相馬さんは今日も竹刀を振る 

compo

文字の大きさ
10 / 162

しおりを挟む
くりんくりんくりん。
お出かけですか?
レレレのレ?

って言いたくなる程、朝も早よから竹箒で庭を掃いている僕。
上記の昭和ギャグは、子供の頃に見ていた天才漫画家の何度目かのリバイバルアニメで知っていたからさ。
あと、出川哲朗もCMで演じていたし。

うむ。
朝陽がのーぼるーを見ながらの庭掃除は習慣として身体に馴染んでくると、気持ちが良いね。

因みに瑞穂くんは、相変わらず僕の部屋との仕切りを開けっぱなしにしたまま、漫画を読みながら、寝堕ちてました。

たしかドローインの練習をするはずだったけど。
「リョーリモオシエテ、コノナスビオイシイ、ヤキトリハクシニサシトコウヨ、ゴチソーサマデジタ。」
と、騒ぐだけで騒いだら、洗い物は僕に任せっきりで漫画に戻っちゃった。

ついでに洗濯機の中には、ショーツもブラジャーもキャミソールも靴下も、僕のトランクスと一緒くたにされて放り込んであったので、仕方なくそのまま洗濯をしました。

そこの物干し竿に掛かる洗濯ハンガーには、2人の下着が並べて干されてます。

この娘はもうもう、警戒心が薄いのか、一昨日あったばかりの僕に懐いているのか、根がだらしが無いのか。
自分が女の子だって意識というか、距離感が色々おかしい。
外国育ちって、そうなんだろうか?

池に行って、水循環用のポンプにスイッチを入れようとして気がついた。

「あれ?何か魚がいる?」

干上がっていたこの池に水を入れたのは父さんだったし、それも引越しの日にだ。
僕が見ていたから間違えない。
見てみると小魚だ。
細い体つきを見ると、ハヤかな?
ふむ。
たしかにバイパスの方はまだ水を抜いたままの田んぼが広がっていて、小川があったし鷺の様な鳥も見かけたな。
犯人はアイツか?
捕まえたまま口に咥えて、落としちゃったか?
祖父の家の池は、知らないうちにウグイが群れていたそうだけど。
でも、ハヤもウグイも、水槽の中で買う魚じゃ無いなぁ。
まったく、生命を見かけちゃったら、ほったらかすわけにもいかないだろ。

………


「ヒカリー!」

お姫様が起きたらしい。
道場を吹いたモップを陽当たりの良い庭石に立て掛けていたら、縁側から声がした。
ってこら!
 
「瑞穂くん、パジャマパジャマ!」

多分、起きたそのまま布団から出て来たのだろう。
トイレ経由か直通か知らないけど、ボタンは2番目まで外れて(浅い)谷間(何のとは言わない)が見えているし、裾が捲れて臍が見えてる。
あれだ。
この娘は警戒心をまったく振り解いているんだ。
というか、こんな娘1人で外に出して大丈夫なんだろうか。

あと、姿見を買った方が良さそうだ。

「オハヨー」
「おはよう。まずは服を直しなさい。乱れてますよ。」
「ミセテルンデス」

なんですと?

朝からコンコンとお説教か必要ですか?

「ウレシクナイ?」
どうも彼女は、変な常識を身につけている様だ。
出処は、郷(スペイン)か漫画かお隣か。
うむむ、どれも怪しいじゃないか。

という訳で。
「親しき中にも礼儀あり。ましてや貴女は礼儀を重んじるべき剣士だ。」
と、簡単にお説教。

「ハイ、シショー」
ペタンと正座して、深々と頭を下げたけど、ボタンを留めてないから、谷間の奥が見えるんだってば。
あと、昨日はシショウって言ってた気がするけど、今日のはシショーって聞こえるぞ。
コショーみたいじゃないか。

………

一応ですね。
朝(漫画をほっぺたに付けたままのだらしが無い格好で)起きたら、今日も隣の僕の部屋は空っぽだし、台所じゃ朝ごはんの下処理が済んでるし、既に開けられた雨戸の外では洗濯物が干されて、師匠は掃除をしている。


だらしが無い弟子としてはどうしよう。
そうだ!ぺったんこだけど、お色気大作戦で誤魔化そう!

