龍青学園GCSA

楓和

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第2章の5「捕って食うつもりよ」

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 抹紅で猪野岡ら卑怯者どもを成敗した流香と学美。そこに、龍青から駆け付けた鏡が合流した。そして学美が龍青への転校を決意した…その時、校内を走り回っていた七月が鉢合わせした。

「ま、学美…今、何て…。」


一方、咲子と一緒に抹紅運動場を探索していた竜沢は馬場崎と鹿島田を見付け、作戦を決行していた。

 「それじゃ咲ちゃん、行くよ。知らん顔してあいつらの前を横切るんだ。」
 「分かりましたぁ。」

竜沢と咲子は腕を組み、ワザとらしく馬場崎と鹿島田から見えるように歩いた。

 「お、おい鹿島田!あれ見ろよ!」
 「あ、あいつ…何でピンピンしてるんや?!しかも可愛い女の子連れ?!」

慌てる馬場崎と鹿島田。

 「ぷっ、あいつら血相変えてやがる。さあ、ついて来いよ。」

竜沢は咲子と楽しそうに話しながら校舎裏の方へ歩いて行く。馬場崎と鹿島田はそれを早足で追い掛けた。そして角を曲がった時、馬場崎達はピンと張られたロープにつまずき、思い切り地に転がった。

 「へっへへ、アホが!まんまと引っ掛かってやんの!」

そのロープを張ったのは、何故か顔や手が泥で汚れた隆正であった!

 「いや~、こうもあっさり引っ掛かるとはよぉ。」
 「しかも自分らがやったのと同じ手にな。」
 「同じ手になっ。」

ニヤケている隆正と竜沢。その後ろで竜沢のセリフを真似して咲子もニヤケていた。

 「て、てめぇら~…」
 「よくも…」

ヨロヨロと起き上がる馬場崎と鹿島田。

 「おっ、ヤル気だな?けど俺にはこれ以上お前等にかまっている暇はない。」

竜沢は、咲子を連れてその場を去ろうと背を向ける。

 「ま、待てぇ!」
 「おおっと、お前らの相手はこの俺や。けど今回は二対一という事で…」

隆正はロープを取り出した。

 「ちっ、弱いくせにいきがりやがって。」

馬場崎と鹿島田は一歩前に出た…その途端ズボッと下半身が全て地面に埋まった。

 「な、何だぁ?!」
 「またまたしょっぼ~い手に引っ掛かりやがったで!」

罠の定番、落とし穴である。隆正の顔や手が汚れていたのはこういう事であった。そして隆正は、馬場崎らが這い上がるよりも早く、手に持ったロープで二人をグルグル巻きに縛る!ロープの片側は木にくくり付けられていた。

 「うお?!や、やめろぉ!」
 「やめろ言われてやめると思とんのか!」

馬場崎と鹿島田は上半身ロープでグルグル巻きで下半身は地面の中と、身動きの取れない状態になった。そしてロープのもう片側も別の木にくくり付ける。

 「後でお前らに脅された奴が何人も来ると思うけど、まぁ捕って食うつもりはないやろし、機嫌良うやられたってや?じゃ俺はこれで。さいならー!」

さっさとその場を走り去ろうとする隆正。

 「ま、待ってくれー!」
 「お、俺等が悪かった!だから頼む!この縄をほどいてくれやー!」

泣き叫ぶ馬鹿コンビに一度は立ち止まり振り返った隆正だが、ニタァ~と笑みを浮かべながら手をお尻に当て『お尻ペンペン』をしてから再び走り出すのであった。


 一方、龍青学園にいる甲は…

 「くっ…。」

第三種目の五十メートル転走で目を回していた。
五十メートル転走とは、その名の通りスタートからゴールまで五十メートルを転がって行くものだ。ただし転がり方は前転、後転、側転の三つから選ばなければならない。しかも膝を曲げるのが条件なので、オリンピックのマット運動の様に格好の良いものは期待できない。見ている方は笑える種目である。そしてやってる方は目が回って吐きそうになるのだ。しかも勝ち抜き戦のトーナメント式になっているので、勝てば勝つほど目まいも激しい。

 「ウオン・バイ・龍青学園!」

今にも吐きそうな甲の手が審判の手によって高々と上げられた。龍青学園に歓声が巻き起こる。竜沢と隆正が戦闘不能という放送で龍青生徒達の士気は下がっていたが、甲の勝利によって再盛り上がりを見せていた!


