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第5章の15「さーて、帰るか!」
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少し前まで凄まじい戦いがあったとは思えない程、トレーニングルームに集まった竜沢達と塾生達は和やかだった。
怪我人の手当てをする者、相手を気遣い声を掛ける者…皆笑顔で接し合い、優しい空気で満ちていた。
「つくしちゃん、どうなんだ?鏡のケガは。」
「う、ん…隆正さん達に比べたら軽傷です。見た目と違って本当にタフですね。…竜沢先輩程じゃないですけど。」
「ここにきて化け物扱いなのか!」
つくしは鏡の怪我(特に左腕)を診断した後、尋常じゃない回復力の竜沢に冷たい目を向けた。泣きそうになる竜沢。
「いやいや、つくしちゃん。神侍の場合はタフとはちょっと違うねん。」
隆正がそう言うと、甲も口を開いた。
「ウズムシ?」
「分かりにくい生物出すな!しかも回復力ですらない!」
ウズムシとはプラナリアという生物の事であり、回復力というよりは再生能力といった方が正解で、その再生能力は体を二つに切断すれば二体のプラナリアになる程である。
「さすが竜沢くん、奇妙な生物の事をよく知ってますね。」
「うへへ、まぁなっ。…いやいや変な褒め方すな!それより…」
竜沢は鏡の姿を見て、フォーターの様なへの字口になる。
「何です?」
「…無茶しやがって。」
への字口を緩め、眉を下げる竜沢。その竜沢の表情を見て、鏡は嬉しそうに微笑む。
「ははっ、すいません。」
「こら、嬉しそうに言うな!」
怒りながらも何故か顔を赤らめる竜沢。その竜沢と鏡を見て一瞬嫉妬する流香だが、深呼吸して落ち着く。
「ふぅ~…落ち着け私。」
「おやぁ?」
そんな流香の心境を感じ取り、冷やかそうと考える七月。
「余裕ですなー、流香ちゃん。」
「な、何?七月。」
悪い顔になっている七月に対し、何を言われようと冷静に対処しようと構える流香。
「そんなに余裕ぶっこいててインデスカー?鏡ちゃんと神ちゃんは色んな壁を超えた強―い絆で結ばれてるデスヨー?」
何故か時々片言になる七月。それにしても…『色んな壁って何なのよ』と考えてしまう流香だったが、ここは冷静を装う。
「そう。別に。何とも。」
だが話し方が単語。
それを見て七月だけでなく学美までも悪い顔になっていた。明らかに何かを企んでいる二大格闘王。
「鏡、あんた階段で戦った時さー…やっぱ神侍のこと考えてた?」
「え?あー、そうですね。考えてましたよ。」
「だって、神ちゃん。嬉しいね?」
「え、あー、べ、別にそんな…うん、まぁ…嬉しいかな。」
そんなやり取りを聞いていて、ムスーッとし出す流香。
「竜沢くん、最後まで僕のこと思って、あの人をワザと怒らせたりしてくれましたよね。ありがとうございます、助かりました。」
「お前を置いて行くんだ、そんなの当たり前だろ。寧ろそんな事しか出来ないのがキツかった…けど、お前が助かったんなら良かったよ。」
そう言いながら見つめ合う二人を見ていて、だんだんモヤモヤしてきたのは七月。
〝ううっ、自分の仕掛けた罠に自分でかかった気分…〟
策士策に溺れる。
その時何気なく学美の方を見た七月は、学美もイラついている事に気付いてしまった。
「階段を上がって行く時、待ってるからな…って、竜沢くんがそう言ってくれた様に感じたんです。だから踏ん張れました。」
「…そうか、伝わったんだな。」
もはや流香、七月、学美のイラつきはマックス。そんなやり取りを見ていた甲と隆正は…
「何か…こうやってみんなの事見とったらめっちゃ懐かしく感じるんやけど。」
「…俺もだ。」
自分達はこんな幸せな空間を放棄して黒点塾にいっていたのか、と…後悔の念に駆られていた。
「なぁ…今度お前の実家に行ってみたいんやけど。みんなを招待してくれへんか?」
「別に良いが…氷漬けになっても文句は言うなよ。」
「実家シベリア?!」
一方、利住達…
「利也、お前…何か変わったな♪」
傷だらけの利也の隣に座っている利住。
「やめろよ兄貴、そのリズム語り。」
胡坐をかいている利也。利住の話し方は調子が狂うので苦手なのだ。
「おやおや、この傷デカいね。」
高齢の女性が利住の額に傷薬を塗り付ける。
「痛てっ。お、おばちゃん、痛いよ♪」
「我慢しな、男の子だろ?」
「おばちゃん、ありがと♪ところで、今朝は何?」
「赤シソの握り飯と豆腐の味噌汁、あと焼き鮭だよ。」
「やった♪大好き♪」
塾生寮の食堂のおばちゃんが手当てしてくれていた。利住は無邪気に笑った後、再び利也の方を見た。
「随分とやられたよな♪」
「兄貴に言われたくねぇよっ。」
どっちもボロボロ。
「で?どんな心境の変化があったんだ♪」
利也の肩に手を置く利住に、イラつきながらもちょっと照れている利也。
「うっるせぇなっ。別に何もねぇよっ。」
そう言って、自分の周囲に集まっている道後達を見た。
「お前ら…だ、大丈夫なのかよ?」
「…!」
道後達五人は驚いていた。自分達は鏡一人に負け、利也に対して合わせる顔が無い…そう思っていたからだ。
「な、何とか言えよっ。」
「は、はいっ、大した事はありません。」
道後がそう言うと、早川達もうなずいた。
「そ、そうか。あー…まぁ、良かったな。」
「…!」
またも驚き、顔を見合わせる道後達。
「い、いちいち驚くんじゃねぇ!」
大声を出す利也に、利住とブリオ、フォーターの三人は笑ってしまった。
「何だよ、ったく。こんなんで…こんな事で良かったのかよ。」
目を伏せて呟く利也。その表情は微妙だが、不機嫌には見えない。
