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第6章の4「引っ越すの」
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クリスマスパーティー当日。
園花邸には、数多くの龍青学園関係者らも集まっていた。そして当然、この連中も居る。
「メリークリスマぁース!」
シャンパンで乾杯をする竜沢達。
「いや~、メリクリですなぁ。」
「ほんに、メリスマですなぁ。」
訳の分からない事を言いながらケーキを手に取る竜沢と隆正。
薄く水色がかったシャツに紺色のジャケット、白のスラックスをはいている竜沢と、グレーのシャツに赤系のネクタイ、同じく白のスラックスをはいている隆正。
二人とも洒落た格好をしているが、中身は全く変わらない。
「はぁ、さすがに咲ちゃん家のクリスマスパーティーね。」
五十人位の招待客と、凄い量の豪華料理や室内を彩る数々の装飾品等に驚いている流香。おまけに舞台まである。
流香は、濃いブルーグリーンのワンピースから黒のストッキングをはいた細く長い脚を出している。かかとの高いグリーンの靴を履いているので、一層その美脚が映える。緑色の輝石が装飾されたイヤリングをしており、髪はアップにしているため綺麗なうなじが露わになっている。
招待客の男性陣から相当注目されているが、本人は一切興味無し。
「どの料理も美味いねー。」
豪華料理を食いまくってる学美。流香に借りたワインレッドのワンピースにかかと低めのブラウンの靴を履いている。襟やスカートの裾部分にはベージュのフリフリが若干付いていて可愛いのだが、バクバク食う姿は可愛いとは程遠い。しかしそのギャップが良いのか、それとも元々化粧映えする綺麗な顔付きからか、こちらも男性陣の注目を浴びている。
「凄い食欲…いえ、凄いスケールですね。…ところで、七月さんは本当に来るんですか?」
鏡はグラスを片手に、見事な食いっぷりの学美を見ながら不安げな表情の流香に聞いた。ちなみに鏡、白のシャツに黒のスラックス、グレーのジャケットを着ている。シンプル・イズ・ベスト。当然招待客の女性陣からかなり注目されている。
「…うん、多分。」
うつむく流香。直前に、少し遅れると電話で伝えてきた七月の事を心配していた。
そして、皆と全く絡まずただひたすら豪華な料理を食いまくっている甲。薄いグレーのシャツに黒のジャケット、そして黒のスラックスをはいている甲。こちらも地味だが、その身長とスタイルと食いっぷりから女性陣の注目高し。
で、その頃の七月。
「う~ん…」
実はもう園花邸の門前にいた。
紫っぽいワンピースの上からフカフカの襟が付いた白のコートを来ている。黒のストッキングにワインレッドの靴。服装としてはパーティに出る気満々なのだが…。
「う~ん…」
レース付きの黒い手袋をつけた手には、綺麗に包装した小さな箱が持たれていた。
今、七月の脳裏には色々な事が浮かんでいた。竜沢の事、咲子の事…その中でも、咲子とのテニス勝負の事は強烈に焼き付いている。
七月は自分の掌を見た。微妙に震えている。そしてその手を強く握る七月。
「…うんっ!」
決意し、門番の男性の前に立つ七月。
「いらっしゃいませ、北神様。」
「こんばんは、えっと…グレイスさん。」
七月は門番のグレイスさんの横を通り抜け、園花邸に入った。
なぜグレイスを知っているのか…それは招待状に顔写真付きで載っていたからだ。ちなみにグレイスさん、男前(三十代後半)である。
「…行くぞ。」
七月が入った数分後、複数の妖しい影が門番のグレイスに近付いて行く。
「…あなた方は御招待されていませんね。お帰り下さい。」
そう言い放ったグレイスは、ゆっくりと一歩前に出る。
「くっくっくっ…おい!入道くん!」
黒服の男達の後方から、頭二つ分くらいでかい坊主頭の男が前に出た。
「あー…あー…」
入道くんが妙な声を出しながら、グレイスに迫る。
パーティー会場内
「さぁ、盛り上がってきましたー!次は誰に歌ってもらいましょうか?!」
なぜか龍青放送部の友美と鈴美が司会を務め、カラオケ大会が開催されている。
「あ…。」
そんな中、会場に七月が入って来たのを舞台上で放送部と共に座っていた咲子が見付けた。
咲子はピンクのフリフリドレスである。ひそひそと放送部の友美に何かを話す咲子。
「えー、ここで飛び入りでーす!龍青学園の遊び人ナンバーワ…もとい。モテモテナンバーワン!北神七月さんでーす!では歌って頂きましょう!」
「おおー!」
会場からの驚きの声…とはまた別な驚きの声を出したのは七月。
「…へ?!」
いきなりスポットライトを浴び、思いっ切り目が点の七月。
「んっ?」
チキンを食らっていた竜沢は、いつもと違う七月に一瞬目を奪われた。フリフリドレスという訳ではないが明らかにパーティー系な服装、薄く色の付いたリップ、いつもと違うヘアアクセサリー…全てが竜沢の心を揺さぶる。
「竜沢くん、チキンが口からこぼれ落ちますよ。」
「うっ!」
突然横に現れてツッコむ鏡に、驚いて口をおさえる竜沢。
「さぁ七月先輩っ。」
「ちょ、ちょっと…」
そんな中咲子は素早く七月に近付き、強引に舞台まで引っ張って行こうとしていた。咲子の企みは何となく七月も分かっていて、流れのままに舞台まで引っ張られて行く。
「さぁてとぉ…」
七月を舞台に上げ、マイクを握る咲子。
「七月先輩のデュエットのお相手はぁ…」
〝デュエットなのか?!〟
〝いつの間にかデュエットになっている?!〟
会場の人々も咲子のペースに乗せられている。
「さ、咲ちゃん、やっぱり止めない?」
どこかで観念している七月だが、ちょっと抵抗。
「お相手はぁ…」
そんな往生際の悪い七月に止めを刺すべく、強引に進める咲子。
その時!
