龍青学園GCSA

楓和

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第5章の8「天使か」

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 黒点塾三階、塾長専用トレーニングルーム。

 「どうした、利住。もう終わりか?」
 「ちっ…まだだ♪」

こちらは音根・兄、利住の方だが…何とブラックマスクと戦っていた!

 「やめて下さい、塾長!」

深雪が叫ぶ。深雪はバルコニー側に設置されているバタフライマシンに両手両足を括り付けられていた。
その足元には、ブリオとフォーターが倒れている。

 このトレーニングルームは、A階段から入るといきなり床運動が出来るスペースが広がり、バルコニー(B階段と繋がっている)が有る左側には、バタフライマシンやエアロバイク、ステアクライマー等が並んでいる。右の壁側にはショルダープレス、レッグプレス等が並び、複数のバーベルが置いてある。スポーツジムそのものだ。
奥には事務所兼塾長室である小さめの部屋がある。その部屋とトレーニングルームの間には扉は無く、奥に外部の螺旋階段へ出る非常扉が有るだけだ。利住達三人はこの非常扉から入って来たのだ。

そして今、ブラックマスクと利住が広く開けられたトレーニングルームの中央で戦っていた。

 「お前達があれからおとなしく従っていたのは、私が黒点塾でGCSAの奴らを迎え撃つ…その策を知ったからなんだろう?」

床に膝を付いている利住の前に立つブラックマスク。

 「そして深雪を囮にした事を知り、先に救おうとしたか。奴らの迎撃に集中するこの日なら、手薄になった管理室から螺旋階段の鍵を奪ってここに侵入出来る…そう考えていた。違うか?」
 「さぁて、どうかだったかな♪しごかれ過ぎて…忘れたよっ♪」

ブラックマスクの足を狙って低い軌道の蹴りを放つ利住。

 「甘いな。」

軽く足を浮かせて空振りさせた後、サッカーボールをキックする様に太ももを蹴るブラックマスク。

 「あぐっ?!」
 「更に隙あらば三人で私を倒そうと考えていた、か。しかしその割には…つまらんな。ウォーミングアップにもならん。」

ブラックマスクは深雪の方を見た。

 「お前もつまらんだろう。この程度の奴らが助けに来たところで、何の期待も出来んしな。」
 「あなたは…あなたはどうしてしまったの?!」

涙ながらに訴えかける深雪。

 「あなたはこんな事をする人じゃなかった。もっと希望に満ち溢れてて、そんな自分の様に希望に満ち溢れる子ども達を育てる…そんな夢を持ってたあなたは、いつからこんな…!」
 「黙れぃ!」

ブラックマスクの怒声がトレーニングルームに響く。

 「何が希望だ…夢だと?!そんな物は無い!そんな物は幻だ!そんな物は………?!」

深雪に気を取られているブラックマスクの左腕を利住がつかみ、そして間髪入れずに飛んだ!

 「ぬぅ?!」
 「もらった♪」

飛び付き腕ひしぎ十字固め…これが決まればさすがのブラックマスクもただでは済まない。
しかし、ブラックマスクの反応は利住より早い。首に利住の足が入る前に右腕で防御、そしてそのまま利住の背中を床に叩き付けた。

 「がはっ!」

思わずブラックマスクの腕を離してしまう利住。

 「惜しかったな。」

ブラックマスクはうずくまる利住を見下す様に言う。

 「お前達は奴らの援護も出来ない、深雪も救えない、私を倒す事も出来ない…ふっははは!夢も希望も無いな!」
 「く…そ…」

薄れる意識の中、それでもブラックマスクに立ち向かう為に立ち上ろうとする利住。

 「……ジ・エンドだ。」

利住の足をつかみ、持ち上げる。凄まじいパワーだ!