 その頃、抹紅中学校校長室では…。

 「な、何故だ?!何故、龍青が優勢なんだ!奴らは…GCSAはボロボロの筈ではないのか?!」

抹紅体育教師、蟹河内金造(通称マッスル)に怒鳴る斑尾。そう、マッスルの上には更に黒幕がいた!抹紅中学校校長、斑尾敬造である!

 「このままウチが負けるなんて事になったら…ああ!考えただけでも恐ろしい!」

斑尾は茶碗の事を言っているのではなかった。一体何が…?

 「君とて特別ボーナスどころか減給だぞ!」
 「そ、そんな校長!減給なんて聞いてませんよ!」

慌てるマッスル。

 「それがイヤなら何とかしたまえ!」

無茶苦茶な斑尾であった。それ程茶碗が惜しいなら賭けなきゃいいのに…と思うマッスルだが、斑尾にすればGCSAに勝たなければならない理由があった。実は、茶碗はその為の餌であった。GCSAに勝たねばならぬ理由…それは、ある人物からの命令。斑尾はそのある人物を恐れていた。失敗は許されない。そこで、三年生を欠く今なら、そして渡たちのような能力の高い者を脅し、出場させなくすれば、間違いなくGCSAが出張ってくる…倒す機会も増えるという作戦だったのだ。だが現実は…まだ二種目しか勝てていなかった。その原因が、鏡達だという事は明らかである。しかも実は誰一人倒せていない。

 「す、すでに竜沢と山嵐、二人を戦闘不能にしています。後は谷角を倒すのみ!」
 「よし、どんな手を使ってでもいい!必ずやれぃ!」

完璧に悪党。


そんな悪巧みなど何も知らず、竜沢達は飲料の自動販売機が設置されている食堂前休憩所でくつろいでいた。すでに鏡達も合流していた。

 「それで体は大丈夫なんですか?…と、いうのは竜沢くんには愚問ですね。」
 「人を化け物みたいに言うなよ。これでもマジで終わったかと思ったんだぞ。」
 「そりゃあ見てた俺かて、いってもぉた~と思ったで。あんなゴツイ奴ら全員にタックルくろたんやからなぁ~。」
 「竜沢くんだから復活出来たのね、脅威的な回復力で。隆正くんは傷が浅かったみたいね、良かった。それにしても…」

目線を七月の方へ向ける流香。

 「ふぅ~、いい加減にしなさいよ七月。」

ため息をつき、呆れた顔で言う流香。

 「だ、だって…。」

七月は咲子の後ろに隠れる様に座っている。その目線の先には学美がいた。そして何故か咲子は嬉しそう。

 「何も隠れる事ないでしょ?隠れきれてないし。学美だって、別に七月を捕って食おうという訳じゃないんだから。」
 「いや、あの顔は私を捕って食うつもりよ。」
 「食うか!」

真剣に言う七月にツッコむ学美。

 「ま、安心しな。あんたとの決着は第七種目、水上平均台バレーボールまで取っとくからさ。今は何もしないよ。」

学美がそう言い終わると、何かを決心したのか、咲子の後ろから出てくる七月。

 「…ひとつ賭けない?」
 「何だよ急に?」

七月の言葉に首を傾げる学美。

 「水上平均台バレーボール…私が勝ったら、何で喧嘩したのか教えて。」
 「へぇ…いいよ。その代わり、私が勝ったら一つだけ言う事を聞いてもらうよ。」

その言葉に一瞬何かを思い出し掛けた七月だが、とりあえずこう答えた。

 「…分かった。」

そして睨み合う二人!