「おらおらぁ!」
「どけぇ!」
黒服集団が現れた。ザワつく会場。
「な、何?!」
流香達も入口の方を見る。
「お前らだけで楽しんでんじゃねぇ!」
「出て来いやぁ!GCSA!」
その黒服はよく見ると黒点塾の制服であった。そして目的は竜沢達。
「何やお前らは?!」
相も変わらず威勢はいい隆正が前に出る。
「俺達は黒点塾の塾生…だった。」
「だった?つまり黒点塾を退塾したということですか。」
鏡の言葉に無言で答える黒服集団。
「何やて?!何でや!黒点塾はこれから生まれ変わるとこやのに!」
「うるせぇ!あんな腑抜け野郎はいらねぇんだよ!」
その言葉を聞き、流香は読み取った。
「ふぅ~、ブラックマスク信者ね。」
「ブラックマスク信者?そりゃつまり今の黒点塾を良しとしない奴らって事か?」
竜沢の言葉にうなずく流香。
「あなた達なんて呼んでないです!グレイスはどうしたんですか?!」
咲子がめずらしく声を張り上げ、黒服集団の前に出て行く。
「グレイスぅ?あぁ、あの門の所にいた野郎か。そんなもん、この入道くんの一発で吹っ飛んだぜ!」
一番最後に大男が会場に入って来た。
「でかっ!」
二メートル位はあるであろう身長の入道くんに驚く隆正。
「そんな…グレイスが…」
青ざめる咲子。それを見て何故かピクっとくる高瀬。
「く…とにかく相手になってやる!だから他の者に手を出すな!」
「けっ…ムカつくぜ、竜沢。」
「偽善者が!」
黒服二人が竜沢に襲いかかろうとしたその瞬間、間に鏡が入る。
「偽善者?」
パァン!という鋭い音が響き渡り、黒服の一人が倒れた。鏡の右ストレートが入ったのだ。
「ムカつくのはこっちの方ですよ。」
竜沢をけなされて怒っている鏡。会場からは一瞬の間をおいてからの大歓声。
「くっ…にゅ、入道くん!入道くん!」
助けを求める黒服達。ぬううっと前に出る入道くん。
「あー…」
坊主頭の大男、入道くん…本名『入江(いりえ)良道(よしみち)』。黒点塾対GCSAの決戦の朝、実は塾生寮で寝坊(戦いの最初から最後まで寝坊)していた男である。そのタフさとパワーとスピードは、音根兄弟を遥かに凌ぐ……かもしれない。
「俺達は貴様らを倒し、第二の黒点塾を作る!」
「訳の分からん事を。」
甲が呟く。
「みんな下がって!」
会場にいた招待客達を下がらせる七月と学美。そして竜沢達と咲子が前に出る。
「咲ちゃんは下がれ!」
「グレイスの敵討ちです!」
竜沢の言葉を聞かず前に出る咲子に、やはりピクっとくる高瀬。
「ええい!わいもやるぞな!」
いつもは『流香の影』である高瀬が、咲子をかばう様に前に出た。
「ええい!生徒が危ないのにただ見てられるか!」
吉馬も、そして他のみんなも出ようとする。しかし…
「みんな!」
竜沢の大声に会場が静まる。
「気持ちだけはもらう。でもここは俺達に任せてくれ!だから…」
竜沢が不敵に笑む。皆、竜沢の次の一言を待つ!
「日替わり定食よろしく!グッと行くぞ!」
会場は大歓声!