 「ぬぅん!」
 「うあぁっ!」

そして利住を倒れているブリオ、フォーターの方へ放り投げるブラックマスク。

 「利住くん!利住くん!」

利住はうつ伏せに倒れ、動かなくなった。気を失った様だ。

 「さて…そろそろか。」

壁掛け時計を見るブラックマスク。時間はこの時、六時二十五分。


 正門前。甲が門を閉めた後、七月達はお互いに顔を見合わせて戦う手を止めた。

 「もう、終わりにしよ!」

七月が声を張り上げる。その急な出来事に、一瞬ポカーンとする塾生達。

 「…な、なに訳分からんこと言ってやがる!」

七月に蹴りを放つ男塾生。横っ腹に蹴りをくらい、吹っ飛ぶ七月。

 「七月!」

学美が駆け寄る。七月に蹴りを入れた男塾生は戸惑いを隠せない。

 「な、何で、避けない…」

 「…みんな、聞いて。」

流香はゆっくりと息を吐き、話し出した。

 「ふぅ~…もうこの戦いは無意味。理由…無いでしょ?」

流香の言葉に、塾生達は顔を見合わせる。
これは昨夜の内に流香達三人で話し合い、出していた答え。竜沢達を無事に黒点塾内に送れば戦いを止める…初めから決めていた事だった。

 「私達は、竜沢くん達を無傷で行かせる。あなた達はそれを阻止する。そんな戦いだった…そうでしょ。」

確かにそうである。しかし、塾生達はまだ理解出来ない。

 「み、みんな…考えて。」

七月が学美に担がれて起き上がる。

 「ちゃんと自分達で考えて。私達は何で戦ってるの?」

七月の言葉に、塾生達は考え始める。

 「何でって、そりゃ…」
 「ブラックマスクが…」

 「確かにあんたらはブラックマスクに救われた…そうなんだろ?けどな…もしブラックマスクが間違った事をしたら、あんたらはどうするんだ?それでもただブラックマスクが言ったからって、それに従うのかい?」

学美の言葉に、返す言葉が無い塾生達。混乱してうつむく者も居る。

 「その人達の言う通り。ちゃんと自分で考えて行動しないと…ダメっ。」

そこに現れたのは、つくしだった。

 「鶴野さん?!」
 「つ、鶴野…」
 「鶴野だ…」

つくしの登場に流香達も驚いたが、同じ様に塾生達も驚いていた。

 「やっぱり天野先輩達も来たんですね。」

つくしは流香達に声を掛けた後、塾生達に話し出した。

 「私もみんなの気持ち分かるよ。私もブラックマスクに手を差し伸べてもらったから。」

堂々と正面から皆を見て、力強く語り掛けるつくし。

 「それに、この黒点塾ではみんなに助けられた。だから…何も考えず、ブラックマスクの言う通りに動いた。でも…龍青で過ごし、龍青でこの人達と会って、GCSAの皆さんと話して…それで考えた。自分でいっぱい考えて…それで分かった。私は、間違ってるって。」

