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1章:再会が喜ばしいこととは限らない
4話 幼馴染が俺のことを好きだとは限らない。
しおりを挟む「……鈴音?」
長く伸びた艶のある襟足をなびかせる。髪の間に僅かに見えた耳には小さなピヤスの穴が開いていた。
「パシンッッ」
ドアが音を立て勢いよく閉まり、その反動で開いた隙間からは細く光が教室に差し込んだ。それに照らされた彼女の髪も床とともに光る。
皆、その羨ましいほどに整った顔立ちから発しられたとは思えない強い語勢に彼らさえも圧倒されていた。同時に…
「・・・は?なにあいつ」
未知なる美しい存在に対しての激しい疑問。
初めて見たのだろう。自分より圧倒的に高い立場を持つ身近な人間を。
「ハァゥゥ……ん、?ぁ、あぁ菫賀咲(すみがさき)さん?なんでここに・・・」
先ほどまであんなにも元気だった加藤先生は座り込み涙目で鈴音を見つめた。
「先生が呼んだんじゃないですか。閉め出された気分でしたよ」
「あ、あぁ。そうであったな、そうだそうだ私は先生なんだ!そう、私は先生だ!」
よほど不安だったのか知らないが、何故かいきなり自分の立場を再確認しだす加藤先生。
どんなけお豆腐メンタルなんだよ。
「みんなよく聞けー。彼女が転校生の菫賀咲鈴音さんだ!」
「編入生です」
「些細な問題ではないかー!」
満面の笑みで背中をバシバシと平手で軽く叩く加藤先生に困惑する鈴音。もしかしたらさっきからの変わりように少し戸惑っているのかもしれない。
「何か、軽く自己紹介は出来るか?」
「……自己紹介ですか」
「あぁ、なんでもいいぞ。但し名前のみだとか適当なものは控えてほしいな」
「わかりました」
自己紹介、、、。俺の名前が出てくるなんてことはないよな。今までどこにいたかくらいはわかるかもしれない。
「菫賀咲鈴音、16歳。趣味は読書です」
いや、先生の情熱に対して冷めすぎだろ。しかも微妙なラインいったな。
「う、うーむ、まぁよしとするか。みんな拍手!席はあそこで」
散らばった拍手に囲まれながら指定された席へ黙々と歩いていく。
あいつ、あんな喋り方だっけ・・・。
「じゃあ先生は職員室行くから1限の用意するように」
そして、加藤先生は教室から出て行った。
彼女、菫賀咲鈴音は俺の幼馴染である。いや、幼馴染であった。そんな言葉に縛られるのも癪なんだけれど、彼女は俺との関係を覚えていない。全くだ。
それに対し、俺は鮮明に覚えている。彼女との記憶を。だから一方的な関係なのだ。俺は他人に考えを押し付けられるのが嫌いだ。同時に押し付けることも・・・。
それは、誰かの意思をへし折ることに他ならない。受け入れなければならない。全ての意見は自分の中にとどめ、押し殺さなければいけないのだ。
しかし、彼女は・・・
「どいて、邪魔。席ついて」
「は、何お前?」
菫賀咲鈴音は、決して自分に嘘をつかない人間だったのだ。
◇
「どいてって言っているじゃない」
「うっさいな。お前が勝手にここ通ってんだろ?」
転校生、菫賀咲鈴音は教室に入ってから5分も経たぬうちに喧嘩を没頭しだした。
は?何やってるのあいつ。
「何その言い草。そこの隣の席が私の席なの。話聞いてなかったの?」
「何様なんだよお前?転校生だか編入生だか知らないけどいきがんなよ」
完全に非があるのは朝礼中ずっと話し込んでた社会不適合者の方だ。しかしあっちも意地になって自分の非を認めようとしていない。
「なにそれ、完全にブーメラン発言になっていることに気づいていないの?」
「あ?なんだそりゃ?意味わかんねぇよ」
しかしあんなキレやすい生物がこのご時世に誕生していたなんて知らなかったな。絶滅危惧種なんじゃないだろうか?
「おい俊人!絶対お前が側に非があるだろ」
カリスマ性のある声、少し熱が入ったその一言を切り出したのは学年一と言っていいほど人気がある……えーと、なんとか健永だった。
別に忘れたわけじゃない。いや、違う、印象に残らないあいつが悪い。
「け、けどよ」
「ほぉら、頭下げろこのやろっ」
健永は俊人ね頭を強引に押さえつけ冗談交じりに笑いながら謝罪を強制させた。
「ちぇっ、すまん」
なんの茶番劇だろうかこれは?
「ごめんな。えっと、菫賀咲さん、だっけ。なんかあったら俺に言ってくれたらいいから」
実際なんか起こしているのはお前の配下なんだけどな。かなり慕われているみたいだがそのカリスマ性を駆使した強制的な行為。それが意図的ならば・・・
「え、あぁ、うん。ありがとう」
「いや気にしないで」
そして、鈴音は自分の席に座ろうとした。
しかし
「なっっ!?」
俺も思わず身の毛がよだった。恐怖心、いや"驚怖心"とでも名付けよう。
鈴音が席に座ろうと足を踏み出したその瞬間後方に座る女子が足を突き出したのだ。
それに躓いた鈴音はなすすべなく転倒しそう
になる。
「危ないッッ!」
二つの腕が、優しく鈴音を包んだ。優しいが力強いその腕に鈴音は倒れるままに身を任せた。
「あ、ありがと。健永…くん?」
「大丈夫?よかった、怪我ないっぽいな」
「お前ドジだな。気をつけろよ」
「は?なに、黙ってくれない?」
「んだとッッ!?」
みんな、気づいていないのか?足を引っ掛けられていたことに。
いつのまにか鈴音は二人と一限が始まるまで喋り込んでいた。
健永、あいつは優しすぎる。なんなんだ?好かれようと努力しているのだろうか。少なくとも一瞬にして鈴音との壁を乗り越えたのは確かだろう。
しかしあいつの笑顔はどこかわざとらしい。
そして、それは鈴音も。
「綺麗なものには棘がある」
あいつらではきっと、それを取り除けないん
だろう。
というか俺、部外者すぎないか?
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