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第八章
緊急会議その1
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「申し訳ありません!」
翌朝。締め切った作戦室で開催された緊急コーチミーティングの冒頭で、ダリオさんが全力の謝罪を行った。
「そうか……」
「マジなんじゃな……」
「展開、速いっすね」
「姫、そう気になさらずに」
「そうそう、なんとかニャルさ」
ザックコーチ、ジノリコーチ、アカリスカウトがそれぞれの反応をし、ナリンさんとニャイアーコーチがダリオさんに慰めの声をかけた。
「いえ、全てわたくしの不徳の致すところで……」
俺たちはコーチ陣に、ドワーフ代表との試合が決まった経緯――酔った勢いで、ドワーフサッカードウ協会からのオファーメールに確認もせず返事してしまった――については正直に話していた。気持ちとしてはダリオ姫を庇う為に何か話をでっち上げたい所ではあったが、基本彼女らとは嘘のない関係でいたかったし、その些細な嘘のディティールで判断が狂うのを避けたかったからだ。
「監督として先に目標を提示しますと、残念ながらこの試合に負けは許されません。その背景はと言うと……ナリンさんお願いします」
「はい。ザックさん、アカサオさん、ニャイアーさんにはピンと来ないかもしれませんが、エルフとしてドワーフには例えプレシーズンマッチだとしても無様な闘いをする訳にはいきません。負けるとチームだけでなく、種族と国家の士気に関わります」
当事者でないミノタウロス、ゴルルグ、フェリダエ族には分かり難いかもしれないが、エルフとドワーフの対戦にはそれくらいの重みがある……らしい。
「だそうです。あとダリオさん、チームの支持率はどうですか?」
「はい。アローズへの期待はここ数年では無かった程の高さです。一方でナイトエルフや多くの多種族を選手スタッフに登用した為、『得体の知れない連中が如何ほどのものか?』という懐疑の目もあります」
それがエルフサッカードウ協会の会長として、そしてエルフ王家の姫として肌で感じている感覚なんだろう。
「という感じです。今回のドワーフ戦に負ける事は、せっかく集まった期待を萎ませる事にも、画期的なこのメンバーで挑むチームの出鼻を挫く事にもなります」
自分で言っておいて何だが、かなりの危機的状況だ。
「せめてもの救いはアウェイである事ですね。最悪、引き分け狙いでも良い。敵地に乗り込んでの分けなら勝ちに等しい価値がある」
ドワーフ代表の本拠地「ミスラル・ボウル」はアウェイチームに厳しいスタジアムだ。ドワーフの技術を総動員して作られた楕円形石造りの建物はその存在だけで威圧感がある上に、応援の声を反響させて何倍もの迫力を出す。格上チームでも勝利は難しい。だがそれだけに引き分けにすら重みがあるし、ドローの展開が続けば今度は声援が相手にとってプレッシャーになってこちらはやりやすくなる。
そして引き分け狙いで良いとなれば、多少なりやりようが増える。
「まとめますと時期は開幕の三週間前。場所はミスラル・ボウル。相手はドワーフ。狙うは引き分け。以上の条件で現状の報告と見込みを各コーチお願いします。じゃあ……ザックさんから」
俺はこの中で最も経験豊富で思考も速い、フィジカルコーチから話を向けた。
「うむ。まずエルフの皆さんは想像以上に真面目で、スタミナやダッシュ力の向上は順調に進んでいる。反対にパワーは難しそうだな。思ったより筋肉がつき難い身体の様だ。何か別のやり方を考えねば。コンディションで言えばドワーフ戦の頃は、本来は開幕戦に向けて上げていく時期なので底に近い。逆にドワーフ戦にある程度上げるとなると、開幕戦の頃が難しくなる。どちらに重きを置くか、だろう」
ザックコーチは元監督らしく、試合の重要性まで考慮して語ってくれた。確かにそこの決断が必要になりそうだ。またパワー方面についてはやはり苦戦しているようだ。奥様のラビンさんも協力してヨガ教室を開いて体幹トレーニングを手伝っているが、集まりもそれほど良くないらしい。
「ありがとうございます。ニャイアーさんはどうですか?」
続いて俺は専門的で選択肢が絞られている筈のGKコーチの見解を聞く。
「ユイノ君の仕上がりは上々で、一刻も早く試合で観たくてウズウズしている。が、ドワーフ戦では反対だ。プレッシャーが特別だし高さのアドバンテージもさほど必要ではない。経験豊富なボナザ君が適切だろう。ユイノ君とのポジション争いと宿敵相手とのことでモチベーションも高い」
ニャイアーコーチは昨シーズンの正GKの名前を上げた。ボナザさんとはここまであまり接点もなくニャイアーコーチに任せっ切りだが、真面目で冷静で猫格者とも聞く。ここは彼女の意見を採用し、ボナザさんの経験に頼るべきだろう。
「ありがとうございます。俺もニャイアーさんの判断で間違いないと思います。アカサオの意見はどうですか? この後、すぐドワーフの偵察に行って貰う事になりますが、とりあえず現時点での評価を」
俺がそう話を振ると、サオリさんが「偵察に行く」の部分で力強く首を縦に振り、アカリさんが考えながら口を開いた。
「んージノリさんの引き抜きとカップ戦を三位決定戦まで戦った事でちょっとドタバタしてるっすわ。でもチーム力はまだ落ちないっすね。良いコーチの指導力は辞めても数ヶ月は持ちますんで。むしろそこが狙いっしょうね。チーム力が落ち出さない間にエルフを叩いて、士気を上げちょっとバラついてる気持ちをまとめ、ついでにアローズの新戦術を一足先にチェックしておこうと。一石三鳥くらい」
