相馬さんは今日も竹刀を振る 

compo

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あなたどなた

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「これも、お願いね。」

お隣さんが持ってきたのはバナナだけでなく、じゃがいももあった。
それも箱ごと。
勿論、見えてたけれどさぁ。

「じゃがいも?それも1箱もですか?」
「採れたての新じゃがだからね。美味しいよ。4箱も贈られて来て始末に困っているから、お裾分け。」
「始末に困ってるって言っちゃった。」

あと、新じゃがって今の時期に収穫出来ることを初めて知った。
使いようのない知識だけど。

JA鹿児島の箱(結構重たいぞ)を縁側にドンと置いたまま、お隣さんが帰ろうとした時に、彼女は何事かを思い出した。
  
「そうそう、さっきお客さんが来てたわよ。若い女の人。」
「妹なら、途中まで送って行きましたよ。」
「妹さんてお墓参りに来ていた女の子でしょ。違うわよ。」

まぁ、男の妹はあまりいないですね。
今時、少し弄り辛い話なので、深入りはしませんが。

「私より少し歳下に見えたね。そのくらいの人。」

はて、心当たりがまったくない。
女性の知り合いって言われても、中学・高校のクラスメイトくらいだし、大体僕が引越した事なんが、仲の良かった男友達にすら誰にも連絡して無いぞ。

クラスメイトって卒業式が終わったら、大体関係は1度リセットされるだろ。
ましてや高校卒業は、大学進学にせよ就職にせよ浪人するにせよ。
自身の属性が大きく変わるわけだから、昔(まだ式から2週間経ってないけど)のままてはいられなくなるわけで。

「そうそう、お名刺を預かってたんだ。ちょっと待っててね。」   
両手をパン!と胸元で打つと、お隣さんは自宅に走って行っちゃった。

瑞穂くんと穴熊の側を駆け抜けて行ったけれど、穴熊はバナナに夢中で、お隣さんに反応しなかった。
…穴熊ってバナナは皮も食べちゃうんだ。 
あとお隣さん?
つっかけサンダルで走ると転びますよ?
門から地面から、やたら凸凹している屋敷なんだから。
地面から顔を出している立木の浮根なんか、どうすりゃいいのさ。
埋めればいいのか、掘り出して切っちゃえばいいのか。
あぁ、仕事が絶えないなぁ。

………

「北海道警・水野麗香」

それに札幌署の電話番号の書かれた、簡素な名刺を渡された。

誰ですか?水野さんて。
警察って事は、祖父の知り合いかな?

「でも、相馬光さんって、名指しをしてましたよ。」
「はぁ。」
そもそもコレ、本物の名刺かぁ?

祖父に聞いてみようか。
たしかに僕は警察道場に通っていましたけど、顔がわかるお知り合いは県警の人だけで、警視庁とか府警とか道警の人は知りません。
しかも道警って、北海道から来たの?
わざわざ?

「ヒカリ、オジャガデナニツクル?」

あ、スペインからわざわざ来た人がそこにいた。
しかも、穴熊の抱っこに成功してるぞ。
穴熊がくんくん鼻を鳴らして、瑞穂くんの顔を見つめてる。

「そうねぇ、フライドポテトとかハッシュドポテトとか、肉じゃがとかかなぁ。」
「ワ!ニクジャガ食べたい!」
「ねぇ!男を堕とす料理の1番人気よ!」
「ナンデスト!」

肉じゃがを作らない(作れない)女性陣が盛り上がっていますが、今晩はお刺身だし、プラ樽には水煮にした筍が丸々残ってるし、冷蔵庫の中の鮭、あれどうすんだよ。
 
「ひき肉と人参と隠元がないのと、今晩のメニューは決まっているので、肉じゃがは明日以降に作ります。」
「待って光さん。ひき肉と人参と隠元豆でいいのね。」
あれれ?
「ひき肉以外は食物庫に余っているから明日持ってくるわ。ひき肉は豚?牛?合い挽き?」
「…どれでもお好きなものを…。」
「よし!今から買ってくる!」

サンダルでポクポク走っていく後ろ姿は、某国民的家族4コマ漫画・日曜夕方アニメの(お日様も笑ってる愉快な)主人公みたいだな。
あの人。

…あと、食物庫って何? 
お寺にそんなのあるの?


★  ★  ★

『あぁ水野君か、知ってるよ』

祖父に電話をしてみたら、悪びれも無く犯行を認めました。

『後藤君の婚約者だ』
「ミズノ君もゴトー君にも、面識ないんですけど?」
『後藤君はウチの機動隊員だよ。ついでにお前に負けた全警剣の優勝者だ。』 
「あぁ。あの人ですか。」

なんだこれ。
婚約者さんの敵討ちでも来たのか?

『剣道に関してだけ言うなら、水野君はお前達に対抗するとか、そんなに強くないぞ。お前達がおかしいだけだ』
「おかしくて悪うございましたね。」
『俺も明日行くよ。ちょっと見てやって欲しいんだ。』

爺ちゃんが見て欲しいというのは、多分、間違いなく剣道だろうなぁ。

「爺ちゃんは北海道でも何やらかしてんの?」
『最終職位は県警からでは無く、警察庁から出向扱いだったからな。剣道に関して言えば、日本全国弟子だらけだ。県警の後藤は俺の最後の直弟子だからな。お節介くらいは焼いてやる気だ』
「はぁ。」

なんだか訳の分からない事になりそうだ。

『あと、警察官の名刺は貴重品だから取っとけ。結構するから姓もかわるしレアだぞ』
「いや、これ。本物なの?」

人様の奥様の名刺貰ってもさぁ。
 
『見てみない事にはわからんけどな。警察官の名刺なんか、その気に悪用し放題だろ。だから普通は警察手帳を提示するし、名刺自体が有料なんだよ。俺の伝とはいえ、警察官の名刺なんか滅多に貰えるもんじやないぞ』

いや、貰ってどうすんだよ。

………

「デ、ドウナルノ?」
「さぁねぇ。爺ちゃんが何かを企んでいるらしい事はわかった。」
「オジイ、ワルイヒトジヤナイヨ」
「今、僕と瑞穂くんがここに居て、2人でお刺身を食べている事も、爺ちゃんの悪巧みだよ?」

爺ちゃんが居なければ、僕は実家で大学進学前の休みを満喫していたし、瑞穂くんだって日本まで来て初めて会う男と一緒に住むとかなかっただろう。

「まぁ僕は、祖父に用がある祖父の知り合いと接するだけだよ。あとは全部ぜぇ~んぶ、流される事にする。」
「ヒカリ、カッコワルイ」

この状況で、カッコいい対応って、なんだろう。
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