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第三十五章
振り向くなよ振り向くなよ
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「あれは何?」
「なにやら興味深いイベントが……」
シンディさんとターカオさんの目が魔法モニターに釘付けとなる。
「あれはねー。『センシャ』って言って、サッカードウの試合に負けたチームが、勝ったチームの馬車を洗車する由緒ある儀式なんだよ!」
うそつけ由緒なんぞねえわ! と心の中でツッコム俺を余所にアリスさんがようやく普通の口調に戻って説明する。と言っても彼女もさほど詳しい訳ではない。このエルフの観戦歴はハーピィ戦とノートリアス戦だけであり、前者のセンシャはチケット完売、後者は引き分けでセンシャそのものがなかったからだ。
「「おおーう!」
「え!? やだ! 凄い」
「ほほう、これは……」
後方から聞こえる歓声とアリスさんご両親の驚愕の声が重なった。
「ここで色とりどりの水着をまとったアローズのエントリーだ!」
というフェリダエ族MCさんの絶叫を聞くまでもなく、状況は把握できる。アローズの面々がセンシャの会場に現れたのだろう。ちなみにこの儀式、水着で行うという事までは決まっているが、それ以外の細かい規定は無い。だから例えば水着の上に何か羽織っても問題はないのだ。
だがウチのエルフたちは最初から全快で――あるいは全開か?――水着姿を披露しているようだ。勿体ないな。
例えば濡れたら透けそうなシャツとショートパンツなどを着て現れ、それで洗車を初めてまずはシャツ越しにチラ見せして期待を煽り良い感じになった所でシャツとパンツを脱ぐ、といった見せ方――魅せ方というべきか?――もあった筈だ。そういう緩急の付け方や溜めの演出ができない所が、一本調子だった今までのエルフ代表チームのサッカードウにも通じるモノがある。
って何を語っているの俺!?
「事情の説明については以上で宜しいでしょうか?」
「はい?」
「あ、うん……」
目を丸くしてモニターを注視するシンディさんとターカオさんへ、俺は確認の声をかける。
「では今後の対応についてお話したいと思います。報道陣が学院に詰めかけている間は、引き続きアリスさんを寮に匿いたいと思います」
「そ、そうね。そうして頂けると安心だわ」
「あ、パパ! あの背の高い子、バケツをひっくり返しそうだよ!」
「ううむ。安心できないな」
しかし親子は俺の言葉よりもセンシャの中継に必死の様だ。かろうじて反応したシンディさんも気持ちは向こうへ行っている。どうもアリスさんの言葉によると、ユイノさんがやらかしてしまいそうらしい。彼女は割と大ざっぱな性格でドジっ子だが、試合中にボールを落とすよりは良いかと俺はため息をつく。
「お二方につきましても、もうアリスさんとわだかまりは無いでしょうから、クラブハウスから離れた俺の家ではなくここにある関係者用の宿泊施設へ移られたらどうでしょう? ここなら食堂もお風呂も中ですし」
「ええ。え、映像あっちを写して!」
「ほら、やっぱり落とした!」
「バケツの中身は石鹸水だったのか! ほっほう、ギャルっぽい子が泡まみれじゃないか!」
ドーンエルフの親子の注意力はセンシャ9割、俺の言葉1割くらいのようだ。だがそのお陰で画面を見なくても儀式の様子は分かるし、俺に有利な様に話を進められる。今だってほら、ユイノさんが結局バケツを倒して中身を浴びたツンカさんが白いモノを体中に浴びているのが想像できるし、ご両親を家から追い出せた。
そう、それが俺の狙いであった。
センシャの儀式中継とアリスさんご両親との面談の時間が被さったと分かった時、俺は失望した。ここだけの話、かなーり失望した。こっそりと視聴覚室にこもって中継を視聴するのを楽しみにしていたからだ。
もちろんセンシャに立ち会えない事が判明した時も残念に思ったが、なんならこっちの方が悔しさは強かった。よくよく考えれば周囲の目を気にしながら現地で肉眼で見るよりも、何台もの機器によって魔法中継される迫力の映像を、独り視聴覚室の大画面で観る方が良かったからだ。
しかし何度も述べているようにサッカーは失敗と理不尽から立ち直り抗うスポーツで、その部分は異世界のサッカードウも同じだ。数秒、失意に暮れた後で俺はこの不運を利用する方向へ頭と気持ちを切り替えた。
俺が観られないなら他の誰かが観れば良いのではないか? そしてその『他の誰か』は観たらどうなる? きっとセンシャの風景に釘付けになるだろう。そうなれば他の作業に集中できなくる。
他の作業、例えば大事な娘とスキャンダルを起こした人間を追及するとか。
そう考えた俺はその為の仕込みを行った。食堂での面談のセッティングがそれだ。モニターをそこそこ観やすい位置にテーブルと椅子を並べ、アリスさん親子をそちらへ座らせる。しかも美味しい食事をたっぷりと与えて、気持ちも緩くさせておく。上司にややこしい報告をするとか面倒くさい顧客に会うとかは昼食後にスケジュールしておく、のはビジネス書などでも推奨している手段だよね!