 「おお~、何か火花が見えるなぁ、隆正。女の争いは恐い恐い。」
 「全くやなぁ、神侍。お~恐っ。」

その後竜沢と隆正は、七月と学美によって殴り倒された。…チーン。

 「きゃぁん、竜沢さぁんっ。」
 「ふぅ~…アホね。」

地に転がった竜沢をゆする咲子と、地に転がった隆正をその辺の棒で突っつく流香。

 「さて遊ぶのはこれ位にして、そろそろ行きますよ。」
 「おう、グッと行くぞ!鏡、隆正!」
 「お、おう…」

鏡に言われて即行復活する竜沢と、少しダメージの残った状態でかろうじて立つ隆正。

 「七月が取って来た依頼、第五種目障害物騎馬走、必ず勝つ!」

三人は気合いを入れてグランドへと向かった!だが…

 「四人目がいない?!」

素っ頓狂な声を出す七月。

 「ちょっと、どういうこと?!」
 「七月、どぅどぅ。興奮しないの。」

障害物騎馬走に出る龍青側選手につかみかかる七月を流香が抑える。

 「そ、それが、出場する筈だった奴が第三種目の片手柔道で肉離れを起こして戦闘不能に…。それ以外も肩を脱臼したりして、半数が戦闘不能になっているんだ。今補欠を合わせて十六人で、四騎馬しか作れないんだよ~。」
 「ふぅ~、困ったわね。こんな時、甲くんがいてくれると助かるんだけど…。」
 「呼んだか。」
 「○×△□!」

いきなり背後から『ぬぅっ』と現れた甲に、驚いて言葉にならない声を出す流香。

 「甲っ、来たのか!」
 「はぁ、はぁ、い、いつこっちに…?」

喜ぶ竜沢と、息を整えながら尋ねる流香。

 「今。」
 「よし、何にせよこれでメンバーがそろったな。じゃあ…」

竜沢はゆっくりと握り拳を作り…気合いを入れる!

 「グッと行くぞ!」

さて障害物騎馬走とは、まず騎馬戦の様に四人で騎馬を作り、五騎馬対五騎馬で競う。様々な障害物(例えば三つ並べた平均台を渡るとか、低めのハードルを跨いで行く等)を乗り越え、一騎でも多く先にゴールしたチームの勝ちという種目。だが途中で騎馬が崩れたり、上にいる選手が帽子を落としたり取られたりした場合、その時点で失格となる。そう、つまり競争の途中で騎馬戦の様に帽子の奪い合いも有りなのである。

 「おい、分かってるな。推薦状が欲しいなら…。」
 「は、はい、言われた通りにします。けど、どうなっても知りませんよ。」
 「ふん、気にするな。」

 〝奴ら戦闘不能になっていたはず…。だが、まぁいい。どちらにせよこれで終わりだ。川波を巻き込むなと言われていたが…そんな事は後でどうとでも言い訳出来る〟

抹紅生徒に何やら良からぬ事を耳打ちしていたのはマッスルであった。それを遠くから見ていたのは抜け目のない流香。

 「…七月、悪いんだけど竜沢くん達に伝えて。マッスルが何か仕掛けてくるから気を付けてって。」
 「分かった。流香は咲ちゃん連れて、そろそろ行くのね?頑張って。」
 「うん、行って来る。後はよろしくね。」

流香は龍青で行われる第六種目のルーレット弓道に出場する為に行かなければならなかった。ちなみに咲子は何気に放送部であり、ルーレット弓道で『あたーりー』と言う役なので、本当は竜沢を応援したかったのだが仕方なく一緒に龍青へ行くのである。


 「マッスルが?」
 「うん、何かコソコソやってるみたいよ。」

屈伸運動している竜沢達の所へ伝えに来た七月。

 「どないする?神侍。」
 「う~ん、どこで何をしてくるか、だなぁ。」
 「とにかく抹中側の動きに注意して行きましょう。」
 「そうやな、それしかないな。ま、何してきても俺が返り討ちにしたるで!」
 「…ふうっ。」

息巻く隆正にため息をつく甲。

 「何やねん甲!ため息つくなやー!」
 「うるさいぞ隆正。甲の気持ちも分かってやれ。」
 「お、おう…って、何でやねん!」
 「はいはい、竜沢くんも隆正くんも、漫才してる時間はありませんよ。そろそろ騎馬を組みましょう。」

ちなみに竜沢達の騎馬の形は、上に竜沢、騎馬先頭に甲、向かって右後方に隆正、左後方に鏡、となっていた。この形は流香に言われた訳ではなく、自然とそうなった。上に乗る者が竜沢になったのも、甲が先頭になったのも、それぞれ言い合うこともなく前から決めていた様にそうなったのだ。

 「きゃー!鏡さまー!後衛が素敵ー!」
 「甲くーん!前衛頑張ってー!」

女生徒の声援を受ける鏡と甲。

 「…。」
 「…。」

もはや『俺達には?』という考えさえ起こさないようにした無心状態の竜沢と隆正であった。

 「位置について、よーい…」

パァン!

