571 / 700
第三十二章
それぞれのモチベーション
しおりを挟む
『センシャ』の儀式……。クラマさん――俺より先にこの世界へ来た日本人――によってもたらされた様々な事象の中で、もっともやっかいなモノがそれであった。
サッカードウに負けたチームが水着姿になり、勝ったチームの馬車を洗う罰ゲーム。本来であればサッカーとは何の関係もない行為ではあるが、ガールズ&パンツァーという戦車アニメが大好きなクラマさんが戦車と洗車をかけた一世一代のジョークであり、そもそもサッカーを『女の子だけがプレイするもの』として普及させた事も前述のガルパン――と略すものなのである――絡みのジョークなのだ。
いやその意味が通じているのは恐らくこの世界で俺一人なのだが。何の為にクラマさんがそんな事を頑張ったのか意味不明なのだが。
それはともかく。センシャの儀式は目下のところ負けたチームの義務であり、次の試合で負ける事がほぼ決まっているアローズにとっては必至の行事なのであった……。
「心構えと言ってもオークので既に観ていますし、水着は普段から用意されているんですよね?」
吹き出してしまった水を二人で丁寧に拭いた後、俺はそう言った。
「ええ。ですがトロール戦は……ご不在でしたし、ゴルルグ族の時はキャンセルになりましたし。ちゃんとご覧頂くのは初めてでは?」
少し鼻声になりながらナリンさんが答える。
「言われてみればそうですが。ナリンさん、声大丈夫です?」
「はい、ちょっと水が鼻に入っただけで」
あわわ、それはすみません!
「もしセンシャを行うとなったら、今度こそしっかり観て頂こう! と選手たちも気合いを入れるかと」
俺が謝罪する前にナリンさんはそんな事を言う。
「どんな気合いですか!」
「今はシーズン半ばで身も締まっている時期ですし、見せて恥ずかしくない身体で良かった! とか?」
ナリンさんはそう言いながら右腕で力こぶを作る。くそ、可愛かったら許されると思うな! うん、許す!
「そ、それは良かったですね~。まあ俺は先に帰ってその次のドワーフ戦の準備をするので引率、お願いします」
許す以上、俺は撤退戦術に走るしかなかった。特に関係ない書類を集めながら、計画を練るフリをする。
「いや、そこは必ずショーキチ殿に観て頂かないと!」
「別にそんな決まりはないんじゃないですか?」
「しかしチームの指揮に関わります! 選手のメンタルを損なうような真似を、ショーキチ殿はしませんよね?」
ナリンさんはそう言って微笑む。しまった、一本取られた! フェリダエ戦を捨て試合にすると言った時に使った論法を逆手に取られた訳だ。
「……はい。本当に選手たちが観て欲しいと言うなら」
「ふふ。ではみんなに聞いておきます!」
見事なカウンターを見せたナリンさんは更に表情を明るくした。それで二人の密談はお開きとなった。
しかし流石エルフ。本当に上手い逆襲だったな……。
「リストさんかクエンさん、います~?」
ナリンさんと別れた俺はその足で食堂へ向かい、そう言いながら中を覗き込んだ。
「あら、監督様! どちらとモウ、揃ってますよ」
俺と最初に目が合ったラビンさんがそう言って窓際の席を指す。その先の大きめなテーブルではナイトエルフのコンビが何冊かの書物を広げ、何かを議論している様であった。
「ありがとうございます。……すみませんね、オフの日に」
「いいえ! 気分転換にモウなりますから!」
ザックコーチの奥さんはそう言って微笑み両手に持った料理の皿を掲げる。彼女はクラブハウス食堂のコック長ではあるが、寮長やヨガ教室の講師でもある。その方面の部下も増え今やちょっとしたお偉いさんなのだ。