「くそがぁ!」
黒服達が一斉に動く。
「へんっ!」
隆正が相手の前を走り回る。黒服達は動きを止められた。そこに甲と鏡が割って入り、それぞれ二人ずつにパンチを入れる。黒服四人が吹っ飛ぶ。そんな中、こそっと黒服の一人を後ろから椅子で殴り倒す竜沢。一瞬で黒服五人が倒れた。
「は、早い…」
残った黒服達はビビる。だが黒服達にはまだ奥の手『入道くん』が居るのだ。
「た、頼むぜ入道くん!」
「あー…」
ぬぅっと前に出る入道くん。
「でかいのが来るで!」
「ふん。独活の大木だ。」
「それお前が言う?」
と、少しニヤけた顔で言った隆正は甲に尻を蹴られた。
「いつもより強めぇ?!」
いつもより大きく素っ転ぶ隆正。
「やれやれ、遊んでる場合じゃないですよ。」
「あー!」
入道くんが走り出した。これが意外に早い。
「うおっ?!」
突進して来た入道くんを慌てて避ける竜沢。すると勢い余った入道くんは招待客の中へ突っ込んでしまった。
「ぎゃあああああー!」
「しまった!」
避けた事を悔やむ竜沢。入道くんに体当たりされた者は…
「つ、つるつるは嫌いだす…」
ばたっ。
「た、高瀬さぁん!」
気を失う高瀬に、駈け寄る咲子。
「何だ、高瀬か。」
ホッとする竜沢。
「しかしまずいぞ。あの巨体に体当たりされたらタダじゃ済まないが、避けたら避けたで他の人が巻き込まれる。」
「心配するな竜沢。俺が行く。」
「甲?」
「止める。」
甲は入道くんを受け止める気だ。
「甲くん、その右手はまだあまり動かせないでしょう。あの入道くんとかいう人の体当たりは見た目以上に破壊力高いですよ。」
「心配するな、腕は使わない。それに破壊力が高いといっても…」
「熊ほどじゃない…ですか?」
にっこりする鏡と、その鏡に対して笑みで答える甲。
「ああー!」
「来たで!」
入道くんの威圧感に、冷や汗を垂らす隆正。
「ぬぅうううぅ!」
甲は、そんな入道くんの突進を真正面から肩で受ける!そして…
「ぐっ!」
跳ね飛ばされるも、堪える甲。入道くんの方は転がっていた。
「甲!」
甲に駈け寄る隆正。
「ふん。」
自分の肩をパンパンと叩く甲。『大丈夫だ』というアピールだ。
「にゅ、入道くんの体当たりを防ぎやがった。」
これでもう入道くんの突進は通用しない。ビビった黒服達は徐々に後退する。その時、何かにぶつかった。
「気を付けたまえ。」
「え?う…うあっ!」
黒服が振り向き、恐怖の声を上げた。そこに立っていたのは…
「私は、スポーツを愛する男…」
まだ出るんですか。
「白仮面!」
「うわぁぁぁ!」
慌てて白仮面から離れる黒服達。
「し、白仮面?!白仮面が何故ここに?!」
「ふぅ~…竜沢くん、それは多分…」
流香は、白仮面が赤いネクタイをしている事に気付いてしまった。
「正装?!パーティー出たかったのぉ?!」
白仮面の服装(?)に驚き過ぎて、何故か咲子の様な口調になってしまう竜沢。
『じょ、上半身裸にネクタイ?!』
『裸に赤ネクタイ?!』
『仮面と赤ネクタイ!変人?!』
『変人だ!』
招待客は白仮面を変人と位置付けた。
黒服達は泡を吹きそうになりながら、後ずさりする。
「さ、咲子様…」
白仮面の後ろから傷を負ったグレイスが姿を出した。
「グレイス!大丈夫なのぉ?!」
駈け寄ろうとする咲子。
「やばい!咲ちゃん!」
「え?」
竜沢の声に、咲子は『はっ』とした。
戦場を通り抜けようとした咲子に、立ち上った入道くんが襲い掛かろうとしていたのだ!
「あー!」
「きゃあっ?!」
ズガァッ!
入道くんに体当たりされ、吹っ飛んだのは…
「がはっ…」
竜沢だった。
「竜沢さぁん?!」
竜沢は誰よりも早く入道くんと咲子の間に入り、咲子をかばった。入道くんの軌道を変える事は出来たが、自分自身はかなり吹っ飛ばされた。
「し、神ちゃん…」
七月はショックを受けた。何にショックを受けたのか…それは、七月自身にもよく分からなかった。
「神侍っ!」
「竜沢…」
「…やりましたね?」
隆正、甲、鏡がキレる。
「ふぅ~、膝、アゴ、脳天の順よ。」
流香の言葉に三人は反応。一斉に動き出し、入道くんを中心に三方に分かれた。
「おらぁ!」
まずは左背後に素早く回った隆正が、入道の左足の裏膝に蹴りを入れる。
「ああー?」
膝がガクっとなり、軽く前のめりになる入道くん。そこへ…
「さよなら。」
入道くんの顎に鏡の左アッパーが炸裂。
「ぐぶあああ!」
後方へ倒れていく入道くん。
「とどめだ。」
その入道くんの顔面へ、後方から甲のジャンピング手刀が入る。押し付ける様に入道くんをそのまま床へ叩き落す。
「ぐぷぷぅー!」
メリメリメリっと、入道くんの顔面に甲の手刀がめり込んでいた。
「ぶぶ、ぶ……ぶ……ぶ………」
入道くん…ゆっくりと沈黙。
「うおおおー!」
「やったー!」
大きく湧く招待客達。
「ふぅ~…膝、顎はいいけど最後のは脳天じゃなくて…顔面ね。」
そう言う流香に、甲は軽く答える。
「ちゃんと脳天を床で殴ったろ?」
「やれやれ。」
呆れ顔の流香。
「見事な組手であった!」
拍手する白仮面。ケンカを嫌がる白仮面はこの騒動を組手と称して正当化した。で、その白仮面の足元には残りの黒服達が転がっていた。これも組手というのか、白仮面?!
