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第三十九章
国民のアイドルとアイドルな国民
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今回のミノタウロス戦、ポジショナルプレーや偽SBばかりに焦点を当ててきたが、実は重要なポイントがもう一つあった。ダリオさんの偽CFである。
忘れもしないこの異世界へ来たその日のミノタウロス戦で、片鱗は見せた戦術である。本来チームの最前線であり相手ゴールに最も近い位置にいる点取り屋、センターフォワードを動きの中で中盤へ降ろし、スペースが空けば他の選手が飛び出す、もしマーカーがついてこなければそのCFが前を向いて仕掛ける……という仕組みだ。
あの時のミノタウロス代表はその動きに全く対応できず世紀の大逆転を喰らってしまった。あれから数ヶ月、彼女たちは偽CFへの対策を講じることが出来ているだろうか? 逆に我々の全体的な積み上げはどうか?
それを探る意味も込めて、今回はダリオさんにCFを託した。ちなみにあの時はカイヤさん――チーム屈指のテクニシャンであり、ダリオさん達と同じドーンエルフであり、妊婦さんでもあった。もう出産は無事に終わったかな?――がその役割を見事に果たしてくれたが、その代役となるともう姫様以外に考えられなかった。
その理由は……これからのプレイで目にする事となる。
『来てるっす!』
シャマーさんからのフィードを胸トラップしたダリオさんへ、クエンさんが何か声をかけた。
『了解です!』
ダリオさんは見事な胸でトラップしたボールを右足の前へ落とすと、半身になり左腕を大きく伸ばして自分へ迫るCBをブロックする。
『面倒な腕だモウ!』
ダリオさんを追ってきたDFはミノタウロスの中でも特に巨漢――女性だから巨女漢と言うべきか?――のホレス選手だ。その気になれば身体ごとのし掛かって可憐なお姫様を押しつぶすことだってできただろう。
だがエルフの10番の伸ばした腕と半身になった身体の幅が、ホレス選手とボールの間にまあまあの距離を作っていた。それだけボールと自身が離れていれば
「タックルの際にボールに巻き込んで身体も跳ね飛ばしてしまった」
という言い訳が成り立たなくなる。早い話が高い確率でファウルになってしまうのだ。
ならば横から回り込めば! とホレス選手がダリオさんの背中側へ移動を始めたところでドーンエルフはその動きの力を利用して反転し、右サイドのエオンさんの前方へパスを送った。
「上手い!」
ナリンさんもその光景に感嘆の声を漏らす。プレイとしてはシンプルなモノであるが、今のは伸ばした左腕でホレス選手の体重移動を感じ取り、どちらへ身体を反転すべきか一瞬で判断したのである。
ヨンさんの生粋のFWとしてのポストプレイ、タッキさんの武術家としての技術、それらを学び高い次元で組み合わせたテクニックだ。恐らくアローズの中でもダリオさんにしかできない動きだろう。
また繰り出したパスも最高で、自分と自分をマークするDFホレス選手が動く事で空いたスペースに絶妙に転がした。足下でばかりボールを欲しがり、そこからコネ回して自分の見せ場を作りたがるエオンさんも思わずそこへ走り込みたくなる様なパスだ。
『うっ……最初だからえい!』
事実、エオンさんは走ったというより走らされた。歩幅を合わせる必要もない、というかそれ以外の選択肢を持てないような距離でアイドルはボールへ追いつき、その長い足をシンプルに振った。
『モォ!?』
あまりにも早いテンポのシュートにGKのパデュー選手が一歩も動けない! アローズ屈指のテクニシャンが放った一撃は、ループでもGKの股下でもなく、ごく普通のコースでパデュー選手の右をすり抜けゴール左上へ突き刺さった!
前半11分、アローズの先制で0-1!
