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私たちがさすさすしているうちに、萌さんユキさんはツカツカと奥に進みます。歩きながら、萌さんは尻尾を出していました。その尻尾が一瞬だけ伸びて縮んだと思うと、尻尾は消えてしまいました。
「うふふ~何もいないわよ~。もうここに決めましょうよ~」
ニッコリと笑う萌さんですが、何かしたんですね……? ぬんさんとユキさんを見ると、二人とも含み笑いしています。絶対に何かしたに違いありません。
「ででで……ですよね! 何もいませんよね! 理容室の方の勘違いでしたよね! こちらの物件もお好きなようにリフォーム出来ますよ!」
頭のてっぺんから変な汗をかきながら、店員さんはそう言いました。「ちなみに」と、語る店員さんは、どちらの物件も二階があり、ファミードの上は事務所兼休憩室として使われていた事、理容室の上は物置として使われていたと仰っていました。
「店員さんや。もうワシらはこの二つの物件に決めた。ただのぅ、まさかこんなにトントン拍子に話が進むと思わんで、ハンコなど持ってきてないんじゃ。明日また伺って正式契約で良いかな?」
「はいぃぃ! もちろんでございます! 明日の朝には大丈夫なように、必ず契約書は作っておきます!」
ぬんさんと店員さんの話を聞きながら、萌さんの尻尾の件が気になって仕方のない私です。何をどこに隠したんだろう? と、萌さんの体のあちこちを見ているうちに、ぬんさんたちの話は終わっていました。
物件の外に出て鍵をかけ、満面の笑みで店員さんは車で帰って行きました。
「あれ? 置いて行かれたような……」
そう呟くとぬんさんが話し始めました。
「ちゃんと聞いておらんかったのか? 商店街の客層も詳しく知りたいしのぅ、この辺を見て回ろうと思ってな。歩き回るのも目立ってアレじゃから、烏天狗に乗って上空から視察しようと思ってるのだがのぅ」
爽やかな笑顔で答えてくれるぬんさんですが、イケメンダンディーの爽やかスマイルは凶器です。
「そうと決まれば~人気のない所に向かいましょ~」
萌さんの掛け声と共に人から死角になる場所を探して入り込み、烏天狗さんを呼んで貰いました。
お屋敷のある山の麓だけあって、すぐに現れた烏天狗さんは四人です。ここに来る時に乗せてくれたのもこの四人でしたが、少し急ぎめだったのとすぐに着いてしまったので、ご挨拶もちゃんとしていませんでした。
ぬんさんが「上空からゆっくり視察じゃ」と言うと、近くに人がいないと分かったのか、いつも私を乗せてくれる烏天狗さんがにこやかに言いました。
「いつも呼んでいただきありがとうございます。まずは乗ってください。上で自己紹介しますので」
そう言って空を指差します。烏天狗さんに触れると、普通の人間には私たちの姿が見えなくなるからでしょう。来た時と同じように、それぞれがおんぶされるのかと思いきや、威厳のありそうな強面の烏天狗さんが……まさかのでっかいカラスに変化しました!
「はぁぁぁ!?」
思わず素で驚きましたが、背中に乗れと言われ私たちはその背中に乗り、他の変化していない烏天狗さんたちは自分の羽で空へ飛び立ちます。
ちょこん、と背中に座りながら呆気にとられていると、でっかいカラスさんが喋りました。
「百合子様、挨拶が遅れて申し訳ございません。私、烏天狗の長をしております『漆黒』と申します。そしてそこにおります愚息の親でもあります」
え!? お父さん!? 長ってエライ人!? しかも低音イケボなんですけど!
「初めまして百合子様。漆黒の妻、『緑羽』でございます。いつも息子がお世話になっております」
お母さん!! 飛びながらも深々と頭を下げるそのお姿が気品ありすぎぃ!
「ようやくお会いできて光栄です。『黒羽』の妻、『艶』でございます」
奥さんまでキター!! めっちゃ美人です!
「そしてご存知のとおり『 黒羽』でございます。みんな百合子様に会いたいと騒ぎまして……」
ポリポリと頬をかく烏天狗さんですが……実は今日初めて名前を知ったなんて言えません。
「百合子様、素晴らしい革命をこの妖怪たちの世界に起こしていただいて、感謝感激でございます」
かなり上空をぐーるぐーるとゆっくりと回りながら話す漆黒さんです。高度が高すぎて、少し肌寒いのは言わないでおきます。
「息子をはじめ、烏天狗一族を百合子様のお好きなように使役していただいて構いません」
とんでも発言キター! あまりの内容に鼻水が出たー!
「いやいやいや……こちらこそ、いつもお世話になりましてありがとうございます。それだけで充分です」
ただお礼を言っただけなのに、『感謝されたー!』だの『わー!』だの『キャー!』だのと盛り上がる烏天狗ファミリーに驚きを隠せません。
「感動いたしました百合子様。私たちを呼ぶ時は近くにおります妖怪か、そちらの福の神に話して下さいね」
お母様、何をそんなに感動されたのでしょうか? 黒羽さんの奥さんも涙を流して、口に手をあてて頷いておられます。
そしてポンと現れた福の神さん。肩で息をしてゼーハーゼーハーしたと思ったら、親指を立ててそのまますぐに消えてしまいました。福の神さん、私には意味が分かりませんよ?