「片付けよ。」
白仮面が指をパチンッと鳴らすと、グレイス他数人の男達(園花邸の使用人達)が現れて黒服達と入道くんを運び去って行った。いつの間にか白仮面、グレイス達を使ってる。
これで片は付いた…かに見えたが、入道くん達が来たせいで決心しかけていた七月の気持ちが揺らいだ。
「いってて…」
「大丈夫ですかぁ?」
起き上がる竜沢と、傍で心配している咲子。そして、悪を退けた鏡達には会場から拍手の嵐。
「すごいぞ!」
「いいもん見せてもらったぜー!」
「素敵ぃ!」
相変わらずの人気ぶり。
「俺は寝てただけだが…ま、いいかっ。」
お気楽竜沢。
「あれ…?」
竜沢は七月が居ない事に気付いた。
「七月はどこ行った?」
「え?」
竜沢に聞かれて辺りを見回す流香だが、七月が見当たらない。
その頃七月は、園花邸から自宅への帰り道をトボトボと一人で歩いていた。
「…ふぅ。」
七月の脳裏には、入道くんから咲子をかばった竜沢の姿が映っていた。何度も何度も流れる、咲子をかばう竜沢の映像。七月は、自分でも理由は分からなかったが、泣きたい気持ちになっていた。
「…そりゃそうだよね。」
誰に言うでもなく、ボソっと呟く七月。誰であろうが、竜沢が女の子をかばうのは当たり前である。それは分かっている…が、何かが心に引っ掛かってしまう。
ただ今は、一人になりたい気分だったのだ。そこへ…
「七月!」
「?!」
竜沢の声に、びくっとする七月。
「待てよ!」
走り寄って七月の肩に手を置く竜沢。
「…な、何?」
振り向かずに答える七月。精一杯の返事だった。声が少し震えていた。
「な、何って…いや、急に居なくなるから。」
竜沢も、普通とは違う雰囲気の七月に戸惑っていた。
「そう。」
「そうって…どうしたんだよ?」
「別にどうもしないよ。」
七月は竜沢に背を向けたまま、歩き出した。
「いや、でも…」
「神ちゃんさ…」
「…え?」
竜沢の少し前を歩く七月。二人、顔は見合わせない。
「…」
「…何だよ?」
「私っ!」
急に大きな声を出して自分の方を向く七月に、竜沢は驚いて固まる。
「なっ!…んだ?」
「…引っ越すの。」
「……………え?」
物凄い間の後、半口を開く竜沢。
「私、引っ越すの。」
ラッピングされた小さな箱を竜沢に押し付け、泣きそうな笑顔を見せた七月は、また背を向けた。竜沢は何も言えずに箱を受け取っていた。言葉が出ない。
「あと、私……」
そこから七月も言葉が出ない。しばらく固まる竜沢と七月。
「…じゃあねっ。」
結局何も言えず、やや駆け足で去って行く七月と、それをただ黙って見送ってしまった竜沢であった。
一方、園花邸では…
「もういっぺん言うてくれ!」
隆正が吠えていた。
「言ってやろう。」
「何も踏ん反り返らなくても…」
偉そうに踏ん反り返る甲に呆れた様に言う鏡。
「北神七月は、竜沢神侍を………という事だ。」
踏ん反り返ってる割に中途半端なセリフ。しかも何故か少し赤くなっている甲。
「あー、もうっ。つまりね、隆正くん…」
「もうええ。」
流香の言葉を止める隆正は、いつになく真剣な表情であった。
「充分理解したわい。ま、分かってたけどな。」
「ほう?」
隆正が気付いていた事に感心する甲。
「俺かてそれぐらい分かるわいっ。」
いつもの威勢なく、うつむきながらの隆正。
「バナナ食うか?」
「何でやねん。しかも食いさし。」
肩に手を置いて半分食べたバナナを差し出す甲に対し、目を細めて静かにツッコむ隆正。
「ほんで…当の本人は?七月さんの気持ちに気付いとるんか?」
「お前も知っての通り…だな。」
甲の言葉に、『ちっ』という表情の隆正。
「まぁ…本人達に任せるしかない、ですかね。」
複雑な気持ちの鏡達だった。
結局竜沢も七月もパーティー会場には戻らなかったが、とりあえずそのままパーティーは続けられ、最後は白仮面が『白仮面武闘会』なる謎の歌を歌い(作詞作曲・白仮面)幕を閉じたのであった。
園花邸には、数多くの龍青学園関係者らも集まっていた。そして当然、この連中も居る。
「メリークリスマぁース!」
シャンパンで乾杯をする竜沢達。
「いや~、メリクリですなぁ。」
「ほんに、メリスマですなぁ。」
訳の分からない事を言いながらケーキを手に取る竜沢と隆正。
薄く水色がかったシャツに紺色のジャケット、白のスラックスをはいている竜沢と、グレーのシャツに赤系のネクタイ、同じく白のスラックスをはいている隆正。
二人とも洒落た格好をしているが、中身は全く変わらない。
「はぁ、さすがに咲ちゃん家のクリスマスパーティーね。」
五十人位の招待客と、凄い量の豪華料理や室内を彩る数々の装飾品等に驚いている流香。おまけに舞台まである。
