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「いえ、無理なのですけど」
私としてはこれに尽きる、だがたしかに現状の報告をしていたかった私にもコメ粒ほどの罪悪感はあるのだが……。
「「何?」」
「いえ、だからどうやっても婚約なんて出来ませんよ?」
「お前何を言っているんだ! せっかく子爵とのつながりが」
「そうだぞ、君は我が伴侶としてわが領地経営を、そして我が家が保有する船で貿易をすることが出来るのだよ」
やっぱり昨日の話について、お父さんは何も覚えてないようだ。
「だって、すでに私はこの家の娘ではないので」
「はぁ?何を言っておるのだ……」
「昨日の夕方に印章の捺印と署名してもらいましたよ? だいぶ酔っぱらってたみたいですけど」
「アンナ君? どういうことだね?」
ノーマンさんはまだ冷静だね。
「いえさっき言ったとおりです、私この家とは既に縁が切れていてですね、元お父さんの言うことといえど私の縁組は関与できないんですよね」
「いや、そうじゃなくなぜ離縁しているのか教えてもらっていいかな」
うん……この人は普通に良い人そうだ、もし今の縁がなければこのまま婚約していたのかもしれないな。
「シルク男爵、この家名はご存じですか?」
「シルク……お触れが出ていたような……そうか、新しく叙爵された貴族名がそれだった気がするな」
「それが何だというのだ、我が商会を最近では碌に手伝わずに遊び惚けていた放蕩娘にそんな話は関係ないだろう」
「ライナスさん? それはどういうことですか?」
「すまんなノーマン殿、この娘は普段からうちの商会を手伝わないでなにかしていたようなのだよ、時々聞こえてきた話では絹やら東国やら……そんなことをしているなら美術の真贋を見る目を養ってほしかったものですよ」
ほっほっほと取り繕うように脂汗を浮かべる元父。
「なるほど、理解しました、大丈夫ですシルク女男爵殿――ご婚約おめでとうございます、でよろしいでしょうか?」
「な!? どういうことですかノーマン様」
「商人たるもの情報網は広く太く他国まで張り巡らせるのは基本ですよね」
「当然だろう!」
ノーマンさんはやっぱりご存じな様子、でもお父さん(元)は分かっていないのか?
「なら……ご存じないのですか? 新しい素材である絹の噂を」
「素晴らしい光沢と手触りが評判の布のことですな、たしか東国まで素材の販路を広げたと、糸姫と呼ばれる者がかかわる眉唾物の話ですな……それがなぜシルク女男爵になるのだ、しかもこの放蕩娘には関係のないことでしょう」
やれやれといった様子のノーマンさんがごちらに目を向けたので止めをさしちゃってくださいと首を縦に振る。
「まだ分かりませんか? 放蕩娘と先ほどからおっしゃっていますが……彼女はその時、商会を経営していたのですよ、たしか『サテン工房』だったと思います、ですよね?」
「ええそうです、一応管理経営をしている商会長という立場ですね」
「な……なに? お前がか?」
ワナワナ震えてるぞ、ぼんくら父さん。
「もちろん、うそを言う理由もないので――今の私はサテン工房商会長のアンナ、そして他国との販路拡大で国の利益や情報収集に貢献したことで今年の叙勲式で叙爵されたアンナ・シルク女男爵、それが今の立場です」
「だがお前は浪費ばかりしていたと妻が……」
「あ、それは当たってるかもしれないですけど、必要経費です」
「しかし家の金を使いさらに離縁しているのならその分の金はこちらに戻してもらわないと困るぞ」
油汗どっぱどぱになってますよ元お父さん。
「大丈夫です、8歳のころから生活費は自分の分は自分で、10歳の頃からは弟と家の分、13歳の頃には元お父さんの借金と赤字補陳、育てていただいたお金に対しては十分それを補って余りあるほどに、家族の慈悲と思ってお金を家に入れてきましたから、私がライナス商会及び家計に関わる負の財産についてはすべて清算済みです」
すでに多額のお金を生家に還元してきた、しかし父のやっていることはいつも大赤字で屋敷の経営が回らなくなるから仕方なく屋敷の管理にまで手を出したのだ。