利也は利住が受けたいじめの事を知っている。そのせいで誹謗中傷の的になったのは利住の両親、それに弟である利也だった。一つ年下の利也はクラスで迫害され、仲間だと思っていた者達が一瞬で敵になるという経験をした。その時の苦しい思いはもうしたくない…利也が仲間を作らなくなったのはそのせいだった。
元々利住との兄弟仲は良く、利住が起こした事件後にクラスで迫害された事について、利住を恨んでいる訳でも避けている訳でもなかった。ただ、利住のやった事で受けた苦しみが、兄弟をどこかギクシャクさせてしまっていた。しかし今、二人は自然に話せていた。
そして、素直な言葉に道後達が喜んでいる…それがこんなに嬉しいのかと、利也は奇妙な感覚になっていたが、決して不快なものではなかった。
〝こんなに気持ち良いのなら…もう一度仲間を信じてみるのも、悪くねぇかな〟
理不尽という闇にのまれていたつくしや利住達が竜沢達と戦い、話し、触れ合う事で己を取り戻した様に、利也もまた深い闇の中に光を見出した。やり直そうと思える様になっていた。
そして…
「国雄さん…」
傷だらけで倒れている国雄の顔に、優しく触れている深雪。
「う、く…み、深雪…俺は…」
気が付いた元ブラックマスク・国雄。
「あなたは憑りつかれていたんです。黒い仮面の化け物に…」
深雪がそう言うと、国雄は自分の手で顔を覆った。
「何を…やってたんだ、俺は…」
声が震えている。顔に置いた手の間からは涙が漏れていた。
「俺は…」
小さく震える国雄を、深雪は抱きかかえた。
「深雪…俺は、お前にまで…」
「私はいいんです。だけど…」
深雪は国雄の手を取り、その目を見て言う。
「みんなに謝罪しましょう。私も一緒に、謝るから…」
その言葉に、国雄の目からはまた涙が溢れる。
「許してくれる訳が…ない。」
「それでも…誠心誠意、謝ろう?」
国雄は小さく震えながら、何度もうなずいていた。
「深雪先生。それに…」
そんな深雪達の元へ竜沢達が来た。その瞬間、視線が集中する。皆が注目する竜沢の第一声は…
「ブラッ国雄さん。」
『いや、違うだろ?!』全員の心の声が一致した。
「竜沢くん…」
深雪が立ち上がり、深々と頭を下げた。
「え?!ちょ、ちょっと!」
慌てる竜沢。
「ありがとう。」
その一言に、竜沢達は深雪の深い思いを感じ取った。
「竜沢…」
ブラッ国雄は神妙な面持ちで声を絞り出す。
「その…す、すまなかった。」
立ち上がる力が無く、座ったままの状態で頭を下げるブラッ国雄。
「ブラッ国雄さん、あんたには言いたい事が山程ある。」
竜沢は真剣な表情で話し出す。静まり返るトレーニングルーム。
〝『ブラッ国雄』はどこまで続けんねん…〟
隆正は下唇を噛み締め、ツッコミたいのを我慢していた。
「まぁ何だ…もう分かってるって顔してるし、別にいいかっ。」
ニカっと笑う竜沢に、一同ズッコケる。
「いや、言わなあかんやろ!」
「えー?面倒くせぇー。」
怒る隆正に、嫌そうな顔で答える竜沢。
「仕方ねぇなー。…あんた、スポーツ好きだろ?」
想像の遥か上を行く竜沢の言葉に、またも一同ズッコケる。
「い、いや、俺はスポーツを憎」
「運動場もドームになってて雨も関係ないし、一階は広いホールだったよなー。すげー設備で感動した。」
竜沢の表情は明るく、嘘は一つも言っていない。
「あのホールを見た瞬間思ったんだ。ホントはスポーツ好きだろ!…ってな。あんなホールなら色んなスポーツをそれぞれが思い切り楽しめるよな。頑丈なプラスチックを使って、塾生達の安全も考慮されてるし。」
その言葉を聞いて鼻で笑う甲。
「おまけに二階の教室。広くて明るくていいな。あそこで勉強してからの運動…気持ち良いと思うなー。まぁ気持ち良過ぎて高ぶった思いを抑えきれずに全速力で廊下を走るお調子者とか居そうだが。」
「それ俺みたいな奴?!」
笑顔でツッコむ隆正。
「文武両道。ちゃんと塾生達の事を考えた設計。そしてこのトレーニングルームは自分の趣味…だけじゃない。」
トレーニングルームを見渡す竜沢。
「自分を鍛えてるからこそ皆に指導出来る。」
竜沢の言葉を聞き、塾生達が互いに顔を見合わせる。その表情はどんどん穏やかになっていった。
「スポーツを憎む?違うな。本当はスポーツを愛してる…だろ。」
国雄を見る竜沢。
「ぐ、く…」
堪える事が出来ず、またも涙を流す国雄。
「竜沢くん…」
深雪も涙を堪え切れない。
「今回の事は簡単には許せないだろうし、簡単に許してもらったら、それはそれでしっくり来ないだろうし。」
竜沢は塾生達の思い、国雄達の思い、それぞれの事を言っていた。
「だから、どうかな?執行猶予ってのは。」
「ふぅ~、そうね。それはいいかも。」
竜沢の思いを全て理解した流香。鏡達もうなずく。
「それは一体、どういう…」
不思議な顔をしているのは国雄と深雪だ。
「じゃ、みんなに聞いてみようか。」
「私やるーっ。」
嬉しそうに手を挙げる七月。
「では今から採決を取りまーす。元ブラックマスクの鳴尾国雄さんにはこれまでの罪を悔いてもらって、今後この黒点塾をあの龍青学園の様な明るく楽しい場所にする為に誠心誠意努力してもらうという事で許してあげる…ってのはどうでしょーかー。それでいいと思う人は拍手をお願いしまーす。」
すると、トレーニングルーム内に大きな拍手が巻き起こった。
「こ、こんな……」
国雄は胸が熱くなっていくのを感じた。拍手の音が心に響く…心が揺さぶられる…そんな思いだった。深雪も同じ気持ちである。
中には拍手をしていない者も居たが、九割以上が穏やかな表情で手を叩いていた。
「もちろん今後も、事情があって学校に通えない生徒達を受け入れるって事が前提で。」
流香が言うと、学美達も話し出す。
「そうだな、それと…龍青と定期的にスポーツ対決するってのはどうだい?」
「ええな、それ!」
「ふん、負けん。」
「へっへーん!偉そうに言うとるけど短距離走やったら俺が勝つで!」
「…」
ドゴッ!
