ……男全開で、八つ当たりという名の制裁を小滝くんに下しました。気のせいと言われたら気付かないままだったのに……。

「お前なんて五厘で充分だ!」

 ハサミをジャキジャキ鳴らし、無駄に怯えさせる黒髪切くろかみきりさん。小滝くんが声を上げて泣いていて、さすがに可哀想……。そしてあっという間に小滝くんは見事なマ〇コメ君に。

「すいません! すいません! ……もう許してください……!」

 本気で泣き叫びますが、まだ許す気配のない妖怪たち。

「ダメじゃ。お主、ワシらの事も人間の事も、世の中の全てをなめておる。ユキ。トドメだ」

 無言のユキさんの手には、えげつない大きさのつららが握られています。ユキさんが小滝くんに近付くと、小滝くんに巻き付いている毛倡妓けじょうろうさんの髪の一部がザワザワと動き、心臓の部分だけを開けました。

 猛烈な嫌な予感しかしません……!

「た……助けて……! お願いします……!」

 泣き叫び命乞いをする小滝くんを無視し、両手でつららを握るユキさん。

「ユ! ユキさん! それだけはダメ!」

 私と鈴木さんは走り出そうとしましたが、いつの間にか足を氷漬けにされていて動けません!

「……小僧……」

 ユキさんはつららを持ったまま体を捻ります。何が起こるか想像のついた私と鈴木さんは止めるように叫びますが、ユキさんは私たちの声が聞こえないかのように動きを止めません。
 見てるだけしか出来ない私たちの前で、ユキさんはその両手で握られたつららを小滝くんの心臓に突き刺しました……。

「あぁ……! あーーーーーー!」

 聞いたこともないような声で叫ぶ小滝くん……。

 どうして? ユキさん……と思ったのも束の間。そのユキさんが叫びました。

「マジックとはなぁ、こういう事を言うんだぁぁぁ!」

 ……は?

 私と鈴木さんと小滝くんがフリーズしました。呼吸するのも忘れてました。
 よく見ると、つららの切っ先は刺さってなどおらず、断面が胸の皮膚にくっ付いているだけのようです。

「ごべんだざいでじだぁぁぁぁ!」

 泣きすぎて言葉も文法もおかしな小滝くんです。

「マジックと私の妖術を一緒にするな!」

 ……ユキさん? またズレた所で怒っていたのですね? そうですね? ひとまずスプラッター劇場にならず安心です……。

「おい小僧……信じたかよ?」

 鬼塚さんがそう聞けば、高速で首を上下に振る小滝くん。それを見てぬんさんが一言発すると毛倡妓けじょうろうさんの髪の縛りも緩み、腰が抜けたかのように両手と両膝を床につけ、四つんばいで小滝くんは泣いています。
 なので背中が見えるのですが、その背中になぜか福の神さんがデン! と胡座をかいて座っているではありませんか!

「福の神さん!?」

 驚いて声をかければ、眉間に皺を寄せながらフヨフヨとこちらに飛んできます。

「小僧、上着を脱いでみろ」

 ぬんさんが冷たい口調で言うと、ガクガクと震えて指先の動きもおぼつきませんが、なんとか上半身裸になる小滝くん。その背中には……。


『  阿  呆  』


 と刀傷が……。呆然と福の神さんを見れば、フンっと鼻を鳴らして消えてしまいました。……犯人はあなたですね……。

 人型に戻った妖怪たちはまだ少しお怒り気味ですが、鬼塚さんが小滝くんに声をかけました。

「お前、どうせ今まで仕事が長続きしなかったんだろ? そんな態度だしな」

 そう聞くと、素直に頷く小滝くん。都会で働いていましたが、自分の態度が悪いと微塵も思わずどこに行っても煙たがられ、仕事を転々としていたけどそれも面倒になり、骨董品をオークションにかけて生活しようと地元に戻って来たとのことでした。
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