流香は、濃いブルーグリーンのワンピースから黒のストッキングをはいた細く長い脚を出している。かかとの高いグリーンの靴を履いているので、一層その美脚が映える。緑色の輝石が装飾されたイヤリングをしており、髪はアップにしているため綺麗なうなじが露わになっている。
招待客の男性陣から相当注目されているが、本人は一切興味無し。
「どの料理も美味いねー。」
豪華料理を食いまくってる学美。流香に借りたワインレッドのワンピースにかかと低めのブラウンの靴を履いている。襟やスカートの裾部分にはベージュのフリフリが若干付いていて可愛いのだが、バクバク食う姿は可愛いとは程遠い。しかしそのギャップが良いのか、それとも元々化粧映えする綺麗な顔付きからか、こちらも男性陣の注目を浴びている。
「凄い食欲…いえ、凄いスケールですね。…ところで、七月さんは本当に来るんですか?」
鏡はグラスを片手に、見事な食いっぷりの学美を見ながら不安げな表情の流香に聞いた。ちなみに鏡、白のシャツに黒のスラックス、グレーのジャケットを着ている。シンプル・イズ・ベスト。当然招待客の女性陣からかなり注目されている。
「…うん、多分。」
うつむく流香。直前に、少し遅れると電話で伝えてきた七月の事を心配していた。
そして、皆と全く絡まずただひたすら豪華な料理を食いまくっている甲。薄いグレーのシャツに黒のジャケット、そして黒のスラックスをはいている甲。こちらも地味だが、その身長とスタイルと食いっぷりから女性陣の注目高し。
で、その頃の七月。
「う~ん…」
実はもう園花邸の門前にいた。
紫っぽいワンピースの上からフカフカの襟が付いた白のコートを来ている。黒のストッキングにワインレッドの靴。服装としてはパーティに出る気満々なのだが…。
「う~ん…」
レース付きの黒い手袋をつけた手には、綺麗に包装した小さな箱が持たれていた。
今、七月の脳裏には色々な事が浮かんでいた。竜沢の事、咲子の事…その中でも、咲子とのテニス勝負の事は強烈に焼き付いている。
七月は自分の掌を見た。微妙に震えている。そしてその手を強く握る七月。
「…うんっ!」
決意し、門番の男性の前に立つ七月。
「いらっしゃいませ、北神様。」
「こんばんは、えっと…グレイスさん。」
七月は門番のグレイスさんの横を通り抜け、園花邸に入った。
なぜグレイスを知っているのか…それは招待状に顔写真付きで載っていたからだ。ちなみにグレイスさん、男前(三十代後半)である。
「…行くぞ。」
七月が入った数分後、複数の妖しい影が門番のグレイスに近付いて行く。
「…あなた方は御招待されていませんね。お帰り下さい。」
そう言い放ったグレイスは、ゆっくりと一歩前に出る。
「くっくっくっ…おい!入道くん!」
黒服の男達の後方から、頭二つ分くらいでかい坊主頭の男が前に出た。
「あー…あー…」
入道くんが妙な声を出しながら、グレイスに迫る。
パーティー会場内
「さぁ、盛り上がってきましたー!次は誰に歌ってもらいましょうか?!」
なぜか龍青放送部の友美と鈴美が司会を務め、カラオケ大会が開催されている。
「あ…。」
そんな中、会場に七月が入って来たのを舞台上で放送部と共に座っていた咲子が見付けた。
咲子はピンクのフリフリドレスである。ひそひそと放送部の友美に何かを話す咲子。
「えー、ここで飛び入りでーす!龍青学園の遊び人ナンバーワ…もとい。モテモテナンバーワン!北神七月さんでーす!では歌って頂きましょう!」
「おおー!」
会場からの驚きの声…とはまた別な驚きの声を出したのは七月。
「…へ?!」
いきなりスポットライトを浴び、思いっ切り目が点の七月。
「んっ?」
チキンを食らっていた竜沢は、いつもと違う七月に一瞬目を奪われた。フリフリドレスという訳ではないが明らかにパーティー系な服装、薄く色の付いたリップ、いつもと違うヘアアクセサリー…全てが竜沢の心を揺さぶる。
「竜沢くん、チキンが口からこぼれ落ちますよ。」
「うっ!」
突然横に現れてツッコむ鏡に、驚いて口をおさえる竜沢。
「さぁ七月先輩っ。」
「ちょ、ちょっと…」
そんな中咲子は素早く七月に近付き、強引に舞台まで引っ張って行こうとしていた。咲子の企みは何となく七月も分かっていて、流れのままに舞台まで引っ張られて行く。
「さぁてとぉ…」
七月を舞台に上げ、マイクを握る咲子。
「七月先輩のデュエットのお相手はぁ…」
〝デュエットなのか?!〟
〝いつの間にかデュエットになっている?!〟
会場の人々も咲子のペースに乗せられている。
「さ、咲ちゃん、やっぱり止めない?」
どこかで観念している七月だが、ちょっと抵抗。
「お相手はぁ…」
そんな往生際の悪い七月に止めを刺すべく、強引に進める咲子。
その時!
