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第1章 3度目の人生
[06] 1度目の人生:婚約解消
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私は事を荒立てなかった。
私が騒ぎ立てても誰も聞いてくれないだろうし、すべての非は私にあると言われるのは目に見えている。
今思えば、すでにどうでもよくなっていたのだろう。自分の人生も未来も放棄したのだ。
私は静かに時が過ぎるのをやり過ごすことが最良の選択だと思った。
バードックは、冬休みや春休みに「私に会う」という名目で訪れては、レノドン伯爵の本邸に泊まった。
バードックとダリアンは私をな視して二人で過ごす時間が増え、大胆になっていった。
使用人たちだけでなく、家族も黙認していた。
私も、もう、どうでもよかった。
春休みが終わり、ダリアンもバードックもアカデミーに戻った後、私は王女であるヴァイバーナン・メルクリウスからお茶会の招待状を受け取った。
会いたくなかったが、行かざるを得ない。
お茶会は、王女の邸にある庭園で開催された。ありとあらゆる花がピンクだった。
中央のガゼボの周囲の花はピンク色の薔薇で埋め尽くされている。
私が到着すると、すでにお茶会は始まっていた。
またしても、遅い時間を教えられていた。
「王女様にご挨拶申し上げます。レノドン伯爵の長女、ピオニーでございます」
「ピオニー嬢、遅かったのね。悪いけど始めさせてもらってました」
「……遅れて申し訳ございません」
私は深々と頭を下げた。
「王女様、義姉はいつも時間にルーズですの。私も謝罪いたしますわ。申し訳ございません」
ダリアンの嬉しそうな声がした。
「ピオニー嬢、顔を上げて」
私は顔を上げて、ヴァイバーナンを見た。薄いピンク色のドレスに濃いピンク色の宝飾がキラキラしていた。可愛らしい顔は美しく、微笑むしぐさは上品だった。
左隣にはダリアンが座っていて、右隣には黒髪の知らない令嬢が座っていた。
私の席などなく、立たされたままだった。
ヴァイバーナンはそばにいた侍女に目配せした。
私はぼんやりとテーブルを見ていた。
3人は私を立たせたまま、楽しそうにお茶やお菓子を食し、ファッションや人の噂話で盛り上がっていた。
早く終わればいいのに。私は心の中でつぶやいた。
「お待たせしました、僕の王女様」
数分後、現れたのはバードックだった。
「バードック!」
バードックが屈むと、ヴァイバーナンはバードックの頬にキスをした。
「まあ、情熱的ですのね」
黒髪の令嬢が顔を赤らめて冷やかした。
ダリアンは余裕を醸し出してお茶を口にしていた。
「ピオニー嬢、今日、お前を呼んだのは、バードックとあなたの婚約の件です」
バードックは笑顔で私を見ている。
こんな時に笑顔なんて、普通だったら神経を疑い、苛立つだろう。
だが、私は怒りすら湧かなかった。私は無言で2人を見ていた。
「私はバードックと将来を共にしたいと思っているの。バードックも同じ思いです」
「はい、殿下。私も同じ気持ちです」
バードックはヴァイバーナンを見つめ、跪いて手の甲にキスした。
「ついては、バードックはお前と婚約を解消したいと申しているのだけど……」
一瞬、沈黙があった。そこに居る誰もが私を見ていた。
私は小さく息を吸ってはっきりと答えた。
「かしこまりました。私は殿下とバードック様のご意向に沿いたいと思っております」
「まあ! それは嬉しいわ」
ヴァイバーナンは顔をほころばせていたが、バードックは笑顔が少し引きつっていた。
わざわざ心配そうな顔をしたのはダリアンだった。
「お義姉さま、本当によろしいのですの? あんなに愛してらしたのに」
それは昔の話。私はそう言いたかったが黙っていた。
「ごめんね、ピオニー。誠の愛を知ってしまったんだ。嘘偽りの愛にはもう耐えられなくて……」
バードックは悲劇のヒロインにでもなったような悲しそうな顔をしたが、虚な感しかない私の心には全く響かなかった。
誠の愛と嘘偽りの愛、ダリアンとの関係はどちらに入るのかと少し気になったけど。
「2週間後には婚約式のパーティーを開こうと思うの。ピオニー嬢、参加してくれるわよね」
血の気が引いていくのを感じた。どこまで私を笑いものにしたいのか。
「……もちろんです、殿下。おめでとうございます」
だが、私は祝福を述べた。
王女と私自身に。あんな奴と結婚しないですんだのよ、ピオニー。おめでとう。
独りで別邸へ戻り、自室でぼんやりしているとメイドがバードックの訪問を告げた。
珍しく、本邸ではなく別邸に直接来たらしい。
私は会いたくなかったが、仕方なく別邸にある小さな応接室へ重い身体を引きずりながら向かった。
バードックは、私を見るなり抱きつこうとした。
「ピオニー! ああ、僕のピオ」
私は思わず後ずさりした。心が薄汚い男に触れられるなんて気持ちが悪かった。
一定の距離をとり、スカートの裾をそっと持ち上げ、足を一歩引いて膝を折ると静かに礼をした。
「この度はおめでとうございます。カンビセス侯爵様」
珍しく無言でいるバードックの顔を窺うと歪んでいた。
「き、君は平気なのか?」
私は黙っていた。平気じゃないと言えば何か変わる?
