相馬さんは今日も竹刀を振る 

compo

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試合ですよin警察道場

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「はぁ!」
「いゃあ!」

道場に都築さんと阿部さんの気合いが響き渡る。
阿部さんが鋭く踏み込んで小手を狙えば、都築さんが素早く引き、上段の構えで阿部さんの胸元に飛び込む。

ほぼ互角かな。
僕が審判やらされたらたまったもんじゃないぞ、コレ。

「師匠、誰の味方するんですか?」
「師匠、私達は師匠直属の弟子ですよ!」
「師匠、この子達は警察の人質ですよ!」

いや、最後のは無いけど。
何しろここの警察官、民間人に馴れ馴れし過ぎる。
そこで審判やってるゴリラとかさ。


そして、いつのまにか道場内は警官で溢れていた。
壁に掛かる時計を見ると、昼休みに入っていた。
みんな暇なの?
ただの大学生と婦警の練習試合だよ。

僕は週に2~3回来る瑞穂くん達と違って警察道場には殆ど来ないので、知らない顔ばかり。



「あれが相馬さんのお弟子さんですね。まだお若いのに、動きに無駄が無い。」
「あれに馴染んだら、フェイクの動きを教えないとなりませんね。」



とはいえ、祖父に連れて来られて酷い目に遭わされたのは、大学受験の勉強に本腰を入れる直前だったので、その間に昇進した「偉い人」は知り合いがいる。
今、僕の隣に立つ弓岡警視正はその1人だ。
警視正がどんな役職かと調べて驚いた。
警視総監以下第4位のお偉さんだった。

軍隊の位で言うと、警視総監を元帥とすると警視正は少将にあたる。
将官だ。
フォーク准将より偉い。
因みに祖父の現役時代の警視監はその上だった。
調べなけれはよかった。
あと、お、おにぎりが好きなんだな。(父が大好きなドラマより)


弓岡さんは、後藤ゴリラをはじめとする主に機動隊方面の馬鹿力連合とは違って、知的で理的で理詰めで剣を振るう人だ。

それ故に、精密機械の様に試合では相手の面を捉え続ける、そうだ。
何しろその理が正解で正確なせいで、祖父の様な、或いは祖父の縮小コピーの僕にはいい餌になった。

「1+1=2!」って正解を言ってる人に、「1+1=3.141562926563…」とめちゃくちゃな数式を提示して、力任せに等号で繋げちゃう僕らの剣は理解不能だったみたい。

で、40絡みの立派な紳士だというのに、何故か僕がこうやってたまに道場に顔を出すと必ずやってくる。
偉いんだから、忙しいだろうに。
祖父は偉かったけど、僕はただの大学1年生ですよ。

「私が見るところ、都築巡査は相馬さんの道場に出入りするようになって強くなりました。どこが強くなったかと言えば、精神です。」
「はぁ。」
「追い込まれる姿を見なくなりました。彼女は追い込まれる前に負けますから。」
「……ん?」
「同程度の相手なら完勝しますよ。彼女が負ける相手は4段5段の名人達人だけです。」
「はぁ。」

まぁ警察官ですから、有段者はゴロゴロいるでしょうけど。

「相馬さんのご婚約者さんにしても、あの2人にしても、簡単に負けてくれません。特にあの2人に関しては、粘り強くなりました。当署のみならず、当県警の婦警全体を相手どっても彼女達にストレート勝ち出来る婦警はいませんよ。」
「へぇ。」

阿部さん達が結構頑張ってるって話は聞いていたけど。
弓岡さんのお褒めの言葉か。
今でこそ競技者としては現役を退いているけど、この人もかつては全警大を2年連続で制している化け物だしね。


「相馬さんに化け物と言われて光栄ですね。私は相馬さんにも警視監にも、一度も勝てていないんですが。」
「僕の周りには変人が多すぎますって言い換えますか?自分を含めて。」
「あっはっはっはっ。そうかも知れませんね。」


「そこまで!引き分け!」

後藤さんの掛け声が入り、逆に見物人からどよめきの声が上がった。
見ると、阿部さんも都築さんも面の下から納得した顔が出て来た。
判定に持ち込まず引き分けと判断して、競技者が2人とも異議を唱える様子は無さそうだ。

「都築巡査は、また上達しましたね。昨日とは見間違えるほどです。相馬さん、彼女に何を教えたんですか?」
「足の筋肉、足の甲の筋肉の動かし方を。」
「ほう、それを教われば強くなれますか?」
「無理でしょうね。全員が全員ってわけにはいきません。都築さんは強くなれる能力を持った人だから、体幹が上がるちょっとしたコツを身体に覚えさせただけです。出来ない人には永久に出来ないでしょう。」
「おや、手厳しい。」


「初めて僕が警視正と対戦した時に、弓岡警視正の剣道は言わば数式の剣道、と祖父が教えてくれました。俺達の剣道は文学の剣道、まだ未熟なお前が勝てるには、それを考えることだって言われましてね。まったく試合前に手拭いを被っている後ろでいうかな。」

「ふむ。理系と文系の剣道ですか。運動の概念としてはあり得ない考え方です。相馬さんは、どうお考えになったんですか?」

「算数は余りがあっても正確な解がある。でも国語には最大公約数的な解が許されるんです。例えばこの時作者はどう思ったかなんて問題は大学入試でも出ますが、数人の作者曰く、1番正解に近い答えは''何も考えてない''もしくは''締切の事''だそうです。身体能力に余裕があれば、正確無比な剣道を出鱈目な剣道でも上回れる、じゃ無いかなってあたりですかね。」

「ほうほう。」

「僕はその出鱈目なやり方をいつも考えているんです。テレビゲームでよくガチャ押しってありますが、もし理論的なガチャ押しが出来たら、相手はついていけないでしょう。」
「理論的なガチャ押しですか。矛盾してませんか?」
「その矛盾を身体能力で補うってやり方が祖父なんです。そしてどうやら、その残念な身体能力を祖父から受け継いじゃってるみたいです。僕は。そしてそのコツを教えているだけです。祖父は言語化という言葉を使いますが、言うならば祖父や僕が使う''肉体言語''を理解出来る人だけが、祖父や僕の指導で強くなれるんです。阿部さんや田中さん、都築さん。あと数名の方が僕を師匠呼ばわりしてくれているのは、彼女達が肉体言語を理解できる才能があるからですよ。」



「くっくっく、警部補が相馬一族と一括りにして厄介者にしてる意味がわかりました。」
「僕が知る限り、後藤警部補こそ祖父の一番弟子なんですがねぇ。本人が頑なに認めてくれないんですよね。」
「そうそう、後藤の上司として、警視監の部下として相馬さんにお願いがあるんでした。」
「はい?なんでしょう。」


「次、田中!都築は休めたな?」
「はい!」
「いけます!」

都築さん、連戦になるけど大丈夫かなぁ。

「相馬さん、あなた方の仲人をやらせていただけませんか?」
「はい?」
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