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第二章
お掃除とお家
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着いた先は中庭だった。客間から見下ろした時と同じく、選手たちの乗ってきた大型の馬車が間隔を開けて駐車されている。
違うのはその間に大きな桶や洗剤らしい液体の入った手桶、ブラシや手ぬぐいなどが設置されていることだ。
「それでは……始めたいと思います!」
そんな声が響き、中庭の門からとある一団が列を作って更新してきた。たくましい体に牛の頭。先日死闘を繰り広げた、あのミノタウロス女子(たぶん)である。
ただ装いが違った。今日はユニフォームでも鎧甲でもなく布面積の少ない水着……ビキニを装着しているのである!
「やーん、今日はギャラリー多い!」
「シーズン最後だもんね! 精一杯やるので宜しくお願いしまーす!」
ビキニをまとったミノタウロス女子(たぶん)である。
「はい。宜しくお願いします」
ダリオさんがエルフを代表して頭を下げる。それを合図に、ビキニをまとったミノタウロス女子(たぶん)がそれぞれ道具を手に、馬車を洗い始めた。
「こっこれは……」
「どうだ監督殿? 地球ではセンシャなど見慣れておるかもしれんが、これもなかなかの迫力であろう」
いや観たことないわ、こんなん!
「うんしょ! うんしょ!」
「きゃ! 泡が顔についちゃった~」
ビキニをまとったミノタウロス女子が泡まみれになりながら、きゃっきゃうふうふと馬車を洗う。盛り上がった筋肉から産み出される力強いストロークによって車体の汚れはみるみる落ちていく。確かに凄い迫力だ。
「やばい、上が外れそう」
「ミーちゃんお尻に泡がついてる! なんだか尻尾みたい」
いや最初から尻尾あるやろ。てか昔の洋楽の脳天気MVみたいだ……気づけばティアさんが、相方に別のエルフをつけて80年代ロックみたいな曲を演奏している。なんやその対応力。
「これ、毎回負けたチームがやるんすか?」
「ああ、そうだ。勝利チームを称える大事な儀式と聞いておるぞ」
「センシャ……戦車……洗車、そうか」
戦車が存在しないこの世界にセンシャをねじ込む苦肉の策かクラマさん……! ガ○パンおじさんではあるがまともな人だったと信じてたのに……裏切られた!
「じゃあ負けたらウチのチームも?」
「当然だ。自慢だがギャラリーはもっと多いぞ」
自慢すな。でも分かる。カイヤさんやダリオさんが水着姿で泡まみれになってゴシゴシと……。
いや知らなくて良かった。先にこの情報を聞いていたら、「勝ちたい」て気持ちにほんの少しだが陰りが出てたかもしれない。
「なんだかあの人間、ずっとノーちゃんのこと観てない?」
「本当だ! 目つきがいやらしいー!」
観とらんわ。てか観てたいのはホルスさん――あのハーフミノタウロスさん――一択だ。凹凸のはっきりした反則ボディ(反則ではない)と童顔がビキニ姿で躍動している。我らがエルフ代表にも負けない破壊力。
他の子より筋力に劣る彼女は、今日は洗剤を混ぜたり水を変えたりする作業に専念している。バケツの中で波打つ液体と外で波打つ胸。あーこれが「水を運ぶ選手」ってやつですね? ってやかましいわ!
「監督、そろそろ良いのではないか?」
鼻の下を伸ばす俺にレブロン王が言う。
「え? 終了の合図って俺なんですか?」
「ああ」
そういう情報は早く言えや。
「そうですか……」
「……」
「ふむん……」
「……」
「なるほど……」
「……もう少し観ていたいのかな?」
「あ、はい! いえ、結構です! お疲れさまでした!」
俺の言葉でミノタウロスチームは手を止め、ギャラリーに手を振りながら去っていく。ギャラリーも口々に満足の声を呟きながら去る。
後には、凄いモノを見せられて複雑な心境の俺とピッカピカになった馬車数台が残された。
酒と風景による酔いでその日を無駄に凄し、翌日からは家探しが始まった。またこの日から翻訳魔法が封じ込められたネックレスも到着し、通訳や朝の儀式――侍従さんと筆談からの魔法――も不要になった。
監督として仕事するにも一個人として生活するにも拠点となる家は大事である。最初にダリオさんにお勧めされた「王城内に住む」は丁重にお断りした。エルフサッカードウ協会とのやりとりや生活の利便性、城の中にいるという安全面の高さは捨て難いものがあるが、それ以上に俺の心労が計り知れない。何の心労かはもう言わずとも分かるだろう。
次いでお勧めされたのは王城に近い高級住宅街だ。利便性を保ちつつ城とも少し距離を保てる。その部分は非常に魅力だったが、こちとら半生を男子寮で暮らしてきた人間である。高級住宅街の豪邸はいくら仕事スペースで何部屋か潰せると言っても、あまりにも広く落ち着けそうになかった。
