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1章:再会が喜ばしいこととは限らない
3話 かといってラブコメ的展開がないとも限らない
しおりを挟む自己紹介を始めよう。
聞きたくなければ耳を塞いでもらっても構わない。
沙柳宰 16歳 成山高校二年生 妹と両親と暮らしている
友人はいない 好きな人は多分一人いた
嫌いなものは人間で好ましくないものは人間
いつか好きになりたいものは……
◇
先ほど述べた通り、俺は友情というものが嫌いだ。人間としての価値が下がるその行為を俺はどうにも容認することができない。
それは勿論恋愛においても同様である。この信念を曲げるつもりもないし貫くつもりもない。俺の座右の銘として心に留めておくのだ。
「そんなことじゃいつまでたっても友だちできないぞ、宰」
「ん…?」
その俺の心を見透かしたかのような言葉を発したと思われる人間に目線を向ける。机の上に寝そべるようにして話しかけてくるのは…
「その表現は違う。それはまるで俺が友情を欲しているかのような言い草だ」
「ならこの俺、橋元徹はなんなんだよ」
「知り合いだな」
橋元徹、別に顔面偏差値が高いわけでもないし運動ができるわけでもない、この世界に最もよくいる人種だ。髪は俺と同じで少し長め、しかしこいつの場合やけに目が澄んでいるから性格や歩んできた人生も全く別なものなのだと思う。
同じクラスで高一のときからよく俺に絡んでくる。別に気にしていないけれど気を抜いたら心を許してしまいそうなのでこいつと話すときは気を引き締めている。
「いつになったら友人認定されるんだよ!」
「俺は友人を作る気はこれっぽっちもない。しかし知り合いならいくらでも作れる」
だって人間関係複雑になりたくないんだもん。
「あぁ、そーかよ。そういえばなんか見たことない生徒が正門に立ってたぞ」
「それは多分あれだ。最近問題視されてる学校荒らしってやつだ。通報しないとな」
しかしそれを生徒と見間違うなんてオススメの眼科を紹介してやろうか。俺が持ち合わせているメガネを作ってもらった時にも世話になった。
「ちげーよ。ここのじゃないけど制服着てたし。バリバリ高校生だったぞ。性別は女だ」
そんな人間の表現の仕方があるなんて知らなかった。性別は女だって簡潔すぎやしないか?もっと他にあるだろ。
「編入生かな?」
「さぁな、加藤先生そんな話してたか?編入試験があるのは知っていたけど」
「おっ、気になるか~?」
「「グヘェッ!?」」
肩から首に渡り強い衝撃が走り喉を通る空気が全ては口から弾け飛ぶ。そして今ようやく肩を組まれていることに気がついた。
「な、なんですか山田先生」
「おぉー、痛」
「あの編入生、二人とも気になるのか?」
口端を尖らせニヤつく先生に俺は思わず狼狽えた。こんなゲス顔の先生は初めて見た。社会の闇を具現化したような表現だ。
「俺は別に気になりませんね」
急な転校生=美少年、美少女
という証明不可な公式がこの世界には存在するらしい。もちろん証明できないためそれを確証させたものはおそらく誰一人としていないだろう。
つまりは出会いに飢えた愚かなる者が己の欲求を満たすために考案し無責任に広めた憎き言葉なのは明確なのだ。
「俺は気になりますよ。凄い美少女でしたし」
前言撤回、めちゃ興味ある誰それ紹介して。
「あらら~?どうしました沙柳君。美少女と聞いた瞬間手のひら返したように興味津々になって」
俺と橋元の顔の間から覗かせた加藤先生の顔は下卑たものを見るかのような目つきだった。
「そう、あの編入生確かにとても美少女だ。君たちもうっかり惚れそうになるかもな。しかし綺麗なものには棘がある、彼女・・・」
一瞬、先生の表情が暗く沈んだ。それとともに目線が俺に向く。一瞬だったため当人も無自覚だったのだろう、橋元も気付いていないようだった。
「ん…?」
「いや、ここから先は諸君らに任せるとしよう。とにかく気をつけろ、私のような美しい奴にはな…」
「うわ、イタ…グフェッッ!?」
気付いたら先生のフックブローが腹にめり込んでいた。なにこれPTAに封印されし伝説の力TAIBATUなんじゃないか!?