「おらおらぁ!」
「どけぇ!」
黒服集団が現れた。ザワつく会場。
「な、何?!」
流香達も入口の方を見る。
「お前らだけで楽しんでんじゃねぇ!」
「出て来いやぁ!GCSA!」
その黒服はよく見ると黒点塾の制服であった。そして目的は竜沢達。
「何やお前らは?!」
相も変わらず威勢はいい隆正が前に出る。
「俺達は黒点塾の塾生…だった。」
「だった?つまり黒点塾を退塾したということですか。」
鏡の言葉に無言で答える黒服集団。
「何やて?!何でや!黒点塾はこれから生まれ変わるとこやのに!」
「うるせぇ!あんな腑抜け野郎はいらねぇんだよ!」
その言葉を聞き、流香は読み取った。
「ふぅ~、ブラックマスク信者ね。」
「ブラックマスク信者?そりゃつまり今の黒点塾を良しとしない奴らって事か?」
竜沢の言葉にうなずく流香。
「あなた達なんて呼んでないです!グレイスはどうしたんですか?!」
咲子がめずらしく声を張り上げ、黒服集団の前に出て行く。
「グレイスぅ?あぁ、あの門の所にいた野郎か。そんなもん、この入道くんの一発で吹っ飛んだぜ!」
一番最後に大男が会場に入って来た。
「でかっ!」
二メートル位はあるであろう身長の入道くんに驚く隆正。
「そんな…グレイスが…」
青ざめる咲子。それを見て何故かピクっとくる高瀬。
「く…とにかく相手になってやる!だから他の者に手を出すな!」
「けっ…ムカつくぜ、竜沢。」
「偽善者が!」
黒服二人が竜沢に襲いかかろうとしたその瞬間、間に鏡が入る。
「偽善者?」
パァン!という鋭い音が響き渡り、黒服の一人が倒れた。鏡の右ストレートが入ったのだ。
「ムカつくのはこっちの方ですよ。」
竜沢をけなされて怒っている鏡。会場からは一瞬の間をおいてからの大歓声。
「くっ…にゅ、入道くん!入道くん!」
助けを求める黒服達。ぬううっと前に出る入道くん。
「あー…」
坊主頭の大男、入道くん…本名『入江(いりえ)良道(よしみち)』。黒点塾対GCSAの決戦の朝、実は塾生寮で寝坊(戦いの最初から最後まで寝坊)していた男である。そのタフさとパワーとスピードは、音根兄弟を遥かに凌ぐ……かもしれない。
「俺達は貴様らを倒し、第二の黒点塾を作る!」
「訳の分からん事を。」
甲が呟く。
「みんな下がって!」
会場にいた招待客達を下がらせる七月と学美。そして竜沢達と咲子が前に出る。
「咲ちゃんは下がれ!」
「グレイスの敵討ちです!」
竜沢の言葉を聞かず前に出る咲子に、やはりピクっとくる高瀬。
「ええい!わいもやるぞな!」
いつもは『流香の影』である高瀬が、咲子をかばう様に前に出た。
「ええい!生徒が危ないのにただ見てられるか!」
吉馬も、そして他のみんなも出ようとする。しかし…
「みんな!」
竜沢の大声に会場が静まる。
「気持ちだけはもらう。でもここは俺達に任せてくれ!だから…」
竜沢が不敵に笑む。皆、竜沢の次の一言を待つ!
「日替わり定食よろしく!グッと行くぞ!」
会場は大歓声!
