龍青学園GCSA

楓和

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第2章の3「浮かばれないわ」

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 藍川での早朝特訓中にホッケー仮面達に狙われた学美と竜沢達だったがこれを見事返り討ちにした。辛うじて遅刻せずに済んだ竜沢達は、昼休みにここ龍青学園生徒指導室に集まったいた。

 「今朝はイヤな汗をかきましたね。」

竜沢にもらったチョココルネをニコニコと食べながら言う鏡。

 「俺は口の中切れてて何か食うと痛いんや。明日には口内炎できてるやろなー。ヌンチャクで殴られた横っ腹も痛いし。」
 「ごちゃごちゃうるせーな隆正。いいじゃないか。事情はよく分かんなかったが、あれで少しでも学美が救われたんなら。」

嬉しそうに言う竜沢。顔はもうほぼ無傷になっている。

 「まぁ問題は、ホッケー人の『お前が欲しくなったらしい』っていう言葉ですね。」
 「それが誰の言葉か…。」

鏡の言葉に合わせ、ぼそっと言う甲。そして『朝も思っていたが…ホッケー人は変だろ』と心の中でツッコミながらもうなずく竜沢。

 「聞き出してからぶっ飛ばしゃ良かったか?」
 「ふぅ~、その流れ上、仕方なかったんじゃない?それに誰が裏に居ようと私たちのやる事は一つよ。」

竜沢が言ったセリフに対して流香がそう答えた。

 「ま、そうだな。」

そう言いながら紙パックのオレンジジュースを飲み乾す竜沢。

 「ちなみに…全く分かってない訳じゃないわよ。話しを総合してみると、まず猪野岡ってのは不破さんの前に姿を現してる時点で黒幕じゃないと考えられる。本当の黒幕にしちゃ簡単に出過ぎだしね。それにアイスホッケーの面をかぶった男達の存在…鹿島田や馬場崎達だけならまだしも、そんなに大人数を生徒だけで操るのはちょっと考え辛いしね。…ホッケーの面は顔を隠すにはうって付けだとしか思ってなかったけど、そこが関係あるのかもしれない。アイスホッケー部の関係者…とか。」
 「なるほど。つまり…」

そう言って紙パックをゴミ箱に投げ捨てる竜沢と、その紙パックがゴミ箱を外して床に落ちたので拾って捨てなおす鏡が続ける。

 「流香さんは、黒幕は生徒ではない…と思ってるんですね。」

竜沢と鏡の言葉に、流香の方を見る隆正。

 「…抹中の教師、だと思うわ。」
 「やっぱそうなるか。前代未聞だよな。」
 「やれやれですねぇ。」
 「マジかいなっ!」
 「…ふん。」
 「ふぅ~それにこの上にもまだ…。とにかく争奪杯まであともう少し。気を引き締めて頑張りましょっ。」
 「おう!…と、そうだ。忘れるとこだった。」

竜沢は突然、部室から出て行こうとする。

 「何や神侍、何処行くねん?痛っ。」
 「ふっふっふっ、放送室だ。」

ポケットからスマホを出す竜沢。


 龍青学園一年星組教室。昼食のパンを買いに行く者や弁当を広げる者、食堂へ向かう者達でざわめいている。

 「里奈の卵焼き最高~!」
 「あ、もうっ。由美のも取っちゃうよー。」

仲良く弁当を食べる、里奈とその友達の由美。その時、教室の扉の向こうに照れくさそうに立っている渡を見つけた由美。

 「ちょっと里奈、あんたに用なんじゃないのぉ~?」

ニヤニヤしながら渡の方を指差す由美。

 「ん?…わ、渡先輩?!」

里奈は慌てて渡に駆け寄った。その間に里奈の弁当を食らう由美。

 「どうしたんですか、渡先輩?」
 「ん、えーと…」

渡は昨夜の事が気になっていた。何故あの場に鏡達が現れたのか…脅迫されているのを知っていたのではないか…ならそれは、里奈が話したのではないか…と。もしそうなら、心配を掛けてごめんと、ありがとうと…礼を言いたかったのだがどう言えば伝わるのかと悩んでいたのだ。渡は里奈の前だといつもこうなのであった。何故か必要以上に意識してしまい、何も言えなくなるのである。

 「えーと…あ、あの、な…」

その時、園内放送で流れていた曲が突然止まった。不思議がる生徒達。

 「えー、放送部の新垣(あらがき)友美(ともみ)です。突然ですが、ここで皆さんに聞いてほしい話しがありますので、曲の途中ですがご了承願います。」

その後、園内全てのスピーカーから聞こえてきたのは…

 《あ、秋月、まさかお前もなのか…》

それは渡の声だ。そう、昨夜の渡と秋月の会話だった!