同行したナリンさん――通訳は不要になったが個人マネージャーとしての仕事はもう始まっていた――が控え目に同居を申し出たが、流石に受け入れる訳にはいかない。
最終的に俺は森に住むこととなった。
グリフォン上から見た通り、都は大きな湖の西にある。名をシソッ湖というその湖は反対の東側に大きな森を抱えており、大部分が王家の保護地として所有されている。なお代表チームの練習場、通称「エルヴィレッジ」もその中の開けた部分にあり、周囲の雑音から隔絶された絶好のロケーションとなっていた。
俺の住居はそれより都よりの、湖畔にあるツリーハウスになった。そう、ツリーハウス。樹上の別荘、少年の秘密基地。
もともとデイエルフたちはツリーハウスに住むのが一般的であり、その出来はトムソーヤが夏休みに作るのとは雲泥の差だった。
デイエルフ秘伝の自然魔術――ドーンエルフが使う魔法らしい魔法とはまた違った秘術――と加工技術を使った建築は堅牢にして優美。無理無く自然に溶け込み遠くからは生い茂る樹木に隠れて見えないほどであるが、しっかりと固定され風雨にもびくともしない作りだ。
しかも俺の家は「あり得ない嵐で木の上まで吹き飛ばされた海賊船」という地球にもありそうなお伽噺のような船型。船長室がサラマンダー(火の精霊)を閉じこめた魔法の暖炉付き寝室兼書斎。その前室が執務室で海図を広げる大机があり、それはそのままフォーメーション図を置けるほどの大きさ。他に小さな食堂兼キッチンや客間もあり、数人なら泊める事も可能。
上甲板もちゃんと存在しそこで食事や昼寝もできる。そして舳先は大木の枝と一緒に大きく湖上に迫り出し、そこから釣り竿を垂れて釣りができるほど。地上8m湖面からは11mなので勇気があれば飛び込む事もできる。
またこちらは地上になってしまうが、枝と梯子を伝って降りた先には湖以外からは見えない角度にトイレと風呂がある。先ほどの暖炉で沸かしたお湯を滑車とバケツを駆使して湯船に注げばアツアツのお風呂にだって入れる。湖を見ながらの入浴は最高だろう。
「なんということでしょう! こんな所にも匠の心遣いが!」
「ショーキチ殿、どうされますか?」
内覧時、部屋を回りつつサザ○さん声で感嘆している俺にナリンさんが尋ねた。
「ここにします! 抜群です!」
即決だった。そもそも森も建築も王家、つまりはエルフサッカードウ協会の所有物だったので家賃もゼロ。練習場へも徒歩5分。最高だ。
「良かった。私の家も近所ですので……食事なども一緒にできますね」
俺は住居と同時にご近所さんも手に入れる事となった。
違うのはその間に大きな桶や洗剤らしい液体の入った手桶、ブラシや手ぬぐいなどが設置されていることだ。
「それでは……始めたいと思います!」
そんな声が響き、中庭の門からとある一団が列を作って更新してきた。たくましい体に牛の頭。先日死闘を繰り広げた、あのミノタウロス女子(たぶん)である。
ただ装いが違った。今日はユニフォームでも鎧甲でもなく布面積の少ない水着……ビキニを装着しているのである!
「やーん、今日はギャラリー多い!」
「シーズン最後だもんね! 精一杯やるので宜しくお願いしまーす!」
ビキニをまとったミノタウロス女子(たぶん)である。
「はい。宜しくお願いします」
ダリオさんがエルフを代表して頭を下げる。それを合図に、ビキニをまとったミノタウロス女子(たぶん)がそれぞれ道具を手に、馬車を洗い始めた。
「こっこれは……」
「どうだ監督殿? 地球ではセンシャなど見慣れておるかもしれんが、これもなかなかの迫力であろう」
いや観たことないわ、こんなん!
「うんしょ! うんしょ!」
「きゃ! 泡が顔についちゃった~」
ビキニをまとったミノタウロス女子が泡まみれになりながら、きゃっきゃうふうふと馬車を洗う。盛り上がった筋肉から産み出される力強いストロークによって車体の汚れはみるみる落ちていく。確かに凄い迫力だ。
「やばい、上が外れそう」
「ミーちゃんお尻に泡がついてる! なんだか尻尾みたい」
いや最初から尻尾あるやろ。てか昔の洋楽の脳天気MVみたいだ……気づけばティアさんが、相方に別のエルフをつけて80年代ロックみたいな曲を演奏している。なんやその対応力。
「これ、毎回負けたチームがやるんすか?」
「ああ、そうだ。勝利チームを称える大事な儀式と聞いておるぞ」
「センシャ……戦車……洗車、そうか」
戦車が存在しないこの世界にセンシャをねじ込む苦肉の策かクラマさん……! ガ○パンおじさんではあるがまともな人だったと信じてたのに……裏切られた!
