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第三十七章
太陽の影
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再確認になるが、この日はナイトゲームだった。つまり夜空の下で行われ、照明――魔法無効化フィールドよりも遙か上空に、魔法的に作られた灯りが設置されている――に照らされたピッチでサッカードウがプレイされているのである。
そして照明装置というのは太陽と違って複数あり、目に入ってしまう可能性が高い。故にドワーフのGKエリオ選手は夜ではあるがサングラスをかけていた。
そう、サングラスだ。地上の明るさになれないリストさんの為に俺が導入を認めて貰った器具で、それはジノリコーチ経由でドワーフ代表の手、もとい目にも渡っていた。彼女らはそれを独自の技術で改良し、有益に使用していた。そりゃアクリルチャームが作れるのだから、サングラスの改良もお手の物だろう。
ともかく。ナイトゲームでその高性能スポーツ用サングラスをGKが着用していた事が、その後に起きた出来事に大いに影響を与えたと言っても過言ではないだろう。
プレイとしてはなんて事ないプレイだ。リストさんがトリッキーなドリブルで右サイドを突破しセンタリングを上げた。そのボールに向けてレイさんもジャンプしたが、GKのエリオ選手はその前に飛び込んでしっかりとキャッチした。空振りの形になったレイさんはゴールの中に転がり、悔しそうに芝生を叩いて寝転がる。
相手選手が前向きでしっかりとボールを保持した時はラインを上げない。プレスも控える。アローズはその原則に従い、やや全体を下げつつエリオ選手の次のプレイを見守った。
一方のドワーフ代表はDFラインを含め全体的に距離を取った。もともと彼女らに一発のパスで素早いカウンターという武器はない。近い距離でパスを回しながら、じわじわと陣地を取り返し体制が整ってから攻めるスタイルである。ただアローズ相手で短いパス回しはゾーンプレスの餌食になる可能性が高いので、フィールドプレイヤー達はいつもより広めにポジションをとっていた。
そのFPの誰にパスを出そうか? たぶんエリオ選手はそう考えながら手にしたボールを地面に投げ置き、軽く足で突いて助走して蹴る為の距離を作った。
俊敏なナイトエルフが襲いかかったのは、まさにその瞬間だった。
『エリオ、後ろじゃー!』
ポビッチ監督が前に出て何やら叫んでいるのを俺は周辺視野で納めた。だが彼がノゾノゾさんのような嵐の巨人でもない限り、その声が届く筈もない。ベンチからゴールまでは非常に遠く観客席は何時も以上――エルフ・ドワーフクラシコなのだから当然だ――の騒音だ。
故に彼の警告も虚しく、GKのエリオ選手はボールをレイさんに奪われた。リストさんからのクロスに飛び込むも合わせられず、ゴール内に転がった後のレイさんに。
『もらい!』
ドワーフGKの死角から飛び出したナイトエルフは、ボールを足でかっさらうと自陣方向へ少し戻るドリブルをする。
『なんじゃと!?』
慌てたエリオ選手は身体を投げ出しながら左腕を伸ばすが、その手はボールには届かなかった。ドワーフのグローブに包まれた指先が触れられたのはレイさんの左足。
『やあん!』
そこにしか触れられないならいっそ、何にも触れない方がマシだった。レイさんはやや演技臭い動きで左足を掬われ、地面に倒れ込む。
「ピー!」
ストックトンさんの笛が鳴り響き、尻尾と前脚がペナルティスポットを指す! ドワーフ代表がファウルを犯し、アローズにペナルティキックが与えられたのだ!