 「こ、これって…」

驚いて、渡の顔を見上げる里奈。

 《お前はそんな事で最後の試合を捨てるってのか!》

 「これは…昨日の!」

渡はもっと驚いていた。そして生徒指導室では…

 「竜沢くん、やりますね。」
 「うう、な、泣かせる話しや!」
 「ほう。」
 「うん、やるじゃないっ。ポイント高いわよ、これは。」

珍しく他のGCSAのメンバーから絶賛されている竜沢。そして会話が終わり、生徒達は顔を見合わせたり、うつむいたりしていた。中には涙を流している者もいた。

 《…あ~、テステス。》

そんな時に竜沢の余計なテステス。全生徒、これには冷める。

 《さて皆さん、あなたの竜沢です。》

全生徒、更に冷める。

 《今のはマズいよー、竜沢くーん。私まで気まずいよー。》
 《す、すまん友美。えーと…皆さん、園内放送に乱入して申し訳ない。どうしても今の会話を聞いてほしかったんでな。で…どう思いました?同じ様に脅されて悩んでいる皆さん。俺ならこの二人に大きく同意。だってなー…こんな卑怯な行為で人を陥れるような奴らの言いなりになるなんて、絶っ対にイヤだからなー。皆はどうだろう?》

竜沢の話しを聞いて、うなずく者、拳を握る者、まだ踏ん切りのつかない者、何の事やら分からない者…しかし流れは確実に良い方向にむかっていった。

 「ふぅ~。これで多分、脅されてる人の大半が出場するでしょうね。」
 「大半?全員やて!」
 「全員がお前の様な単細胞ならな。」
 「さ、さらっとキツイ事言うなや!」