 「突っ走れ!」

号砲と共に掛け声を出す竜沢だが、甲達は関係なくすでに突っ走っている。そして第一関門のハードルを次々越え、トップで第二関門へ!

 「頑張れ、みんなー!」

七月の応援にも力が入る!だがこの時、GCSAの四人も、もちろん応援している七月も気付いていなかった。第二関門の平均台の横にいる補助役の生徒こそが、マッスルが耳打ちした生徒の仲間だという事を。そして、平均台の脚に付いているネジを緩めているという事を…。

 「ふんっ。」

気合いを入れ、甲は平均台に足をかけた!…が、何事もなかった。

 「行きますよっ。」
 「おおーっ!」

鏡と隆正も同時に足をかけた…その時!

 「んなぁっ?!」

ガクッと、若干上げられていた平均台が一気に一番下まで下がり、バランスを崩す隆正!ネジを緩められていたのは隆正が乗る平均台であった!

 「やったぞ!」

力拳を作って喜んでいるのは言わずと知れたマッスルである。しかし次の瞬間、その目を白黒させる事になった!

 「…な、何ぃ~?」

平均台から落ちそうな隆正を、何と鏡が片手で支えていた!鏡のもう片方の手は甲とつながれている。甲は甲で片方で鏡を、もう片方で竜沢を支えている!竜沢も甲の上でうまくバランスをとっている!見事なチームワークに生徒達から大歓声が巻き起こる!

 「隆正くん、体勢を立て直してください。」
 「お、おう!」
 「いけるか?甲。」
 「問題無い。」

そして体勢を立て直した四人は、無事に平均台を越えていった。これには見ていた誰もが驚いていた。

 「GCSA…あ、あいつら雑技団か?!普通崩れ落ちるだろ!」

マッスルも、校舎内から見ていた斑尾も、腰が抜けるほどビビっていた。

 「ウオン・バイ・龍青学園!」

竜沢達以外の騎馬も走り終え、結果は三対二で龍青が勝利した。ちなみに抹紅の三騎馬はゴール前で待ち構えていた竜沢達に戦いを挑まれ、帽子を奪われてアウトになったのだ。

 「よしっ。…で、俺と隆正はこの後すぐに校舎クライミングに出るけど、甲と鏡はどうするんだ?」
 「僕らは龍青に戻りますよ。流香さんの応援と、その次の移動玉入れドッヂボールに出るんで。」

そんな訳で二人ずつに分かれる竜沢達。七月も鏡達と一緒に龍青へ向かった。

 「そういや、あいつ等どうなったんかなー。」
 「馬鹿コンビの事か?まぁ、それなりに罰を受けてるんじゃないか?」

つまり残る敵はマッスル、そして竜沢達も知らない斑尾、この二人だけである。

 「マッスルがまた何かしてくるんちゃうかいなー?」
 「そうだろうな。でもまぁ、たかが知れてるだろ。んな事は気にせず次の校舎クライミング…グッと行くぞ!」
 「おう、そうやな!」


一方龍青学園体育館では、流香が出ているルーレット弓道が始まっていた。

 「ふぅ~…」

一息つき、ゆっくりと弓を構える袴姿の流香の表情は真剣だ。
ルーレット弓道、それは通常の弓道と違い、的がルーレットになっており、ルーレットを回してからそれに矢を放ち射抜くのだ。的であるルーレット盤には色々な事が書いてあり、それに従った点数が入って行くというもの。例えば『加・五』と書いていれば、そのまま五点加算されるが『引・五』や、『割・二』等、点を引かれるものや半分になるものまであるのだ。そして的を外せば三十点引かれる。的の中心は逆に0点。もちろん腕前も必要だが運も必要な競技、それがルーレット弓道である。しかし運も実力の内という例えの通り、上手くなければ的に当たらず、それは一点も入らないどころかマイナスになるのである。