つくしの言葉は、同じ境遇だった塾生達の心に素直に入り込んで行く。

 「だから、みんな…間違っちゃダメっ!このままブラックマスクに間違った道を行かせたらダメっ!」

涙ながらに話すつくし。塾生達は共感し、そして選ぶ。『誰かに従って』ではなく、自分達で考え、自分達で行動する事を。

 「私がこんな風に考える様になれたのは、龍青学園のみんなのお陰っ。私はこの黒点塾も、みんなが一緒に頑張れば龍青学園みたいになれる…そう信じてるっ。」

うつむいていた塾生達も前を見た。皆が顔を合わせ、うなずき合う。

 「鶴野さん…つくしちゃんって呼んでいい?」
 「私はつくし…でいいかい?」

七月と学美もつくしに笑顔を向ける。

 「はい、もちろんっ。」
 「ふぅ~、とにかくまずは怪我人の手当てを。」

塾生達も流香達も、敵味方等関係無く怪我の具合を確認する。

 「ちょっと学美、ここ見てよ?青くなってない?」

最後に蹴られた横っ腹を、男塾生達も居るというのに服をめくり上げて学美に見せる七月。

 「恥を知れーっ!」

慌てて七月の服を降ろす学美であった。何故か学美の方が赤面。

 「みんな、これ使って。傷の深い人は私に診せてっ。」

つくしは腰に装着しているボックスから包帯やガーゼ、消毒液や傷テープ等を出す。

 「へー、用意いいねー。」

感心する学美。

 「忍者修行の中で医療術も習いましたから。」
 「やるねぇ。他にはどんな事習ったんだい?」
 「調理術とか裁縫術とか…あと、変装術とかです。」

学美とつくしのやり取りに聞き耳を立てていた七月は…

 〝この子、この綺麗な顔で治療も出来て裁縫も出来て料理も出来んの?何か……悔しいわね〟

と、悔しがっていた。

 「ふぅ~、治療が終わったら…みんな、行くよ?ブラックマスクの所に。」

正門の方を見る流香。まだ少し躊躇っている塾生も数名居たが、それでももう流香達と戦おうとする者は居ない。

 「神ちゃん…みんな…」

竜沢達の無事を願う七月達であった。


 一階のホールでは、甲の周辺に塾生達が倒れていた。無論、安郷や猪野岡達も倒れ、沈黙している。そんな中、一人立っている甲。

 「ふ…ん…」

甲が立ち塞がっているのは、強化プラスチックが割れている部分。竜沢達を追わせない…そんな甲の気持ちが表れていた。

 「さて…竜沢達を、お…追う、か…」

甲は強化プラスチックの向こう側に行こうとするが…膝をつき、ゆっくりとうつ伏せに倒れてしまった。

その瞬間を、ホールに入って来た流香達は目の当たりにした。

 「甲くん?!」
 「甲!」

甲に駆け寄る流香達。学美が甲を仰向けにし、頭を片膝に乗せた。

 「しっかりしろ、甲!」
 「甲くん!」

学美、流香、七月が甲の周りに集まる。つくしが甲の右手を見た。

 「ひ、酷い傷…直ぐに応急手当てするからっ。」

つくしが甲の右手を治療していると、甲の体がピクリと動いた。

 「大丈夫かい?!」

学美の声に、薄っすらと目を開く甲。その視界にはつくしを含む四人の美女が映った。

 「て、天使か…」

甲にしては珍しいセリフに、何故か一同赤面。

 「………はっ!」

意識が朦朧としていたとはいえ、自分が言ってしまった言葉が自分の頭の中に入って来ると、今度は甲自身が赤面。

 「りゅ、竜沢達は…」

甲の精一杯の『今の無かったことにしよう』作戦。

 「あ、えっと…あれ?それは私達のセリフじゃ…」

甲の精一杯の『今の無かったことにしよう』作戦は恥の上塗りとなった。

 「む、う…お、俺達も行こう。うっ!」

起き上がろうとする甲だが、右手に激痛が走った。

 「ちゃんと痛むんですね?良かった、きっと治りますっ。」

つくしが甲の右拳にガーゼを当て、その上から包帯を巻いていた。

 「…ありがとう。」

甲が普通に礼を言ったのでちょっと驚く流香達だったが、何やら甲の雰囲気が変わっている事に気付くと笑顔になった。

その時学美は、つくしと隆正の後を、甲と一緒に追った時の事を思い出していた。


 「甲、何かあったんじゃないのかい?」

甲はポケットに深雪の名刺を入れており、その事を竜沢達に黙っていた。

 「ここに…何かが…」

 「え?何だって?」

胸に手を当てて呟く甲の言葉を聞き返す学美。

 「…いや、何でもない。」
 「甲…?」

まるで甲が宙に浮いているような…そこに居るのに居ないような…そんな風に感じる学美だった。



 「…吹っ切れたんだな、甲。」

学美が言う。甲は軽く笑み、立ち上がった。
周囲では流香達と来た塾生達が、甲が倒した塾生達を介抱している。ただ、安郷達は放置。

 「…なるほど。」

程無く強化プラスチックの壁が動き出した。他の塾生達が安郷のポケットから鍵を取り出し、スイッチボックスを開けて操作してくれた様だ。更にA階段のシャッターも開いていく。

 「ここから三階へ行けるぞ!」

男塾生が流香達に声を掛ける。

 「天使は…敵も仲間に変えるらしいな。」

誰にも聞こえない様に呟く甲であった。
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