32 / 49
第5章の5・いつ走んねんっ!…の ぷち話し
しおりを挟む
早朝。山嵐家の玄関。
「…くそ。」
捻挫で腫れた右足をテーピングで固めている為、うまく靴が履けない隆正。
靴紐を少し緩めてから足を入れ、キツめに締める。
「くっ…あかん、もっと締めな。」
左腕にはまだギプスが装着されており、靴紐を強く結べない。その時…
「…んあ?」
背後から隆正の一番上の兄・重正(しげまさ)が、隆正の肩に手を置いた。
「重兄ぃ、帰ってたんか。」
「おう、昨夜な。色々聞いたぜ、隆正。」
そう言って隆正の前に出て屈んだ重正は、隆正の靴紐を強く結んだ。
「ぐっ…」
「痛ぇか。でもまぁ…走るんだろ?ならこれで良ぇやろ。」
「重兄ぃ…助かるわ。」
「ははっ、大袈裟やな。」
玄関から門をくぐり、外に出て空を見上げる隆正。まだ薄暗かった。
「隆正、お前は正統後継者や。その足は歴史を背負う。けど、それ以上に大事な物があるんやろ?そんなら絶対、その大事なもん手放すなよ。」
「…おうっ!」
黒点塾に向かう隆正の背中を、重正は見送った。
「…声掛けてやりゃあいいのによ。」
「ふん。お前だけで十分。」
祖父・元正が門をくぐって外へ出て来た。その後ろには母親・美緒も居る。
「ったく、あれ程の足をここで賭けるなんてよ。けど…誇らしいぜ。」
重正の言葉に頷く元正。
「デカくなりおった。…今度竜沢の小僧に美味いもんを食わしてやらにゃあな。」
「伝説のマタギ『弾拳(だんけん)の万路』の孫にもな。」
「万路か。ふん、結局奴とは決着がつかんかったな。孫同士で…とも思ったが、それこそ川波んとこのガキに高笑いされそうじゃ。」
「どっちのや、じいさん?」
「上に決まっとる。下は奴らの血が混ざっとるとは思えんほど素直な小僧よ。」
「へぇ…。」
「さて…朝飯には少し早いか。美緒さん、お茶でも入れてくれぬか。」
「…」
美緒は無言で隆正が去った方向を見ていた。
「ん?……ふっ。」
顔を見合わせ、嬉しそうに笑みを浮かべた元正と重正は、美緒を置いて家の中へ入った。
「…隆正、気張りなさい。」
美緒は拳に力を込めてそう呟いた。
「…くそ。」
捻挫で腫れた右足をテーピングで固めている為、うまく靴が履けない隆正。
靴紐を少し緩めてから足を入れ、キツめに締める。
「くっ…あかん、もっと締めな。」
左腕にはまだギプスが装着されており、靴紐を強く結べない。その時…
「…んあ?」
背後から隆正の一番上の兄・重正(しげまさ)が、隆正の肩に手を置いた。
「重兄ぃ、帰ってたんか。」
「おう、昨夜な。色々聞いたぜ、隆正。」
そう言って隆正の前に出て屈んだ重正は、隆正の靴紐を強く結んだ。
「ぐっ…」
「痛ぇか。でもまぁ…走るんだろ?ならこれで良ぇやろ。」
「重兄ぃ…助かるわ。」
「ははっ、大袈裟やな。」
玄関から門をくぐり、外に出て空を見上げる隆正。まだ薄暗かった。
「隆正、お前は正統後継者や。その足は歴史を背負う。けど、それ以上に大事な物があるんやろ?そんなら絶対、その大事なもん手放すなよ。」
「…おうっ!」
黒点塾に向かう隆正の背中を、重正は見送った。
「…声掛けてやりゃあいいのによ。」
「ふん。お前だけで十分。」
祖父・元正が門をくぐって外へ出て来た。その後ろには母親・美緒も居る。
「ったく、あれ程の足をここで賭けるなんてよ。けど…誇らしいぜ。」
重正の言葉に頷く元正。
「デカくなりおった。…今度竜沢の小僧に美味いもんを食わしてやらにゃあな。」
「伝説のマタギ『弾拳(だんけん)の万路』の孫にもな。」
「万路か。ふん、結局奴とは決着がつかんかったな。孫同士で…とも思ったが、それこそ川波んとこのガキに高笑いされそうじゃ。」
「どっちのや、じいさん?」
「上に決まっとる。下は奴らの血が混ざっとるとは思えんほど素直な小僧よ。」
「へぇ…。」
「さて…朝飯には少し早いか。美緒さん、お茶でも入れてくれぬか。」
「…」
美緒は無言で隆正が去った方向を見ていた。
「ん?……ふっ。」
顔を見合わせ、嬉しそうに笑みを浮かべた元正と重正は、美緒を置いて家の中へ入った。
「…隆正、気張りなさい。」
美緒は拳に力を込めてそう呟いた。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん
菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる