573 / 700
第三十二章
善戦と先生の準備
しおりを挟む
翌日。今日はコンディション調整の日だ。ノートリアス戦に出た選手と出なかった選手によって体調はもちろん違い、課される練習のメニューも違う。とは言え軍隊チームとの試合はホームで出場選手も若手が多い。それほど差のないトレーニングを、皆が順調にこなしていった。
「あまり上げ過ぎず、かといって落ち着かせない、か」
俺のオーダーを聞いたザックコーチが、練習する選手たちを見ながら苦笑いをした。
「すみません、無茶を言って」
「いや、分かるさ。ミノタウロス戦とドワーフ戦はそれだけハードだからな」
元監督はそう言って顔を掻く。フェリダエ戦を捨てる、と言うのをナリンさん以外のコーチへ説明するにあたって俺はそういう方向で話を進めていた。
「そう」とはつまり前所属チーム、ザックコーチにとってのミノタウロスチーム、ジノリコーチにとってのドワーフチームとの対戦を重視したい、その為ならフェリダエ戦の扱いが軽くなっても構わない、という意味だ。
彼と彼女にとって古巣との対戦は思い入れが強く、その反動としてフェリダエ戦への意気込みは弱い。その弱い、というのが『負けても良い』までではないとしても、結果としてはたぶん同じだろう。それでも『最初から負けるつもりでいきましょう』と言うのと『後の2戦を最優先で行きましょう』と言うのではそれぞれ飲み込み易さが違う。両者は俺の提案をすんなりと受け入れた。
ちなみに後の2名あるいは3名、ニャイアーコーチとアカリさんサオリさんにはそんな気遣いは不要だった。フェリダエ代表チームの元GKコーチは今でも猫人族の強さに誇りを持っており、分析担当のゴルルグ族にとって彼我の戦力差は自明の理であった。逆に彼女らにはその類の事は言わなかった。
ただ一言
「ボナザさんを最高の状態にしておいて下さい」
とだけ伝えた。フェリダエ戦は確実に、GKが大忙しになりそうだからだ。
「へーポリンちゃんとビーン君、一緒に委員会の仕事してんだ」
その日の夕方。俺は全体トレーニングとは別に居残りでFK練習をしていたポリンさん、ボナザさん、ユイノさんの会話に加わっていた。
「うん、優しく色々と教えてくれるよ! それに腕力もあって、力仕事も率先してやってくれるし!」
今は休憩時間であり俺たちは直接、芝生に座って世間話をしている。用事で中座したニャイアーコーチが帰って来るまでの暇つぶしだ。ちなみに会話に出てきたビーン君とはボナザさんの息子さんである。ユイノさんがGKへ転向した事を、俺から母親へのダメ出しだと勘違いして憤っていた例のあの子だ。
「アイツで良かったらなんなりと使ってやってくれよ」
ボナザさんはその精悍な顔の表情を緩めて言う。ビーン君の母親譲りの長身と身体能力を考えれば、そりゃ確かに頼りになるだろうな。
「ねえねえ、ビーン君ってポリンちゃんより少し先輩だよね? 結構トキメクものがあるんじゃない?」
そこへラブコメの気配を感じてユイノさんが割り込んできた。この居残り特訓でもポリンさんにFKをバシバシと決められているが、少しもへこんでいない。良い根性だ。
「えっ!? ううん、ビーン君は格好良くてモテるけど私あまりそういう方面に興味は……」
一方、FKの名手はその言葉に赤面し言葉を濁した。今は完全に攻守が逆である。
「こらこらユイノ! 今のはポリンに言わせた感じだぞ! 確かにウチの息子は私から見てもイケてる方だと思うが、ポリンにはポリンの好みがあるからな」
それを見てボナザさんが助け船を出す。うーん、優しい世界だ。これが関西のオカンだと
「はあ? ウチのボンクラに惚れるトコなんかあるかいな」
とかみたいなノリになるところだ。まあアレはアレで愛だけど。
「あわわ、ごめーん! それに好みで言えば、ポリンちゃんは……ね?」
ユイノさんはそう言って謝りながら、チラチラと俺の方を見る。なんだ? 俺からも謝って欲しいのか? まあ選手のミスで試合に負けても、監督は
「自分の責任だ」
って言わないといけないポジションだしなあ。
「ごめんね、ポリンさん。でも選手と選手が家族ぐるみで仲良くしてくれていると、俺も嬉しくはなるよ」
「うん! これからも節度をもって仲良くするよ! ……ところでショーキチお兄ちゃん、アリス先生に何か用事があるんだよね?」
俺の言葉を聞いたポリンさんは明るく頷き、ふと思い出したように言った。
「あ、そうだ! アリス先生と約束した相互学習の準備ができたんだけど、何時やりましょう? って伝言してくれるかい?」
俺は恋愛脳のユイノさんに邪推されないよう、学習を強調して言った。
「りょーかい! あと場所はどうするつもりなの?」
「え? 場所? あ、そっか。ちゃんとは決めてなかったな」
前に考えたのは俺の船、ディードリット号の上だった。それぞれの活動拠点は学院やクラブハウスではあるが、そこを私用で使用するのもあまり良くない気がするし、かと言ってどちらかの家というのも問題あるし。
「えーっと、俺の船の上の予定だけど」
「そうなの? でもアリス先生、船酔いするタイプだよ?」
俺の返答を聞いたポリンさんが心配そうに告げる。おっと、それは貴重な新情報だ。
「マジかー。しまったそうなると手札がない。誰か勉強に使えるような施設、知りませんか?」
悲しいかなこちらの行動範囲はクラブハウス、湖、王城だ。俺は助けを求めるように彼女らを見渡したが、普通に考えて主婦と学生と恋愛に憧れるが行動はしていないエルフに頼れる訳もなかった。
「施設……そう言えば!」
しかし、最後にはユイノさんが声を上げた。それから彼女が出した提案は、意外な事にかなり有用に思えるものだった。
「あまり上げ過ぎず、かといって落ち着かせない、か」
俺のオーダーを聞いたザックコーチが、練習する選手たちを見ながら苦笑いをした。
「すみません、無茶を言って」
「いや、分かるさ。ミノタウロス戦とドワーフ戦はそれだけハードだからな」
元監督はそう言って顔を掻く。フェリダエ戦を捨てる、と言うのをナリンさん以外のコーチへ説明するにあたって俺はそういう方向で話を進めていた。
「そう」とはつまり前所属チーム、ザックコーチにとってのミノタウロスチーム、ジノリコーチにとってのドワーフチームとの対戦を重視したい、その為ならフェリダエ戦の扱いが軽くなっても構わない、という意味だ。
彼と彼女にとって古巣との対戦は思い入れが強く、その反動としてフェリダエ戦への意気込みは弱い。その弱い、というのが『負けても良い』までではないとしても、結果としてはたぶん同じだろう。それでも『最初から負けるつもりでいきましょう』と言うのと『後の2戦を最優先で行きましょう』と言うのではそれぞれ飲み込み易さが違う。両者は俺の提案をすんなりと受け入れた。
ちなみに後の2名あるいは3名、ニャイアーコーチとアカリさんサオリさんにはそんな気遣いは不要だった。フェリダエ代表チームの元GKコーチは今でも猫人族の強さに誇りを持っており、分析担当のゴルルグ族にとって彼我の戦力差は自明の理であった。逆に彼女らにはその類の事は言わなかった。
ただ一言
「ボナザさんを最高の状態にしておいて下さい」
とだけ伝えた。フェリダエ戦は確実に、GKが大忙しになりそうだからだ。
「へーポリンちゃんとビーン君、一緒に委員会の仕事してんだ」
その日の夕方。俺は全体トレーニングとは別に居残りでFK練習をしていたポリンさん、ボナザさん、ユイノさんの会話に加わっていた。
「うん、優しく色々と教えてくれるよ! それに腕力もあって、力仕事も率先してやってくれるし!」
今は休憩時間であり俺たちは直接、芝生に座って世間話をしている。用事で中座したニャイアーコーチが帰って来るまでの暇つぶしだ。ちなみに会話に出てきたビーン君とはボナザさんの息子さんである。ユイノさんがGKへ転向した事を、俺から母親へのダメ出しだと勘違いして憤っていた例のあの子だ。
「アイツで良かったらなんなりと使ってやってくれよ」
ボナザさんはその精悍な顔の表情を緩めて言う。ビーン君の母親譲りの長身と身体能力を考えれば、そりゃ確かに頼りになるだろうな。
「ねえねえ、ビーン君ってポリンちゃんより少し先輩だよね? 結構トキメクものがあるんじゃない?」
そこへラブコメの気配を感じてユイノさんが割り込んできた。この居残り特訓でもポリンさんにFKをバシバシと決められているが、少しもへこんでいない。良い根性だ。
「えっ!? ううん、ビーン君は格好良くてモテるけど私あまりそういう方面に興味は……」
一方、FKの名手はその言葉に赤面し言葉を濁した。今は完全に攻守が逆である。
「こらこらユイノ! 今のはポリンに言わせた感じだぞ! 確かにウチの息子は私から見てもイケてる方だと思うが、ポリンにはポリンの好みがあるからな」
それを見てボナザさんが助け船を出す。うーん、優しい世界だ。これが関西のオカンだと
「はあ? ウチのボンクラに惚れるトコなんかあるかいな」
とかみたいなノリになるところだ。まあアレはアレで愛だけど。
「あわわ、ごめーん! それに好みで言えば、ポリンちゃんは……ね?」
ユイノさんはそう言って謝りながら、チラチラと俺の方を見る。なんだ? 俺からも謝って欲しいのか? まあ選手のミスで試合に負けても、監督は
「自分の責任だ」
って言わないといけないポジションだしなあ。
「ごめんね、ポリンさん。でも選手と選手が家族ぐるみで仲良くしてくれていると、俺も嬉しくはなるよ」
「うん! これからも節度をもって仲良くするよ! ……ところでショーキチお兄ちゃん、アリス先生に何か用事があるんだよね?」
俺の言葉を聞いたポリンさんは明るく頷き、ふと思い出したように言った。
「あ、そうだ! アリス先生と約束した相互学習の準備ができたんだけど、何時やりましょう? って伝言してくれるかい?」
俺は恋愛脳のユイノさんに邪推されないよう、学習を強調して言った。
「りょーかい! あと場所はどうするつもりなの?」
「え? 場所? あ、そっか。ちゃんとは決めてなかったな」
前に考えたのは俺の船、ディードリット号の上だった。それぞれの活動拠点は学院やクラブハウスではあるが、そこを私用で使用するのもあまり良くない気がするし、かと言ってどちらかの家というのも問題あるし。
「えーっと、俺の船の上の予定だけど」
「そうなの? でもアリス先生、船酔いするタイプだよ?」
俺の返答を聞いたポリンさんが心配そうに告げる。おっと、それは貴重な新情報だ。
「マジかー。しまったそうなると手札がない。誰か勉強に使えるような施設、知りませんか?」
悲しいかなこちらの行動範囲はクラブハウス、湖、王城だ。俺は助けを求めるように彼女らを見渡したが、普通に考えて主婦と学生と恋愛に憧れるが行動はしていないエルフに頼れる訳もなかった。
「施設……そう言えば!」
しかし、最後にはユイノさんが声を上げた。それから彼女が出した提案は、意外な事にかなり有用に思えるものだった。
0
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
俺たちの共同学園生活
雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。
2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。
しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。
そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。
蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――
黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。
ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。
この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。
未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。
そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる