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魔法使いとの出会い
交渉
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「そういえば、今は尾行中なんですっけ」
そわそわと時折外を見るアーロンを見て、レナードは言う。
「まあ、そうですね」
アーロンが気まずそうに答える。
「ダレンの事でしょう? でもなあ、一応ダレンはうちの店のお客様なので個人情報とかお話するのはちょっとなあ……」
レナードは含みを持たせた言い方をする。
「……なにがお望みですか?」
「大した事ではないんですけどね。伸縮性と耐久性に優れた大蜘蛛の糸を使った、ドレスを作ろうかと思っていまして。騎士たちが使う防具にも使われる事がある素材を、戦闘にはおおよそ向いているとは思えないドレスと合わせたら最高だと思うんですよね。でも大蜘蛛の糸って市場にはあまり出回らない代物だし、出ていても割高で中々手を出し辛いしで、どうしようかなって思ってたんですよ。かつて国を救った偉大な魔法使い様なら、余裕じゃないかなって」
アーロンは大きく溜息を吐くと、少考して答える。
「僕にも生活があるので流石にタダってのは無理ですけど、市場で買うよりも大分安く提供しますよ。ただし他の人には内緒にしてくださいね。また頼まれたりしても困りますから」
「勿論ですよ! いやあ、アーロンさんは話が分かる人だなあ」
「ナタリーがいつもお世話になってるので、そのお礼も兼ねて特別にですからね。次はありませんよ! 分かってるのかなあ……」
浮かれた顔をするレナードに、アーロンはまた溜息を吐いた。
「それで? どうなんですか?」
不機嫌そうな顔をしながら、アーロンがレナードに催促をする。
「え? ああ、そういう話でしたね」
上機嫌に服の構想を紙に書き留めていたレナードは、思い出したようにペンを机の上に置く。
「ダレンはうちによく来てくれるお客様ですよ。服を買いに来てるって言うよりも、ナタリーに会いに来てるってのはもう誰が見ても明白なんですけど、なんでかナタリーは気付いてないっぽいんですよねぇ。ナタリーは別に鈍感とか天然って感じの性格じゃないのに。そういう事にだけ疎いんですかね? まあ、ダレンは品行方正で家柄も良いし、少し奥手で引っ込み思案な所はある気がしますけど、穏和で優しい性格をしていますよ。他の従業員の評判も良いですしね」
「そうですか」
レナードの話を聞きながら、アーロンは嬉しそうな顔をする。
「まあ、でも。そんなに心配する事もないんじゃないですか? これで相手が獣人だったりしたら心配するのも分かりますけど。お互い人間同士なんですし」
「まあ、そうですよね」
アーロンは一瞬顔を曇らせ、すぐに表情を戻した。
「そろそろ行かないと。大蜘蛛の糸はいつまでに必要ですか?」
「まだ構想の段階ですし、すぐじゃなくていいですよ。手の空いた時にでもお願いします。受け渡しはナタリー経由で良いですかね?」
「それで大丈夫です。では、また」
アーロンは服を物色していたロボの手を引っ張り、店から出た。
店から出るとロボは辺りを見渡し、不機嫌な顔でアーロンの方に振り返る。
「ナタリーを見失った。話が長過ぎるんだ」
どうするんだ、と言わんとばかりにロボは眉間を寄せる。
「大丈夫。こんなこともあろうかと」
アーロンは小声で何かを唱えながら、手で何かを掴むようにゆっくりと動かす。
すると、アーロンの手から透明でよく目を凝らして見なければ見えない程の細さの、キラキラと光る糸が現れた。
「それは?」
「ナタリーへと繋がる糸だよ。予め渡したネックレスに仕込んでおいたんだ。これを追って行けばナタリーの元に辿り着ける」
アーロン説明にロボは渋い顔をする。
「それ、使うの今回だけだよな?」
アーロンは少し考えて、ロボが不快感を露わにしている理由に気が付く。
「も、もちろんだよ! 使うのは今回が初めてだし、決して普段から使ってるとかはないから! 本当に! 神に誓って!」
