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第二十章
強い石で跳ね返す
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『ボナザ!』
高く舞い上がったボールがアローズゴールめがけて飛んでいきニャイアーコーチが叫んだ。高いラインの後ろのスペースを埋めていたGKのボナザさんはバックステップをしながら落下点へ急ぐ。
俺たちの脳裏にドワーフ戦の悪夢――頭上を越えそうなボールを防ぐために後ろへ飛び、後頭部からピッチに落ちたボナザさんの姿――が蘇る。
『心配なさんなって!』
しかし、ボナザさんは綺麗に身体を捩りながら後方へ跳び、ボールをゴールマウスの外へ弾き出しつつ受け身を取った。
「「ゴブーーー」」
観衆がどよめく。今日初めてのチャンスをゴブリン代表が逃した悔しさ、そして意外な事に難しいシュートを止めたボナザさんの美技を賞賛するため息のようだった。
「怖わっ、今の触らなければ入ってましたよね?」
「ええ。ニャイアーもそう言っているであります」
俺がそう言うとナリンさんがGKコーチにわざわざ確認して教えてくれる。真面目だなこのエルフ。
「しかし最初のキックであの精度か。そうなると……」
ピンチを一つ乗り越えたが、引き続きゴブリン代表のCKだ。一般的に言って、フリーキックを担当する選手は蹴れば蹴るほど徐々に狙いが正確になっていく。
さっきは動きがある中で浮き玉を蹴ってあの威力だ。二度目、そして本職のプレースキックならいかほどのものか。
アローズのセットプレー守備が試される瞬間が訪れようとしていた。
『リスト! 難しい事はしなくていいよ!』
『合点承知!』
ボナザさんが何かリストさんに叫び先制点を演出したナイトエルフがそれに応えるのが見えた。
セットプレーの守備にもゾーンとマンマークとそれのミックスがあるが、俺たちは主にゾーンを選択していた。普段と同じくまず危険なエリアに選手を並べ、互いにカバーできる位置をブロックを作る。そして中へ入ってきたボールを跳ね返すのだ
特殊な点は『ストーン』と呼ばれる存在がいる事だ。特に空中戦に強い選手が選ばれ、作った守備ブロックの外に単独で置かれる。皆で守っているエリアの外の、急所となりそうな場所を守る役目を負う。
「守備ブロックが城壁あるいは城で、その守備の穴をカバーするべくポイントに設置される防護塔の様な存在です」
と説明するとファンタジー世界の住人たちはあっさりと理解してくれた。
で、今回の場合ストーンその1を担当するのがリストさんだった。彼女の居場所はボールが飛んでくるコーナー側ゴールポストの斜め前。役割は速いボールがゴール近くに飛んできたら、クリアすること。
ゴール付近に威力が強いボールが入れば軽くコースが変わるだけでもゴールに入るしオウンゴールの危険も高い。なので攻撃側としてはまずそこに入れたい所だ。その場所をリストさんが守るのだ。
『変化……!』
早速、クレイ選手がインスイングのボールを蹴ってきた。それは鋭く曲がりながらニアポストの内側に巻き込みような軌道を描く、ゴールを直接狙うタイプのキックだった!