『シンプルイズベスト! エオン、ナイス!』
『なにぼーっとしてんのよ! 喜びなさい!』
シュート後に着地したポーズのままで棒立ちになるエオンさんへ、リーシャさんとツンカさんがのし掛かる。
「ブオオォ~」
とその姿に角笛がブーイングめいた音を被せる中、次いでマイラさんやパリスさんも加わって得点者を揉みくちゃにしていた。その光景にミノタウロスのサポーター達も本物のブーイングを始める。
てか相手チームのゴールに興ざめする様な音声をぶつけて良いのか? まあNBAなんかだと対戦チームがフリースローを外した時に間抜けな効果音を流したりするけど。
『なんか、エオンらしいゴールじゃないからプンスカなのっ!』
それに感化されたか自陣方向へ歩くエオンさんの表情も浮かない感じだ。普段ゴールを決めたら
「今が私の撮影タイムよっ!」
とばかりにサイドラインへ疾走し、中継の魔法装置やスタンドのファンに向けてポーズをとりまくる癖に!
『エオン、良いゴールでした』
『あ、姫様!』
『ファーストタッチがゴール。なかなか出来る事ではないですね!』
恐らくエオンさんが憮然としている原因の一つ、ダリオさんとエオンさんが何か言葉を交わした。
『そうだ! ファーストタッチでゴール……つまりエオンって凄い?』
『ええ、凄いです』
『最高に可愛い?』
『それはど……ええ、可愛いです』
『やったー! エオン優勝!』
その会話に何があったか分からないが急にエオンさんの顔が明るくなり、今更のようにスタンドへ向けて手を振り投げキッスをばらまき始める。
「ピー! 早く戻りなさい。試合再開を遅らせると遅延行為でカードを出しますよ?」
当然の様に審判さんが上から吠えた。静かな声だがここまで届くし内容も分かる。やっぱドラゴンって凄いな。
『……だそうです。行きましょう。貴女が先程のようなプレイを続けるなら、得点とアピールのチャンスはまだまだあります』
『はい、ダリオ姫!』
ダリオさんが何か言いながら審判さんへ頭を下げ、エオンさんの背を押して自陣へ走って行く。何が起きているか分からないが、恐らく姫様が上手くエオンさんをコントロールしている様だ。
「さすがダリオ姫でありますね!」
それらを見ていたナリンさんも絶賛の声をあげる。
「ええ。彼女のリーダーとしての立ち居振る舞いは俺も見習うところばかりですし」
俺はまず得点後の事を行動に言及し、次にプレイについて言った。
「そもそも偽CFは王子が始めたヤツですからね。姫様にぴったりなんですよ」
忘れもしないこの異世界へ来たその日のミノタウロス戦で、片鱗は見せた戦術である。本来チームの最前線であり相手ゴールに最も近い位置にいる点取り屋、センターフォワードを動きの中で中盤へ降ろし、スペースが空けば他の選手が飛び出す、もしマーカーがついてこなければそのCFが前を向いて仕掛ける……という仕組みだ。
あの時のミノタウロス代表はその動きに全く対応できず世紀の大逆転を喰らってしまった。あれから数ヶ月、彼女たちは偽CFへの対策を講じることが出来ているだろうか? 逆に我々の全体的な積み上げはどうか?