そんな彼女が食堂の最前線で働いているのは今日がオフの日だからだ。選手の大半が遊びに行ったり実家へ帰ったりしているので、ほぼ開店休業状態。従業員にも休みを取らせていて、それでラビンさん直々に……という事らしい。
「あ、それ運びますよ」
俺はそう言って彼女が持つ皿の片方を受け取る。ビュッフェ形式用の大皿にミッチリと身の詰まったミートパイの様なモノが並べられており、重そうだ。ラビンさんは大げさに目を見開いて礼を言いながら俺にそれを渡した。
その際、彼女の胸がプルンと揺れて俺はある風景を思い出す。そう、ミノタウロス代表選手としてラビンさんもセンシャの儀式に参加してたんだよな。アレは凄まじい風景だったが、負ければエルフの皆も……。
「ごくり」
「あら? 監督様モウ、お腹好いてますのね! どうぞ」
共に大テーブルに皿を並べたラビンさんは俺の生唾を誤解し、小皿に何点か料理を取って俺に渡す。
「あ、ありがとうございます。では」
その優しさに気まずさを覚えて、俺は受け取った食事と共に彼女の前を去り目当ての連中の方へ向かった。
「ショタがイニシアチブを奪い返すのは良くないでござる! ましてや誘拐されてきた立場で仲間を呼ぶなど! まあテクニシャンなのはやむなしとして……」
「あのっすね、リストパイセンはお兄さん主導が鉄則と言うっすけど、それこそ自分たちの身勝手な幻想っすよ! 性に熟知したショタがお兄さんを翻弄する、お友達を呼んで楽しむ、それは自然の流れっす!」
近づくにつれ、リストさんとクエンさんのそんな議論が聞こえて俺の気まずさは一気に消えた。と言うか別種の気まずさが溢れてきた。
「俺、本当に君たちが目当てだったのかな……」
「なっ!?」
「やば!」
自分の目標に疑問を覚えた俺が思わず心境を漏らしてしまうと、ナイトエルフの2名は驚いて咄嗟にテーブルの上に身を投げた。
正確にはテーブルの上に広げられた、いかがわしそうな本の上に、ではあったが……。
サッカードウに負けたチームが水着姿になり、勝ったチームの馬車を洗う罰ゲーム。本来であればサッカーとは何の関係もない行為ではあるが、ガールズ&パンツァーという戦車アニメが大好きなクラマさんが戦車と洗車をかけた一世一代のジョークであり、そもそもサッカーを『女の子だけがプレイするもの』として普及させた事も前述のガルパン――と略すものなのである――絡みのジョークなのだ。
いやその意味が通じているのは恐らくこの世界で俺一人なのだが。何の為にクラマさんがそんな事を頑張ったのか意味不明なのだが。
それはともかく。センシャの儀式は目下のところ負けたチームの義務であり、次の試合で負ける事がほぼ決まっているアローズにとっては必至の行事なのであった……。
「心構えと言ってもオークので既に観ていますし、水着は普段から用意されているんですよね?」
吹き出してしまった水を二人で丁寧に拭いた後、俺はそう言った。
「ええ。ですがトロール戦は……ご不在でしたし、ゴルルグ族の時はキャンセルになりましたし。ちゃんとご覧頂くのは初めてでは?」
少し鼻声になりながらナリンさんが答える。
「言われてみればそうですが。ナリンさん、声大丈夫です?」
「はい、ちょっと水が鼻に入っただけで」
あわわ、それはすみません!
「もしセンシャを行うとなったら、今度こそしっかり観て頂こう! と選手たちも気合いを入れるかと」
俺が謝罪する前にナリンさんはそんな事を言う。
「どんな気合いですか!」
「今はシーズン半ばで身も締まっている時期ですし、見せて恥ずかしくない身体で良かった! とか?」
ナリンさんはそう言いながら右腕で力こぶを作る。くそ、可愛かったら許されると思うな! うん、許す!
