幽幻會社 夢現堂

Levi

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不幸の正体?

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「でも私……いつも通りの生活で、本当に何もないですよ……」

「ちょっとぉ! 百合ちゃん~! 不幸体質が身に付きすぎよぉ! 地味~に出費がかさんでたんでしょ~?」

 フグッ! 確かに不幸体質ですし、出費がかさんでいました……。

「まだ小さいから~、地味~な出費で済んでたけどぉ、コレが人間サイズになってたら全財産失ってたわよぉ!? 仕事が決まらなかったのも影響してると思うけどぉ!」

 萌さんが私のことにプンスコご立腹です。不思議な感覚です。

「……もしかして焼き味噌?」

 突如焼き味噌のことを思い出し、小さな貧乏神に聞くと、ウンウンと頷いていました。
 小さすぎる体から発せられる声は私には聞こえなくて、ぬんさんが代わりに答えてくれました。

「元々は百合子の部屋に潜んでおったそうじゃ。今までの住民は、安すぎる家賃と地味~に続く不幸を気持ち悪がってすぐに出て行ったそうじゃが……百合子は気にせず、しかも毎日焼き味噌を食べていたから、すっかり気に入って百合子に取り憑いたそうじゃ」

 そうでした。私の貧乏食の焼き味噌は、貧乏神の大好物でした……。

「あの! あの……! 退治……とかしちゃうんですか……?」

 貧乏神に何かをされる前に聞きました。

る」
「これユキ! そんな物騒なこと……人間の前でハッキリ口にするんじゃない」

 真顔で言い切るユキさんに、怖いツッコミを入れるぬんさんです。するとぬんさんは私に向かって言いました。

「百合子。ワシらは人間寄りの妖怪と言ったな? じゃからこそ、人間に悪さをする奴らは許せんのじゃ」

「わわわわわ私は悪さされていません……!」

 多分、人生で初めての、本気の口答えをしてしまいました。

「かかか家電製品が壊れたのも私の不注意ですし……いいい今までの不摂生と常識のなさで面接も落ちていたと思いますし……あの……あの……針と糸を貸してください!」

 私の最後の発言で、皆さんはぁ? って顔をしています。はぁ? っとなりながらも、萌さんはふさふさの尻尾を私に伸ばしました。尻尾の先にはソーイングキットがありました。

「お前の尻尾は四次元ポケットか」
「胸の谷間から出すよりは~いいでしょ~!」

 ドラ〇もんを知ってらっしゃるんですね……と思いながら、両手でぱゆんぱゆんさせる胸に目が釘付けに……っとそうじゃなかった!
 急いでソーイングキットから針を一本拝借します。

「突き刺すのか? やるな、百合子」

 いいえ、やりませんよユキさん……本当に発言が怖いですから……。ほら、貧乏神の動きがアメリカンクラッカーみたいになっちゃったじゃないですか……。

 針に糸を通し、ぬんさんから貧乏神を渡してもらいました。私の手の上ですっごい震えてます……。

「あの……大丈夫ですから……そのカバン少し貸してくださいね」

 そーっと貧乏神からカバンを外し、貧乏神を私の膝の上に座らせました。カバンの穴の開いてる部分を縫って塞ぎ、ついでにカバン本体と肩紐の部分を強化しました。
 髪の毛がボーボーなので顔が見えず不確かですが、ポケーっと私の裁縫を見ているようです。

「あの……脱がせるのはアレなので……問題ない部分だけ……」

 貧乏神を立たせて、着ている着物っぽい何かのボロボロの裾を、裾上げのようにチクチクと縫っていきました。あ……膝丈になってしまった……。

「あの……あの……短くなってごめんなさい……杖はもっと良いものを、後で探しますね……」

 右に左に頭をキョロキョロと動かし、貧乏神は着ている物やカバンを見ています。
 そしてピタリと動きを止めると、私の膝の上で私を見つめて動かなくなってしまいました。

「はわわわわわ……」

 どうしよう……怒ってる!?

「百合子……君は……」

 隣からぬんさんのつぶやきが聞こえましたが、私は目の前の貧乏神に釘付けです! だって……光り始めましたから!!

「ふぇ? ……はわわわわわ……」

 目を開けていられないほど貧乏神は光りました。一瞬、ほんの一瞬目を閉じて、恐る恐る目を開けて見ると、貧乏神が……。

「……え~と……貧乏神は? ……あなたはどちら様で……?」

 目の前には貧乏神と同じ、手の平サイズの人? がいました。
 ただ、違いは金や銀など派手な布地の平安時代みたいなお着物を着ていて、髪の毛はツヤツヤの黒髪ロン毛で、小さいながらもキリッとしたお顔の持ち主でした。

「おい!」
「ちょっと~!!」
「すごいぞ百合子!!」

 周りの三人が興奮しています。イマイチ把握できない私はポカーンです。

「百合子、君は貧乏神を福の神にしたようじゃ! こんなこと滅多に起きないぞ!」

 ぬんさんは大興奮です。

「ほぇ? 福の神??」

「なになに? 自分を恨んでも仕方がないのに、そんな素振りも見せずに庇ってくれた。そして服や持ち物まで直してくれた。その真心にいたく感銘を受けた……そうじゃ」

「えー!? 福の神ですか!?」

「なになに? 今まで迷惑をかけた分、百合子に幸せを運ぶと決めた! ……そうじゃ」

「ほげぇぇぇぇ!!」

 そんなことって……そんなことよりも……。

「あの……お気持ちは嬉しいのですが……私だけじゃなくてみんなにもお裾分けを……」

 私のこの発言でみんな固まってしまいました。

「百合ちゃ~ん、欲がないのねぇ……」
「無さすぎる」
「純粋すぎるのう」

 皆さん本気で呆れ果てています……。

「し……幸せ慣れしておりませんので……」

 私の発言に、「はぁ……」と全員が溜め息を吐きました。

「百合ちゃんはぁ~リハビリも必要ね~」
「鍛えてやろう」
「妖怪が言うのもなんじゃが、百合子を人間らしくしよう」

 萌さんは手を頬に当て、ユキさんは握りこぶしを作り、ぬんさんは腕組みをして呟いておりました。

「まぁなんじゃ、この大きさなら、地味~な幸せが多いじゃろ。そんなに気負うでない」

 そのぬんさんの言葉で、少し気が楽になりました。

「福の神さん……程々によろしくお願いします……」

 頷いてくれた福の神さんは、一度光った後に消えてしまいました。辺りを探す私にぬんさんが教えてくれました。

「大丈夫じゃ。ちゃんと百合子の側におる。さて今夜は宴じゃな」

 ぬんさんのその一言に盛り上がる面々ですが、宴……ですか……。私、宴会なんて人生初なんですけど。
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