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第三十二章
帰ってからの話
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大枠が決まった後は、話を詰める番だ。俺はモーネさんリュウさんの気持ちが落ち着くのを待ち、ついでにステフたちギャラリーをそれぞれの仕事――ステフは会場の撤収、レイさんはクールダウンの運動、アリスさんは……仕事はないが、彼女を囲む『ファン』ももういないだろう――帰らせ、今後の方針を話し合った。
まずノートリアスとしての活動はシーズンが終わるまで引き続き行って貰う。選手登録が自由であるのはあくまでも軍隊チームだけのルールで、アローズはそうではない。シーズン中に移籍するという事はできないのだ。
またそうする事には幾つか利点がある。一つには情報源が増える事だ。彼女らがノートリアスの選手とコーチとして他のチームと闘って得る経験は、アローズの選手コーチのモノとはまた違った知見になるだろう。
二つ目は調整時間だ。今回のスタメンこそ若手が多く因縁も少なかった――その分、良いように手玉に取られた訳でそれは俺の失策だ――が、他のベテラン達にはまだ痼りがある。いきなり加入しても、はい仲良くやっていきましょー! とはならないだろう。来シーズンまでに少しつづ、その辺りを解消しておきたい。あともちろん、ポジションや戦術的な都合もある。モーネさんという強烈な『個』を如何に組織に組み込むか? も考えたいのだ。
最後の三つ目は……生々しい話だが、彼女らに生きていて欲しいのだ。サッカードウ選手として活動している期間は軍務に携わらずにいられる。つまり戦闘での死亡のリスクを極端に減らせるのだ。残念ながらノトジアにはノトジアのルールがあり、今シーズン残りをずっとノートリアスで過ごせるとは限らない。だができる範囲で戦闘を避けて欲しいというのが本心だ。
「ちなみに、今後のアローズ戦はどうしましょう?」
方針を語り合った最後。リュウさんが不安げに訊ねてきた。
「あーそうか、まだあるか……」
俺はその言葉を聞いて席を立ち、ロッカールームに常設してある日程表の書かれたボードを探して持ってくる。
「前期が終わったらカップ戦の予選があってそこで同じグループなら2戦、決勝トーナメントに両方が進出すれば1戦、後期のアウェイで1戦と最大で4戦する可能性がありますね」
前期と口にしたがこれはリーグ戦の前半、他のチームと一巡対戦するまでの事を意味する。アローズがまだリーグ戦で闘ってない相手はフェリダエ、ドワーフ、ミノタウロスと残り3チーム。そろそろ前期の終わりが見えてくる頃だ。
「まあ4試合というのは極端な例ですけど、1試合は確実にありますね。お休み頂いた方が良いでしょうね」
選手やコーチというのは個人事業主の面もあるので来シーズン加入する予定のチームであっても手を抜かずに闘う、という事は可能ではある。
しかし移籍予定を隠したままでそういう事をするのは背信行為だし、試合の中でこじれてまた別の因縁を産み出してしまう可能性もある。それらを避ける為には、試合に出場しないのが無難だろう。
まあサッカーでも他チームへレンタル中の選手は、元の所属先との試合には出場できない契約だったりするし!
「だったらその時期に部隊へ戻ればちょうど良いじゃんね?」
モーネさんはさらっとそう言った。その手の調整って出来るんだ? いや、彼女なら出来るんだろうなあ。
「そうして貰う事になりますかね。あの、兵隊さんにこんな事を言うのは筋違いですが、出来るだけ無茶はせず生きて帰ってきて下さい」
俺はそう言って姉弟に頭を下げた。その言葉にモーネさんはクスリと笑い、リュウさんは真剣な顔で頷いた。
「うん、約束する。約束するから、帰ってきたらデートしてよ?」
「あ、それいいね姉さん!」
「はっ!?」
姉エルフの小悪魔めいた提案に弟エルフが全力で乗っかる。一方の俺は不意を打たれて動転していた。
「いやそれは地球だと、しぼ……フラグですし、監督と選手がデートとかは……」
「つまり加入前であれば問題ないという事ですよね!?」
「さっき、『元男だから、男が気持ち良くなるポイントを知ってる』っていったじゃん? それ、身体で確かめてみない?」
今度はまず弟さんが痛い所を突き、お姉さんが際どい提案を突きつける。見事なコンビネーションだ。この2名が加入してくれるとは……来期のアローズは楽しみだな!
じゃなくって!