『御意ーん!』
しかし、ボナザさんの声を聞いたリストさんがヘッドでクリアしゴールラインの外へ弾く。
『リストナイスです! もう一回跳ね返しますよ!』
辛くも守ったがもう一度、ゴブリン代表のCKだ。ゴール前中央でストーンその2を担当するムルトさんがチームに何か声をかけた。
「今の、やっぱ気持ち悪い変化したから?」
「そうでありますね。途中から回転がなくなってブレていたであります」
ベンチ前から素人目に見ていると、普通にセンター方面にクリアしたり運が良ければトラップできそうなボールに見えた。だがリストさんがエンド方向にヘディングして再びCKになったのは、ボールの軌道が予想外の変化をする恐れがあったからだろう。
「ですか。やっぱエルフの目すげーな」
俺は羨ましさを隠さずに言った。近くのボナザさんやリストさんは兎も角、ベンチ前からその回転を見て認識するとは。俺なんか、リプレイのスローでやっと気づくレベルだろう。
「リストをストーンに置いたショーキチ殿も『すげー』でありますよ!」 ナリンさんは笑いながらフォローしてくれた。
「いやまあみんなやってる事ですし」
俺は地球で観てきた試合を思い出しながら言った。ニアサイドのストーンに長身の選手を置くのは基本だからだ。
さっきも言及したように、攻撃側としては第一に速いボールをゴール付近に入れたい。しかしその前に背の高い選手がいると、まずはその選手を越えるボールを蹴らないとそこで止められてしまう。
ではストーンを越える高いボールを蹴る、となるとその系統のは滞空時間が長いので、どうしても速度が遅くなってしまう。そうなると手が使えるGKが余裕でキャッチするという結果になりがちだ。
つまり低くて速いのを蹴ってストーンに跳ね返されるか、高くて遅いのを蹴ってGKにキャッチされるのかの嫌な2択を強いられる。何気に前者を選んでストーンに跳ね返される事も意外と多く、シーズン終了後に統計を見るとセットプレーでのヘディングクリア数はFWが一番多かった、みたいな結果が出る事もある。その不思議な結果のタネは明かすまでもない、該当のFWがストーンを担当していた、だったり。
で、我らがアローズにおいてそのストーンその1の適任者はリストさん以外に考えられなかった。長身とジャンプ力の両方を備えているだけでなく、CBもこなす二刀流の選手だからだ。次点はヨンさんだろう。長身のストロングヘッダーとなるとムルトさんの名も上がるが、彼女はストーンその2――ゴール前のど真ん中に位置して一番広いエリアの制空権を掌握するのが仕事だ――を担当するので除外される。彼女はまたその冷静な頭脳でブロックを外から見て修正し、守備をより強固なものにしていた。
そんな頑健なセットプレー守備を誇るアローズにクレイ選手はどうやって挑むのか? その答えが間もなく明かされようとしていた。
高く舞い上がったボールがアローズゴールめがけて飛んでいきニャイアーコーチが叫んだ。高いラインの後ろのスペースを埋めていたGKのボナザさんはバックステップをしながら落下点へ急ぐ。
俺たちの脳裏にドワーフ戦の悪夢――頭上を越えそうなボールを防ぐために後ろへ飛び、後頭部からピッチに落ちたボナザさんの姿――が蘇る。
『心配なさんなって!』
しかし、ボナザさんは綺麗に身体を捩りながら後方へ跳び、ボールをゴールマウスの外へ弾き出しつつ受け身を取った。
「「ゴブーーー」」
観衆がどよめく。今日初めてのチャンスをゴブリン代表が逃した悔しさ、そして意外な事に難しいシュートを止めたボナザさんの美技を賞賛するため息のようだった。
「怖わっ、今の触らなければ入ってましたよね?」
「ええ。ニャイアーもそう言っているであります」
俺がそう言うとナリンさんがGKコーチにわざわざ確認して教えてくれる。真面目だなこのエルフ。
「しかし最初のキックであの精度か。そうなると……」
ピンチを一つ乗り越えたが、引き続きゴブリン代表のCKだ。一般的に言って、フリーキックを担当する選手は蹴れば蹴るほど徐々に狙いが正確になっていく。
さっきは動きがある中で浮き玉を蹴ってあの威力だ。二度目、そして本職のプレースキックならいかほどのものか。
アローズのセットプレー守備が試される瞬間が訪れようとしていた。
『リスト! 難しい事はしなくていいよ!』
『合点承知!』
ボナザさんが何かリストさんに叫び先制点を演出したナイトエルフがそれに応えるのが見えた。
セットプレーの守備にもゾーンとマンマークとそれのミックスがあるが、俺たちは主にゾーンを選択していた。普段と同じくまず危険なエリアに選手を並べ、互いにカバーできる位置をブロックを作る。そして中へ入ってきたボールを跳ね返すのだ
特殊な点は『ストーン』と呼ばれる存在がいる事だ。特に空中戦に強い選手が選ばれ、作った守備ブロックの外に単独で置かれる。皆で守っているエリアの外の、急所となりそうな場所を守る役目を負う。
「守備ブロックが城壁あるいは城で、その守備の穴をカバーするべくポイントに設置される防護塔の様な存在です」
と説明するとファンタジー世界の住人たちはあっさりと理解してくれた。
で、今回の場合ストーンその1を担当するのがリストさんだった。彼女の居場所はボールが飛んでくるコーナー側ゴールポストの斜め前。役割は速いボールがゴール近くに飛んできたら、クリアすること。
ゴール付近に威力が強いボールが入れば軽くコースが変わるだけでもゴールに入るしオウンゴールの危険も高い。なので攻撃側としてはまずそこに入れたい所だ。その場所をリストさんが守るのだ。
『変化……!』
早速、クレイ選手がインスイングのボールを蹴ってきた。それは鋭く曲がりながらニアポストの内側に巻き込みような軌道を描く、ゴールを直接狙うタイプのキックだった!
『御意ーん!』
しかし、ボナザさんの声を聞いたリストさんがヘッドでクリアしゴールラインの外へ弾く。
『リストナイスです! もう一回跳ね返しますよ!』
辛くも守ったがもう一度、ゴブリン代表のCKだ。ゴール前中央でストーンその2を担当するムルトさんがチームに何か声をかけた。
「今の、やっぱ気持ち悪い変化したから?」
「そうでありますね。途中から回転がなくなってブレていたであります」
ベンチ前から素人目に見ていると、普通にセンター方面にクリアしたり運が良ければトラップできそうなボールに見えた。だがリストさんがエンド方向にヘディングして再びCKになったのは、ボールの軌道が予想外の変化をする恐れがあったからだろう。
「ですか。やっぱエルフの目すげーな」
俺は羨ましさを隠さずに言った。近くのボナザさんやリストさんは兎も角、ベンチ前からその回転を見て認識するとは。俺なんか、リプレイのスローでやっと気づくレベルだろう。
「リストをストーンに置いたショーキチ殿も『すげー』でありますよ!」 ナリンさんは笑いながらフォローしてくれた。
「いやまあみんなやってる事ですし」
俺は地球で観てきた試合を思い出しながら言った。ニアサイドのストーンに長身の選手を置くのは基本だからだ。
さっきも言及したように、攻撃側としては第一に速いボールをゴール付近に入れたい。しかしその前に背の高い選手がいると、まずはその選手を越えるボールを蹴らないとそこで止められてしまう。
ではストーンを越える高いボールを蹴る、となるとその系統のは滞空時間が長いので、どうしても速度が遅くなってしまう。そうなると手が使えるGKが余裕でキャッチするという結果になりがちだ。
つまり低くて速いのを蹴ってストーンに跳ね返されるか、高くて遅いのを蹴ってGKにキャッチされるのかの嫌な2択を強いられる。何気に前者を選んでストーンに跳ね返される事も意外と多く、シーズン終了後に統計を見るとセットプレーでのヘディングクリア数はFWが一番多かった、みたいな結果が出る事もある。その不思議な結果のタネは明かすまでもない、該当のFWがストーンを担当していた、だったり。
で、我らがアローズにおいてそのストーンその1の適任者はリストさん以外に考えられなかった。長身とジャンプ力の両方を備えているだけでなく、CBもこなす二刀流の選手だからだ。次点はヨンさんだろう。長身のストロングヘッダーとなるとムルトさんの名も上がるが、彼女はストーンその2――ゴール前のど真ん中に位置して一番広いエリアの制空権を掌握するのが仕事だ――を担当するので除外される。彼女はまたその冷静な頭脳でブロックを外から見て修正し、守備をより強固なものにしていた。
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