幽幻會社 夢現堂

Levi

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不幸の正体?

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「まず、この家は迷い家まよいがというものじゃ」

 ぬんさんが落ち着いた声で語ります。

「山の中に現れる人気ひとけのない家ですよね?」

 山の中で迷うと、極めて稀に出会うことがあるらしい迷い家。
 今の今まで人がいたような室内なのに、家の中には誰もいません。そこから何かを持ち出すと、お金持ちになったり幸せになったりするらしいのです。

「そうじゃ。その迷い家に、なぜか迷子になった座敷わらしが……気付いとると思うが、わらしは座敷わらしじゃ」

 やっぱり。この時代に着物姿の女の子ってあまりいないので、妖怪話が出た時に『もしかして?』とは思っていました。

「座敷わらしは家に憑く。まだ生まれたてだったわらしは、この迷い家を普通の家だと思ったらしい。相性の良かったこの二人? は意気投合し、あちこちの山へ行ったそうじゃ。そこで最初に出会ったのがユキじゃ」

「私の暮らしていた八甲田の雪山にいきなり現れた。山にも人間が多くなってきていたからな。私も静かに暮らしたくて、わらしについて行くことにした。静かどころか今はうるさいがな」

 溜め息を吐きながらも、ユキさんの表情はほんの少し楽しげです。山に人が多いってことは、登山客などでしょうか?

「次に行った場所は秋田らしい」

「オラがだは、真山神社の近くさ住んでだ。そごさ迷い家が来たもんだがら、見に行ってそのままついでった」

 真っ赤な顔のおじさんが、少し早口で話します。

「秋田弁だけど分かる?」

 萌さんに聞かれましたが、大体理解できました。真山神社はなまはげのお祭りが行われる、秋田県の男鹿半島にある由緒ある神社です。
 近くにはなまはげの資料館もあり、実は一度行ってみたいと思っていた場所なんです。

「そして日本全国津々浦々を転々としているうちに、たまたま現れた近くにいた萌とワシが妖力を感じ、気になって見に来たんじゃ。話しを聞けばみんなと旅をしておると言うからな。面白そうじゃから、ワシらもついて行ったんじゃ」

 とてつもなくスケールがデカい話なんですが……。

「そのまま全国を転々としていたが、妖怪たちとの出会いはたくさんあったんじゃ。しかしワシと萌の存在のせいか、他の妖怪はこの家に住もうとはしなくてのう。そんなある日、この土地に着いた時じゃった」

 超メジャー妖怪ですもんね……。圧を感じて、一般の妖怪だったら遠慮してしまいますよね……。

「迷い家から出ると、付近に一人の小童こわっぱがおった。そ奴も純粋な心の持ち主でのぅ。ワシらが見えておった」

 そ奴『も』ってことは、私もですか!? なんて聞けないチキンハートな私です。

「小童だからか、わらしともすぐに仲良くなってのう。そして『ここは自分の山だから、ここに住め』と言うんじゃ」

 どんな人物ですか……? 山を持ってる子どもって……。

「そ奴は口が達者での。『人も来ないしゆっくり出来ていいだろう』と言う押しに負けてな。ワシらはそのままここに住んでおる。しかし人間は土地を持っているだけで金が必要なのじゃろう? ワシらには金など必要ないから知らなかったが、それを知って申し訳なく思ってのう」

 確かに固定資産税とかかかりますもんね……。私もニートの間の税金は、きっと親が払ってたんだろうな……私も一緒に申し訳ない気持ちになりました。

「今も昔も、人間寄りの妖怪はたくさんおる。特にワシらの周りにはな。じゃから時折ここに遊びに来るんじゃよ。その妖怪たちも、ここに来れば確実にワシらに会えると思っている。じゃから土地を貸してくれている人間に感謝しているんじゃ。
 ワシらは話し合い、仕事をして金を稼ぎ、その金を所有者に渡そうと思ってるんじゃが……何をしたらいいのか分からん。

 そこでだ。百合子、力を貸してくれないか?」

 最後の一言で、私は自分でも分かるほど真っ赤になりました。家族以外の男性に下の名前を呼び捨てにされたことなんて、小学生以来なかったんですよ。しかもこんなイケメンダンディーに!

「頑張ります!」

 つい後先を考えずに返事をしてしまいました。

「やったぁ!! 百合ちゃ~ん今日はぁ、ここに泊まりなよ~!」
「それはいいな」

 完全にウェルカムお祭りモードの萌さんとユキさんに言われ、かなり悩みましたが泊まることにしました。

「それはそうと~、ぬん! コレ! 百合ちゃんに憑いてたの~!!」

 シュ! っと、萌さんのお尻付近から尻尾が出ました。正体がバレたらもう隠さないんですね……普通にあり得ない光景にビビりました……。
 一本だけ出した尻尾の先は丸まっていて、何かを掴んでいるようです。

 それを受け取ったぬんさんの手元を見てみると、手の平に収まるサイズの薄汚れた……人ですかコレ!?

 ぬんさんの指に摘まれたその服は、かろうじて着物と分かるくらいに乱れて穴は開き、茶色のようなグレーのような色で元の色が分からない程に薄汚れていました。
 肩にかけられた小さなカバンのような物は、穴が開いて物も入れられそうにありません。

 髪の毛もヒゲもボーボーで、表情はうかがい知る事は出来ませんが、かなり怯えているのは分かります。
 そして失くしたと思っていた、私の使いかけの鉛筆を杖代わりにしていました。と言っても、襟首を摘まれているので、鉛筆を落とさないように抱き抱えていますが。

「……私の鉛筆……じゃなくて……この人? も妖怪ですか……?」

「そうじゃ。さぁてどうしてくれようか?」

 凄みのあるぬんさんの一言で、小さな妖怪の震えが激しくなります。

るか」
「そうね~。八つ裂きにしましょうか~」

 美女二人の恐ろしい言葉を聞き、震えは激しくなります。台風の日のてるてる坊主くらい、左右に激しく揺れています。

「ま……待ってください! この人? 何か悪いことしたんですか……? 私は何ともなかったですよ……」

 あわあわしながら慌てて止めに入りました。

「おや? 百合子。心当たりはないのかのぅ? 此奴もある意味有名じゃぞ?」

 この小さな人? もメジャー妖怪なんですか?

 うーんうーん……と唸りながら考える私です。失礼だけど、見た目はものっすごく貧乏くさい……貧乏くさい!?

「……もしかして貧乏神ですか!?」

「正解じゃ」

 あ、ご本人は震えすぎてダウジングみたいに回ってます……。
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