涙目になって甲に怒る隆正。

 「でも全員だといいよね。でないと珍しく頭使った竜沢くんが…浮かばれないわ。」
 「いや沈んでねーし!オマケに珍しいとは何だ!」

生徒指導室に戻ってきた途端、流香に怒る竜沢。ちなみに放送室は生徒指導室から職員室に入り、通り抜けたすぐ先にある。

 「あら戻って来たの。」
 「まあまあ。それにしても今回は冴えてますね、竜沢くん。」
 「今回も…だろ?」

格好をつけてテーブルに片足をのせる竜沢。

 「こらっ、テーブルに足のせたらダメでしょっ。それにまた破れるわよ、ズボン。」

と言った途端…ビリッ。

 「もうっ。」

目を背ける流香。

 「さて、少し空気を入れ替えるか。」
 「わー!や、やめてくれ甲!」

またも廊下側の扉を全開にする甲と、またも股をおさえる情けない竜沢であった。

 「最後までキメられへんのかいな、この男は。」
 「その方が竜沢くんらしいですよ。」

呆れる隆正と、チョココルネをもう一つ食べ始める鏡。

 「ねぇ、さっきの放送さぁ…」
 「竜沢さぁんっ、何だかカッコ良かったですぅっ!」

七月と咲子が二人揃って部室に来た。そして股を押さえている竜沢と目が合った。

 「あ、はは…」

引きつる竜沢。

 「咲ちゃんさぁ…神ちゃんのこの姿見ても、さっきのセリフ言える?」
 「はいっ、もちろんですぅ!カッコ良かったですぅっ!」

嬉しそうに言う咲子に、首を傾げる流香達であった。


 そして昼休みも終る頃、龍青学園の裏門前に不審な二人の男がいた。

 「GCSAには結束力がない、か…ふんっ。」

先頭にいる、背が低くて目つきが悪く、頬にニキビの多い男が呟く様にそう言った。

 「猪野岡。」

後ろの方から太い声がした。

 「は、はい。」

先頭の背の低い男、猪野岡がビビリながら返答する。

 「行け。不破の情報通りなら、奴らの輪を乱す事など簡単だ。かき回して来い。」

一人、門を通り抜ける猪野岡。後ろの者はその場を去った。それから少し経って…二年雪組教室では竜沢が英語の小テストに頭を抱えていた。

 〝くそ~、わ、分からん。…ん?〟

ふと窓の外を見た時、授業の時間であるにも関わらず学生服の男が渡り廊下を歩いているのを目撃する竜沢。少し妙に思ったが、すぐ答案用紙に向き直り再び頭を抱えた。


 そして放課後の生徒指導室。

 「どういう事なんや?!」

怒鳴っているのは隆正。

 「…知るか。」

どうやら甲と言い合っているようだ。

 「うるさいぞ、隆正。お前だって人に言えるか?」

いつになく低い声で言う竜沢。

 「まぁまぁみなさん、見苦しいですよ。いつもですけど。」

いつも以上の毒舌の鏡。そして流香は、いつもよりも深いため息をつくばかりで黙りこくっていた。これは一体どうしたことか?その答えは校舎裏にあった。

 「ふっ、軽いもんだ。仲間なんて所詮この程度よ。」

口の端をつり上げて笑っていたのは猪野岡である。生徒指導室に盗聴器を仕掛けているのだろう、竜沢達の会話をスマホを通して聞いていた。
ちなみに猪野岡の作戦は…『元々あまり仲の良くないGCSA四人を軽ーく仲間割れさせる作戦!』だ!猪野岡は、下駄箱に入っていた隆正の靴を、生徒指導室に忍び込んで手に入れておいた甲のカッターを使ってズタズタにし、そのカッターをその場に放置しておいたのだ。更に生徒指導室に侵入した際、竜沢と鏡の鞄と、その中にあった筆記具やノートを隆正のペンやハサミ等を使用してぐちゃぐちゃにしておいたのだ。何というクソ単純、且つ陰険な作戦か!まだ中学生とはいえ、あまりにガキくさい作戦である!

 「さて、これをマッスルに伝えて終わりだ。俺が出ればこんなものよ。」

鼻高々に去って行く男、猪野岡。本物の馬鹿かもしれない!一方、竜沢達は…

 「…もうそろそろか?」

ぼそぼそっと言う竜沢。

 「そうですね、もういいでしょう。」

いつもの口調でニコやかに返答する鏡。

 「しっかし、こんなモンまで仕掛けるとはよ。」

隆正が手に持っているのは紛れもなく盗聴器だ。

 「ほれっ。」
 「ふん。」

隆正が投げた盗聴器を受け取り、握り潰す甲。つまり竜沢達は猪野岡の作戦にのったフリをしていたのである。このアホくさい作戦に。

 「猪野岡?…ってのも相当アホだな。こんなモンで俺達を騙せると思ってんのか?ここまで分かりやすい引っ掛け。オマケに用務員さんをうまく出し抜いてホッとしたのか、俺に簡単に目撃されてるしな。詰めの甘い奴だ。」

猪野岡を見下す竜沢。

 「ふぅ~。竜沢くんが見てなくても、こんなのに引っ掛かる人はいないわ。さすがに盗聴器には驚いたけど。」

その盗聴器を応接セットのテーブル下から見付け出したのは流香である。

「すっかり遅くなったわね。それじゃ明後日に備えて、さっさと帰りましょ。」

鞄を持ち、立ち上がる流香。

 「そうですね。あちらもこれで安心してるでしょうから明日の休日はゆっくり出来ますね。」
 「その代償としちゃ、ちょっと高くついたんじゃ…」

切り裂かれた鞄を持って、そう呟く竜沢。

 「俺なんか上履きで帰らなあかんねんで!」
 「まぁまぁ。いずれ犯人に弁償して頂けばいいじゃないですか。…もちろん十倍返しくらいは当然で。」

悪魔のような笑顔を醸し出す鏡。鞄をボロボロにされた事がけっこう頭にきているようだ。

 「あ、送りますよ。」

いつもの表情に戻り流香に声を掛ける鏡と、それを聞いてニヤケる隆正。

 「鏡よぉ、流香にボディガードはいらんと思うで。」
 「…ちょっと、それどういう意味?」

鏡の言葉に一瞬頬を赤らめた流香だが、隆正の言葉に一転、鬼の形相になっていた。

 「ほ、ほな明後日なー!あ痛ててっ!」

隆正は痛みをこらえながら慌てて逃げ去った。

 「アホめ。じゃあ俺達も行くぞ、甲。」
 「む。」

その場を去って行く竜沢と甲。鏡と流香は二人きり。

 「えーと…そ、それじゃお言葉に甘えて、送ってもらおうかなっ。」
 「はい。」

かなり照れてる流香と、ニコやかに返事する鏡であった。


 そして想像通り休日をゆっくり過ごせたGCSA達は英気を養い、ついに龍青学園対抹紅中学校湯のみ茶碗争奪杯の日が…やって来た!
この日は生徒達だけでなく、生徒の親族や、近所の方々までもが自由に校内に入れるように解放されており、正にお祭り騒ぎとなっている。が…

 「いや~、寂しいなぁ、隆正ぁ。」
 「全くやなぁ、神侍ぃ。」

竜沢と隆正は龍青学園での合同開会式の後、抹紅中学校に来ていた。
この争奪杯は種目によって龍青か抹紅かに分かれるのだ。例えばアメフトバスケは抹紅、合体サッカーは龍青、という風になる。したがって、ほぼ同時刻に行われる種目には出場出来ないどころか、見て応援する事も出来ないのである。そして今、鏡は第一種目の格闘キック野球に出る為、龍青にいた。それはつまり女生徒達はもちろん、生徒らの母親や姉、妹、ひいては近所のおばさん…女性のほぼ全員が龍青に集まっている…という事なのだ。


