幽幻會社 夢現堂

Levi

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 ふと後ろを振り向くと、ぬんさんとユキさんは漆黒しっこくさんの背中でゴロゴロしています。
 萌さんとつやさんはキャッキャウフフと女子トークをしています。……飽きたんですね? 皆さんそうですね?
 もうぬんさんたちを放置して、私だけが空から下を覗き見しました。

 不動産屋さんに降ろしてもらった道路から商店街を通り抜けると、その奥は公園になっていました。児童公園のような物ではなく、植物公園とでも言いましょうか? 敷地は結構な広さで、芝生や花々、たくさんの木々が見えます。奥の方は森と言ってもいいのかもしれません。
 ……なんで商店街の奥が公園なんでしょうか? 今更ながら立地が微妙ですし不思議です。

 商店街自体は全長二百メートルほどでしょうか? 入り口から公園までが歩行者天国のようです。
 商店街の周りは民家がほとんどで、商店街の半分くらいの場所が十字路になっており、民家街から商店街に徒歩で直接来れる立地になっていました。
 この辺は活気のある駅周辺とは違い、アパートやマンションよりも戸建ての家が多いようです。

 商店街の入り口から主要道路を挟んだ向かい側は、主に民家や空き地が目立ち、私たちが来たのとは逆の、奥の方向には学校等が見えました。
 私たちが来た駅側の方は、郊外型のショッピングモールがあり、大きなスーパーやホームセンター等がまとまって建っていました。
 そのショッピングモールの駐車場は八割ほどが埋まっており、車を持っているこの辺の住人はここで買い物をしているようです。そしてそのショッピングモールの周辺だけは、大きな道路が通っていました。

 それ以外は目立ったものがなく、ほぼ畑や田んぼのようで、農業がメインの土地のようです。

 漆黒しっこくさんに頼み、高度を下げてもらい、商店街付近の住民の観察をすることにします。

 やっぱり歩いているのはお年寄りが多く、小さな子どもを連れた若いお母さんも多いようです。
 商店街前を走る道路にはバス停もあるにはありますが、商店街からはかなり距離が離れています。むむむ……これではここに来るのも難しいかもしれません。

 後ろでくつろいだりキャッキャウフフしている人たちは放置して、私たちの横を一緒に飛んでいる黒羽くろはさんにこの近辺の情報を何か知らないか聞いてみました。
 少々お待ちくださいと言い残した黒羽くろはさんは、電線に止まっている普通のカラスたちの元へ飛んでいきました。

「お待たせいたしました百合子様。この商店街前の道路は旧国道と呼ばれていて、あちらの大きな道路は新国道やバイパスと呼ばれているようです」

 戻ってきた黒羽くろはさんは、なんとカラスからこの土地の情報収集したようです。確かにカラスって人間社会に溶け込んでますもんね。

「以前は商店街の周辺は活気溢れる場所で、エサにも困らないほどだったとか。それがあの大きな道路や建物ができると、一気にここは静かになってしまったそうです。自動車も普及し、バスの利用が極端に減りバスの路線が無くなったと申しておりました」

 カラス……そこまで分かるんですか……さすが頭脳派の鳥……。感心しちゃうよ……。

 ある程度この周辺が分かったので、そろそろ帰ろうかと思いました。まずは後ろのキャッキャウフフ集団をなんとかしないと、と思い振り返り仰天しました。

「誰ー!?」

 絶叫したのも当然です。知らない人が一人増えてるんですから!
 少し赤ら顔で、散切り頭とでも申しましょうか。ボサボサ頭の少年がそこにいました。

「百合ちゃ~ん、やっと気付いた~」

 キャッキャと笑う萌さんですが、なかなか笑えない状況ですよ?

「さっきの物件に~勝手に住み着いてたらしいの~」

 やっぱりあの物件の見学の時に何かあったというか、尻尾で捕獲していたんじゃないですか。

「……あの……どちら様で……?」

 誰が見ても分かるほどに引きつった顔で聞いてみました。

「初めまして! 僕は垢舐めです!」

 垢舐めって……あの垢舐めか! どうやら近代の人間のお風呂は、汚れが付着し難くお掃除も洗剤を使ってこまめにやるので、『垢』という名の彼らのご飯がほとんどないんだとか。
 田舎の歴史ある古い温泉や、山奥や川沿いなどにある掘っ立て小屋の温泉などはまだ食事にありつけるそうですが、昔で言うところの人里である都市部では、あまり食べられないんだそうです。

 あの物件に入っていた元理容室は、オーナーがあまり綺麗好きではなかったため、シャンプー台に残るわずかなご飯をいただいていたのだとか……。
 ちょっとなんとも言えない複雑な気持ちになりますが、それがご飯というのなら仕方ないことですよね……。

「いやぁ実は餓死寸前でした。妖怪なので死にはしないですけどね」

 あっはっはと笑う垢舐めくん。笑い事なんでしょうか? 応急処置で、萌さんとユキさんの妖力を分けてもらい、少し元気になったそうです。
 とはいえ、まだお腹は空いているようで、ずっとお腹をさすさすしています。餓死寸前っていうのは、死ぬほどお腹が空いたってことですもんね……。
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