その後の喧噪はすさまじいモノだった。ゴール付近はサポーターの怒号に包まれドワーフの選手達の何名かは副審のリザードマンさんに猛抗議。残った数名はボールを拾いペナルティ・スポットを守るアローズ数名と睨み合い。ポビッチ監督やベンチのメンバーも第4審判さんやこちらのベンチスタッフと何か言い合いをしていた。
「ナリンさん、ザックコーチと医療スタッフをレイさんへ。アカリさんに控えGKのデータがあるかを確認して下さい。あればポリンさんに」
「了解であります!」
俺は足をバタバタとさせているレイさんに一応、医療スタッフを向かわせ自分はジノリコーチの方へ歩く。
「誰を落としますかね?」
作戦ボードを持ったドワーフの元に着くと、俺はその板のからエリオ選手の背番号の数字を消しながら言った。言葉は分からなくても、それで意図は通じるだろう。
『うむ。おそらくFWのデルを下げてじゃな……』
ジノリコーチも察しが良い。ボードから背番号11を消してブツブツと何か考え出した。そんな俺達の言葉とリンクするように、審判さんが上から舞い降りてきてエリオ選手にレッドカードを提示し、彼女は退場となる。
『なぜじゃ!? あれはアリなのか!? 納得できん!』
恐らくこの異世界でも最強種族ドラゴンに口答えできる奴はそういない。しかしドワーフは基本的に胆力が強く、状況は理不尽だ。何名かのドワーフがストックトンさんへ詰め寄り、ピッチで治療を受けるレイさんの方を指しながら何か抗議をしていた。
彼女たちの気持ちも分からなくもない。ウチの14番はヘディングできなかった後、芝生に倒れて気配を消した。そしてエリオ選手の背後に忍び寄り彼女からボールを奪った後、ファウルを誘ってPKをゲットした。
背後に隠れ後ろから襲うのが卑怯なら、ファウルを誘うのも卑怯である。公明正大、質実剛健をモットーとするドワーフからしてみればとても許せないものだ。
しかしルール的には何も問題は無いし、逆に言えばレイさんを見失ったのはGKのミス――ナイトゲームで照明が複雑な影を作り、サングラスが暗い色の肌をしたナイトエルフを見失い易くした面もある――だし、誘われてもファウルを犯さなければ良いのである。
GKのエリオ選手はボールを地面に置く前に背後をチェックすれば、或いは奪われた後も諦めずにゴール方向へ動けば良かったのだ。そうすれば盗み取られる事もなかったし、レイさんがドリブルかシュートをミスする可能性に賭けられた。要は安易な判断をした罰を受けた形だ。
なんて事、後からだったら幾らでも言えるんですけどね。実際は瞬時の判断を重ねる訳で。サッカードウ選手って大変だ……。
そして照明装置というのは太陽と違って複数あり、目に入ってしまう可能性が高い。故にドワーフのGKエリオ選手は夜ではあるがサングラスをかけていた。
そう、サングラスだ。地上の明るさになれないリストさんの為に俺が導入を認めて貰った器具で、それはジノリコーチ経由でドワーフ代表の手、もとい目にも渡っていた。彼女らはそれを独自の技術で改良し、有益に使用していた。そりゃアクリルチャームが作れるのだから、サングラスの改良もお手の物だろう。
ともかく。ナイトゲームでその高性能スポーツ用サングラスをGKが着用していた事が、その後に起きた出来事に大いに影響を与えたと言っても過言ではないだろう。
プレイとしてはなんて事ないプレイだ。リストさんがトリッキーなドリブルで右サイドを突破しセンタリングを上げた。そのボールに向けてレイさんもジャンプしたが、GKのエリオ選手はその前に飛び込んでしっかりとキャッチした。空振りの形になったレイさんはゴールの中に転がり、悔しそうに芝生を叩いて寝転がる。
相手選手が前向きでしっかりとボールを保持した時はラインを上げない。プレスも控える。アローズはその原則に従い、やや全体を下げつつエリオ選手の次のプレイを見守った。
一方のドワーフ代表はDFラインを含め全体的に距離を取った。もともと彼女らに一発のパスで素早いカウンターという武器はない。近い距離でパスを回しながら、じわじわと陣地を取り返し体制が整ってから攻めるスタイルである。ただアローズ相手で短いパス回しはゾーンプレスの餌食になる可能性が高いので、フィールドプレイヤー達はいつもより広めにポジションをとっていた。