まさか、それは絶対にない。
すべて私のせいにして、また皆で馬鹿にして笑うのだろう。
少しの沈黙の後、私は静かに答えた。
「……覚悟は決めておりましたから」
「そうか……でも、僕もこんなことになるなんて知らなかったんだ。ヴァイビーは他国に嫁ぐとそう言っていたし」
「ヴァイビー?」
「ああ、王女様のことだよ。ヴァイビーって呼んでる」
「……そうでしたか」
「そうなんだよ。だから、僕は、僕のピオと子供たちと幸せに暮らすつもりだったんだ」
私は呆気にとられた。近い将来ですら見通す思慮がなく、王女だけでなくダリアンとも関係を持っているくせに、どうしたらそんな思考になるのか。
バードックは大袈裟な身振り手振りを交えて、婚約解消の言い訳を続けた。
「君には辛い思いをさせて、申し訳ないと思ってる」
本当に私の辛さを解ってるのだろうか。
ぼんやりとバードックを見ると、いつもよりは真面目な顔を見せた。
「婚約解消の補償金は契約より多めに払うよ。ヴァイビーもそうしろって言うから」
後腐れなくお金で解決できるのは救いではあるが、そのお金は私のモノにはならない。
それすら判っているはずなのにどうして平然とそんなことが言えるのだろう。
だが、それも今となってはどうでもいい。
「婚約解消は家門で解決すべきことですから、私が話せることは何もございません」
私は静かに頭を下げ、応接室を退出した。
もうこれ以上、私の平穏な日常が他人に壊されることはないだろうと思ったのも束の間、私は悲劇を迎える。
私が騒ぎ立てても誰も聞いてくれないだろうし、すべての非は私にあると言われるのは目に見えている。
今思えば、すでにどうでもよくなっていたのだろう。自分の人生も未来も放棄したのだ。
私は静かに時が過ぎるのをやり過ごすことが最良の選択だと思った。
バードックは、冬休みや春休みに「私に会う」という名目で訪れては、レノドン伯爵の本邸に泊まった。
バードックとダリアンは私をな視して二人で過ごす時間が増え、大胆になっていった。
使用人たちだけでなく、家族も黙認していた。
私も、もう、どうでもよかった。
春休みが終わり、ダリアンもバードックもアカデミーに戻った後、私は王女であるヴァイバーナン・メルクリウスからお茶会の招待状を受け取った。
会いたくなかったが、行かざるを得ない。
お茶会は、王女の邸にある庭園で開催された。ありとあらゆる花がピンクだった。
中央のガゼボの周囲の花はピンク色の薔薇で埋め尽くされている。
私が到着すると、すでにお茶会は始まっていた。
またしても、遅い時間を教えられていた。
「王女様にご挨拶申し上げます。レノドン伯爵の長女、ピオニーでございます」
「ピオニー嬢、遅かったのね。悪いけど始めさせてもらってました」
「……遅れて申し訳ございません」
私は深々と頭を下げた。
「王女様、義姉はいつも時間にルーズですの。私も謝罪いたしますわ。申し訳ございません」
ダリアンの嬉しそうな声がした。
「ピオニー嬢、顔を上げて」
私は顔を上げて、ヴァイバーナンを見た。薄いピンク色のドレスに濃いピンク色の宝飾がキラキラしていた。可愛らしい顔は美しく、微笑むしぐさは上品だった。
左隣にはダリアンが座っていて、右隣には黒髪の知らない令嬢が座っていた。
私の席などなく、立たされたままだった。
ヴァイバーナンはそばにいた侍女に目配せした。
私はぼんやりとテーブルを見ていた。
3人は私を立たせたまま、楽しそうにお茶やお菓子を食し、ファッションや人の噂話で盛り上がっていた。
早く終わればいいのに。私は心の中でつぶやいた。
「お待たせしました、僕の王女様」
数分後、現れたのはバードックだった。
「バードック!」
バードックが屈むと、ヴァイバーナンはバードックの頬にキスをした。
「まあ、情熱的ですのね」
黒髪の令嬢が顔を赤らめて冷やかした。
ダリアンは余裕を醸し出してお茶を口にしていた。
「ピオニー嬢、今日、お前を呼んだのは、バードックとあなたの婚約の件です」