「して、今日はこの近辺の視察でございますね。参りましょうか」
低音イケボでそう言うと、漆黒さんは高度を下げ、街の上をゆっくりと飛んでくれました。
「うふふ~何もいないわよ~。もうここに決めましょうよ~」
ニッコリと笑う萌さんですが、何かしたんですね……? ぬんさんとユキさんを見ると、二人とも含み笑いしています。絶対に何かしたに違いありません。
「ででで……ですよね! 何もいませんよね! 理容室の方の勘違いでしたよね! こちらの物件もお好きなようにリフォーム出来ますよ!」
頭のてっぺんから変な汗をかきながら、店員さんはそう言いました。「ちなみに」と、語る店員さんは、どちらの物件も二階があり、ファミードの上は事務所兼休憩室として使われていた事、理容室の上は物置として使われていたと仰っていました。
「店員さんや。もうワシらはこの二つの物件に決めた。ただのぅ、まさかこんなにトントン拍子に話が進むと思わんで、ハンコなど持ってきてないんじゃ。明日また伺って正式契約で良いかな?」
「はいぃぃ! もちろんでございます! 明日の朝には大丈夫なように、必ず契約書は作っておきます!」
ぬんさんと店員さんの話を聞きながら、萌さんの尻尾の件が気になって仕方のない私です。何をどこに隠したんだろう? と、萌さんの体のあちこちを見ているうちに、ぬんさんたちの話は終わっていました。
物件の外に出て鍵をかけ、満面の笑みで店員さんは車で帰って行きました。
「あれ? 置いて行かれたような……」
そう呟くとぬんさんが話し始めました。
「ちゃんと聞いておらんかったのか? 商店街の客層も詳しく知りたいしのぅ、この辺を見て回ろうと思ってな。歩き回るのも目立ってアレじゃから、烏天狗に乗って上空から視察しようと思ってるのだがのぅ」
爽やかな笑顔で答えてくれるぬんさんですが、イケメンダンディーの爽やかスマイルは凶器です。
「そうと決まれば~人気のない所に向かいましょ~」
萌さんの掛け声と共に人から死角になる場所を探して入り込み、烏天狗さんを呼んで貰いました。
お屋敷のある山の麓だけあって、すぐに現れた烏天狗さんは四人です。ここに来る時に乗せてくれたのもこの四人でしたが、少し急ぎめだったのとすぐに着いてしまったので、ご挨拶もちゃんとしていませんでした。
ぬんさんが「上空からゆっくり視察じゃ」と言うと、近くに人がいないと分かったのか、いつも私を乗せてくれる烏天狗さんがにこやかに言いました。
「いつも呼んでいただきありがとうございます。まずは乗ってください。上で自己紹介しますので」
そう言って空を指差します。烏天狗さんに触れると、普通の人間には私たちの姿が見えなくなるからでしょう。来た時と同じように、それぞれがおんぶされるのかと思いきや、威厳のありそうな強面の烏天狗さんが……まさかのでっかいカラスに変化しました!
「はぁぁぁ!?」
思わず素で驚きましたが、背中に乗れと言われ私たちはその背中に乗り、他の変化していない烏天狗さんたちは自分の羽で空へ飛び立ちます。
ちょこん、と背中に座りながら呆気にとられていると、でっかいカラスさんが喋りました。
「百合子様、挨拶が遅れて申し訳ございません。私、烏天狗の長をしております『漆黒』と申します。そしてそこにおります愚息の親でもあります」
え!? お父さん!? 長ってエライ人!? しかも低音イケボなんですけど!
「初めまして百合子様。漆黒の妻、『緑羽』でございます。いつも息子がお世話になっております」
お母さん!! 飛びながらも深々と頭を下げるそのお姿が気品ありすぎぃ!
「ようやくお会いできて光栄です。『黒羽』の妻、『艶』でございます」
奥さんまでキター!! めっちゃ美人です!
「そしてご存知のとおり『 黒羽』でございます。みんな百合子様に会いたいと騒ぎまして……」
ポリポリと頬をかく烏天狗さんですが……実は今日初めて名前を知ったなんて言えません。
「百合子様、素晴らしい革命をこの妖怪たちの世界に起こしていただいて、感謝感激でございます」
かなり上空をぐーるぐーるとゆっくりと回りながら話す漆黒さんです。高度が高すぎて、少し肌寒いのは言わないでおきます。
「息子をはじめ、烏天狗一族を百合子様のお好きなように使役していただいて構いません」
とんでも発言キター! あまりの内容に鼻水が出たー!
「いやいやいや……こちらこそ、いつもお世話になりましてありがとうございます。それだけで充分です」
ただお礼を言っただけなのに、『感謝されたー!』だの『わー!』だの『キャー!』だのと盛り上がる烏天狗ファミリーに驚きを隠せません。
「感動いたしました百合子様。私たちを呼ぶ時は近くにおります妖怪か、そちらの福の神に話して下さいね」
お母様、何をそんなに感動されたのでしょうか? 黒羽さんの奥さんも涙を流して、口に手をあてて頷いておられます。
そしてポンと現れた福の神さん。肩で息をしてゼーハーゼーハーしたと思ったら、親指を立ててそのまますぐに消えてしまいました。福の神さん、私には意味が分かりませんよ?
「して、今日はこの近辺の視察でございますね。参りましょうか」
低音イケボでそう言うと、漆黒さんは高度を下げ、街の上をゆっくりと飛んでくれました。
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