幽幻會社 夢現堂

Levi

文字の大きさ
10 / 47
宴会前の女子会

しおりを挟む
 立ち上がり階段へ向かうために歩き出すと、私のかかとがカパカパします。そうだった……ヒールが折れたんだった……。
 そう思いながら自分の足元を見ると、萌さんの尻尾がシュッと出てきました。

「百合ちゃんコレ履きなよ~。それじゃあ歩きにくいでしょう~?」

 私の足元に出してくれたのは優しい色合いの、ラベンダー色のスリッパです。ちょっと変わったこの形のスリッパですが、以前ネットで見た物に似ています……。

 まさか、と思いつつも恐る恐る履いてみると、足裏から感じる少しひんやりとした生地で、滑らかで足が包まれる感じがします。

「ももも……萌さん……このスリッパって……あの一時期話題になった……」

「あ~気付いてくれたのぉ? 嬉しい~! そうそう~たった数万円のスリッパよ~。記念にあげるわよ~」

「ひぃっ!」

 口から変な音が出てしまいました。だって、日本の最高級スリッパですよ? 数万円ですよ? それを簡単にあげるってアナタ……。

「百合子、いいから早くしろ。萌の部屋に行くぞ」

 ユキさんに威圧的にそう言われ、脱いだパンプスをカバンにしまい、何も考えないように歩き出しました。

 歩き出すと同時に、スネ子ちゃんが私のすねにスリスリスリスリ……。玄関ホールに出てもスリスリスリスリ……。
 そして玄関の向かい側にある、立派でオシャンティーな階段へ一歩足を踏み出してもスリスリスリスリ……。さすがに歩きにくい……。

「……スネ子ちゃん、さすがに階段は危ないよ? 踏んじゃうかもしれないし、転んだら二人とも怪我しちゃう……」

 そう言うと、スネ子ちゃんは「二ー」と鳴き、私の隣を歩き始めました。分かってくれたんですね。ただ目線は私のすねですが。

 階段を上り二階へ着くと、そこもまたモダンでした。お高いホテルのように、廊下には高級そうな絨毯が敷かれています。
 階段を真ん中にして、左右にはお部屋の扉が並んでいます。本当にホテルみたいです!

「ねぇねぇ百合ちゃ~ん。ちょっとだけユキの部屋を見てみてよ~。ウケるからぁ~」

 なぜかケラケラと笑う萌さんです。

「寝室とは快眠の場所だ」

 そう言い切るユキさんですが、確かにそれは間違いないです。

 二階に上がって右側の通路の、階段に一番近いお部屋がユキさんのお部屋らしいです。

「開けてみろ」

 ユキさんは腕組をして自信満々に言い放ちます。とても気になるので、お言葉に甘えてそーっとドアを開けてみました。

 まぁですね、妖怪と出会って話をしている時点で、もはや通常の世界からはかけ離れているんです。
 それ以上に、ユキさんのお部屋はぶっ飛んでました……。

 扉をそーっと開けて正解でした。なぜならユキさんのお部屋の中は、まさかの暴風雪が吹き荒れておりました。
 そして扉の向こうは『部屋』ではなく、どこまでも広がる雪原です。一面雪です。その中にポツンとかまくらがありました。

「寒っ! ……ってかまくら!?」

 驚きとあまりの寒さにドアを閉めました。

「人間で言うところのベッドだ」

 ふふん、と自信満々な感じのユキさんです。私は言葉を失ってしまいました……。

「ほら~ユキ~。やっぱり引いてるわよ~。私たちだって引くんだもん~。当然よね~」

 ね~と、萌さんは笑いかけて来ます。

「なんだと!?」

 それに対して少しムッとするユキさんです。

「あの……あの……引くというか……驚きました……。部屋の中が雪だらけって……多分もう一生見ることがないと思います……」

「そうか!」

 言葉を選んで思いを伝えたのですが、ユキさんはなぜか満足気です。少しだけ分かったことは、ユキさんは見た目とは違いちょっと天然さんなんだな、ってことです。

「百合子には負けるぞ」

 あぁ……また心を読まれてしまいました……。

「さ、百合ちゃんこっちよ~」

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、萌さんは私の手を取り、ユキさんの隣のお部屋へと案内してくれました。
 相変わらずスネ子ちゃんはスリスリしてきます。

『萌の部屋』

 扉にはそう書かれたプレートが付けられていました。

 ユキさんのあのお部屋を見た後だから、萌さんのお部屋はどんなのなんだろうと考えます。ん~……狐の妖怪だし……鳥居とかあったらどうしよう……。

「ちょっと~百合ちゃ~ん、さすがに~部屋に鳥居はないわよ~」

 萌さんはツボに入ったらしく、おなかを抱えて笑っています。笑いながらも「どうぞ~」と、扉を開けてくれました。

 一歩お部屋に入ると、ふわりとお香らしき香りが漂います。壁や天井には装飾用の布がかかり、棚やキャビネット、仕切りの屏風等は、細かい彫り物で作られた中国風の家具で統一されているようです。
 部屋のあちらこちらに置かれている間接照明は、お雛様のぼんぼりのような丸型のデザインです。
 部屋全体の色合いは、黒、赤、茶色。見事なアジアンテイスト溢れるお部屋です。あ、ぼんぼりだけは和風かな?

 そして、お部屋の奥にあるベッドは数人でも寝れそうな程に大きくて、女子の憧れである天蓋まで付いています!
 薄いベージュの透けている布がエキゾチックで、ベッドの周りはアラビアンな照明がたくさん天井から下がっていました。ベッドゾーンはアラビアン風のようです。

「……しゃれおつ……」

 お洒落難易度が高すぎて、こんな一言しか出ませんでした。

「きゃ~! ありがとう~!」

 萌さんは両手をほっぺたに当てて、左右に体をよじって喜んでいます。本当に可愛いなぁ萌さん。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...