龍青学園GCSA

楓和

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第5章の11「はよ話せや!」

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 二階、A階段前。気を失っていた隆正の体がピクリと動いた。戻りつつある意識の中で、壁に激突した頭部の痛みや右足の痛みを感じていた。

 〝足…大丈夫みたいやな〟

マッスル達を追った時は痛みすら感じなくなっていた右足…あの時隆正は、二度と走れなくなるかもしれないと感じていた。それでも躊躇わず全力以上の速さで走れた…そんな自分を誇らしいと思える隆正。
そしてその右足に温かみを感じ、徐々に意識がはっきりしてきた。
誰かが優しく右足をさすってくれている…寄り添ってくれている…そんな気配を感じた。

 〝て、天使か…〟

ゆっくりと目を開ける隆正。

 「しっかりしなはれ。」
 「ぶふぉうっ!」

眼前に高瀬の顔が有ったので、唾液をふき出す隆正。顔面唾だらけになる高瀬。

 「ガ、ガマ天使?!」
 「何やねん、そのけったいな生きモン。」

高瀬は鏡が置いて行ったハンカチで隆正の唾が付いた顔を拭く。

 「ええ匂いのハンケチでんな。」
 「それは鏡の……………そ、そや!神侍と鏡はぐわっげっ!」

立ち上ろうとして激痛に苦しむ隆正。

 「目ぇ覚ました途端騒がしい男やのぉ~。」

呆れる高瀬であった。そこに一階からA階段を上がって来た流香達が合流。

 「高瀬くん?!」
 「おおっ、流香さん!」

駆け寄る流香に跪く高瀬。それを見て七月は…

 〝どっかの姫とその姫に仕える下忍〟

という想像をしていた。

 「どうしてここに?…た、隆正くん?!」

高瀬に声を掛けた後、額からかなりの流血跡がある隆正を見て驚く流香。

 「流香、心配すな。大丈夫やって。おっと…」

ガシッ。

立ち上ろうとするが思うように立てず、コケそうになる隆正に素早く肩を貸して支えたのは…

 「ただでさえ少ない脳が…」
 「血ぃだけや!少ない脳って何?!」

甲だった。甲に支えられながらもそのボケに素早くツッコむ隆正。さすがである。

 「…お前はトマト握りつぶしたんか?」

甲の右拳に巻かれた包帯から少し血が滲んでいる事を心配する隆正。

 「一分間で百個ほど。」
 「ギネス記録狙っとるん?!」

隆正を左手で支える甲と、甲に肩を借りて片足で立つ隆正。
そんな二人のやり取りを嬉しそうに見ていた流香達。

 「ふぅ~…隆正くん、状況を説明してくれる?」
 「おう。甲と分かれた後…」

隆正はここで起こった全てを説明した。

そして高瀬は…

 「黒点塾の場所をつき止めて調査してたワイが、中間報告する為に流香さんにメールした直後にあのつるつる男にやられて入院…。退院後、流香さんの前で恥をかかされた借りを返すべく黒点塾に潜入調査に来て何日が過ぎたでっしゃろか。遂に…」

高瀬が真剣な目をする。
※ちなみに高瀬が気を失う直前に言った『つる』とは鶴野つくしの事ではなく『つるつる』の黒房の事であった。『つくし』という言葉は、単に流香の顔が近かったのでその感想『美しい』と言っただけである。ちなみに最後は『ええ匂い』である。ほぼ流香に対する感想だった。