「俺は監督業で手一杯なので……」
「もしかして既に決まった相手がいるとかですか?」
「んー、さっきのやらしい子とか怪しくない?」
俺がなんとか言葉を絞り出すと、姉弟は別の角度からかき混ぜてきた。
「いません! レイさんともそんな関係じゃありません!」
「ん? レイさんって……あのナイトエルフの子ですか?」
「『やらしい子』としか言ってないじゃんね? やっぱそういう目で見てんだ~!」
しまった、ハメられた! 俺はしてやったりの顔でこちらを見るモーネさんリュウさんを前に顔を赤くして固まるしかない。
『ピッピッピヨー! クールダウン終了だぴい! みなさん、お疲れさまだぴよ』
そこへ、スワッグの場内アナウンスが流れた。今はもうお客様はほぼ退場しているので、これはピッチで整理運動しているアローズの選手向けの案内だ。
「あ、そろそろ選手達が更衣室へ帰ってきます! 鉢合わせにならないように、早く行って下さい!」
これ幸いと俺は姉弟を追い出しにかかる。
「もうそんな時間か! モーネ、行こう!」
「じゃあね、監督! また連絡してね!」
俺の言葉を聞いたデイエルフ達はそう言うといそいそとロッカーを出る。
「はい、お気をつけて!」
そう言って、俺は姉弟に手を振った。良かった、彼女たちは現アローズの選手達に比べてずっと素直だ。
でもなんか、加入したらすぐに染まってしまうんだろうなあ……。
まずノートリアスとしての活動はシーズンが終わるまで引き続き行って貰う。選手登録が自由であるのはあくまでも軍隊チームだけのルールで、アローズはそうではない。シーズン中に移籍するという事はできないのだ。
またそうする事には幾つか利点がある。一つには情報源が増える事だ。彼女らがノートリアスの選手とコーチとして他のチームと闘って得る経験は、アローズの選手コーチのモノとはまた違った知見になるだろう。
二つ目は調整時間だ。今回のスタメンこそ若手が多く因縁も少なかった――その分、良いように手玉に取られた訳でそれは俺の失策だ――が、他のベテラン達にはまだ痼りがある。いきなり加入しても、はい仲良くやっていきましょー! とはならないだろう。来シーズンまでに少しつづ、その辺りを解消しておきたい。あともちろん、ポジションや戦術的な都合もある。モーネさんという強烈な『個』を如何に組織に組み込むか? も考えたいのだ。
最後の三つ目は……生々しい話だが、彼女らに生きていて欲しいのだ。サッカードウ選手として活動している期間は軍務に携わらずにいられる。つまり戦闘での死亡のリスクを極端に減らせるのだ。残念ながらノトジアにはノトジアのルールがあり、今シーズン残りをずっとノートリアスで過ごせるとは限らない。だができる範囲で戦闘を避けて欲しいというのが本心だ。
「ちなみに、今後のアローズ戦はどうしましょう?」
方針を語り合った最後。リュウさんが不安げに訊ねてきた。
「あーそうか、まだあるか……」
俺はその言葉を聞いて席を立ち、ロッカールームに常設してある日程表の書かれたボードを探して持ってくる。
「前期が終わったらカップ戦の予選があってそこで同じグループなら2戦、決勝トーナメントに両方が進出すれば1戦、後期のアウェイで1戦と最大で4戦する可能性がありますね」
前期と口にしたがこれはリーグ戦の前半、他のチームと一巡対戦するまでの事を意味する。アローズがまだリーグ戦で闘ってない相手はフェリダエ、ドワーフ、ミノタウロスと残り3チーム。そろそろ前期の終わりが見えてくる頃だ。
「まあ4試合というのは極端な例ですけど、1試合は確実にありますね。お休み頂いた方が良いでしょうね」
選手やコーチというのは個人事業主の面もあるので来シーズン加入する予定のチームであっても手を抜かずに闘う、という事は可能ではある。
しかし移籍予定を隠したままでそういう事をするのは背信行為だし、試合の中でこじれてまた別の因縁を産み出してしまう可能性もある。それらを避ける為には、試合に出場しないのが無難だろう。
まあサッカーでも他チームへレンタル中の選手は、元の所属先との試合には出場できない契約だったりするし!
「だったらその時期に部隊へ戻ればちょうど良いじゃんね?」
モーネさんはさらっとそう言った。その手の調整って出来るんだ? いや、彼女なら出来るんだろうなあ。
「そうして貰う事になりますかね。あの、兵隊さんにこんな事を言うのは筋違いですが、出来るだけ無茶はせず生きて帰ってきて下さい」
俺はそう言って姉弟に頭を下げた。その言葉にモーネさんはクスリと笑い、リュウさんは真剣な顔で頷いた。
「うん、約束する。約束するから、帰ってきたらデートしてよ?」
「あ、それいいね姉さん!」
「はっ!?」
姉エルフの小悪魔めいた提案に弟エルフが全力で乗っかる。一方の俺は不意を打たれて動転していた。
「いやそれは地球だと、しぼ……フラグですし、監督と選手がデートとかは……」
「つまり加入前であれば問題ないという事ですよね!?」
「さっき、『元男だから、男が気持ち良くなるポイントを知ってる』っていったじゃん? それ、身体で確かめてみない?」
今度はまず弟さんが痛い所を突き、お姉さんが際どい提案を突きつける。見事なコンビネーションだ。この2名が加入してくれるとは……来期のアローズは楽しみだな!
じゃなくって!
「俺は監督業で手一杯なので……」
「もしかして既に決まった相手がいるとかですか?」
「んー、さっきのやらしい子とか怪しくない?」
俺がなんとか言葉を絞り出すと、姉弟は別の角度からかき混ぜてきた。
「いません! レイさんともそんな関係じゃありません!」
「ん? レイさんって……あのナイトエルフの子ですか?」
「『やらしい子』としか言ってないじゃんね? やっぱそういう目で見てんだ~!」
しまった、ハメられた! 俺はしてやったりの顔でこちらを見るモーネさんリュウさんを前に顔を赤くして固まるしかない。
『ピッピッピヨー! クールダウン終了だぴい! みなさん、お疲れさまだぴよ』
そこへ、スワッグの場内アナウンスが流れた。今はもうお客様はほぼ退場しているので、これはピッチで整理運動しているアローズの選手向けの案内だ。
「あ、そろそろ選手達が更衣室へ帰ってきます! 鉢合わせにならないように、早く行って下さい!」
これ幸いと俺は姉弟を追い出しにかかる。
「もうそんな時間か! モーネ、行こう!」
「じゃあね、監督! また連絡してね!」
俺の言葉を聞いたデイエルフ達はそう言うといそいそとロッカーを出る。
「はい、お気をつけて!」
そう言って、俺は姉弟に手を振った。良かった、彼女たちは現アローズの選手達に比べてずっと素直だ。
でもなんか、加入したらすぐに染まってしまうんだろうなあ……。
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