「ぐはっ?!俺怪我人!」
ムカついた甲に尻を蹴られ、すっ転ぶ隆正。それを見て雰囲気が更に和やかになる。
「ふぅ~、それで竜沢くん、執行猶予は何年?」
「そうだな…龍青とスポーツ対決するまで…で、どう?」
「竜沢くん、それじゃもう執行猶予はあんまり関係ありませんね。」
「そうも言えるか、ははっ。まぁいいじゃねーか。」
「そうですね。」
鏡も笑っていた。
そこへ道後達を引き連れた利住・利也兄弟がやって来た。
「おじさん、どうすんだよ。」
利也がぶっきら棒に言うと、利住はいつもの様にリズミカルに言う。
「流れに乗るしかないね♪おじさん♪」
そんな二人の言葉に違和感を覚える竜沢。
「おじさん?」
「そっか、神ちゃんは聞いてないもんね。高瀬くんの調査で分かったんだけど…国雄さんと音根くん達は親戚なんだって。」
「な、何ぃー?!」
そう、高瀬がつかんだ『ブラックマスクの正体』とは、鳴尾国雄という男の素性であり、その情報の中には音根利住・利也兄弟のこと、鳴尾家と音根家とが親戚関係ということも含まれていた。
更に、黒点塾はある学校の跡地である事も分かっていた。
「潰れた体育大付属高校の一部を改装したのが、この黒点塾なんだって。」
「体育大付属…もしかして、その高校って僕の兄さんが行ってた…」
鏡がそこまで言うと国雄が口を開いた。
「俺も…そこにいたんだ。」
その国雄の言葉に、驚きを隠せない竜沢と鏡。
「高瀬の情報通り…か。」
学美が呟く。
「じゃ、じゃあその高校がつぶれた事に……いや、もうそんな事はどうでもいいかっ。」
竜沢は周囲に塾生達が居る事を考えた。ここでこれ以上国雄の事を暴いてどうする…そんな事を今望んでいる訳じゃない…そう思った。
「なぁ、国雄さん。答えを聞かせてくれ…ませんか。」
『え?』という顔の国雄。
「お、俺にはそんな選択肢は…」
「あれ?逃げんの?」
竜沢はワザと嫌な言い方をする。
「こんだけの事して?いやー、それこそ『逃げる』って選択肢は…無いわー。」
そんな竜沢に合わせる鏡達。
「ですね。」
「そうやで!」
「無いな。」
「ふぅ~、何か懐かしいわね。」
GCSA五人の連続セリフが感慨深い流香。
「いや、逃げている訳では…」
国雄が困惑していると、塾生達から声が上がった。
「そうだ!逃げないでくれ!」
「俺達と一緒に居て下さい!」
塾生達の言葉が続く。
「私達はあなたに救われました!」
「理由とかそんなの分かんないけど、私達があなたに感謝してる事に変わりない!」
「今度あなたが間違ったら私達が『違う』って、大きな声で止めるから!絶対止めるから!」
「お願い、黒点塾を無くさないで!私たちの居場所を…無くさないで!」
塾生達の思いを知り、国雄と深雪は震えた。そして誓う。もう二度とこの子達を悲しませないと…。
「竜沢…俺は、この子らと…もう一度…」
「……さーて、帰るか!」
ほんのわずか、国雄の表情を見てから口元に笑みを浮かべた竜沢の突然のセリフ。目を白黒させる一同。
「だって遅刻すんだろ?」
トレーニングルームの壁掛け時計を見て言う竜沢。時間はもう七時を過ぎていた。
「ふぅ~、今なら七月の家で着替える時間あるわね。」
「ジャ、ジャージで通学は何か嫌だから早く行こう!」
焦り出す学美。
「ま、そんな訳だからっ。」
「竜沢くん、ちょっと!」
止める深雪の声を聞きながらもA階段の方へ動き出す竜沢。その竜沢に声を掛ける利住。
「竜沢、螺旋階段が開いてる♪そっちの方が一気に下りれて早いよ♪」
「利住…?」
笑顔で竜沢に教える利住の表情を見て、国雄は驚いていた。
〝そんな顔で笑うんだな、利住。…いや、知っていた。お前はそんな顔で笑う子だったな…すまん、利住〟
国雄は、必ず皆を笑顔にすると改めて誓った。
「サンキュー、音…利住!またな!」
『音根』ではややこしくなるので、名前で呼ぶ竜沢。
「では、急ぎましょう。」
川波鏡。
眉目秀麗成績優秀…しかし毒舌。
竜沢という男に惚れ込んでおり(七月いわく深い絆で結ばれている)ある意味彼の心は竜沢で一杯である。…同性愛者ではない。
鬼緑とのバレーボール対決では女装させられた事も。
抹紅との試合では、その万能ぶりを発揮。
グレートの利住達が学園内で暴れた際には、一瞬で倒したものの停学になってしまった。
兄と父が居るのだが、父親を嫌っている事もあり一緒には住んでおらず、マンションに一人暮らし。
甲とのボクシング勝負では精神的に苦しむが、仲間という大切な人達に勇気付けられ、乗り切った。その試合後、保健室で流香と気持ちを確かめ合う。
黒点塾では、どんな窮地に立たされても決して負けないという力強い精神力を見せた。
「ふん。」
谷角甲。
背が高く無口。とはいえ陰気という訳ではない。
転校早々鬼緑とケンカするなど、見た目以上に話題の絶えない男。
よく隆正を馬鹿にするが、それは仲が良い証拠…かな?
