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出会い
③
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「百合ちゃん、私の烏龍茶も飲んでみて~?」
こんな美人にニッコリと微笑みながら甘えられると、世のおじさまたちの気持ちが分かる気がしました……。
真ん中の女性が持ってきた烏龍茶に手を伸ばします。湯気と共に果物のような、今まで嗅いだことのないとても気品高い香りがします。
「……え? 烏龍茶ですよね……? すごく香りがいい……」
そう言うと女性は嬉しそうに微笑みます。
一口だけ口に含むと、普段飲んでいた烏龍茶ってなんだろうって気になりました……。後味までしっかりとしていて、絶対にお高いお茶だと貧乏舌でも分かります。
「すごい……香りもいいですし、後味も気品溢れるっていうか……」
「すっごぉい! 分かってくれて嬉しい~! むかぁしね~、住んでた所のお茶なの~」
「へ~……どこに住んでたんですか?」
「中国よ~。そこの一番高い茶葉を買ってみたのぉ」
おぅふ……この美貌なら世界で通用することでしょう……てか、海外に住むとかお金持ちか!?
「わらしの! わらしのも飲んで!!」
あやとりもけん玉もやめたかわい子ちゃんが、身を乗り出してアピールを始めました。
五~六歳かな? わたしって言えず、わらしって言っちゃう舌っ足らずがまたかわいい!
「うん、いただきます」
湯呑みを手にし、香りを嗅ぐと普通。一口飲んでも、これまた普通。
「どう? どう!?」
かわい子ちゃんはさらに身を乗り出します。
「えっと……おいしいよ」
笑顔で答えてみれば、恐ろしい言葉を放たれました……。
「うんとねー! しょーみきげんが十年前だった~!」
「ブー!!!!」
見事にお茶を吹きました……。
「あんた何て物飲ませてんのよ!!」
「客だぞ!? ふざけるな!!」
サッと渡されたティッシュで、顔やら口やらテーブルやらを拭きます。口からダラダラとお茶を垂れ流した私は、いつも以上にかなり酷い顔をしているはずです……。
そんな私に優しく微笑みかける女神がいました。
「百合ちゃん、ホンットにごめんねぇ~! ……あっち行って遊んでなさい!!」
そうキツく言われても、かわい子ちゃん、特に気にする様子もなくトテトテと部屋から出ていきました。……ちょっと気にして欲しかったです……。
「そういえばぁ、自己紹介してなかったわね~。私はぁ萌。玉野萌でぇす!」
あぁ……ものっすごいキラキラオーラが眩しい……。
「雪女だ。ユキでいい」
クールでかっこいい~……。
「……萌さんとユキさんですね……なんかイメージ通りっていうか……えっとあの……」
「なぁに~?」
「名は体を表すって感じです……」
「うふふ~。ありがとう。それで~、百合ちゃんはどうしてここに来たのかなぁ?」
教えて? と、小首を傾げてお願いされ、人生相談のように今までの経緯と今日一日の出来事を話しました。
「そうかそうか。大変じゃったのう」
「はい……って、えぇ!?」
いつの間にか私の隣に男性が座っています! お歳は60歳前後、なのに若い頃は絶対イケメンだろってくらい整った顔立ち。そして全身から溢れる気品と色気……。お爺ちゃん、なんて呼んだら失礼な素敵な男性でした。
「うわっ……すごい! 気付いた!」
「よく気付いたな!」
なんか褒められました。そりゃあ隣にいきなり人がいたら、驚いて気付きますよ。マジシャンなんですかね?
男性は優しい眼差しで私を見つめます。そんな目で見られたことがない私は、恥ずかしくって目を逸らしました。
目線の先の部屋の入り口に、赤い顔のおじさんと青い顔のおばさんがゼーハーゼーハー言いながら立っていました。大丈夫かな……?
あれ? さっき使いを出したって言ってたのは、もしかしてこの二人のこと? ってことは……。
「……ぬん……さん、ですか……?」
「そうじゃ。ぬんでいいぞ」
笑顔もまた素敵すぎて爆発しそうです。大人の余裕ってこういうのなのかなぁ……って、まずは謝らなきゃ!!