「そ、それは良かったですね~。まあ俺は先に帰ってその次のドワーフ戦の準備をするので引率、お願いします」
許す以上、俺は撤退戦術に走るしかなかった。特に関係ない書類を集めながら、計画を練るフリをする。
「いや、そこは必ずショーキチ殿に観て頂かないと!」
「別にそんな決まりはないんじゃないですか?」
「しかしチームの指揮に関わります! 選手のメンタルを損なうような真似を、ショーキチ殿はしませんよね?」
ナリンさんはそう言って微笑む。しまった、一本取られた! フェリダエ戦を捨て試合にすると言った時に使った論法を逆手に取られた訳だ。
「……はい。本当に選手たちが観て欲しいと言うなら」
「ふふ。ではみんなに聞いておきます!」
見事なカウンターを見せたナリンさんは更に表情を明るくした。それで二人の密談はお開きとなった。
しかし流石エルフ。本当に上手い逆襲だったな……。
「リストさんかクエンさん、います~?」
ナリンさんと別れた俺はその足で食堂へ向かい、そう言いながら中を覗き込んだ。
「あら、監督様! どちらとモウ、揃ってますよ」
俺と最初に目が合ったラビンさんがそう言って窓際の席を指す。その先の大きめなテーブルではナイトエルフのコンビが何冊かの書物を広げ、何かを議論している様であった。
「ありがとうございます。……すみませんね、オフの日に」
「いいえ! 気分転換にモウなりますから!」
ザックコーチの奥さんはそう言って微笑み両手に持った料理の皿を掲げる。彼女はクラブハウス食堂のコック長ではあるが、寮長やヨガ教室の講師でもある。その方面の部下も増え今やちょっとしたお偉いさんなのだ。
そんな彼女が食堂の最前線で働いているのは今日がオフの日だからだ。選手の大半が遊びに行ったり実家へ帰ったりしているので、ほぼ開店休業状態。従業員にも休みを取らせていて、それでラビンさん直々に……という事らしい。
「あ、それ運びますよ」
俺はそう言って彼女が持つ皿の片方を受け取る。ビュッフェ形式用の大皿にミッチリと身の詰まったミートパイの様なモノが並べられており、重そうだ。ラビンさんは大げさに目を見開いて礼を言いながら俺にそれを渡した。
その際、彼女の胸がプルンと揺れて俺はある風景を思い出す。そう、ミノタウロス代表選手としてラビンさんもセンシャの儀式に参加してたんだよな。アレは凄まじい風景だったが、負ければエルフの皆も……。
「ごくり」
「あら? 監督様モウ、お腹好いてますのね! どうぞ」
共に大テーブルに皿を並べたラビンさんは俺の生唾を誤解し、小皿に何点か料理を取って俺に渡す。
「あ、ありがとうございます。では」
その優しさに気まずさを覚えて、俺は受け取った食事と共に彼女の前を去り目当ての連中の方へ向かった。
「ショタがイニシアチブを奪い返すのは良くないでござる! ましてや誘拐されてきた立場で仲間を呼ぶなど! まあテクニシャンなのはやむなしとして……」
「あのっすね、リストパイセンはお兄さん主導が鉄則と言うっすけど、それこそ自分たちの身勝手な幻想っすよ! 性に熟知したショタがお兄さんを翻弄する、お友達を呼んで楽しむ、それは自然の流れっす!」
近づくにつれ、リストさんとクエンさんのそんな議論が聞こえて俺の気まずさは一気に消えた。と言うか別種の気まずさが溢れてきた。
「俺、本当に君たちが目当てだったのかな……」
「なっ!?」
「やば!」
自分の目標に疑問を覚えた俺が思わず心境を漏らしてしまうと、ナイトエルフの2名は驚いて咄嗟にテーブルの上に身を投げた。
正確にはテーブルの上に広げられた、いかがわしそうな本の上に、ではあったが……。
0
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
俺たちの共同学園生活
雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。
2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。
しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。
そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。
蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる