D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

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第三十九章

黒い突撃

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 ここまでアローズのDFとMFは細かなポジション調整を行いながら、正確なパス回しを行っていた。ミノタウロスの前の両翼のプレスには冷や汗をかいていたが、それ以外は危険なシーンは無かったと言えよう。
 だが同時に、相手側に危険を感じさせた場面もそれほど多くは無かった。ダリオさん絡みで何度かチャンスを作った――いやその一つで得点をあげたのは見事と言うしかないが――以降はあまり大きな出来事は発生していない。
 俺達はそこで組織的に『大きな出来事』を起こそうとしていた。

『クエンにゃん、走って!』
 マイラさんが声と身振りで何か指示を出しながらパスを出す。その宛先はクエンさんだ。
 いつもはDFラインの前で守備を担い防波堤の役割を果たしている彼女は、今日は左のIHに入っていた。位置は違えど仕事は変わらない。対面した選手からボールを奪い、短いパスを繋ぎ、そのゾーンを制圧する。
 しかしそのナイトエルフは、その自分のゾーンを飛び出して行った。
『良いパスっすマイラさん!』
 クエンさんはミノタウロスの右SBとCBの中間地点へ突っ込み、自分の左肩から巻き込んで落ちる様なパスを右足でトラップした。
『撃て!』
『撃つのじゃ!』
「クエンさんシュート!」
 俺達ベンチ前のコーチ陣が一斉に叫ぶ。明らかにオフサイドは無く、彼女の周囲にはミノタウロスの選手がいない。と同時に味方の選手もいないのだ。プレイの選択はシュート一択に思えた。
『ええと、えい!』
『モォ!』
 だがクエン選手には迷いがあった。その隙にGKのパデュー選手が突進し、ナイトエルフのシュートを至近距離で跳ね返す!
『『モオオオオ!』』
 そのプレイにスタジアムが振動した。いや、比喩ではない。パデュー選手のビックセーブを称えミノタウロスサポーターが安堵と賞賛の声を漏らし、その風圧で建物が揺れたのだ。
「おおう……」
 それを見た俺は、そう言えば地球では家畜の牛が吐くメタンガスが温暖化の原因でどうとかの話があったが、やはり牛の肺活量って凄いんだな! と間抜けな事を考えていた。
『ああ、くそ!』
『お、惜しかった~! う、浮かして避ければ、きれいだったのに!』
 一方、ベンチ前では悔しがったザックコーチが膝から崩れ落ちながら地面を殴り、サオリさんが椅子を小さく蹴って実際にスタジアムを振動させていた。それぞれ、思うところや脳内シミュレーションがあった様子だ。
「コーチは選手の選択肢を広げるだけにし、実際のプレイ選択をコントロールするべきではない」
というのは恐らく真実であり俺達もそういう方針でやっている。
 だがそれは建前であり、先程の様に切羽詰まった場面では
「こうやって欲しい!」
みたいな希望やプレイのイメージは実際にあるのだ。
 まあそういう場面でのプレイの画が一つも浮かばない方がコーチとしておかしいけどね。それを口に出して強制するかどうかの問題で。
「もう少しだったでありますね!」
「ええ。まあぶっちゃけ『飛び出し満点、その後の発想は赤点』みたいなプレイや選手はあるあるですし許容範囲です」
 ナリンさんがそう話しかけてきたので、俺は小声でこっそりと応えた。ちょっと酷な言い方なので話者の少ない日本語な上に更に気を遣う。
「うぷっ……!」
「それよりもこの後ですね。ジノリコーチを呼んで下さい」
 笑ってしまいそうだが笑ってはいけない、みたいな感じで声を詰まらせるナリンさんに俺は指示を出す。しかし美人は吹き出すのを我慢する顔になっても美人なんだな。
「りょ、了解であります……」
 そう応えたナリンさんは周囲を見渡し、テクニカルエリアの最前線で突っ伏して倒れているジノリコーチの方へ走る。どうやらあのドワーフも失望で地面にキスをしていたらしい。
「みんな大袈裟だなあ。本番はこの後なのに」
 俺は苦笑してそう呟きながら、ピッチを眺め今のプレイの成果を確認した。

 今日のアローズ前線はリーシャ、ダリオ、エオンの3TOPだ。この中でダリオさんは見た通り偽CFで、中央を上下しながらスペースを作ったりパスを出したりする役割。一方リーシャ、エオンの両者はWG。左右のサイドラインに位置し、そこからドリブルでDFを突破してチャンスを作ったり、姫様が作ったスペースへ飛び込んでゴールを狙ったりするのが仕事だ。
 この両WGへ良い状態でボールを送るのが今日のアローズのサッカードウの肝だ。何故なら彼女らが最も攻撃の能力に長け、ゴールへ結び着くプレイを行えるからだ。
 一方でミノタウロス代表もそれを分かってはいるので、リーシャさんとエオンさんにはSBがしっかりとついている。ローズ選手やククリ選手ほどではないが、俊敏なミノタウロスが見張っているのだ。
 両WGは常に片方のシューズが白く汚れるほど――サイドラインを踏んでいるので白線の粉がついている――サイドに張っているのだが、それにおつき合いする形でピッタリと。
 そうすると……SBとCBの間が空く。それこそ簡単な飛び出し一つで切り裂ける程に。今さっき、クエンさんがやったのがそれである。
 残念ながら得点には結びつかなかったが、まあ仕方ない。CFもWGも遠くてフォローし難いし、そもそも中盤の黒子役の選手だ。独りでフィニッシュする程の攻撃力は無い。
 だがそれを見せる事で相手に危機感を与えられれば成功だ。そうするとWGを見張っていたSBも、少し中に意識が向く。
 そして中へ意識が向くと、今度はWGとの距離が空く。前述した『両WGへ良い状態でボールを送る』のが容易になるのだ。つまり今のIHによる飛び出しは
『それで得点できれば儲け、できなくても以降WGへのパスコースを作り易くなれば十分』
という作戦なのだ。
 実際に俺が確認したピッチ上では、アガサさんからリーシャさんへのパスラインが開いているのが見えた……!
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