「あの……あの……不法侵入してしまってすみませんでした!!」
自分の口から不法侵入という罪名を発したら、急に怖くなって震えて来ました。
私はきっとこれから警察を呼ばれ、事情聴取をされるのでしょう。
そのまま実家に連絡が行くかと思うと、さらに震えが止まりません。
「なぁに怖がる必要はない。わらしに呼ばれたんだろう? この家もワシらの事も見えるじゃろ?」
いたずらっ子のように、ニヤリと不敵な笑みをこぼすぬんさんです。
「……見える……とは……??」
「この家の感想は?」
「え……? 外装も内装も大正ロマン」
フフっとぬんさんは笑いました。
「あ奴らも見えるな? 印象は?」
今度はさっきの入り口の二人を指します。
「走りすぎて血圧の上がったおじさんと、同じく体調悪くなっちゃったおばさん」
正直すぎる印象を言ってしまいました。
「……受け入れた他に全部当たっておるのう」
ぬんさんは驚いたあと、真面目な顔で私を見ます。……受け入れた? ……当たってる? ……まさか……。
「えと……ぬんさんは……ぬん……ぬん? けどいつの間にか話しに入ってきたから……ぬらりひょん……?」
半笑いで冗談を言ったつもりでしたが、ぬんさんは真面目な顔で答えました。
「そうじゃ」
え? え? 嘘でしょ? でもこの場にいる全員が真面目な顔をしています。冗談を言っている感じはしません。
え? 本当に妖怪? ……あれ? じゃあ間違えられたねぶって……。
「ねぶって……寝肥りかぁぁぁぁ!!」
私の絶叫がオシャンティーなお部屋に響きました。数秒の沈黙の後、萌さんとユキさんは笑いをこらえて真っ赤になって震えています。
よく分かっていないぬんさんに、萌さんが説明するのを聞いているこの虚しさったらありません……。
「わらしがすまなかったのう。歳は食ってても中身は子供のままじゃからのう」
苦笑いのぬんさんです。
「罪滅ぼしというわけではないが、仕事を探しておるならワシらと働かないか?」
突然の申し出にポカーンとする私です。
「そうよ~! そうしましょ~! ……私たちが怖くなかったら、ね……」
「怖いか? 命は奪わんぞ」
なんかこの人たち……人じゃないけど絶対いい人たちだ。見つからなかった仕事も見つかりそうだし、友だちのいなくなった私と友だちになってくれそうだし……。
私は詳しく話しを聞くことにしました。
こんな美人にニッコリと微笑みながら甘えられると、世のおじさまたちの気持ちが分かる気がしました……。
真ん中の女性が持ってきた烏龍茶に手を伸ばします。湯気と共に果物のような、今まで嗅いだことのないとても気品高い香りがします。
「……え? 烏龍茶ですよね……? すごく香りがいい……」
そう言うと女性は嬉しそうに微笑みます。
一口だけ口に含むと、普段飲んでいた烏龍茶ってなんだろうって気になりました……。後味までしっかりとしていて、絶対にお高いお茶だと貧乏舌でも分かります。
「すごい……香りもいいですし、後味も気品溢れるっていうか……」
「すっごぉい! 分かってくれて嬉しい~! むかぁしね~、住んでた所のお茶なの~」
「へ~……どこに住んでたんですか?」
「中国よ~。そこの一番高い茶葉を買ってみたのぉ」
おぅふ……この美貌なら世界で通用することでしょう……てか、海外に住むとかお金持ちか!?
「わらしの! わらしのも飲んで!!」
あやとりもけん玉もやめたかわい子ちゃんが、身を乗り出してアピールを始めました。
五~六歳かな? わたしって言えず、わらしって言っちゃう舌っ足らずがまたかわいい!