「くそがぁ!」
黒服達が一斉に動く。
「へんっ!」
隆正が相手の前を走り回る。黒服達は動きを止められた。そこに甲と鏡が割って入り、それぞれ二人ずつにパンチを入れる。黒服四人が吹っ飛ぶ。そんな中、こそっと黒服の一人を後ろから椅子で殴り倒す竜沢。一瞬で黒服五人が倒れた。
「は、早い…」
残った黒服達はビビる。だが黒服達にはまだ奥の手『入道くん』が居るのだ。
「た、頼むぜ入道くん!」
「あー…」
ぬぅっと前に出る入道くん。
「でかいのが来るで!」
「ふん。独活の大木だ。」
「それお前が言う?」
と、少しニヤけた顔で言った隆正は甲に尻を蹴られた。
「いつもより強めぇ?!」
いつもより大きく素っ転ぶ隆正。
「やれやれ、遊んでる場合じゃないですよ。」
「あー!」
入道くんが走り出した。これが意外に早い。
「うおっ?!」
突進して来た入道くんを慌てて避ける竜沢。すると勢い余った入道くんは招待客の中へ突っ込んでしまった。
「ぎゃあああああー!」
「しまった!」
避けた事を悔やむ竜沢。入道くんに体当たりされた者は…
「つ、つるつるは嫌いだす…」
ばたっ。
「た、高瀬さぁん!」
気を失う高瀬に、駈け寄る咲子。
「何だ、高瀬か。」
ホッとする竜沢。
「しかしまずいぞ。あの巨体に体当たりされたらタダじゃ済まないが、避けたら避けたで他の人が巻き込まれる。」
「心配するな竜沢。俺が行く。」
「甲?」
「止める。」
甲は入道くんを受け止める気だ。
「甲くん、その右手はまだあまり動かせないでしょう。あの入道くんとかいう人の体当たりは見た目以上に破壊力高いですよ。」
「心配するな、腕は使わない。それに破壊力が高いといっても…」
「熊ほどじゃない…ですか?」
にっこりする鏡と、その鏡に対して笑みで答える甲。
「ああー!」
「来たで!」
入道くんの威圧感に、冷や汗を垂らす隆正。
「ぬぅうううぅ!」
甲は、そんな入道くんの突進を真正面から肩で受ける!そして…
「ぐっ!」
跳ね飛ばされるも、堪える甲。入道くんの方は転がっていた。
「甲!」
甲に駈け寄る隆正。
「ふん。」
自分の肩をパンパンと叩く甲。『大丈夫だ』というアピールだ。
「にゅ、入道くんの体当たりを防ぎやがった。」
これでもう入道くんの突進は通用しない。ビビった黒服達は徐々に後退する。その時、何かにぶつかった。
「気を付けたまえ。」
「え?う…うあっ!」
黒服が振り向き、恐怖の声を上げた。そこに立っていたのは…
「私は、スポーツを愛する男…」
まだ出るんですか。
「白仮面!」
「うわぁぁぁ!」
慌てて白仮面から離れる黒服達。
「し、白仮面?!白仮面が何故ここに?!」
「ふぅ~…竜沢くん、それは多分…」
流香は、白仮面が赤いネクタイをしている事に気付いてしまった。
「正装?!パーティー出たかったのぉ?!」
白仮面の服装(?)に驚き過ぎて、何故か咲子の様な口調になってしまう竜沢。
『じょ、上半身裸にネクタイ?!』
『裸に赤ネクタイ?!』
『仮面と赤ネクタイ!変人?!』
『変人だ!』
招待客は白仮面を変人と位置付けた。
黒服達は泡を吹きそうになりながら、後ずさりする。
「さ、咲子様…」
白仮面の後ろから傷を負ったグレイスが姿を出した。
「グレイス!大丈夫なのぉ?!」
駈け寄ろうとする咲子。
「やばい!咲ちゃん!」
「え?」
竜沢の声に、咲子は『はっ』とした。
戦場を通り抜けようとした咲子に、立ち上った入道くんが襲い掛かろうとしていたのだ!
「あー!」
「きゃあっ?!」
ズガァッ!
入道くんに体当たりされ、吹っ飛んだのは…
「がはっ…」
竜沢だった。
「竜沢さぁん?!」
竜沢は誰よりも早く入道くんと咲子の間に入り、咲子をかばった。入道くんの軌道を変える事は出来たが、自分自身はかなり吹っ飛ばされた。
「し、神ちゃん…」
七月はショックを受けた。何にショックを受けたのか…それは、七月自身にもよく分からなかった。
「神侍っ!」
「竜沢…」
「…やりましたね?」
隆正、甲、鏡がキレる。
「ふぅ~、膝、アゴ、脳天の順よ。」
流香の言葉に三人は反応。一斉に動き出し、入道くんを中心に三方に分かれた。
「おらぁ!」
まずは左背後に素早く回った隆正が、入道の左足の裏膝に蹴りを入れる。
「ああー?」
膝がガクっとなり、軽く前のめりになる入道くん。そこへ…
「さよなら。」
入道くんの顎に鏡の左アッパーが炸裂。
「ぐぶあああ!」
後方へ倒れていく入道くん。
「とどめだ。」
その入道くんの顔面へ、後方から甲のジャンピング手刀が入る。押し付ける様に入道くんをそのまま床へ叩き落す。
「ぐぷぷぅー!」
メリメリメリっと、入道くんの顔面に甲の手刀がめり込んでいた。
「ぶぶ、ぶ……ぶ……ぶ………」
入道くん…ゆっくりと沈黙。
「うおおおー!」
「やったー!」
大きく湧く招待客達。
「ふぅ~…膝、顎はいいけど最後のは脳天じゃなくて…顔面ね。」
そう言う流香に、甲は軽く答える。
「ちゃんと脳天を床で殴ったろ?」
「やれやれ。」
呆れ顔の流香。
「見事な組手であった!」
拍手する白仮面。ケンカを嫌がる白仮面はこの騒動を組手と称して正当化した。で、その白仮面の足元には残りの黒服達が転がっていた。これも組手というのか、白仮面?!