 「…!」

矢を放つ流香。ルーレットに矢が刺ささり、ドッという音が鳴る。

 〝あたーりー〟

咲子の声と同時にルーレットの回転が止められる。流香が射抜いた場所には『加・十』と書かれていた。息を呑んで見ていた龍青生徒から歓声が上がる。

 〝さっすが天野先輩ですぅ!〟

スピーカーから出る、私情入りまくりの咲子の声にコケる生徒達。

 「さ、咲ちゃんってば。」

流香も苦笑い。しかし、この明るい咲子のお陰でかなりリラックス出来ているのも確かであった。

 「さてと、続けて当てさせてもらうわよ。」

気合いを入れ、次の弓を引く流香。


 そしてこちらは抹紅中学校。またも失敗したマッスルは、体育館倉庫に来ていた。

 「こ、校長だって見たでしょうが?!あいつらを倒そうなんて初めから無理だったんですよ!」
 「え、えーい!君だって噂だけだと言っていたじゃないかね!」

マッスルは斑尾とスマホで話していた。そして、またしても揉めていた。

 「何でもいい!とにかく負ける訳にはいかんのだ!分かったね!」

キレる斑尾。かなり必死になってます。マッスルも、ボーナスの為にもこのまま引き下がる訳にもいかんと思い直し…

 「ぬー…次で必ず倒してやるぞ、GCSA!」

燃えるマッスル!


 その頃、抹紅中学校校舎の壁を登る竜沢達は、屋上手前まで来ていた。校舎クライミング…それは屋上から垂らされたロープを伝って地上から屋上まで登り、屋上の中心に設置している旗をつかんだ者の勝ち…という凶悪な競技である。もちろん厚めの防護服、命綱やヘルメット等、万全の体制を整えているのは当たり前で、念のため地上にはぶ厚いマットも用意されている。

 「もう少しだ。踏ん張れ隆正!」
 「お、おう。」

走る事しか能のない隆正には結構辛いものがあった。そうでなくても見た目以上にキツイ競技なのである。しかも恐い。

 「ぎゃあぁあぁぁー!」

震える隆正のひとつ隣のロープから抹紅の生徒が叫び声を出しながら落ちていく。それを見て更に震える隆正。

 「隆正、絶対に下を見るな!いいか、これはフリじゃないぞ、フリじゃないからな!」
 「み、見ろって事かいな………お、おぉー!のぉぉぉー!」

竜沢のフリにノってしまう隆正は…地上を見て涙目になった。やめときゃいいのに…。


 龍青学園ではルーレット弓道が佳境に入っていた。

 「流香さん、頑張ってー!」
 「天野せんぱーい!」

現在、三十八対三十五で龍青が勝っていた。
途中までは龍青の楽勝だったのだが、龍青の選手が『割・二』を射抜いてしまい一気に点差が縮まり、更に最終ターンで抹紅の選手が『加・十』を射抜き、その結果現在三点差となっていた。そして最後の選手である流香の登場という訳だ。これでもしマイナスになる部分を射抜けば、龍青の負けとなってしまう。

 「運はこっちに向いてる!この勝負、私達の勝ちよ!」

勝ち誇る抹紅の弓道部部長(かなり美しい)。しかし、その額には薄っすらと汗が…。誰もが分からない勝負の行方。流香が弓を引くと、館内は静まりかえった。

 「ふぅ~…悪いけど、私達の勝ちよ。」

そう呟き、流香は矢を放った!そして矢は…

 〝あたーりー〟

緊迫感を打ち破る咲子の声。矢は…ルーレットのド真ん中を射抜いていた。

 「そ、その手があったわね。しかもあそこまで正確に射抜くなんて…負けたわ。」

抹紅の弓道部部長(かなり美しい)や選手達は、驚いた後すがすがしく微笑んだ。そう、ルーレットの中心は加も引も無い『0点』である。

 「ウオン・バイ・龍青学園!」

館内は大歓声に包まれた。龍青も抹紅も関係なく歓声を上げていた。

 「いいぞー!」
 「どっちもよくやったわー!」

その歓声の中、流香の方を遠目で見ている鏡と甲。

 「さすが流香さん。やりますね。」
 「ふっ。…俺達も勝つ。」

そう言って、次の移動玉入れドッヂボールに出る為に応援席を後にする甲。

 「ええ、もちろんですよ。」

鏡は、抹紅弓道部部長(かなり美しい)と笑顔で握手している流香をジッと見た後、その場を去った。


 そして抹紅中学校では校舎クライミングが終わった。

 「ウオン・バイ・抹紅中学校!」

竜沢達は負けていた。

 「ふっ…ま、まあ、こんな事もあるな。」
 「そうやなっ。あるあるっ。」
 「はは、は…」

引きつって笑い合う竜沢と隆正。実は、ほとんど同時に屋上に着いた選手が五人いた。その中でも竜沢が若干先頭を走っていたがゴール前でつまずきコケた。その竜沢に隆正がつまずき、更に後から来た抹紅の選手も巻き込まれ、ひしめき合う中、旗をつかんだのが五人中最後に屋上に着いた抹紅の選手だったのだ。龍青は負けたが、ゴール前でドタバタしていたその姿に、龍青の生徒も抹紅の生徒も大笑いしていた。