一方の俺はモニターに背を向け一切センシャは観ない。集中力が落ちてもいけないし、鼻の下を延ばした顔をご両親へ見せるのも良くないだろう。なので俺の席はアリスさん達の直角の位置となる。真正面に位置すると精神的に対立の関係になり易いと言うのもあるしね。
あとはタイミングだ。最初からモニターをつけてセンシャを観ながらだと話し合いも終始、グダグダになるだろう。彼女たちが中継を観るのは、俺にとって話の流れが悪くなった場合だ。例えば先程の様にシンディさんがアリスさんの様子に不信の念を抱いた時とか。
そうなったら俺が合図を鳴らす。それを聞いたブヒキュアが厨房から出てきてモニターをつける。そんな手筈になっていた。正直に告白すると中継が繋がったらもうセンシャは始まっているものだと思っていたので、入場シーンを観るとは予想外だった。いや俺は観ていないけど。
そういう意味ではギリギリではあったが策は成功したと言って良いだろう。それからしばらくの間、俺は満足感と僅かな未練に包まれつつ親子の様子を眺めていた……。
「なにやら興味深いイベントが……」
シンディさんとターカオさんの目が魔法モニターに釘付けとなる。
「あれはねー。『センシャ』って言って、サッカードウの試合に負けたチームが、勝ったチームの馬車を洗車する由緒ある儀式なんだよ!」
うそつけ由緒なんぞねえわ! と心の中でツッコム俺を余所にアリスさんがようやく普通の口調に戻って説明する。と言っても彼女もさほど詳しい訳ではない。このエルフの観戦歴はハーピィ戦とノートリアス戦だけであり、前者のセンシャはチケット完売、後者は引き分けでセンシャそのものがなかったからだ。
「「おおーう!」
「え!? やだ! 凄い」
「ほほう、これは……」
後方から聞こえる歓声とアリスさんご両親の驚愕の声が重なった。
「ここで色とりどりの水着をまとったアローズのエントリーだ!」
というフェリダエ族MCさんの絶叫を聞くまでもなく、状況は把握できる。アローズの面々がセンシャの会場に現れたのだろう。ちなみにこの儀式、水着で行うという事までは決まっているが、それ以外の細かい規定は無い。だから例えば水着の上に何か羽織っても問題はないのだ。
だがウチのエルフたちは最初から全快で――あるいは全開か?――水着姿を披露しているようだ。勿体ないな。
例えば濡れたら透けそうなシャツとショートパンツなどを着て現れ、それで洗車を初めてまずはシャツ越しにチラ見せして期待を煽り良い感じになった所でシャツとパンツを脱ぐ、といった見せ方――魅せ方というべきか?――もあった筈だ。そういう緩急の付け方や溜めの演出ができない所が、一本調子だった今までのエルフ代表チームのサッカードウにも通じるモノがある。
って何を語っているの俺!?