強い奴と戦う為だけに北海道から龍青学園に一人で来ており(実は伝説のマタギ一家の長男であり、現・伝承者である父から放り出されただけ)常に強い相手を求めていた。そんなところを深雪に見透かされ、一時だが黒点塾に入塾した。
鏡との対決では一方的にやられた様に見えるが、鏡と一対一で真正面から戦えるのはこの男かマッド竜沢ぐらいではないだろうか。
黒点塾との戦いでは、その右手を犠牲にしてでも友の為に戦った。
「いや、もうちょいゆっくり!痛てててっ!」
山嵐隆正。
うるさくて熱い男。
鬼緑の安郷にアッという間にやられたが、実は祖父から『喧嘩御法度』を言い付けられている為であり、実際はそんなに弱くない。
態度と足の速さなら誰にも負けないが、走り出したら急には止まれないところを抹紅の馬場崎や鹿島田に利用された事もあった。
実家は由緒正しき飛脚一家であり、伝説の飛脚である祖父を超える逸材。また、ツッコミの鬼であり、どんな状況・どんなボケに対しても綺麗にツッコむ。
竜沢との短距離勝負では靴紐が切れるアクシデントがあって負けたが、気持ちとしてはスッキリした。
黒点塾との戦いでは、大事な足を無くす事になってもかまわないという気持ちで友の為に走った。
「ふぅ~、遅刻は絶対に無し。」
天野流香。
学園一の才女でありながら竜沢達と一緒にいるという変わった女の子。
彼女の頭脳があるからGCSAは実力以上の強さを発揮すると言える。
鏡達を女装させて試合に勝利すると同時に、その画像をジュース券等と交換するという商売魂も持っている。
母親が天野一刀流師範代であり剣道の腕前はかなりのもの。弓道は元大企業の御曹司である父親が得意としており、そちらの腕も大したものである。
時々男勝りに戦う事もあるが、鏡と二人きりになると顔を真っ赤にしてしまうという女の子らしいところも。
鏡の事で竜沢にライバル心を燃やすというちょっとズレたところもある。
甲と鏡が戦った後、保健室で鏡とめでたく恋人同士に。
黒点塾との戦いでは、竜沢がブラックマスクを圧倒するヴィジョンが見えたという理由から、竜沢達を無傷で行かせる為に七月達とともに塾生らの中に突っ込むという根性も見せた。
「この際遅刻してもいいんじゃね?」
北神七月。
学校をサボってライブに行くという、根っからの遊び人(?)である。
プールが嫌い…というか、水着姿になるのがあまり好きじゃない。
いつもGCSAを応援しているが実は自分自身も学美と二人で『二大格闘王』と呼ばれる程の強さの持ち主。その実力で学美のピンチを救った事もある。
黒点塾との戦いでは、流香・学美とともに武装した塾生らに突っ込み、竜沢達をビビらせるほどの強さを見せた。
好きな男の子がいる様だが、その気持ちをうまく伝える事が出来ないという可愛らしい一面も。
GCSAとの絡みではよく竜沢や隆正をしばいていたが、根は優しい(?)女の子。
右耳にあるイヤリングには何か秘密があるようだ。
「と、とりあえず着替えに行くよっ。」
不破学美。
七月と二人で『二大格闘王』と呼ばれている、抹紅から転校してきた女の子。その強さゆえにマッスル達にGCSA潰しで利用された事がある。
七月に対する複雑な思いから七月と戦う事になったが、竜沢達GCSAのお陰もあって丸く収まった。
龍青に来てからは、流香や七月に可愛らしい服を着せられたり、マラソンの録画をしたりと、竜沢達と楽しい日々を過ごしている。
青葉園長の計らいで学費は免除になってはいるが、実は病弱な母親との二人暮らしであり高価な物は持てない生活をしている。電動自転車やスマホは『ある人物』からの贈り物であり、その代償に『ある人物』に竜沢達の情報をスマホを使って流している。
流香と七月とのトリオがかなり気に入っており、三人で旅行に行くのが密かな夢である。
そしてGCSAの誰かに対し、秘めた想いも持っているようだ。
「よ~し…グッと行くぞ!」
竜沢神侍。
変わり者の多い学園都市の中でもトップクラスの変わり者。そしてGCSAの発足者。
『グッと行くぞ!』が口癖で、気合いを入れる時等によく使う。
…色々な事があった。
みんなは言う。竜沢が居たから楽しかった。悲しい事、辛い事、腹の立つ事、悔しい事…でも、竜沢がいれば全てが良い思い出になる。楽しい事に思える。
竜沢と一緒にいて良かったと。竜沢に会えて、良かったと…
朝日が照らす道路を、楽しそうに笑い合いながら歩いている八人。
そして、そんな竜沢達を見ている高齢の女性が一人…それは利住達を手当てしていた黒点塾寮内食堂のおばちゃんであった。
「…神侍、お前ならやれるって信じてたよ。まぁでも…頑張ったね。今日の晩飯はすき焼きにしてやるか。」
顎に手をやり、シワのある顔を剥ぎ取る。食堂のおばちゃんに化けていたのは…竜沢の姉、暮巴であった。
※顔の変装を解いただけで体はふっくらしたままである為、見た目かなり変。
「食堂のおばちゃん役も今日で終わりか。あの子らと離れんのは寂しいが…ま、仕方ないね。…………北海道って、やっぱイクラかな?」
朝日を見てイクラを思い浮かべたのか…そう呟く暮巴であった。
怪我人の手当てをする者、相手を気遣い声を掛ける者…皆笑顔で接し合い、優しい空気で満ちていた。
「つくしちゃん、どうなんだ?鏡のケガは。」
「う、ん…隆正さん達に比べたら軽傷です。見た目と違って本当にタフですね。…竜沢先輩程じゃないですけど。」
「ここにきて化け物扱いなのか!」
