幽幻會社 夢現堂

Levi

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出会い

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「百合ちゃん、私の烏龍茶も飲んでみて~?」

 こんな美人にニッコリと微笑みながら甘えられると、世のおじさまたちの気持ちが分かる気がしました……。
 真ん中の女性が持ってきた烏龍茶に手を伸ばします。湯気と共に果物のような、今まで嗅いだことのないとても気品高い香りがします。

「……え? 烏龍茶ですよね……? すごく香りがいい……」

 そう言うと女性は嬉しそうに微笑みます。
 一口だけ口に含むと、普段飲んでいた烏龍茶ってなんだろうって気になりました……。後味までしっかりとしていて、絶対にお高いお茶だと貧乏舌でも分かります。

「すごい……香りもいいですし、後味も気品溢れるっていうか……」

「すっごぉい! 分かってくれて嬉しい~! むかぁしね~、住んでた所のお茶なの~」

「へ~……どこに住んでたんですか?」

「中国よ~。そこの一番高い茶葉を買ってみたのぉ」

 おぅふ……この美貌なら世界で通用することでしょう……てか、海外に住むとかお金持ちか!?

「わらしの! わらしのも飲んで!!」

 あやとりもけん玉もやめたかわい子ちゃんが、身を乗り出してアピールを始めました。
 五~六歳かな? わたしって言えず、わらしって言っちゃう舌っ足らずがまたかわいい!

「うん、いただきます」

 湯呑みを手にし、香りを嗅ぐと普通。一口飲んでも、これまた普通。

「どう? どう!?」

 かわい子ちゃんはさらに身を乗り出します。

「えっと……おいしいよ」

 笑顔で答えてみれば、恐ろしい言葉を放たれました……。

「うんとねー! しょーみきげんが十年前だった~!」

「ブー!!!!」

 見事にお茶を吹きました……。

「あんた何て物飲ませてんのよ!!」
「客だぞ!? ふざけるな!!」

 サッと渡されたティッシュで、顔やら口やらテーブルやらを拭きます。口からダラダラとお茶を垂れ流した私は、いつも以上にかなり酷い顔をしているはずです……。

 そんな私に優しく微笑みかける女神がいました。

「百合ちゃん、ホンットにごめんねぇ~! ……あっち行って遊んでなさい!!」

 そうキツく言われても、かわい子ちゃん、特に気にする様子もなくトテトテと部屋から出ていきました。……ちょっと気にして欲しかったです……。

「そういえばぁ、自己紹介してなかったわね~。私はぁもえ玉野萌たまのもえでぇす!」

 あぁ……ものっすごいキラキラオーラが眩しい……。

雪女ゆきめだ。ユキでいい」

 クールでかっこいい~……。

「……萌さんとユキさんですね……なんかイメージ通りっていうか……えっとあの……」

「なぁに~?」

「名は体を表すって感じです……」

「うふふ~。ありがとう。それで~、百合ちゃんはどうしてここに来たのかなぁ?」

 教えて? と、小首を傾げてお願いされ、人生相談のように今までの経緯と今日一日の出来事を話しました。

「そうかそうか。大変じゃったのう」

「はい……って、えぇ!?」

 いつの間にか私の隣に男性が座っています! お歳は60歳前後、なのに若い頃は絶対イケメンだろってくらい整った顔立ち。そして全身から溢れる気品と色気……。お爺ちゃん、なんて呼んだら失礼な素敵な男性でした。

「うわっ……すごい! 気付いた!」
「よく気付いたな!」

 なんか褒められました。そりゃあ隣にいきなり人がいたら、驚いて気付きますよ。マジシャンなんですかね?
 男性は優しい眼差しで私を見つめます。そんな目で見られたことがない私は、恥ずかしくって目を逸らしました。
 目線の先の部屋の入り口に、赤い顔のおじさんと青い顔のおばさんがゼーハーゼーハー言いながら立っていました。大丈夫かな……?
 あれ? さっき使いを出したって言ってたのは、もしかしてこの二人のこと? ってことは……。

「……ぬん……さん、ですか……?」

「そうじゃ。ぬんでいいぞ」

 笑顔もまた素敵すぎて爆発しそうです。大人の余裕ってこういうのなのかなぁ……って、まずは謝らなきゃ!!

「あの……あの……不法侵入してしまってすみませんでした!!」

 自分の口から不法侵入という罪名を発したら、急に怖くなって震えて来ました。
 私はきっとこれから警察を呼ばれ、事情聴取をされるのでしょう。
 そのまま実家に連絡が行くかと思うと、さらに震えが止まりません。

「なぁに怖がる必要はない。わらしに呼ばれたんだろう? この家もワシらの事も見えるじゃろ?」

 いたずらっ子のように、ニヤリと不敵な笑みをこぼすぬんさんです。

「……見える……とは……??」

「この家の感想は?」

「え……? 外装も内装も大正ロマン」

 フフっとぬんさんは笑いました。

「あ奴らも見えるな? 印象は?」

 今度はさっきの入り口の二人を指します。

「走りすぎて血圧の上がったおじさんと、同じく体調悪くなっちゃったおばさん」

 正直すぎる印象を言ってしまいました。

「……受け入れた他に全部当たっておるのう」

 ぬんさんは驚いたあと、真面目な顔で私を見ます。……受け入れた? ……当たってる? ……まさか……。

「えと……ぬんさんは……ぬん……ぬん? けどいつの間にか話しに入ってきたから……ぬらりひょん……?」

 半笑いで冗談を言ったつもりでしたが、ぬんさんは真面目な顔で答えました。

「そうじゃ」

 え? え? 嘘でしょ? でもこの場にいる全員が真面目な顔をしています。冗談を言っている感じはしません。
 え? 本当に妖怪? ……あれ? じゃあ間違えられたねぶって……。

「ねぶって……寝肥りねぶとりかぁぁぁぁ!!」

 私の絶叫がオシャンティーなお部屋に響きました。数秒の沈黙の後、萌さんとユキさんは笑いをこらえて真っ赤になって震えています。
 よく分かっていないぬんさんに、萌さんが説明するのを聞いているこの虚しさったらありません……。

「わらしがすまなかったのう。歳は食ってても中身は子供のままじゃからのう」

 苦笑いのぬんさんです。

「罪滅ぼしというわけではないが、仕事を探しておるならワシらと働かないか?」

 突然の申し出にポカーンとする私です。

「そうよ~! そうしましょ~! ……私たちが怖くなかったら、ね……」
「怖いか? 命は奪わんぞ」

 なんかこの人たち……人じゃないけど絶対いい人たちだ。見つからなかった仕事も見つかりそうだし、友だちのいなくなった私と友だちになってくれそうだし……。
 私は詳しく話しを聞くことにしました。
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