 こちらは龍青学園運動場。

 「きゃー!鏡さまー!」
 「頑張ってぇ、鏡さまー!」
 「カッコ良い、鏡ちゃん!」
 「こっち見てー!サインしてー!」

抹紅とは違い、黄色い声援が飛び交う龍青。しかもまだ試合始まってないし。しかも抹紅の女生徒まで鏡の応援してるし。

 「やるな。」
 「いや、何がです?」

甲のセリフに苦笑いの鏡。
二人は運動場の方へ移動した。

 「今頃竜沢くんも準備運動してる頃でしょうか。ふっ。」

そんなことを言う鏡を、しかめっ面で見る甲。

 「…どうしました?ふっ。」
 「いや…お前が何故いつも竜沢にこだわるのか不思議でな。ふんっ。」
 「いや、まぁ…何でですかね。ふっ。」

少し照れたように言う鏡を見て、甲は考えた。

 〝同性愛…なのか〟
 「今、良からぬ事を考えませんでしたか…?ふっ。」

ニコやかに、それでいて暗黒のオーラを出している鏡。

 「うっ…い、いや。ふんっ。」

さすがの甲も冷や汗を垂らす。

 「違いますよっ。ただ竜沢くんには返しきれない…」

そこで一度言葉を止め、また話し出す鏡。

 「…いずれ話しますよ。ふっ。」
 「…ああ。ふんっ。」
 「こらそこっ、小学生みたいな事しないっ。」

真面目な話しをしていた二人だが、実は鉄棒にコウモリの様に逆さまにぶら下り、試合前のウォーミングアップで腹筋をしていたのだ。そこに指をさして突っ込みを入れに来たのは七月であった。

 「おや?朝一は抹中に行くと言ってませんでしたか?」

ひょいっと反動を利用して鉄棒から飛び降りる鏡と甲。

 「ん、ん~…そうなんだけど…。」

なんとも歯切れの悪い七月を見て、鏡と甲はピンときた。

 「不破学美さん?」
 「え、えへへっ。」

図星をさされ笑ってごまかす七月。

 「やっぱり出来る限り会いたくない、と…そういう事ですね。」
 「う、うん。あれから色々思い出そうとしてて…でも、どうしても思い出せない。何で喧嘩したのか…学美があんなに怒ってるのに…。」
 「…七月さんが今やらないといけない事は、水上平均台バレーに出て全力で学美さんと戦う事ですよ。」
 「鏡ちゃん…そ、そうだよね!うっし分かった!クヨクヨ悩んでるのは私の性に合わない!こうなりゃ全力で学美を倒して、意地でも聞き出してやる!」

握り拳を作る七月を見て拍手する鏡と甲。

 「私、やっぱ抹中に行って来るっ。」
 「平均台バレーは七番目ですよ。まだ早いんじゃないですか?」
 「だって神ちゃんと隆正くんだけじゃあ、あまりに頼りないからねっ。」

そう言って走って行く七月を、少し離れた所から見ていたのは流香。

 「ふぅ~、やっと吹っ切れたかな?ま、頑張りなよ、七月。」

そう呟きながら鏡達の方へ歩き出す流香であった。


 こちらは抹紅中学校。第一種目のアメフトバスケが始まっていた。

 「きゃぁん!竜沢さぁん、頑張ってくださぁい!」

唯一の黄色い声援、咲子の期待に応えたい竜沢は、相手を一人ふっ飛ばしてシュートを決めた!

 「よしっ!」
 「きゃーん!最高ですぅ!竜沢さぁん!」

小さくガッツポーズをとる竜沢と盛り上がる咲子。アメフトバスケとは、やる事はバスケットボールと同じくボールをドリブルして移動し、バスケのゴールにシュートして点を取り合うものだが、違うところは四人対四人というところと、ボールを持っている者を『拳で殴る』『足で蹴る』という行為以外は何をしてもかまわないというところだ。球技よりは格闘技に近いだろう。

 「へっ、やるやん神侍。ほな、俺も行こか。」

隆正は第二種目の棒横飛びに出る為に、集合場所へ行こうとしていた。その時である!

 「きゃぁぁ!竜沢さぁん!」

咲子の悲鳴が聞こえた!

 「な、何や?!どないしたんや!」

慌てて振り返り、見物している人ごみをかき分ける隆正。そこには信じられない光景が!

 「し、神侍ぃ?!」
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