慌てたように弁明するアーロンを、ロボは冷ややかな目で見ていた。
そわそわと時折外を見るアーロンを見て、レナードは言う。
「まあ、そうですね」
アーロンが気まずそうに答える。
「ダレンの事でしょう? でもなあ、一応ダレンはうちの店のお客様なので個人情報とかお話するのはちょっとなあ……」
レナードは含みを持たせた言い方をする。
「……なにがお望みですか?」
「大した事ではないんですけどね。伸縮性と耐久性に優れた大蜘蛛の糸を使った、ドレスを作ろうかと思っていまして。騎士たちが使う防具にも使われる事がある素材を、戦闘にはおおよそ向いているとは思えないドレスと合わせたら最高だと思うんですよね。でも大蜘蛛の糸って市場にはあまり出回らない代物だし、出ていても割高で中々手を出し辛いしで、どうしようかなって思ってたんですよ。かつて国を救った偉大な魔法使い様なら、余裕じゃないかなって」
アーロンは大きく溜息を吐くと、少考して答える。
「僕にも生活があるので流石にタダってのは無理ですけど、市場で買うよりも大分安く提供しますよ。ただし他の人には内緒にしてくださいね。また頼まれたりしても困りますから」
「勿論ですよ! いやあ、アーロンさんは話が分かる人だなあ」
「ナタリーがいつもお世話になってるので、そのお礼も兼ねて特別にですからね。次はありませんよ! 分かってるのかなあ……」
浮かれた顔をするレナードに、アーロンはまた溜息を吐いた。
「それで? どうなんですか?」
不機嫌そうな顔をしながら、アーロンがレナードに催促をする。
「え? ああ、そういう話でしたね」
上機嫌に服の構想を紙に書き留めていたレナードは、思い出したようにペンを机の上に置く。
「ダレンはうちによく来てくれるお客様ですよ。服を買いに来てるって言うよりも、ナタリーに会いに来てるってのはもう誰が見ても明白なんですけど、なんでかナタリーは気付いてないっぽいんですよねぇ。ナタリーは別に鈍感とか天然って感じの性格じゃないのに。そういう事にだけ疎いんですかね? まあ、ダレンは品行方正で家柄も良いし、少し奥手で引っ込み思案な所はある気がしますけど、穏和で優しい性格をしていますよ。他の従業員の評判も良いですしね」
「そうですか」
レナードの話を聞きながら、アーロンは嬉しそうな顔をする。
「まあ、でも。そんなに心配する事もないんじゃないですか? これで相手が獣人だったりしたら心配するのも分かりますけど。お互い人間同士なんですし」
「まあ、そうですよね」
アーロンは一瞬顔を曇らせ、すぐに表情を戻した。
「そろそろ行かないと。大蜘蛛の糸はいつまでに必要ですか?」
「まだ構想の段階ですし、すぐじゃなくていいですよ。手の空いた時にでもお願いします。受け渡しはナタリー経由で良いですかね?」
「それで大丈夫です。では、また」
アーロンは服を物色していたロボの手を引っ張り、店から出た。
店から出るとロボは辺りを見渡し、不機嫌な顔でアーロンの方に振り返る。
「ナタリーを見失った。話が長過ぎるんだ」
どうするんだ、と言わんとばかりにロボは眉間を寄せる。
「大丈夫。こんなこともあろうかと」
アーロンは小声で何かを唱えながら、手で何かを掴むようにゆっくりと動かす。
すると、アーロンの手から透明でよく目を凝らして見なければ見えない程の細さの、キラキラと光る糸が現れた。
「それは?」
「ナタリーへと繋がる糸だよ。予め渡したネックレスに仕込んでおいたんだ。これを追って行けばナタリーの元に辿り着ける」
アーロン説明にロボは渋い顔をする。
「それ、使うの今回だけだよな?」
アーロンは少し考えて、ロボが不快感を露わにしている理由に気が付く。
「も、もちろんだよ! 使うのは今回が初めてだし、決して普段から使ってるとかはないから! 本当に! 神に誓って!」
慌てたように弁明するアーロンを、ロボは冷ややかな目で見ていた。
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