 「はは、はっ…ま、まぁウケたからいいか!よし、次も頑張るぞ!」
 「おっしゃぁ!」

とは言え、二人が出る競技はもう合体サッカーまで無い。

 「とりあえず次の平均台バレーの席取りに行こうか。」
 「せやな。今大会の目玉やしな。早めに行かなええ席取られてまうしな。」

おとなしく場所取りに行く二人であった。


 そして体操着に着替え直した流香と七月は…

 「安全運転で急いで下さい。」
 「は、はい。」

吉馬の車で抹紅へ向かっていた。

 「悪いね流香。付き合ってもらっちゃって。」
 「何言ってんの。私は別に七月の為だけに出る訳じゃないからね。」

そう言って微笑み合う二人を見て、吉馬はニコニコしていた。

 「いい子達だー。うんうん。」

運転手もまんざらではないと感じる吉馬であった。


そして鏡達は、移動玉入れドッヂボールで早速活躍していた。

 「ふんっ!」
 「ぐはぁー!」

甲の投げたボールが抹紅の選手に命中。しかもそのまま戦闘不能になった。

 「ひ、ひぃぃ!」

ビビって逃げる抹紅選手達。そうして甲が倒しまくってる間、鏡は移動しているカゴに華麗に玉を投げ入れていた。
移動玉入れドッヂボール、それは玉入れとドッヂボールを合わせた様な競技で、玉入れ用のカゴを担ぎ、敵チームにお手玉を入れられない様にコート内を移動しまくる『カゴ役』、コート内でそのカゴにお手玉を入れる『点取り役』、そしてコート外からドッヂボールを点取り役にぶつけてコート外に出す『妨害役』とに分かれて、制限時間内にカゴに入った玉の数を競うというものだ。移動するカゴにお手玉を入れるのはかなりのコントロールを要し、更にコート外からはドッヂボールが飛んで来る恐怖…点取り役が一番嫌なポジションである。
ドッヂボールの数は二つ、お手玉の数は五十個用意されている。また、カゴを故意に倒してお手玉をこぼせば反則となり、その場で試合終了となる。妨害役が故意にカゴ役にドッヂボールをぶつけても反則、その場で試合終了。ちなみに点取り役は妨害役の攻撃を避けるしかなく、ほとんどが時間切れの前に全滅し競技終了となる。何しろ妨害役にボールを当てられた者はコート外に出て妨害役に変わるので尚更である。
しかし甲にボールをぶつけられた者達は、だいたいそのまま戦闘不能となってしまう為、抹紅の妨害役は競技開始時からあまり増えていなかった。それに加えて鏡の飛び抜けた反射神経の前に、抹紅には万に一つの勝ち目もなかった。

 「いや~、二人のお陰で楽に勝てそうだ。」

移動玉入れドッヂボールチームのリーダーに、そう言われると鏡は…

 「では、そろそろ抜けさせてもらっていいですか。」

と笑顔で言った。

 「ああ、ホントに助かったよ。後は任せてくれ。」

そう、初めからそういう約束だったのである。鏡は前半に出場、後半は出場せず、流香達の応援に行く事になっていたのだ。

 「では谷角くん、後はよろしく。」
 「任せろ。」

鏡は抹紅へと向かった。甲は次の鉄人レースに出場する事もあってそのまま残る。
鉄人レース、それは龍青学園からスタートし、藍川をイカダで渡り、ゴールである抹紅中学校を目指すレースである。遠回りに考えられたコースの途中、ローラースケートを履いたり、長い石段を駆け上がったりと過酷なものが用意されている。中でもタンスを担いで急激な坂を上がって行かなければならない抹紅側藍川堤防は、このレース最大の正念場である。

そしてもちろん、マッスルによる妨害が怒涛のように押し寄せる…
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