「事情の説明については以上で宜しいでしょうか?」
「はい?」
「あ、うん……」
目を丸くしてモニターを注視するシンディさんとターカオさんへ、俺は確認の声をかける。
「では今後の対応についてお話したいと思います。報道陣が学院に詰めかけている間は、引き続きアリスさんを寮に匿いたいと思います」
「そ、そうね。そうして頂けると安心だわ」
「あ、パパ! あの背の高い子、バケツをひっくり返しそうだよ!」
「ううむ。安心できないな」
しかし親子は俺の言葉よりもセンシャの中継に必死の様だ。かろうじて反応したシンディさんも気持ちは向こうへ行っている。どうもアリスさんの言葉によると、ユイノさんがやらかしてしまいそうらしい。彼女は割と大ざっぱな性格でドジっ子だが、試合中にボールを落とすよりは良いかと俺はため息をつく。
「お二方につきましても、もうアリスさんとわだかまりは無いでしょうから、クラブハウスから離れた俺の家ではなくここにある関係者用の宿泊施設へ移られたらどうでしょう? ここなら食堂もお風呂も中ですし」
「ええ。え、映像あっちを写して!」
「ほら、やっぱり落とした!」
「バケツの中身は石鹸水だったのか! ほっほう、ギャルっぽい子が泡まみれじゃないか!」
ドーンエルフの親子の注意力はセンシャ9割、俺の言葉1割くらいのようだ。だがそのお陰で画面を見なくても儀式の様子は分かるし、俺に有利な様に話を進められる。今だってほら、ユイノさんが結局バケツを倒して中身を浴びたツンカさんが白いモノを体中に浴びているのが想像できるし、ご両親を家から追い出せた。
そう、それが俺の狙いであった。
センシャの儀式中継とアリスさんご両親との面談の時間が被さったと分かった時、俺は失望した。ここだけの話、かなーり失望した。こっそりと視聴覚室にこもって中継を視聴するのを楽しみにしていたからだ。
もちろんセンシャに立ち会えない事が判明した時も残念に思ったが、なんならこっちの方が悔しさは強かった。よくよく考えれば周囲の目を気にしながら現地で肉眼で見るよりも、何台もの機器によって魔法中継される迫力の映像を、独り視聴覚室の大画面で観る方が良かったからだ。
しかし何度も述べているようにサッカーは失敗と理不尽から立ち直り抗うスポーツで、その部分は異世界のサッカードウも同じだ。数秒、失意に暮れた後で俺はこの不運を利用する方向へ頭と気持ちを切り替えた。
俺が観られないなら他の誰かが観れば良いのではないか? そしてその『他の誰か』は観たらどうなる? きっとセンシャの風景に釘付けになるだろう。そうなれば他の作業に集中できなくる。
他の作業、例えば大事な娘とスキャンダルを起こした人間を追及するとか。
そう考えた俺はその為の仕込みを行った。食堂での面談のセッティングがそれだ。モニターをそこそこ観やすい位置にテーブルと椅子を並べ、アリスさん親子をそちらへ座らせる。しかも美味しい食事をたっぷりと与えて、気持ちも緩くさせておく。上司にややこしい報告をするとか面倒くさい顧客に会うとかは昼食後にスケジュールしておく、のはビジネス書などでも推奨している手段だよね!
一方の俺はモニターに背を向け一切センシャは観ない。集中力が落ちてもいけないし、鼻の下を延ばした顔をご両親へ見せるのも良くないだろう。なので俺の席はアリスさん達の直角の位置となる。真正面に位置すると精神的に対立の関係になり易いと言うのもあるしね。
あとはタイミングだ。最初からモニターをつけてセンシャを観ながらだと話し合いも終始、グダグダになるだろう。彼女たちが中継を観るのは、俺にとって話の流れが悪くなった場合だ。例えば先程の様にシンディさんがアリスさんの様子に不信の念を抱いた時とか。
そうなったら俺が合図を鳴らす。それを聞いたブヒキュアが厨房から出てきてモニターをつける。そんな手筈になっていた。正直に告白すると中継が繋がったらもうセンシャは始まっているものだと思っていたので、入場シーンを観るとは予想外だった。いや俺は観ていないけど。
そういう意味ではギリギリではあったが策は成功したと言って良いだろう。それからしばらくの間、俺は満足感と僅かな未練に包まれつつ親子の様子を眺めていた……。
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