そのFPの誰にパスを出そうか? たぶんエリオ選手はそう考えながら手にしたボールを地面に投げ置き、軽く足で突いて助走して蹴る為の距離を作った。
俊敏なナイトエルフが襲いかかったのは、まさにその瞬間だった。
『エリオ、後ろじゃー!』
ポビッチ監督が前に出て何やら叫んでいるのを俺は周辺視野で納めた。だが彼がノゾノゾさんのような嵐の巨人でもない限り、その声が届く筈もない。ベンチからゴールまでは非常に遠く観客席は何時も以上――エルフ・ドワーフクラシコなのだから当然だ――の騒音だ。
故に彼の警告も虚しく、GKのエリオ選手はボールをレイさんに奪われた。リストさんからのクロスに飛び込むも合わせられず、ゴール内に転がった後のレイさんに。
『もらい!』
ドワーフGKの死角から飛び出したナイトエルフは、ボールを足でかっさらうと自陣方向へ少し戻るドリブルをする。
『なんじゃと!?』
慌てたエリオ選手は身体を投げ出しながら左腕を伸ばすが、その手はボールには届かなかった。ドワーフのグローブに包まれた指先が触れられたのはレイさんの左足。
『やあん!』
そこにしか触れられないならいっそ、何にも触れない方がマシだった。レイさんはやや演技臭い動きで左足を掬われ、地面に倒れ込む。
「ピー!」
ストックトンさんの笛が鳴り響き、尻尾と前脚がペナルティスポットを指す! ドワーフ代表がファウルを犯し、アローズにペナルティキックが与えられたのだ!
その後の喧噪はすさまじいモノだった。ゴール付近はサポーターの怒号に包まれドワーフの選手達の何名かは副審のリザードマンさんに猛抗議。残った数名はボールを拾いペナルティ・スポットを守るアローズ数名と睨み合い。ポビッチ監督やベンチのメンバーも第4審判さんやこちらのベンチスタッフと何か言い合いをしていた。
「ナリンさん、ザックコーチと医療スタッフをレイさんへ。アカリさんに控えGKのデータがあるかを確認して下さい。あればポリンさんに」
「了解であります!」
俺は足をバタバタとさせているレイさんに一応、医療スタッフを向かわせ自分はジノリコーチの方へ歩く。
「誰を落としますかね?」
作戦ボードを持ったドワーフの元に着くと、俺はその板のからエリオ選手の背番号の数字を消しながら言った。言葉は分からなくても、それで意図は通じるだろう。
『うむ。おそらくFWのデルを下げてじゃな……』
ジノリコーチも察しが良い。ボードから背番号11を消してブツブツと何か考え出した。そんな俺達の言葉とリンクするように、審判さんが上から舞い降りてきてエリオ選手にレッドカードを提示し、彼女は退場となる。
『なぜじゃ!? あれはアリなのか!? 納得できん!』
恐らくこの異世界でも最強種族ドラゴンに口答えできる奴はそういない。しかしドワーフは基本的に胆力が強く、状況は理不尽だ。何名かのドワーフがストックトンさんへ詰め寄り、ピッチで治療を受けるレイさんの方を指しながら何か抗議をしていた。
彼女たちの気持ちも分からなくもない。ウチの14番はヘディングできなかった後、芝生に倒れて気配を消した。そしてエリオ選手の背後に忍び寄り彼女からボールを奪った後、ファウルを誘ってPKをゲットした。
背後に隠れ後ろから襲うのが卑怯なら、ファウルを誘うのも卑怯である。公明正大、質実剛健をモットーとするドワーフからしてみればとても許せないものだ。
しかしルール的には何も問題は無いし、逆に言えばレイさんを見失ったのはGKのミス――ナイトゲームで照明が複雑な影を作り、サングラスが暗い色の肌をしたナイトエルフを見失い易くした面もある――だし、誘われてもファウルを犯さなければ良いのである。
GKのエリオ選手はボールを地面に置く前に背後をチェックすれば、或いは奪われた後も諦めずにゴール方向へ動けば良かったのだ。そうすれば盗み取られる事もなかったし、レイさんがドリブルかシュートをミスする可能性に賭けられた。要は安易な判断をした罰を受けた形だ。
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