「ぐ!? ぐぬぬ」
「あ、ノーマンさん、確かノイガー家の船や操船技術を買って東洋進出の事業提携をしていましたっけ?」
「そうですね、我が家の船は外洋でもビクともしないバーク型の帆船を提供予定です」
「それは素晴らしいですね! かの大陸を抜けた先の島国は複雑な海流によって守られた列島が存在し、様々な資源が眠っていると聞きますもの、お互い頑張りましょう」
「ありがとうございます、我が家としても少しでもおこぼれにあずかることが出来れば光栄です」
このやり取りを呆然と見つめていた元お父さんがようやく口を開いた。
「アンナ!? 叙爵されたからといってお前は男爵だろう、子爵令息に上からの立場で話すなど……「公爵夫人ですが」」
すでに状況を理解していると思ってたのだけれど、間違っていそうだったので思わず口をはさんでしまいました。
「ですよね、アンナ・シルク令嬢といえば公爵閣下が見初められた奇跡の才女として市政では有名です、本日は調査を怠り私などが婚約者として姿を見せたご無礼をお許しください、そして外洋探査に参加することが出来、光栄です」
……本当にノーマンさん『心が』イケメン過ぎる。
「そういうことです、『元』お父さん、私が生活してきた費用は全て還元済みです、私は今女男爵として他国との情報のやり取りや物資の輸出入をしている身ですので、それでは悪しからず」
◇ ◇
その後、元父の計画していた式が執り行われることは当然ではあるがなかった。
ノーマンさんの子爵家はというと、操船技術や多種にわたる帆船の知識が今後の国営に役に立つと評価され伯爵にまで陞爵されることになる。
そして……。
「ギリアン! お腹の子が蹴ったの! 私に似ておてんばなのかな? それともあなたに似て冒険好きなのかな?」
この似たもの夫婦である両親の好奇心や探求心を受け継いだマルコ少年は、世界初の世界一周航海を成し遂げたとされ、その傍らにはノーマンさんの息女であるジェノヴァ夫人がいたと語り継がれている。
私としてはこれに尽きる、だがたしかに現状の報告をしていたかった私にもコメ粒ほどの罪悪感はあるのだが……。
「「何?」」
「いえ、だからどうやっても婚約なんて出来ませんよ?」
「お前何を言っているんだ! せっかく子爵とのつながりが」
「そうだぞ、君は我が伴侶としてわが領地経営を、そして我が家が保有する船で貿易をすることが出来るのだよ」
やっぱり昨日の話について、お父さんは何も覚えてないようだ。
「だって、すでに私はこの家の娘ではないので」
「はぁ?何を言っておるのだ……」
「昨日の夕方に印章の捺印と署名してもらいましたよ? だいぶ酔っぱらってたみたいですけど」
「アンナ君? どういうことだね?」
ノーマンさんはまだ冷静だね。
「いえさっき言ったとおりです、私この家とは既に縁が切れていてですね、元お父さんの言うことといえど私の縁組は関与できないんですよね」
「いや、そうじゃなくなぜ離縁しているのか教えてもらっていいかな」
うん……この人は普通に良い人そうだ、もし今の縁がなければこのまま婚約していたのかもしれないな。
「シルク男爵、この家名はご存じですか?」
「シルク……お触れが出ていたような……そうか、新しく叙爵された貴族名がそれだった気がするな」
「それが何だというのだ、我が商会を最近では碌に手伝わずに遊び惚けていた放蕩娘にそんな話は関係ないだろう」
「ライナスさん? それはどういうことですか?」
「すまんなノーマン殿、この娘は普段からうちの商会を手伝わないでなにかしていたようなのだよ、時々聞こえてきた話では絹やら東国やら……そんなことをしているなら美術の真贋を見る目を養ってほしかったものですよ」
ほっほっほと取り繕うように脂汗を浮かべる元父。
「なるほど、理解しました、大丈夫ですシルク女男爵殿――ご婚約おめでとうございます、でよろしいでしょうか?」
「な!? どういうことですかノーマン様」
「商人たるもの情報網は広く太く他国まで張り巡らせるのは基本ですよね」
「当然だろう!」
ノーマンさんはやっぱりご存じな様子、でもお父さん(元)は分かっていないのか?
