幽幻會社 夢現堂

Levi

文字の大きさ
18 / 47
事業計画〜エステ・美容編〜

しおりを挟む
 あの夢みたいな出会いの日から、二週間が経ちました。今日はゴンさんに宿題の事業計画書を見てもらう日です。
 事業や経営なんて難しい事は分からないので、私が出来る範囲で書いたのでとても簡単な物になってしまいました……あぁ緊張する……。

 時計を見ると朝の九時前です。そろそろかな? と思っていると、窓を叩かれました。そっと窓を開けると、そこには今日もイケメンの烏天狗さんがいました。

「百合子様! お迎えにあがりました!」

「あの……様はやめましょう……」

「それは無理です。さぁ人気のない所へ」

 はぁ、とため息を吐きながら、眩しいほどの笑顔の烏天狗さんと一緒に、ご近所の死角の多い場所へ向かいます。
 烏天狗さんはもちろん普通の人には見えませんが、私は見えているとはいえ普通の人間が烏天狗さんに触れると、他の人には姿が見えなくなるようなのです。

 私の姿も見えなくなるのは移動には便利なのですが、触れて消える所を人から見られないようにと二人で決めました。
 え? 家の中で触れれば良いと? ……汚部屋にイケメンは立ち入り禁止です。

 実はこの二週間の間に、何回か遊びに来いと萌さんやぬんさんに言われて、その度に烏天狗さんが迎えに来ているのです。
 この大変な時に遊びとか……とは思ったものの、実は事業計画に役立ったので感謝です。

 そんな日々を思い返しているうちに、上空からでも素敵に見えるお屋敷が見えてきました。この素敵な迷い家も、普通の人には見えないなんてもったいないです。
 最初は空を飛ぶのが怖かったのに、今では飛ぶことが気持ちいいとすら思ってしまう……慣れって怖いです……。

「おはようございます……」

 何回来ても、いまだに玄関に入る時には緊張してしまいます。

「百合子、おはよう。今日は期待しているからな」

 ユキさんが扉を開けた所にドーンと立っていました。ビクッとしましたが内緒です。

「おはようございます、ユキさん。昨日は飲まなかったんですね」

「な! ……まぁな……ゴンにしばらく会っていないしな」

 実はユキさん、猛烈にお酒が好きで、お酒に強いので潰れたり悪酔いすることはないのですが、かなり飲んだ次の日は丸一日かまくらの中で冬眠するという、一風変わった習性を持っているのです。これはユキさんだけの習性で、他の雪女はそんなことはないそうです。
 もちろん聞きましたよ。『それって二日酔いって言うんじゃないですか?』と。なぜか怒られたのでもう聞きません。
 前回ゴンさんに会った時にいなかったのには、こんな理由があったのです。

「で? 上手くいきそうなのか?」

「どうでしょう……初めての事ですし……やっぱり不安が勝ってますけど……」

「リラックスしろ。萌が茶の準備をしている」

 ユキさんがリビングの扉を開けてくれ、一緒にリビングへと入りました。

「あらぁ~百合ちゃんおはよ~」

「おはようございます、萌さん」

「座って~。ゴンが来るまでお茶しましょ~。今日は~気持ちを落ち着かせる為に~ハーブティーにしました~」

 やった! 萌さんの煎れるお茶は本当に美味しいんです。
 慣れが勝って当たり前のようにソファに座ると、萌さんがカップを目の前に置いてくれました。と、同時に青さんがキッチンから走って来ました。

「け!」

「え?」

「青が~食べてって~」

 手にはたくさんの種類のクッキーを持っています。私がなまはげ二人の料理を気に入って褒めちぎり、食べる事が大好きなのを伝えると、お二人は和食だけでなく、お菓子を作るようになったんです。

「青さん、ありがとうございます。このハーブティーに合いそうですね」

 あ、私の言葉を聞いた青さんの顔色が普通の色になった。照れてるってことですね。

「いっぺ、け!」

 そう言い残してダッシュで青さんはいなくなりました。いっぱい食べてね、と言っていたようです。『食べて』が『け』の一言で済む秋田。面白いです。

「ちなみに、かゆいも『け』だぞ」

「え!?」

 横からユキさんが教えてくれました。うん、後でなまはげの二人とユキさんから東北弁を習おう。

 二週間前の女子会のように、萌さんとユキさんとキャッキャッしていると、あっという間にゴンさんとの約束の時間になりそうです。

「そろそろね~」

「あのぬんが珍しく迎えに行ったからな。そろそろ来るな」

 話を聞くと、ぬんさんはウキウキでゴンさんの家へと向かったらしいです。何か皆さんのほうが気合い入ってません?
 そんなことを考えていると、玄関からぬんさんの声が聞こえてきました。

「おぉ~い、ゴンが来たぞ~!」

「ただいまでいいだろう!? 迎えに来んでも私は約束の時間にはちゃんと来るのに!」

 今日も二人はやんややんやと言い争っているようです。仲が良くて何よりです。

 ガチャリ、と扉が開いて二人が入って来ました。私も立ち上がり挨拶をします。

「おはようございます、ゴンさん」

「……ん? おはよう桃田さん……? 何か、とても雰囲気が変わったような?」

「ま……まぁそれはおいおい……」

 そうして私たちは席に着きました。私の両隣は萌さんとユキさんが、向かいにはゴンさんとぬんさんが着席しました。

「さて桃田さん。宿題の事業計画書を見せてもらおうか」

「はい……でも難しいことは分からないので、すごく簡単な構想と申しますか……壮大なメモと申しますか……」

 途端に吹き出す妖怪三人衆です。

「そ……壮大なメモって~……」

 萌さん、笑いすぎです……。

「お前ら笑いすぎだ! どれ、見せてもらおう」

 震える手でゴンさんに壮大なメモを渡します。真剣な眼差しでそれをゴンさんが読みます……ヤバい! 緊張がピークに達します……。

「……ふぅむ……エステと美容院の複合施設か……詳しく教えてくれ……その……老眼でほとんど読めなくてな……」

 妖怪三人衆は手を叩いて大爆笑をしています……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...