つくしは鏡の怪我(特に左腕)を診断した後、尋常じゃない回復力の竜沢に冷たい目を向けた。泣きそうになる竜沢。
「いやいや、つくしちゃん。神侍の場合はタフとはちょっと違うねん。」
隆正がそう言うと、甲も口を開いた。
「ウズムシ?」
「分かりにくい生物出すな!しかも回復力ですらない!」
ウズムシとはプラナリアという生物の事であり、回復力というよりは再生能力といった方が正解で、その再生能力は体を二つに切断すれば二体のプラナリアになる程である。
「さすが竜沢くん、奇妙な生物の事をよく知ってますね。」
「うへへ、まぁなっ。…いやいや変な褒め方すな!それより…」
竜沢は鏡の姿を見て、フォーターの様なへの字口になる。
「何です?」
「…無茶しやがって。」
への字口を緩め、眉を下げる竜沢。その竜沢の表情を見て、鏡は嬉しそうに微笑む。
「ははっ、すいません。」
「こら、嬉しそうに言うな!」
怒りながらも何故か顔を赤らめる竜沢。その竜沢と鏡を見て一瞬嫉妬する流香だが、深呼吸して落ち着く。
「ふぅ~…落ち着け私。」
「おやぁ?」
そんな流香の心境を感じ取り、冷やかそうと考える七月。
「余裕ですなー、流香ちゃん。」
「な、何?七月。」
悪い顔になっている七月に対し、何を言われようと冷静に対処しようと構える流香。
「そんなに余裕ぶっこいててインデスカー?鏡ちゃんと神ちゃんは色んな壁を超えた強―い絆で結ばれてるデスヨー?」
何故か時々片言になる七月。それにしても…『色んな壁って何なのよ』と考えてしまう流香だったが、ここは冷静を装う。
「そう。別に。何とも。」
だが話し方が単語。
それを見て七月だけでなく学美までも悪い顔になっていた。明らかに何かを企んでいる二大格闘王。
「鏡、あんた階段で戦った時さー…やっぱ神侍のこと考えてた?」
「え?あー、そうですね。考えてましたよ。」
「だって、神ちゃん。嬉しいね?」
「え、あー、べ、別にそんな…うん、まぁ…嬉しいかな。」
そんなやり取りを聞いていて、ムスーッとし出す流香。
「竜沢くん、最後まで僕のこと思って、あの人をワザと怒らせたりしてくれましたよね。ありがとうございます、助かりました。」
「お前を置いて行くんだ、そんなの当たり前だろ。寧ろそんな事しか出来ないのがキツかった…けど、お前が助かったんなら良かったよ。」
そう言いながら見つめ合う二人を見ていて、だんだんモヤモヤしてきたのは七月。
〝ううっ、自分の仕掛けた罠に自分でかかった気分…〟
策士策に溺れる。
その時何気なく学美の方を見た七月は、学美もイラついている事に気付いてしまった。
「階段を上がって行く時、待ってるからな…って、竜沢くんがそう言ってくれた様に感じたんです。だから踏ん張れました。」
「…そうか、伝わったんだな。」
もはや流香、七月、学美のイラつきはマックス。そんなやり取りを見ていた甲と隆正は…
「何か…こうやってみんなの事見とったらめっちゃ懐かしく感じるんやけど。」
「…俺もだ。」
自分達はこんな幸せな空間を放棄して黒点塾にいっていたのか、と…後悔の念に駆られていた。
「なぁ…今度お前の実家に行ってみたいんやけど。みんなを招待してくれへんか?」
「別に良いが…氷漬けになっても文句は言うなよ。」
「実家シベリア?!」
一方、利住達…
「利也、お前…何か変わったな♪」
傷だらけの利也の隣に座っている利住。
「やめろよ兄貴、そのリズム語り。」
胡坐をかいている利也。利住の話し方は調子が狂うので苦手なのだ。
「おやおや、この傷デカいね。」
高齢の女性が利住の額に傷薬を塗り付ける。
「痛てっ。お、おばちゃん、痛いよ♪」
「我慢しな、男の子だろ?」
「おばちゃん、ありがと♪ところで、今朝は何?」
「赤シソの握り飯と豆腐の味噌汁、あと焼き鮭だよ。」
「やった♪大好き♪」
塾生寮の食堂のおばちゃんが手当てしてくれていた。利住は無邪気に笑った後、再び利也の方を見た。
「随分とやられたよな♪」
「兄貴に言われたくねぇよっ。」
どっちもボロボロ。
「で?どんな心境の変化があったんだ♪」
利也の肩に手を置く利住に、イラつきながらもちょっと照れている利也。
「うっるせぇなっ。別に何もねぇよっ。」
そう言って、自分の周囲に集まっている道後達を見た。
「お前ら…だ、大丈夫なのかよ?」
「…!」
道後達五人は驚いていた。自分達は鏡一人に負け、利也に対して合わせる顔が無い…そう思っていたからだ。
「な、何とか言えよっ。」
「は、はいっ、大した事はありません。」
道後がそう言うと、早川達もうなずいた。
「そ、そうか。あー…まぁ、良かったな。」
「…!」
またも驚き、顔を見合わせる道後達。
「い、いちいち驚くんじゃねぇ!」
大声を出す利也に、利住とブリオ、フォーターの三人は笑ってしまった。
「何だよ、ったく。こんなんで…こんな事で良かったのかよ。」
目を伏せて呟く利也。その表情は微妙だが、不機嫌には見えない。
利也は利住が受けたいじめの事を知っている。そのせいで誹謗中傷の的になったのは利住の両親、それに弟である利也だった。一つ年下の利也はクラスで迫害され、仲間だと思っていた者達が一瞬で敵になるという経験をした。その時の苦しい思いはもうしたくない…利也が仲間を作らなくなったのはそのせいだった。
元々利住との兄弟仲は良く、利住が起こした事件後にクラスで迫害された事について、利住を恨んでいる訳でも避けている訳でもなかった。ただ、利住のやった事で受けた苦しみが、兄弟をどこかギクシャクさせてしまっていた。しかし今、二人は自然に話せていた。