って考えたと白状しました。
ぺったんこのお色気大作戦という壮大な矛盾はさておき。
あと、僕はロリコンじゃないので無意味だったし。

まぁ、彼女なりの距離の詰め方と親しみの表現らしいので、それ以上は叱らずに朝ごはんにしました。

おかずは、ハムエッグとばってん茄子をガーリック醤油焼きにしてみました。
今日は配達品待ちと、リビング作りなので、ニンニクをたっぷり効かせても大丈夫でしょ。

「シショー、リョーリオシエテクダサイヨー」
「はいはい、お昼からね。」

この娘一応、前向きな姿勢は欠かさないんだよね。
空回りする人なのはわかってきたけど。

★  ★  ★

さてと。
朝ごはんの洗い物は、瑞穂くんが引き受けてくれたので、僕は先に道場に向かう。

昨日の細工の手本が出来るか試してみたいのだ。
で、用意したのが3尺3寸の竹尺。
いわゆる裁縫に使う竹製の1メートル物差しだ。
実はこれ、使い勝手が良くて、実家で自分使いしていた物を、そのまま持って来た。

天井から吊るした糸に対して振りかぶってみた。
うん、大丈夫だ。
まだ出来る。

ついでだから、道着に着替えてないけど素振りもしておこうか。

壁に貼ってある大きな鏡に向かって、僕は竹刀を振り落とす。
宅配便屋が来てもわかる様に、窓やドアは開けっぱなしにしてあるので、近所迷惑にならない様に無言で竹刀を振る。
警察道場以外で素振りをすることは初めてなのだけど、2桁を越えたあたりから数を数える思考能力が消え去り、ただ無心で竹刀を振りかぶる事に集中していた。

気がついたら、道着に着替えた瑞穂くんが僕の後方で静かに正座していた。
漫画片手にニコニコして、何やら変なことを企んでいた姿とは全然違う、鋭い眼光が鏡越しに僕の姿を見つめていた。

「あぁ悪い。1人にしてしまったな。」
「イエ。ベンキョウニナリマス」

この娘、剣道に関しては本当に真摯なんだよなぁ。

「ヒカリ、コレナニ?」
それが夕べ吊り下げていた細工だ。
すなわち、天井から垂らした糸。
タコ糸。
なんだろうこの家。
倉庫にちょっとした大工道具が詰まっている。
工具箱を開けてみるとタコ糸が入っていたので、そのまんま持って来た。
赤のマジックで印をつけてある。

僕は竹刀を片手に糸に近寄った。
ふぅっと肺から空気を抜いた。
目に力を込めて、竹刀を振り上げた。

「はぁ!」

振り落とした竹刀の剣先は。

タコ糸に付けた赤い印に止まっている。

そして。

タコ糸はピクリとも揺れていなかった。

「ウソ?」
「本当だよ。竹刀を振れば空気が動くし、当たれば糸は動く。でも僕には出来る。なんだろうね?意思が物理を超越するとでも言うのかな?」

でも祖父も出来るんだよね。
祖父の前で試しにやってみた僕も出来たから、祖父に警察道場に連れて行かれたんた。

「出来る様になれとは言わないよ。ただ、剣先が止まる様になれば、近い事が出来る様になるかもしれない。この糸は吊るしっぱなしにしておくから、1日の稽古のうち、1度でもやってみれば良い。」
「ハ、ハイ…」
「まぁ竹刀だと大変だから。」

と、僕は竹尺を瑞穂くんに渡した。
竹刀よりは風(空気)が動かないだろう。

後日、まさか竹尺をあんな風に使い出すとは思わなかったけど(伏線)。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ご飯を食べて異世界に行こう

compo
ライト文芸
会社が潰れた… 僅かばかりの退職金を貰ったけど、独身寮を追い出される事になった僕は、貯金と失業手当を片手に新たな旅に出る事にしよう。 僕には生まれつき、物理的にあり得ない異能を身につけている。 異能を持って、旅する先は…。 「異世界」じゃないよ。 日本だよ。日本には変わりないよ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

瑞稀の季節

compo
ライト文芸
瑞稀は歩く 1人歩く 後ろから女子高生が車でついてくるけど

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...