幽幻會社 夢現堂

Levi

文字の大きさ
27 / 47
下見

しおりを挟む
 私たちがさすさすしているうちに、萌さんユキさんはツカツカと奥に進みます。歩きながら、萌さんは尻尾を出していました。その尻尾が一瞬だけ伸びて縮んだと思うと、尻尾は消えてしまいました。

「うふふ~何もいないわよ~。もうここに決めましょうよ~」

 ニッコリと笑う萌さんですが、何かしたんですね……? ぬんさんとユキさんを見ると、二人とも含み笑いしています。絶対に何かしたに違いありません。

「ででで……ですよね! 何もいませんよね! 理容室の方の勘違いでしたよね! こちらの物件もお好きなようにリフォーム出来ますよ!」

 頭のてっぺんから変な汗をかきながら、店員さんはそう言いました。「ちなみに」と、語る店員さんは、どちらの物件も二階があり、ファミードの上は事務所兼休憩室として使われていた事、理容室の上は物置として使われていたと仰っていました。

「店員さんや。もうワシらはこの二つの物件に決めた。ただのぅ、まさかこんなにトントン拍子に話が進むと思わんで、ハンコなど持ってきてないんじゃ。明日また伺って正式契約で良いかな?」

「はいぃぃ! もちろんでございます! 明日の朝には大丈夫なように、必ず契約書は作っておきます!」

 ぬんさんと店員さんの話を聞きながら、萌さんの尻尾の件が気になって仕方のない私です。何をどこに隠したんだろう? と、萌さんの体のあちこちを見ているうちに、ぬんさんたちの話は終わっていました。
 物件の外に出て鍵をかけ、満面の笑みで店員さんは車で帰って行きました。

「あれ? 置いて行かれたような……」

 そう呟くとぬんさんが話し始めました。

「ちゃんと聞いておらんかったのか? 商店街の客層も詳しく知りたいしのぅ、この辺を見て回ろうと思ってな。歩き回るのも目立ってアレじゃから、烏天狗に乗って上空から視察しようと思ってるのだがのぅ」

 爽やかな笑顔で答えてくれるぬんさんですが、イケメンダンディーの爽やかスマイルは凶器です。

「そうと決まれば~人気のない所に向かいましょ~」

 萌さんの掛け声と共に人から死角になる場所を探して入り込み、烏天狗さんを呼んで貰いました。
 お屋敷のある山の麓だけあって、すぐに現れた烏天狗さんは四人です。ここに来る時に乗せてくれたのもこの四人でしたが、少し急ぎめだったのとすぐに着いてしまったので、ご挨拶もちゃんとしていませんでした。

 ぬんさんが「上空からゆっくり視察じゃ」と言うと、近くに人がいないと分かったのか、いつも私を乗せてくれる烏天狗さんがにこやかに言いました。

「いつも呼んでいただきありがとうございます。まずは乗ってください。上で自己紹介しますので」

 そう言って空を指差します。烏天狗さんに触れると、普通の人間には私たちの姿が見えなくなるからでしょう。来た時と同じように、それぞれがおんぶされるのかと思いきや、威厳のありそうな強面の烏天狗さんが……まさかのでっかいカラスに変化しました!

「はぁぁぁ!?」

 思わず素で驚きましたが、背中に乗れと言われ私たちはその背中に乗り、他の変化していない烏天狗さんたちは自分の羽で空へ飛び立ちます。
 ちょこん、と背中に座りながら呆気にとられていると、でっかいカラスさんが喋りました。

「百合子様、挨拶が遅れて申し訳ございません。わたくし、烏天狗のおさをしております『漆黒しっこく』と申します。そしてそこにおります愚息の親でもあります」

 え!? お父さん!? おさってエライ人!? しかも低音イケボなんですけど!

「初めまして百合子様。漆黒しっこくの妻、『緑羽りょくは』でございます。いつも息子がお世話になっております」

 お母さん!! 飛びながらも深々と頭を下げるそのお姿が気品ありすぎぃ!

「ようやくお会いできて光栄です。『黒羽くろは』の妻、『つや』でございます」

 奥さんまでキター!! めっちゃ美人です!

「そしてご存知のとおり『 黒羽くろは』でございます。みんな百合子様に会いたいと騒ぎまして……」

 ポリポリと頬をかく烏天狗さんですが……実は今日初めて名前を知ったなんて言えません。

「百合子様、素晴らしい革命をこの妖怪たちの世界に起こしていただいて、感謝感激でございます」

 かなり上空をぐーるぐーるとゆっくりと回りながら話す漆黒しっこくさんです。高度が高すぎて、少し肌寒いのは言わないでおきます。

「息子をはじめ、烏天狗一族を百合子様のお好きなように使役していただいて構いません」

 とんでも発言キター! あまりの内容に鼻水が出たー!

「いやいやいや……こちらこそ、いつもお世話になりましてありがとうございます。それだけで充分です」

 ただお礼を言っただけなのに、『感謝されたー!』だの『わー!』だの『キャー!』だのと盛り上がる烏天狗ファミリーに驚きを隠せません。

「感動いたしました百合子様。私たちを呼ぶ時は近くにおります妖怪か、そちらの福の神に話して下さいね」

 お母様、何をそんなに感動されたのでしょうか? 黒羽くろはさんの奥さんも涙を流して、口に手をあてて頷いておられます。
 そしてポンと現れた福の神さん。肩で息をしてゼーハーゼーハーしたと思ったら、親指を立ててそのまますぐに消えてしまいました。福の神さん、私には意味が分かりませんよ?

「して、今日はこの近辺の視察でございますね。参りましょうか」

 低音イケボでそう言うと、漆黒しっこくさんは高度を下げ、街の上をゆっくりと飛んでくれました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...