そして、素直な言葉に道後達が喜んでいる…それがこんなに嬉しいのかと、利也は奇妙な感覚になっていたが、決して不快なものではなかった。
〝こんなに気持ち良いのなら…もう一度仲間を信じてみるのも、悪くねぇかな〟
理不尽という闇にのまれていたつくしや利住達が竜沢達と戦い、話し、触れ合う事で己を取り戻した様に、利也もまた深い闇の中に光を見出した。やり直そうと思える様になっていた。
そして…
「国雄さん…」
傷だらけで倒れている国雄の顔に、優しく触れている深雪。
「う、く…み、深雪…俺は…」
気が付いた元ブラックマスク・国雄。
「あなたは憑りつかれていたんです。黒い仮面の化け物に…」
深雪がそう言うと、国雄は自分の手で顔を覆った。
「何を…やってたんだ、俺は…」
声が震えている。顔に置いた手の間からは涙が漏れていた。
「俺は…」
小さく震える国雄を、深雪は抱きかかえた。
「深雪…俺は、お前にまで…」
「私はいいんです。だけど…」
深雪は国雄の手を取り、その目を見て言う。
「みんなに謝罪しましょう。私も一緒に、謝るから…」
その言葉に、国雄の目からはまた涙が溢れる。
「許してくれる訳が…ない。」
「それでも…誠心誠意、謝ろう?」
国雄は小さく震えながら、何度もうなずいていた。
「深雪先生。それに…」
そんな深雪達の元へ竜沢達が来た。その瞬間、視線が集中する。皆が注目する竜沢の第一声は…
「ブラッ国雄さん。」
『いや、違うだろ?!』全員の心の声が一致した。
「竜沢くん…」
深雪が立ち上がり、深々と頭を下げた。
「え?!ちょ、ちょっと!」
慌てる竜沢。
「ありがとう。」
その一言に、竜沢達は深雪の深い思いを感じ取った。
「竜沢…」
ブラッ国雄は神妙な面持ちで声を絞り出す。
「その…す、すまなかった。」
立ち上がる力が無く、座ったままの状態で頭を下げるブラッ国雄。
「ブラッ国雄さん、あんたには言いたい事が山程ある。」
竜沢は真剣な表情で話し出す。静まり返るトレーニングルーム。
〝『ブラッ国雄』はどこまで続けんねん…〟
隆正は下唇を噛み締め、ツッコミたいのを我慢していた。
「まぁ何だ…もう分かってるって顔してるし、別にいいかっ。」
ニカっと笑う竜沢に、一同ズッコケる。
「いや、言わなあかんやろ!」
「えー?面倒くせぇー。」
怒る隆正に、嫌そうな顔で答える竜沢。
「仕方ねぇなー。…あんた、スポーツ好きだろ?」
想像の遥か上を行く竜沢の言葉に、またも一同ズッコケる。
「い、いや、俺はスポーツを憎」
「運動場もドームになってて雨も関係ないし、一階は広いホールだったよなー。すげー設備で感動した。」
竜沢の表情は明るく、嘘は一つも言っていない。
「あのホールを見た瞬間思ったんだ。ホントはスポーツ好きだろ!…ってな。あんなホールなら色んなスポーツをそれぞれが思い切り楽しめるよな。頑丈なプラスチックを使って、塾生達の安全も考慮されてるし。」
その言葉を聞いて鼻で笑う甲。
「おまけに二階の教室。広くて明るくていいな。あそこで勉強してからの運動…気持ち良いと思うなー。まぁ気持ち良過ぎて高ぶった思いを抑えきれずに全速力で廊下を走るお調子者とか居そうだが。」
「それ俺みたいな奴?!」
笑顔でツッコむ隆正。
「文武両道。ちゃんと塾生達の事を考えた設計。そしてこのトレーニングルームは自分の趣味…だけじゃない。」
トレーニングルームを見渡す竜沢。
「自分を鍛えてるからこそ皆に指導出来る。」
竜沢の言葉を聞き、塾生達が互いに顔を見合わせる。その表情はどんどん穏やかになっていった。
「スポーツを憎む?違うな。本当はスポーツを愛してる…だろ。」
国雄を見る竜沢。
「ぐ、く…」
堪える事が出来ず、またも涙を流す国雄。
「竜沢くん…」
深雪も涙を堪え切れない。
「今回の事は簡単には許せないだろうし、簡単に許してもらったら、それはそれでしっくり来ないだろうし。」
竜沢は塾生達の思い、国雄達の思い、それぞれの事を言っていた。
「だから、どうかな?執行猶予ってのは。」
「ふぅ~、そうね。それはいいかも。」
竜沢の思いを全て理解した流香。鏡達もうなずく。
「それは一体、どういう…」
不思議な顔をしているのは国雄と深雪だ。
「じゃ、みんなに聞いてみようか。」
「私やるーっ。」
嬉しそうに手を挙げる七月。
「では今から採決を取りまーす。元ブラックマスクの鳴尾国雄さんにはこれまでの罪を悔いてもらって、今後この黒点塾をあの龍青学園の様な明るく楽しい場所にする為に誠心誠意努力してもらうという事で許してあげる…ってのはどうでしょーかー。それでいいと思う人は拍手をお願いしまーす。」
すると、トレーニングルーム内に大きな拍手が巻き起こった。
「こ、こんな……」
国雄は胸が熱くなっていくのを感じた。拍手の音が心に響く…心が揺さぶられる…そんな思いだった。深雪も同じ気持ちである。
中には拍手をしていない者も居たが、九割以上が穏やかな表情で手を叩いていた。
「もちろん今後も、事情があって学校に通えない生徒達を受け入れるって事が前提で。」
流香が言うと、学美達も話し出す。
「そうだな、それと…龍青と定期的にスポーツ対決するってのはどうだい?」
「ええな、それ!」
「ふん、負けん。」
「へっへーん!偉そうに言うとるけど短距離走やったら俺が勝つで!」
「…」
ドゴッ!