バードックは笑顔で私を見ている。
こんな時に笑顔なんて、普通だったら神経を疑い、苛立つだろう。
だが、私は怒りすら湧かなかった。私は無言で2人を見ていた。
「私はバードックと将来を共にしたいと思っているの。バードックも同じ思いです」
「はい、殿下。私も同じ気持ちです」
バードックはヴァイバーナンを見つめ、跪いて手の甲にキスした。
「ついては、バードックはお前と婚約を解消したいと申しているのだけど……」
一瞬、沈黙があった。そこに居る誰もが私を見ていた。
私は小さく息を吸ってはっきりと答えた。
「かしこまりました。私は殿下とバードック様のご意向に沿いたいと思っております」
「まあ! それは嬉しいわ」
ヴァイバーナンは顔をほころばせていたが、バードックは笑顔が少し引きつっていた。
わざわざ心配そうな顔をしたのはダリアンだった。
「お義姉さま、本当によろしいのですの? あんなに愛してらしたのに」
それは昔の話。私はそう言いたかったが黙っていた。
「ごめんね、ピオニー。誠の愛を知ってしまったんだ。嘘偽りの愛にはもう耐えられなくて……」
バードックは悲劇のヒロインにでもなったような悲しそうな顔をしたが、虚な感しかない私の心には全く響かなかった。
誠の愛と嘘偽りの愛、ダリアンとの関係はどちらに入るのかと少し気になったけど。
「2週間後には婚約式のパーティーを開こうと思うの。ピオニー嬢、参加してくれるわよね」
血の気が引いていくのを感じた。どこまで私を笑いものにしたいのか。
「……もちろんです、殿下。おめでとうございます」
だが、私は祝福を述べた。
王女と私自身に。あんな奴と結婚しないですんだのよ、ピオニー。おめでとう。
独りで別邸へ戻り、自室でぼんやりしているとメイドがバードックの訪問を告げた。
珍しく、本邸ではなく別邸に直接来たらしい。
私は会いたくなかったが、仕方なく別邸にある小さな応接室へ重い身体を引きずりながら向かった。
バードックは、私を見るなり抱きつこうとした。
「ピオニー! ああ、僕のピオ」
私は思わず後ずさりした。心が薄汚い男に触れられるなんて気持ちが悪かった。
一定の距離をとり、スカートの裾をそっと持ち上げ、足を一歩引いて膝を折ると静かに礼をした。
「この度はおめでとうございます。カンビセス侯爵様」
珍しく無言でいるバードックの顔を窺うと歪んでいた。
「き、君は平気なのか?」
私は黙っていた。平気じゃないと言えば何か変わる?
まさか、それは絶対にない。
すべて私のせいにして、また皆で馬鹿にして笑うのだろう。
少しの沈黙の後、私は静かに答えた。
「……覚悟は決めておりましたから」
「そうか……でも、僕もこんなことになるなんて知らなかったんだ。ヴァイビーは他国に嫁ぐとそう言っていたし」
「ヴァイビー?」
「ああ、王女様のことだよ。ヴァイビーって呼んでる」
「……そうでしたか」
「そうなんだよ。だから、僕は、僕のピオと子供たちと幸せに暮らすつもりだったんだ」
私は呆気にとられた。近い将来ですら見通す思慮がなく、王女だけでなくダリアンとも関係を持っているくせに、どうしたらそんな思考になるのか。
バードックは大袈裟な身振り手振りを交えて、婚約解消の言い訳を続けた。
「君には辛い思いをさせて、申し訳ないと思ってる」
本当に私の辛さを解ってるのだろうか。
ぼんやりとバードックを見ると、いつもよりは真面目な顔を見せた。
「婚約解消の補償金は契約より多めに払うよ。ヴァイビーもそうしろって言うから」
後腐れなくお金で解決できるのは救いではあるが、そのお金は私のモノにはならない。
それすら判っているはずなのにどうして平然とそんなことが言えるのだろう。
だが、それも今となってはどうでもいい。
「婚約解消は家門で解決すべきことですから、私が話せることは何もございません」
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