 「遂に…つかみましたで。あ奴の秘密を。」

いつもなら報告の際、流香と二人っきりになれる高瀬。その為だけに影として生き、過酷な任務もこなしてきた高瀬。だが今回だけはやむを得ない…断腸の思いで報告する高瀬。

 「…ツラいが仕方無いと自分に言い聞かせる高瀬!流香さんの為ならこの苦痛にも耐える高瀬!ああ、流香さんサイコー高瀬!」
 「はよ話せや!」

いつの間にか思いを口に出してしまっていた高瀬に、力いっぱいツッコむ隆正。流香の顔は真っ赤である。
そして冷静を取り戻した高瀬の口から、驚きの言葉が出る。

 「黒点塾塾長ブラックマスク…その正体を、つかみました。」

お笑いの雰囲気は一変。高瀬の言葉に、その場の全員が息を呑んだ。


 A階段、二階から三階への間。

 「最終ラウンド…やろうか。」

満身創痍の鏡に利也が近付く。

 「…妙な人ですね。」

鏡は利也に対し、少し違和感を覚えていた。

 「どういう意味だ?」

利也はゆっくりと、鏡の立つ踊り場まで階段を下りて来た。

 「うまく伝えられませんが…感情が変です。」
 「はぁ?」

鏡が話している事は本音である。だが真の目的は体力回復の為であり、利也との問答を伸ばすつもりだった。

 「一貫性が無い。捉え所もありません。あと…大事な物が欠けている。」

周囲を見回す鏡。

 「…分かんねぇな。何が言いたい?」
 「では聞きますが…彼らへの思いは?それと…少しも卑怯だと思ってませんよね。」
 「思い?卑怯?」

本気で分かっていない様子の利也に、うなずく鏡。

 「何でだよ?この状況は俺が望んだ訳じゃ無ぇだろ。」

倒れている道後達を全く見ずに答える利也。

 「深雪センセーがブラックマスクに逆らった事も、ブラックマスクが深雪センセーを粛正する事も、お前らがここに乗り込んできた事も…こいつらがお前にやられた事も、全部俺の知った事じゃ無ぇ。」

その時鏡は、少しだけ利也の事を理解した。

 〝この人は他人の考えや思いに興味が無い…〟

 「そうだろ?」

『何か違うか?』という表情の利也。

 〝自分が全て。そして善悪のラインが曖昧…なるほど〟

鏡は心の中で分析していた。

 「そういえば、そこの人が言ってましたよね。ブラックマスクは僕を連れて来るように指示してたとか…。それも自分の意志で反故にしたんですよね?」
 「あー、それはちょっとまずいかなと思ってるぞ。よく考えると後が怖ぇ。」

そこまで怖がっている様には見えない。

 「あなたは他の人と違ってブラックマスクへの敬意が薄いようですね。」
 「そりゃあ…な。」
 「…もう、止めませんか?ブラックマスクが何を考えてるのか分かりませんが、あなたはそれを手伝う気もないんでしょう?」
 「うーん、まぁそうなんだが…ここでお前との戦いを止めるという選択は無ぇな。」

袖口から十手の様な武器を出し、両手でつかむ利也。

 「お前みたいな強ぇ奴と戦う…それが俺の楽しみなんだからよっ!」
 「いや…それなら普通、万全の状態の時とかに戦いません?」

鏡は呆れた顔でそう言いながら両手の拳に力を入れてまた緩め、また力を入れてという動きを二度三度繰り返していた。

 「知らねぇよ、お前が今どんな状態かなんて。俺は今戦いてぇんだ。」
 「はぁ…勝手な人ですねぇ。」

そう呟いた後、鏡は何となくだが利也に対する違和感が無くなり、しっくりしたのを感じた。

 〝そうか、自己中。一貫性が無い訳じゃない。一貫して自己中…そういう事ですか〟

 「なるほど、筋が通ってる。」
 「何が?」
 「いえ、こちらの事です。勝手に考えて勝手に納得してますんでお構いなく。」
 「はぁ?まぁいいか。じゃあ…」

武器を構える利也。

 〝自己中…何も悪い事じゃありません。竜沢くんもそうですしね。ただこの人の場合、優しさが無い…と表現するべきか。いや、思いやりが無い…か。そこですね、竜沢くんと大きく違うのは〟

 「それなのに…」

倒れている道後達を見る鏡。

 「報われませんね。」

薄っすらと微笑み、そして鏡の目が真剣になる。
鏡は道後達と戦って、彼らの思いを感じてしまった。だから利也の感情が気になった。そして今話してみてしっくりした。

 「自分の力だけじゃどうにもならない事もあるって、教えてあげますよ。」

両手を垂らしたままの鏡だが、その目には光が宿っていた。

 「同じ自己中でも、あなたには負ける気がしません。」
 「へぇ。誰と比べてるのか知んねぇが…」

利也の顔つきが険しくなった。

 「逆に教えてやるぞ。俺にそんなセリフを吐いたらどうなるかを。」

鏡の両腕が動かなくても関係無い…利也の攻撃が始まる。
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