「なら……ご存じないのですか? 新しい素材である絹の噂を」
「素晴らしい光沢と手触りが評判の布のことですな、たしか東国まで素材の販路を広げたと、糸姫と呼ばれる者がかかわる眉唾物の話ですな……それがなぜシルク女男爵になるのだ、しかもこの放蕩娘には関係のないことでしょう」
やれやれといった様子のノーマンさんがごちらに目を向けたので止めをさしちゃってくださいと首を縦に振る。
「まだ分かりませんか? 放蕩娘と先ほどからおっしゃっていますが……彼女はその時、商会を経営していたのですよ、たしか『サテン工房』だったと思います、ですよね?」
「ええそうです、一応管理経営をしている商会長という立場ですね」
「な……なに? お前がか?」
ワナワナ震えてるぞ、ぼんくら父さん。
「もちろん、うそを言う理由もないので――今の私はサテン工房商会長のアンナ、そして他国との販路拡大で国の利益や情報収集に貢献したことで今年の叙勲式で叙爵されたアンナ・シルク女男爵、それが今の立場です」
「だがお前は浪費ばかりしていたと妻が……」
「あ、それは当たってるかもしれないですけど、必要経費です」
「しかし家の金を使いさらに離縁しているのならその分の金はこちらに戻してもらわないと困るぞ」
油汗どっぱどぱになってますよ元お父さん。
「大丈夫です、8歳のころから生活費は自分の分は自分で、10歳の頃からは弟と家の分、13歳の頃には元お父さんの借金と赤字補陳、育てていただいたお金に対しては十分それを補って余りあるほどに、家族の慈悲と思ってお金を家に入れてきましたから、私がライナス商会及び家計に関わる負の財産についてはすべて清算済みです」
すでに多額のお金を生家に還元してきた、しかし父のやっていることはいつも大赤字で屋敷の経営が回らなくなるから仕方なく屋敷の管理にまで手を出したのだ。
「ぐ!? ぐぬぬ」
「あ、ノーマンさん、確かノイガー家の船や操船技術を買って東洋進出の事業提携をしていましたっけ?」
「そうですね、我が家の船は外洋でもビクともしないバーク型の帆船を提供予定です」
「それは素晴らしいですね! かの大陸を抜けた先の島国は複雑な海流によって守られた列島が存在し、様々な資源が眠っていると聞きますもの、お互い頑張りましょう」
「ありがとうございます、我が家としても少しでもおこぼれにあずかることが出来れば光栄です」
このやり取りを呆然と見つめていた元お父さんがようやく口を開いた。
「アンナ!? 叙爵されたからといってお前は男爵だろう、子爵令息に上からの立場で話すなど……「公爵夫人ですが」」
すでに状況を理解していると思ってたのだけれど、間違っていそうだったので思わず口をはさんでしまいました。
「ですよね、アンナ・シルク令嬢といえば公爵閣下が見初められた奇跡の才女として市政では有名です、本日は調査を怠り私などが婚約者として姿を見せたご無礼をお許しください、そして外洋探査に参加することが出来、光栄です」
……本当にノーマンさん『心が』イケメン過ぎる。
「そういうことです、『元』お父さん、私が生活してきた費用は全て還元済みです、私は今女男爵として他国との情報のやり取りや物資の輸出入をしている身ですので、それでは悪しからず」
◇ ◇
その後、元父の計画していた式が執り行われることは当然ではあるがなかった。
ノーマンさんの子爵家はというと、操船技術や多種にわたる帆船の知識が今後の国営に役に立つと評価され伯爵にまで陞爵されることになる。
そして……。
「ギリアン! お腹の子が蹴ったの! 私に似ておてんばなのかな? それともあなたに似て冒険好きなのかな?」
この似たもの夫婦である両親の好奇心や探求心を受け継いだマルコ少年は、世界初の世界一周航海を成し遂げたとされ、その傍らにはノーマンさんの息女であるジェノヴァ夫人がいたと語り継がれている。
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