それを探る意味も込めて、今回はダリオさんにCFを託した。ちなみにあの時はカイヤさん――チーム屈指のテクニシャンであり、ダリオさん達と同じドーンエルフであり、妊婦さんでもあった。もう出産は無事に終わったかな?――がその役割を見事に果たしてくれたが、その代役となるともう姫様以外に考えられなかった。
その理由は……これからのプレイで目にする事となる。
『来てるっす!』
シャマーさんからのフィードを胸トラップしたダリオさんへ、クエンさんが何か声をかけた。
『了解です!』
ダリオさんは見事な胸でトラップしたボールを右足の前へ落とすと、半身になり左腕を大きく伸ばして自分へ迫るCBをブロックする。
『面倒な腕だモウ!』
ダリオさんを追ってきたDFはミノタウロスの中でも特に巨漢――女性だから巨女漢と言うべきか?――のホレス選手だ。その気になれば身体ごとのし掛かって可憐なお姫様を押しつぶすことだってできただろう。
だがエルフの10番の伸ばした腕と半身になった身体の幅が、ホレス選手とボールの間にまあまあの距離を作っていた。それだけボールと自身が離れていれば
「タックルの際にボールに巻き込んで身体も跳ね飛ばしてしまった」
という言い訳が成り立たなくなる。早い話が高い確率でファウルになってしまうのだ。
ならば横から回り込めば! とホレス選手がダリオさんの背中側へ移動を始めたところでドーンエルフはその動きの力を利用して反転し、右サイドのエオンさんの前方へパスを送った。
「上手い!」
ナリンさんもその光景に感嘆の声を漏らす。プレイとしてはシンプルなモノであるが、今のは伸ばした左腕でホレス選手の体重移動を感じ取り、どちらへ身体を反転すべきか一瞬で判断したのである。
ヨンさんの生粋のFWとしてのポストプレイ、タッキさんの武術家としての技術、それらを学び高い次元で組み合わせたテクニックだ。恐らくアローズの中でもダリオさんにしかできない動きだろう。
また繰り出したパスも最高で、自分と自分をマークするDFホレス選手が動く事で空いたスペースに絶妙に転がした。足下でばかりボールを欲しがり、そこからコネ回して自分の見せ場を作りたがるエオンさんも思わずそこへ走り込みたくなる様なパスだ。
『うっ……最初だからえい!』
事実、エオンさんは走ったというより走らされた。歩幅を合わせる必要もない、というかそれ以外の選択肢を持てないような距離でアイドルはボールへ追いつき、その長い足をシンプルに振った。
『モォ!?』
あまりにも早いテンポのシュートにGKのパデュー選手が一歩も動けない! アローズ屈指のテクニシャンが放った一撃は、ループでもGKの股下でもなく、ごく普通のコースでパデュー選手の右をすり抜けゴール左上へ突き刺さった!
前半11分、アローズの先制で0-1!
『シンプルイズベスト! エオン、ナイス!』
『なにぼーっとしてんのよ! 喜びなさい!』
シュート後に着地したポーズのままで棒立ちになるエオンさんへ、リーシャさんとツンカさんがのし掛かる。
「ブオオォ~」
とその姿に角笛がブーイングめいた音を被せる中、次いでマイラさんやパリスさんも加わって得点者を揉みくちゃにしていた。その光景にミノタウロスのサポーター達も本物のブーイングを始める。
てか相手チームのゴールに興ざめする様な音声をぶつけて良いのか? まあNBAなんかだと対戦チームがフリースローを外した時に間抜けな効果音を流したりするけど。
『なんか、エオンらしいゴールじゃないからプンスカなのっ!』
それに感化されたか自陣方向へ歩くエオンさんの表情も浮かない感じだ。普段ゴールを決めたら
「今が私の撮影タイムよっ!」
とばかりにサイドラインへ疾走し、中継の魔法装置やスタンドのファンに向けてポーズをとりまくる癖に!
『エオン、良いゴールでした』
『あ、姫様!』
『ファーストタッチがゴール。なかなか出来る事ではないですね!』
恐らくエオンさんが憮然としている原因の一つ、ダリオさんとエオンさんが何か言葉を交わした。
『そうだ! ファーストタッチでゴール……つまりエオンって凄い?』
『ええ、凄いです』
『最高に可愛い?』
『それはど……ええ、可愛いです』
『やったー! エオン優勝!』
その会話に何があったか分からないが急にエオンさんの顔が明るくなり、今更のようにスタンドへ向けて手を振り投げキッスをばらまき始める。
「ピー! 早く戻りなさい。試合再開を遅らせると遅延行為でカードを出しますよ?」
当然の様に審判さんが上から吠えた。静かな声だがここまで届くし内容も分かる。やっぱドラゴンって凄いな。
『……だそうです。行きましょう。貴女が先程のようなプレイを続けるなら、得点とアピールのチャンスはまだまだあります』
『はい、ダリオ姫!』
ダリオさんが何か言いながら審判さんへ頭を下げ、エオンさんの背を押して自陣へ走って行く。何が起きているか分からないが、恐らく姫様が上手くエオンさんをコントロールしている様だ。
「さすがダリオ姫でありますね!」
それらを見ていたナリンさんも絶賛の声をあげる。
「ええ。彼女のリーダーとしての立ち居振る舞いは俺も見習うところばかりですし」
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