「ぐはっ?!俺怪我人!」
ムカついた甲に尻を蹴られ、すっ転ぶ隆正。それを見て雰囲気が更に和やかになる。
「ふぅ~、それで竜沢くん、執行猶予は何年?」
「そうだな…龍青とスポーツ対決するまで…で、どう?」
「竜沢くん、それじゃもう執行猶予はあんまり関係ありませんね。」
「そうも言えるか、ははっ。まぁいいじゃねーか。」
「そうですね。」
鏡も笑っていた。
そこへ道後達を引き連れた利住・利也兄弟がやって来た。
「おじさん、どうすんだよ。」
利也がぶっきら棒に言うと、利住はいつもの様にリズミカルに言う。
「流れに乗るしかないね♪おじさん♪」
そんな二人の言葉に違和感を覚える竜沢。
「おじさん?」
「そっか、神ちゃんは聞いてないもんね。高瀬くんの調査で分かったんだけど…国雄さんと音根くん達は親戚なんだって。」
「な、何ぃー?!」
そう、高瀬がつかんだ『ブラックマスクの正体』とは、鳴尾国雄という男の素性であり、その情報の中には音根利住・利也兄弟のこと、鳴尾家と音根家とが親戚関係ということも含まれていた。
更に、黒点塾はある学校の跡地である事も分かっていた。
「潰れた体育大付属高校の一部を改装したのが、この黒点塾なんだって。」
「体育大付属…もしかして、その高校って僕の兄さんが行ってた…」
鏡がそこまで言うと国雄が口を開いた。
「俺も…そこにいたんだ。」
その国雄の言葉に、驚きを隠せない竜沢と鏡。
「高瀬の情報通り…か。」
学美が呟く。
「じゃ、じゃあその高校がつぶれた事に……いや、もうそんな事はどうでもいいかっ。」
竜沢は周囲に塾生達が居る事を考えた。ここでこれ以上国雄の事を暴いてどうする…そんな事を今望んでいる訳じゃない…そう思った。
「なぁ、国雄さん。答えを聞かせてくれ…ませんか。」
『え?』という顔の国雄。
「お、俺にはそんな選択肢は…」
「あれ?逃げんの?」
竜沢はワザと嫌な言い方をする。
「こんだけの事して?いやー、それこそ『逃げる』って選択肢は…無いわー。」
そんな竜沢に合わせる鏡達。
「ですね。」
「そうやで!」
「無いな。」
「ふぅ~、何か懐かしいわね。」
GCSA五人の連続セリフが感慨深い流香。
「いや、逃げている訳では…」
国雄が困惑していると、塾生達から声が上がった。
「そうだ!逃げないでくれ!」
「俺達と一緒に居て下さい!」
塾生達の言葉が続く。
「私達はあなたに救われました!」
「理由とかそんなの分かんないけど、私達があなたに感謝してる事に変わりない!」
「今度あなたが間違ったら私達が『違う』って、大きな声で止めるから!絶対止めるから!」
「お願い、黒点塾を無くさないで!私たちの居場所を…無くさないで!」
塾生達の思いを知り、国雄と深雪は震えた。そして誓う。もう二度とこの子達を悲しませないと…。
「竜沢…俺は、この子らと…もう一度…」
「……さーて、帰るか!」
ほんのわずか、国雄の表情を見てから口元に笑みを浮かべた竜沢の突然のセリフ。目を白黒させる一同。
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トレーニングルームの壁掛け時計を見て言う竜沢。時間はもう七時を過ぎていた。
「ふぅ~、今なら七月の家で着替える時間あるわね。」
「ジャ、ジャージで通学は何か嫌だから早く行こう!」
焦り出す学美。
「ま、そんな訳だからっ。」
「竜沢くん、ちょっと!」
止める深雪の声を聞きながらもA階段の方へ動き出す竜沢。その竜沢に声を掛ける利住。
「竜沢、螺旋階段が開いてる♪そっちの方が一気に下りれて早いよ♪」
「利住…?」
笑顔で竜沢に教える利住の表情を見て、国雄は驚いていた。
〝そんな顔で笑うんだな、利住。…いや、知っていた。お前はそんな顔で笑う子だったな…すまん、利住〟
国雄は、必ず皆を笑顔にすると改めて誓った。
「サンキュー、音…利住!またな!」
『音根』ではややこしくなるので、名前で呼ぶ竜沢。
「では、急ぎましょう。」
川波鏡。
眉目秀麗成績優秀…しかし毒舌。
竜沢という男に惚れ込んでおり(七月いわく深い絆で結ばれている)ある意味彼の心は竜沢で一杯である。…同性愛者ではない。
鬼緑とのバレーボール対決では女装させられた事も。
抹紅との試合では、その万能ぶりを発揮。
グレートの利住達が学園内で暴れた際には、一瞬で倒したものの停学になってしまった。
兄と父が居るのだが、父親を嫌っている事もあり一緒には住んでおらず、マンションに一人暮らし。
甲とのボクシング勝負では精神的に苦しむが、仲間という大切な人達に勇気付けられ、乗り切った。その試合後、保健室で流香と気持ちを確かめ合う。
黒点塾では、どんな窮地に立たされても決して負けないという力強い精神力を見せた。
「ふん。」
谷角甲。
背が高く無口。とはいえ陰気という訳ではない。
転校早々鬼緑とケンカするなど、見た目以上に話題の絶えない男。
よく隆正を馬鹿にするが、それは仲が良い証拠…かな?