まだドワーフのコンディションや戦術を語るタイミングではないので、アカリさんは大まかな狙いに絞って解説を入れてくれた。助かるなあ、と思いつつ俺が口にしたのは別の言葉だった。
翌朝。締め切った作戦室で開催された緊急コーチミーティングの冒頭で、ダリオさんが全力の謝罪を行った。
「そうか……」
「マジなんじゃな……」
「展開、速いっすね」
「姫、そう気になさらずに」
「そうそう、なんとかニャルさ」
ザックコーチ、ジノリコーチ、アカリスカウトがそれぞれの反応をし、ナリンさんとニャイアーコーチがダリオさんに慰めの声をかけた。
「いえ、全てわたくしの不徳の致すところで……」
俺たちはコーチ陣に、ドワーフ代表との試合が決まった経緯――酔った勢いで、ドワーフサッカードウ協会からのオファーメールに確認もせず返事してしまった――については正直に話していた。気持ちとしてはダリオ姫を庇う為に何か話をでっち上げたい所ではあったが、基本彼女らとは嘘のない関係でいたかったし、その些細な嘘のディティールで判断が狂うのを避けたかったからだ。
「監督として先に目標を提示しますと、残念ながらこの試合に負けは許されません。その背景はと言うと……ナリンさんお願いします」
「はい。ザックさん、アカサオさん、ニャイアーさんにはピンと来ないかもしれませんが、エルフとしてドワーフには例えプレシーズンマッチだとしても無様な闘いをする訳にはいきません。負けるとチームだけでなく、種族と国家の士気に関わります」
当事者でないミノタウロス、ゴルルグ、フェリダエ族には分かり難いかもしれないが、エルフとドワーフの対戦にはそれくらいの重みがある……らしい。
「だそうです。あとダリオさん、チームの支持率はどうですか?」
「はい。アローズへの期待はここ数年では無かった程の高さです。一方でナイトエルフや多くの多種族を選手スタッフに登用した為、『得体の知れない連中が如何ほどのものか?』という懐疑の目もあります」
それがエルフサッカードウ協会の会長として、そしてエルフ王家の姫として肌で感じている感覚なんだろう。
「という感じです。今回のドワーフ戦に負ける事は、せっかく集まった期待を萎ませる事にも、画期的なこのメンバーで挑むチームの出鼻を挫く事にもなります」
自分で言っておいて何だが、かなりの危機的状況だ。
「せめてもの救いはアウェイである事ですね。最悪、引き分け狙いでも良い。敵地に乗り込んでの分けなら勝ちに等しい価値がある」
ドワーフ代表の本拠地「ミスラル・ボウル」はアウェイチームに厳しいスタジアムだ。ドワーフの技術を総動員して作られた楕円形石造りの建物はその存在だけで威圧感がある上に、応援の声を反響させて何倍もの迫力を出す。格上チームでも勝利は難しい。だがそれだけに引き分けにすら重みがあるし、ドローの展開が続けば今度は声援が相手にとってプレッシャーになってこちらはやりやすくなる。
そして引き分け狙いで良いとなれば、多少なりやりようが増える。
「まとめますと時期は開幕の三週間前。場所はミスラル・ボウル。相手はドワーフ。狙うは引き分け。以上の条件で現状の報告と見込みを各コーチお願いします。じゃあ……ザックさんから」
俺はこの中で最も経験豊富で思考も速い、フィジカルコーチから話を向けた。
「うむ。まずエルフの皆さんは想像以上に真面目で、スタミナやダッシュ力の向上は順調に進んでいる。反対にパワーは難しそうだな。思ったより筋肉がつき難い身体の様だ。何か別のやり方を考えねば。コンディションで言えばドワーフ戦の頃は、本来は開幕戦に向けて上げていく時期なので底に近い。逆にドワーフ戦にある程度上げるとなると、開幕戦の頃が難しくなる。どちらに重きを置くか、だろう」
ザックコーチは元監督らしく、試合の重要性まで考慮して語ってくれた。確かにそこの決断が必要になりそうだ。またパワー方面についてはやはり苦戦しているようだ。奥様のラビンさんも協力してヨガ教室を開いて体幹トレーニングを手伝っているが、集まりもそれほど良くないらしい。
「ありがとうございます。ニャイアーさんはどうですか?」
続いて俺は専門的で選択肢が絞られている筈のGKコーチの見解を聞く。
「ユイノ君の仕上がりは上々で、一刻も早く試合で観たくてウズウズしている。が、ドワーフ戦では反対だ。プレッシャーが特別だし高さのアドバンテージもさほど必要ではない。経験豊富なボナザ君が適切だろう。ユイノ君とのポジション争いと宿敵相手とのことでモチベーションも高い」
ニャイアーコーチは昨シーズンの正GKの名前を上げた。ボナザさんとはここまであまり接点もなくニャイアーコーチに任せっ切りだが、真面目で冷静で猫格者とも聞く。ここは彼女の意見を採用し、ボナザさんの経験に頼るべきだろう。
「ありがとうございます。俺もニャイアーさんの判断で間違いないと思います。アカサオの意見はどうですか? この後、すぐドワーフの偵察に行って貰う事になりますが、とりあえず現時点での評価を」
俺がそう話を振ると、サオリさんが「偵察に行く」の部分で力強く首を縦に振り、アカリさんが考えながら口を開いた。
「んージノリさんの引き抜きとカップ戦を三位決定戦まで戦った事でちょっとドタバタしてるっすわ。でもチーム力はまだ落ちないっすね。良いコーチの指導力は辞めても数ヶ月は持ちますんで。むしろそこが狙いっしょうね。チーム力が落ち出さない間にエルフを叩いて、士気を上げちょっとバラついてる気持ちをまとめ、ついでにアローズの新戦術を一足先にチェックしておこうと。一石三鳥くらい」
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