「じゃあ負けたらウチのチームも?」
「当然だ。自慢だがギャラリーはもっと多いぞ」
自慢すな。でも分かる。カイヤさんやダリオさんが水着姿で泡まみれになってゴシゴシと……。
いや知らなくて良かった。先にこの情報を聞いていたら、「勝ちたい」て気持ちにほんの少しだが陰りが出てたかもしれない。
「なんだかあの人間、ずっとノーちゃんのこと観てない?」
「本当だ! 目つきがいやらしいー!」
観とらんわ。てか観てたいのはホルスさん――あのハーフミノタウロスさん――一択だ。凹凸のはっきりした反則ボディ(反則ではない)と童顔がビキニ姿で躍動している。我らがエルフ代表にも負けない破壊力。
他の子より筋力に劣る彼女は、今日は洗剤を混ぜたり水を変えたりする作業に専念している。バケツの中で波打つ液体と外で波打つ胸。あーこれが「水を運ぶ選手」ってやつですね? ってやかましいわ!
「監督、そろそろ良いのではないか?」
鼻の下を伸ばす俺にレブロン王が言う。
「え? 終了の合図って俺なんですか?」
「ああ」
そういう情報は早く言えや。
「そうですか……」
「……」
「ふむん……」
「……」
「なるほど……」
「……もう少し観ていたいのかな?」
「あ、はい! いえ、結構です! お疲れさまでした!」
俺の言葉でミノタウロスチームは手を止め、ギャラリーに手を振りながら去っていく。ギャラリーも口々に満足の声を呟きながら去る。
後には、凄いモノを見せられて複雑な心境の俺とピッカピカになった馬車数台が残された。
酒と風景による酔いでその日を無駄に凄し、翌日からは家探しが始まった。またこの日から翻訳魔法が封じ込められたネックレスも到着し、通訳や朝の儀式――侍従さんと筆談からの魔法――も不要になった。
監督として仕事するにも一個人として生活するにも拠点となる家は大事である。最初にダリオさんにお勧めされた「王城内に住む」は丁重にお断りした。エルフサッカードウ協会とのやりとりや生活の利便性、城の中にいるという安全面の高さは捨て難いものがあるが、それ以上に俺の心労が計り知れない。何の心労かはもう言わずとも分かるだろう。
次いでお勧めされたのは王城に近い高級住宅街だ。利便性を保ちつつ城とも少し距離を保てる。その部分は非常に魅力だったが、こちとら半生を男子寮で暮らしてきた人間である。高級住宅街の豪邸はいくら仕事スペースで何部屋か潰せると言っても、あまりにも広く落ち着けそうになかった。
同行したナリンさん――通訳は不要になったが個人マネージャーとしての仕事はもう始まっていた――が控え目に同居を申し出たが、流石に受け入れる訳にはいかない。
最終的に俺は森に住むこととなった。
グリフォン上から見た通り、都は大きな湖の西にある。名をシソッ湖というその湖は反対の東側に大きな森を抱えており、大部分が王家の保護地として所有されている。なお代表チームの練習場、通称「エルヴィレッジ」もその中の開けた部分にあり、周囲の雑音から隔絶された絶好のロケーションとなっていた。
俺の住居はそれより都よりの、湖畔にあるツリーハウスになった。そう、ツリーハウス。樹上の別荘、少年の秘密基地。
もともとデイエルフたちはツリーハウスに住むのが一般的であり、その出来はトムソーヤが夏休みに作るのとは雲泥の差だった。
デイエルフ秘伝の自然魔術――ドーンエルフが使う魔法らしい魔法とはまた違った秘術――と加工技術を使った建築は堅牢にして優美。無理無く自然に溶け込み遠くからは生い茂る樹木に隠れて見えないほどであるが、しっかりと固定され風雨にもびくともしない作りだ。
しかも俺の家は「あり得ない嵐で木の上まで吹き飛ばされた海賊船」という地球にもありそうなお伽噺のような船型。船長室がサラマンダー(火の精霊)を閉じこめた魔法の暖炉付き寝室兼書斎。その前室が執務室で海図を広げる大机があり、それはそのままフォーメーション図を置けるほどの大きさ。他に小さな食堂兼キッチンや客間もあり、数人なら泊める事も可能。
上甲板もちゃんと存在しそこで食事や昼寝もできる。そして舳先は大木の枝と一緒に大きく湖上に迫り出し、そこから釣り竿を垂れて釣りができるほど。地上8m湖面からは11mなので勇気があれば飛び込む事もできる。
またこちらは地上になってしまうが、枝と梯子を伝って降りた先には湖以外からは見えない角度にトイレと風呂がある。先ほどの暖炉で沸かしたお湯を滑車とバケツを駆使して湯船に注げばアツアツのお風呂にだって入れる。湖を見ながらの入浴は最高だろう。
「なんということでしょう! こんな所にも匠の心遣いが!」
「ショーキチ殿、どうされますか?」
内覧時、部屋を回りつつサザ○さん声で感嘆している俺にナリンさんが尋ねた。
「ここにします! 抜群です!」
即決だった。そもそも森も建築も王家、つまりはエルフサッカードウ協会の所有物だったので家賃もゼロ。練習場へも徒歩5分。最高だ。
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