強い奴と戦う為だけに北海道から龍青学園に一人で来ており(実は伝説のマタギ一家の長男であり、現・伝承者である父から放り出されただけ)常に強い相手を求めていた。そんなところを深雪に見透かされ、一時だが黒点塾に入塾した。
鏡との対決では一方的にやられた様に見えるが、鏡と一対一で真正面から戦えるのはこの男かマッド竜沢ぐらいではないだろうか。
黒点塾との戦いでは、その右手を犠牲にしてでも友の為に戦った。
「いや、もうちょいゆっくり!痛てててっ!」
山嵐隆正。
うるさくて熱い男。
鬼緑の安郷にアッという間にやられたが、実は祖父から『喧嘩御法度』を言い付けられている為であり、実際はそんなに弱くない。
態度と足の速さなら誰にも負けないが、走り出したら急には止まれないところを抹紅の馬場崎や鹿島田に利用された事もあった。
実家は由緒正しき飛脚一家であり、伝説の飛脚である祖父を超える逸材。また、ツッコミの鬼であり、どんな状況・どんなボケに対しても綺麗にツッコむ。
竜沢との短距離勝負では靴紐が切れるアクシデントがあって負けたが、気持ちとしてはスッキリした。
黒点塾との戦いでは、大事な足を無くす事になってもかまわないという気持ちで友の為に走った。
「ふぅ~、遅刻は絶対に無し。」
天野流香。
学園一の才女でありながら竜沢達と一緒にいるという変わった女の子。
彼女の頭脳があるからGCSAは実力以上の強さを発揮すると言える。
鏡達を女装させて試合に勝利すると同時に、その画像をジュース券等と交換するという商売魂も持っている。
母親が天野一刀流師範代であり剣道の腕前はかなりのもの。弓道は元大企業の御曹司である父親が得意としており、そちらの腕も大したものである。
時々男勝りに戦う事もあるが、鏡と二人きりになると顔を真っ赤にしてしまうという女の子らしいところも。
鏡の事で竜沢にライバル心を燃やすというちょっとズレたところもある。
甲と鏡が戦った後、保健室で鏡とめでたく恋人同士に。
黒点塾との戦いでは、竜沢がブラックマスクを圧倒するヴィジョンが見えたという理由から、竜沢達を無傷で行かせる為に七月達とともに塾生らの中に突っ込むという根性も見せた。
「この際遅刻してもいいんじゃね?」
北神七月。
学校をサボってライブに行くという、根っからの遊び人(?)である。
プールが嫌い…というか、水着姿になるのがあまり好きじゃない。
いつもGCSAを応援しているが実は自分自身も学美と二人で『二大格闘王』と呼ばれる程の強さの持ち主。その実力で学美のピンチを救った事もある。
黒点塾との戦いでは、流香・学美とともに武装した塾生らに突っ込み、竜沢達をビビらせるほどの強さを見せた。
好きな男の子がいる様だが、その気持ちをうまく伝える事が出来ないという可愛らしい一面も。
GCSAとの絡みではよく竜沢や隆正をしばいていたが、根は優しい(?)女の子。
右耳にあるイヤリングには何か秘密があるようだ。
「と、とりあえず着替えに行くよっ。」
不破学美。
七月と二人で『二大格闘王』と呼ばれている、抹紅から転校してきた女の子。その強さゆえにマッスル達にGCSA潰しで利用された事がある。
七月に対する複雑な思いから七月と戦う事になったが、竜沢達GCSAのお陰もあって丸く収まった。
龍青に来てからは、流香や七月に可愛らしい服を着せられたり、マラソンの録画をしたりと、竜沢達と楽しい日々を過ごしている。
青葉園長の計らいで学費は免除になってはいるが、実は病弱な母親との二人暮らしであり高価な物は持てない生活をしている。電動自転車やスマホは『ある人物』からの贈り物であり、その代償に『ある人物』に竜沢達の情報をスマホを使って流している。
流香と七月とのトリオがかなり気に入っており、三人で旅行に行くのが密かな夢である。
そしてGCSAの誰かに対し、秘めた想いも持っているようだ。
「よ~し…グッと行くぞ!」
竜沢神侍。
変わり者の多い学園都市の中でもトップクラスの変わり者。そしてGCSAの発足者。
『グッと行くぞ!』が口癖で、気合いを入れる時等によく使う。
…色々な事があった。
みんなは言う。竜沢が居たから楽しかった。悲しい事、辛い事、腹の立つ事、悔しい事…でも、竜沢がいれば全てが良い思い出になる。楽しい事に思える。
竜沢と一緒にいて良かったと。竜沢に会えて、良かったと…
朝日が照らす道路を、楽しそうに笑い合いながら歩いている八人。
そして、そんな竜沢達を見ている高齢の女性が一人…それは利住達を手当てしていた黒点塾寮内食堂のおばちゃんであった。
「…神侍、お前ならやれるって信じてたよ。まぁでも…頑張ったね。今日の晩飯はすき焼きにしてやるか。」
顎に手をやり、シワのある顔を剥ぎ取る。食堂のおばちゃんに化けていたのは…竜沢の姉、暮巴であった。
※顔の変装を解いただけで体はふっくらしたままである為、見た目かなり変。
「食堂のおばちゃん役も今日で終わりか。あの子らと離れんのは寂しいが…ま、仕方ないね。…………北海道って、やっぱイクラかな?」
朝日を見てイクラを思い浮かべたのか…そう呟く暮巴であった。
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