「…このように棘があるのだよ」
「大丈夫か宰!!」
「し、死ぬ」
なんであんな臨機応変に表情変えれるのあの人。怖いよ、てか怖いよ!
「ハハハ!では私は朝礼があるのでな!一度職員室に行ってくるぞ」
加藤先生は倒れこむ俺とあたふたする橋元を残し高笑いしながら教室から出て行ったのであった。
「大丈夫か、、?」
「まぁ、死にはしないさ。それよりさっき・・・」
先ほどの加藤先生の表情、何か含みがあったような気がした。あれはなんだったのか、やはり編入生に対してなんだろう。
机を掴み上半身を起き上がらせる。殴られたところから熱が広がるように痛みが広がる。これかなり威力あっただろ。
「なんでもない。お前も席戻れ、朝礼始まるぞ」
「あぁ、わかったよ」
そういうと少し乱れた髪先を指で整えながら
「宰、なんだかんだ優しいよね」
自分の席へ戻った。
なにこれやだ恥ずかしい。まるで恋する乙女のように赤く染まった耳や頬を隠すとわずかに緩んだ頬を引き締めた。
「おーい、座れよ皆んなー」
騒がしかった教室は山田先生の一声で静まり後はは後ろの社会不適合者を黙らすのみとなった。
「おい、君たちも自分の席に座れ!今日は忙しいんだ」
加藤先生は対応に苦慮しつつも苛立ちを少し混ぜたような声で明言した。
「あぁー、気にしないで続けてくださいー」
しかし彼らはそれを右から左へ聞き流し席に戻ろうとしない。タチの悪い害虫のようだ。
「はぁー、まぁ別に今日はいいだろう。今日はどちらかというと盛り上がって欲しいからな!」
困った顔をしながらも加藤先生はニヤリと不敵な笑みを浮かべ俺と橋元へ目線を配った。
その言葉に当たりがざわつく。いい意味でざわついた。彼らも多分…
「あ?」
全員が無表情。水を打ったように静かになっている。喋ってすらいない。
なんだ…あれ・・・。
「というのもだな、もしかしたら今朝見た人もいるかもだが・・・ふふふ」
なにあれ気持ち悪い。なに企んでんだあの若手教師。
「今日、このクラスに編入生がやってくる!いや、転校生といったほうがこの際良いかな」
ざわついたクラス内はナイトクラブに匹敵する盛り上がりになった。鼓膜が振動するのがよくわかる。
「おいマジかよ!」「カッコいいかな?」「女子こい!女子こい!」「恋来い恋来い!!」
いや、転校生にそんな盛り上がるのは異常だろ。しかも最後のやつ誰だ。欲求不満かよ。
「まぁ、まぁ、みんな落ち着きたまえ!ちなみに男子諸君…朗報だ」
キリッと男子たちの表情が豹変する。
「転校生は…女だ!」
「「「ヒャッホッッー!!」」」
おいティーチャー、その発言女教師としての責務を疑われるぞ。
「そして私に負けず劣らずの…美少女だ!」
「・・・・・・」
小鳥のさえずりさえも聞こえるほどの静寂は、加藤せんせいに多大な精神的ダメージを与えた。
もう、皆んな何か喋ってあげて!せんせいこのままじゃ死んじゃう!
その期待に応えるように後方から声が聞こえた。
「てか、別に俺ら転校生とかどうでも良いしさぁ」
テメェらはお呼びじゃねぇよ!
「早く終わらせてくんない?私この後二組に遊びに行くんだけど」
そのまま帰ってくんな。
「ねぇ、せんせー。早く~ 」
だから先生はまだショックから立ち直れてないんだよ。
あたりの小声がどんどんと大きくなっていく。これじゃあ収集つかないぞ。
「ねぇ、せんせ…」
その声と、
「ガラッッ!」
教室の扉が勢いよく開いたのは
多分同時だったと思う。
「ねぇ、、、うっさい。黙って」
教室からは一切の声がなくなり彼女の足音のみがリズムを刻み聞こえてくる。
その沈黙を破ったのは
「……鈴音?」
紛れもなく、俺だった。
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