「片付けよ。」
白仮面が指をパチンッと鳴らすと、グレイス他数人の男達(園花邸の使用人達)が現れて黒服達と入道くんを運び去って行った。いつの間にか白仮面、グレイス達を使ってる。
これで片は付いた…かに見えたが、入道くん達が来たせいで決心しかけていた七月の気持ちが揺らいだ。
「いってて…」
「大丈夫ですかぁ?」
起き上がる竜沢と、傍で心配している咲子。そして、悪を退けた鏡達には会場から拍手の嵐。
「すごいぞ!」
「いいもん見せてもらったぜー!」
「素敵ぃ!」
相変わらずの人気ぶり。
「俺は寝てただけだが…ま、いいかっ。」
お気楽竜沢。
「あれ…?」
竜沢は七月が居ない事に気付いた。
「七月はどこ行った?」
「え?」
竜沢に聞かれて辺りを見回す流香だが、七月が見当たらない。
その頃七月は、園花邸から自宅への帰り道をトボトボと一人で歩いていた。
「…ふぅ。」
七月の脳裏には、入道くんから咲子をかばった竜沢の姿が映っていた。何度も何度も流れる、咲子をかばう竜沢の映像。七月は、自分でも理由は分からなかったが、泣きたい気持ちになっていた。
「…そりゃそうだよね。」
誰に言うでもなく、ボソっと呟く七月。誰であろうが、竜沢が女の子をかばうのは当たり前である。それは分かっている…が、何かが心に引っ掛かってしまう。
ただ今は、一人になりたい気分だったのだ。そこへ…
「七月!」
「?!」
竜沢の声に、びくっとする七月。
「待てよ!」
走り寄って七月の肩に手を置く竜沢。
「…な、何?」
振り向かずに答える七月。精一杯の返事だった。声が少し震えていた。
「な、何って…いや、急に居なくなるから。」
竜沢も、普通とは違う雰囲気の七月に戸惑っていた。
「そう。」
「そうって…どうしたんだよ?」
「別にどうもしないよ。」
七月は竜沢に背を向けたまま、歩き出した。
「いや、でも…」
「神ちゃんさ…」
「…え?」
竜沢の少し前を歩く七月。二人、顔は見合わせない。
「…」
「…何だよ?」
「私っ!」
急に大きな声を出して自分の方を向く七月に、竜沢は驚いて固まる。
「なっ!…んだ?」
「…引っ越すの。」
「……………え?」
物凄い間の後、半口を開く竜沢。
「私、引っ越すの。」
ラッピングされた小さな箱を竜沢に押し付け、泣きそうな笑顔を見せた七月は、また背を向けた。竜沢は何も言えずに箱を受け取っていた。言葉が出ない。
「あと、私……」
そこから七月も言葉が出ない。しばらく固まる竜沢と七月。
「…じゃあねっ。」
結局何も言えず、やや駆け足で去って行く七月と、それをただ黙って見送ってしまった竜沢であった。
一方、園花邸では…
「もういっぺん言うてくれ!」
隆正が吠えていた。
「言ってやろう。」
「何も踏ん反り返らなくても…」
偉そうに踏ん反り返る甲に呆れた様に言う鏡。
「北神七月は、竜沢神侍を………という事だ。」
踏ん反り返ってる割に中途半端なセリフ。しかも何故か少し赤くなっている甲。
「あー、もうっ。つまりね、隆正くん…」
「もうええ。」
流香の言葉を止める隆正は、いつになく真剣な表情であった。
「充分理解したわい。ま、分かってたけどな。」
「ほう?」
隆正が気付いていた事に感心する甲。
「俺かてそれぐらい分かるわいっ。」
いつもの威勢なく、うつむきながらの隆正。
「バナナ食うか?」
「何でやねん。しかも食いさし。」
肩に手を置いて半分食べたバナナを差し出す甲に対し、目を細めて静かにツッコむ隆正。
「ほんで…当の本人は?七月さんの気持ちに気付いとるんか?」
「お前も知っての通り…だな。」
甲の言葉に、『ちっ』という表情の隆正。
「まぁ…本人達に任せるしかない、ですかね。」
複雑な気持ちの鏡達だった。
結局竜沢も七月もパーティー会場には戻らなかったが、とりあえずそのままパーティーは続けられ、最後は白仮面が『白仮面武闘会』なる謎の歌を歌い(作詞作曲・白仮面)幕を閉じたのであった。
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