「うん、いただきます」
湯呑みを手にし、香りを嗅ぐと普通。一口飲んでも、これまた普通。
「どう? どう!?」
かわい子ちゃんはさらに身を乗り出します。
「えっと……おいしいよ」
笑顔で答えてみれば、恐ろしい言葉を放たれました……。
「うんとねー! しょーみきげんが十年前だった~!」
「ブー!!!!」
見事にお茶を吹きました……。
「あんた何て物飲ませてんのよ!!」
「客だぞ!? ふざけるな!!」
サッと渡されたティッシュで、顔やら口やらテーブルやらを拭きます。口からダラダラとお茶を垂れ流した私は、いつも以上にかなり酷い顔をしているはずです……。
そんな私に優しく微笑みかける女神がいました。
「百合ちゃん、ホンットにごめんねぇ~! ……あっち行って遊んでなさい!!」
そうキツく言われても、かわい子ちゃん、特に気にする様子もなくトテトテと部屋から出ていきました。……ちょっと気にして欲しかったです……。
「そういえばぁ、自己紹介してなかったわね~。私はぁ萌。玉野萌でぇす!」
あぁ……ものっすごいキラキラオーラが眩しい……。
「雪女だ。ユキでいい」
クールでかっこいい~……。
「……萌さんとユキさんですね……なんかイメージ通りっていうか……えっとあの……」
「なぁに~?」
「名は体を表すって感じです……」
「うふふ~。ありがとう。それで~、百合ちゃんはどうしてここに来たのかなぁ?」
教えて? と、小首を傾げてお願いされ、人生相談のように今までの経緯と今日一日の出来事を話しました。
「そうかそうか。大変じゃったのう」
「はい……って、えぇ!?」
いつの間にか私の隣に男性が座っています! お歳は60歳前後、なのに若い頃は絶対イケメンだろってくらい整った顔立ち。そして全身から溢れる気品と色気……。お爺ちゃん、なんて呼んだら失礼な素敵な男性でした。
「うわっ……すごい! 気付いた!」
「よく気付いたな!」
なんか褒められました。そりゃあ隣にいきなり人がいたら、驚いて気付きますよ。マジシャンなんですかね?
男性は優しい眼差しで私を見つめます。そんな目で見られたことがない私は、恥ずかしくって目を逸らしました。
目線の先の部屋の入り口に、赤い顔のおじさんと青い顔のおばさんがゼーハーゼーハー言いながら立っていました。大丈夫かな……?
あれ? さっき使いを出したって言ってたのは、もしかしてこの二人のこと? ってことは……。
「……ぬん……さん、ですか……?」
「そうじゃ。ぬんでいいぞ」
笑顔もまた素敵すぎて爆発しそうです。大人の余裕ってこういうのなのかなぁ……って、まずは謝らなきゃ!!
「あの……あの……不法侵入してしまってすみませんでした!!」
自分の口から不法侵入という罪名を発したら、急に怖くなって震えて来ました。
私はきっとこれから警察を呼ばれ、事情聴取をされるのでしょう。
そのまま実家に連絡が行くかと思うと、さらに震えが止まりません。
「なぁに怖がる必要はない。わらしに呼ばれたんだろう? この家もワシらの事も見えるじゃろ?」
いたずらっ子のように、ニヤリと不敵な笑みをこぼすぬんさんです。
「……見える……とは……??」
「この家の感想は?」
「え……? 外装も内装も大正ロマン」
フフっとぬんさんは笑いました。
「あ奴らも見えるな? 印象は?」
今度はさっきの入り口の二人を指します。
「走りすぎて血圧の上がったおじさんと、同じく体調悪くなっちゃったおばさん」
正直すぎる印象を言ってしまいました。
「……受け入れた他に全部当たっておるのう」
ぬんさんは驚いたあと、真面目な顔で私を見ます。……受け入れた? ……当たってる? ……まさか……。
「えと……ぬんさんは……ぬん……ぬん? けどいつの間にか話しに入ってきたから……ぬらりひょん……?」
半笑いで冗談を言ったつもりでしたが、ぬんさんは真面目な顔で答えました。
「そうじゃ」
え? え? 嘘でしょ? でもこの場にいる全員が真面目な顔をしています。冗談を言っている感じはしません。
え? 本当に妖怪? ……あれ? じゃあ間違えられたねぶって……。
「ねぶって……寝肥りかぁぁぁぁ!!」
私の絶叫がオシャンティーなお部屋に響きました。数秒の沈黙の後、萌さんとユキさんは笑いをこらえて真っ赤になって震えています。
よく分かっていないぬんさんに、萌さんが説明するのを聞いているこの虚しさったらありません……。
「わらしがすまなかったのう。歳は食ってても中身は子供のままじゃからのう」
苦笑いのぬんさんです。
「罪滅ぼしというわけではないが、仕事を探しておるならワシらと働かないか?」
突然の申し出にポカーンとする私です。
「そうよ~! そうしましょ~! ……私たちが怖くなかったら、ね……」
「怖いか? 命は奪わんぞ」
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