復讐は、冷やして食すのが一番美味い

Yuito_Maru

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第1章 3度目の人生

[13] 監視下で始まる企み

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 翌日、いつもの時間に起床し、別邸の周囲を走った後、マリアドネが用意してくれた朝食をとった。
 食事は、本邸の厨房からマリアドネが持ってくる。
 ほとんど冷めているし、味もまずい。しかも毒入りだった。
 レノドン伯爵とスカビエス夫人は、朝食には体力を消耗させる毒を盛り、夕食には脳神経障害を発症させる毒を私に盛った。
 更に、食べたかどうかを監視していた。全く食べないで戻すと、スカビエス夫人がメイドを引き連れて私の部屋に乗り込んでくる。そして、私がすべて食べるまで見届けるのだ。
 だから、私は、実際には食べずに多少残して厨房に戻すようにした。
 そうすると、すぐには乗り込んでこないが、毒が効いていそうな時間を狙って、スカビエス夫人かスカビエス夫人のメイドが私の様子を必ず確認するようになった。

「どれどれ、今日の朝食は何かしら」
 私が尋ねるとマリアドネが生真面目に説明する。
「一昨日焼いたパンです。これは、食べられそうです。こちらはジャガイモを擦ったスープです。これは怪しいです。人参のスライスはカビを除いてスライスしたそうです」
「うわぁ、ヤバそう」
 私は思わず顔をしかめた。いつもの事だが、毎回、反射的に顔をしかめてしまうのだ。
 マリアドネは、テーブルにキーラとキーラの師匠が作った白い食器を並べた。その上に、本邸から持ってきた朝食を移す。
 すると、マリアドネが予想したスープの皿が見る見るうちに黒くなった。
 毒が入っている証拠だ。
「まったく懲りないわね」
 毎回同じパターンなので、私は呆れていた。
 マリアドネはいつも通り、スポイトでスープを取ると小瓶に詰める。後でキーラに渡して解毒剤を作るためだ。
 残ったスープはカップに入れて蓋をする。すると、カップに文字が浮かび上がった。
 これもキーラの師匠が作った魔道具だった。
「摂取後30分から1時間、症状は嘔吐や下痢、腹痛、手足のしびれ等と出ています」
「うーん。演技するのも面倒なんだけど」
 私は毒のないパサついたパンを食べ、人参のスライスはバターを引いたフライパンで炒めて食べた。魔道具に入れたスープは時間を置くと透明になるから、私がアカデミーに行っている間にマリアドネが捨ててくれる。
 食後には、キーラたちが作った解毒用ハーブティーをマリアドネに淹れてもらった。
 きっかり45分後。私は、昨日、アカデミーから支給された真新しい制服に着替え、マリアドネに髪を結ってもらっていた。
 すると突然、ドアが開いた。
「あら、まだ居たのね」
 スカビエス夫人だった。朝から派手な赤いドレスを着て登場だ。宝石もジャラジャラと身に着けている。重くないのかしら、と私はいつも不思議に思う。
「おはようございます」
 私が挨拶すると、スカビエス夫人は私の頭のてっぺんからつま先までねっとりと見た。
「相変わらず、あか抜けないわねぇ」
 私は黙っていた。何を言っても機嫌を損ねるだけだから。
「昨日の校長先生のお話は真に受けるんじゃありませんよ。わかっているわね?」
「はい。わかっています」
「アカデミーではダリアンの邪魔立てをしたら承知しませんからね」
「もちろんです」
 スカビエス夫人はじっと私の顔を見た。
 私は、マリアドネが工夫した青白いおしろいが、今日も体調不良に見えるように祈る。
「顔色も悪いわね。病弱だとますます嫁ぎ先のお話もないわ。でも、だからといって、成人してもこちらに居座られても困りますからね」
 居座っているのはあなたでしょうと言いたかったが、私は毒が効いている風を装う必要がある。グッと、我慢した。
「わ、わかっています。ご、ご迷惑はかけません」
 私はワザと言い淀んだ。
 スカビエス夫人は扇子を広げて口元を隠した。思いっきりにやけているのだろう。
「あら、どうしたの? 言葉がスムーズに出てこないなんて。具合でも悪いのかしら」
 白々しく言うスカビエス夫人の目が笑っている。
「奥様、ピオニー様は先ほどから、腹痛がございまして……」
 マリアドネの『腹痛』という言葉にスカビエス夫人の目がより細くなる。
「医者にかかるお金なんてないわよ。ピオニー」
 私はお腹を抱えながら、涙目でスカビエス夫人を見つめた。なかなか良い演技だと思う。
「す、少し休めば、だ、大丈夫ですから……ウっ」
 私はすかさず、口を手で押さえた。マリアドネが、慌てて陶製の壺を持ってくる。
「ピオニー様、こちらを使ってください。奥様、どうぞ、お引き取りを」
「気持ち悪いものを見せないでちょうだい!」
 私より青ざめたスカビエス夫人はメイドを引き連れて、慌てて部屋を出て行った。
 マリアドネが廊下を確認する。たまにスカビエス夫人のメイドの一人が、聞き耳を立てていることがあるから、廊下に誰もいないか確認することが日課になっていた。
 今日は誰もいなかったようだ。マリアドネは黙って、扉を閉める。
「皆様、行ってしまいました」
 私は、陶製の壺を床に置いて、椅子に座った。
「毎回、毎回、面倒だわ」
「ですが、日に日に演技は上達していらっしゃいます」
 マリアドネは、真顔で言う。
 私は小さく笑った。
「しかし、7月の頭から編入とは予想外でしたね」
 マリアドネは陶器の壺を元の場所に置きながら言う。
「そうね。8月から夏休みだし、編入は、普通は9月だから。あの校長先生、いかれてるかも」
 私がぼやくと、マリアドネは私の身支度を整えながら言う。
「しかも7月の後半には、アカデミーの競技大会があります。剣術で出ることになれば、王室の目を引き、面倒なことに」
「うん。そうだね。でも、考えがあるから大丈夫」
 私は、マリアドネに微笑んだ。
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