相馬さんは今日も竹刀を振る 

compo

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種明かし

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「モノマネですか。これは面白そうですねぇ。」

あのぉ。
弓岡警視正が興味津々ですが、そもそも基本的に僕の剣道は全て祖父のモノマネですよ。
って言うか、僕はマニュアル人間なので、僕の人生は今のところここまで全部、先人さん達のモノマネです。

じゃないと、親の人生を辿って、国立大学の教育学部に進学して教職を目指すなんて真似をするわけないじゃないですか。

最近になってやっと自分なりのオリジナリティとして、教員ではなく司書や学芸員もいいかなって思い始めたけど、それにしても公務員という括りからハミ出そうなんて1ミリも思ってないし。

「前に後藤警部補と雑談をした時にですね。野球選手の話しになった事がありまして。」
「あぁ、ありましたね。長嶋茂雄や近鉄バファローズを知らないと聞いて。まだ私もそれなりに若いとは思っていたんですが、10代の学生とは果てしなくジェネレーションギャップがあるんだなと驚きましたから。よく覚えています。」

副審の立ち位置から僕の側にゴリラが移動して来た。
持っている旗が凶器に思えて、少しだけ怖い(笑)。
あと、上の人に話しているから、普段はべらんめえ口調なのに敬語なのが少しだけ面白い。

「僕には特にスポーツ観戦の趣味はなかったんですけど、大学の校門前に小さな新古書店がありまして。たまたま休講の暇つぶしの材料を探しに入ったら、1980年代に夕刊紙で連載された野球コラムの文庫本をワゴンで見つけたんです。」

「その中で、近藤和彦って選手のエピソードがありましてですね。チームとか選手とか、Wikipediaで調べては忘れていく中で、こんな生活してますから、この人だけは強烈に記憶に残っているんです。」

「懐かしいな、天秤打法の近藤か。魔術師三原脩の元で弱小大洋ホエールズが日本一になった時のセンターだよ。」

1番に喰いついたのは、祖父とどっちが歳上なんだろう。
鹿島神宮の水島さんだった。

で、はい、それも読みました。
Wikipediaだったか、Amazonのおすすめだったかで、三原脩の昭和35年的な本が出ていたのでポチりました。
一流選手は殆ど居ないチームの中から、超二流の選手を見極めて、役割とタイミングと体調を整え、前年巨人と28.5ゲーム離されて断トツの最下位だったチームを、日本シリーズを4連勝して日本一に導いていくドキュメンタリーです。

今ではたまに3位に入ってCSをするする勝ち抜いてシリーズに出場するベイスターズですが。
昔はこんな、「がんばれベアーズ」とか「メジャーリーグ」やら「マネーボール」やらのアメリカ映画みたいなチームがいたんだなぁって思いました。

「その中で、ですね。歴史や記憶や記録に残る大打者は筋力も強いが、お前は筋力が弱い。このままじゃプロ野球で飯を食って行けないぞって先輩に警告されるシーンがあるんです。その先輩は青田昇って人なんですけど。」
「ゾクゾクする名前が出て来るな、おい。」
「怪我がちで劇的な筋力強化が難しかった近藤選手は、プロの球筋に着いて行くために普通のスイングじゃ力負けしてしまう。試行錯誤の末に近藤選手が辿り着いたのは
子供の頃に習っていた剣道の素振りなんです。」

プロ野球野球選手から剣道が繋がって、道場内はちょっとだけざわついた。

「近藤選手には、剣道の上段の構えからバットを振り下ろすスイングが、1番最短距離でボールにバットを当てる事が出来た。最も自然な形でスイング出来たので非力な自分でも大事を乗せた力強いスイングになった。」
「ぼっこ使う競技ならな。自分に合った型ってもんが、独自にあっても不思議じゃない。」

個人的には、基本通りが1番好きなんだけどね。

「だがよ、相馬の大将。あんたが天秤打法の真似をしたわけじゃなかんべ。何したよ。」
「Wikipediaじゃなくて古本の方にこんな記述があったんです。近藤選手は一瞬、秒が経つ前にバットから手を離しているって。しかも本人に聞くと、そんな事はしていないと。ただし分解写真で見ると、確かに両の掌から浮いている1枚があった。つまり、近藤選手はバットをしっかりと握らないスイングが本人のベストスイングで、それなのにチームの中心打者にのし上がった。」


何故だろう。
宮沢さんと水島さんが、悪い顔をしてて。
祖父がそっぽを向いている。

「逆に野球から剣道に取り込むなら、竹刀をしっかり握らない事で、何か新しい技になるんじゃないかと。まぁ、祖父には心当たりがあったみたいですけど。」

「おい。あんな事を教えたのか?」
「俺は昔から光には何も教えねぇよ。光の奴が自分1人で考えて辿り着いただけだ。いつものようにな。」
「?」

なんか宮沢さんと祖父が揉め出したので、顔に大きなクエスチョンマークを浮かべていたら、その宮沢さんが僕にツカツカ寄って来た。

「お前の爺さんはな。若い頃、真剣が重たい。木刀が重たいって言って、手の中で束をお手玉にしてたんだよ。挙句、片手剣どころか親指の元の盛り上がっている部分だけで刀を操り始めた。」
「危ないなぁ。」
「それを軽い竹刀でやったらな。相手の鼻の下から垂直に竹刀が突き出てくる様になった。丸切り人間の死角な真下から突きを取られた時にゃ、俺にはコイツの倒し方が本当に分からなくなったぜ。」

「それを孫が真似するかね。」

いや、僕はそんな曲芸はしていな…いって言い切れないなぁ。

………


「一ノ瀬さんが、一族の仲間になりたかった意味がわかったわ。」

面を外した早瀬助教が、何故か僕の前にやって来て…正座及び土下座をさした。

「貴方のお弟子さんたる田中さんと阿部さんには、入学の経緯を含めて大変ご迷惑をお掛けしました。また入学以来、相馬さんにも色々ご迷惑をお掛けしました。大変申し訳ございませんでした。」

あのぅ。
皆さん見てるんですけど。
大学のセンセイに土下座させている学生って、見た目が悪すぎるんですけど。

「そして、お願いがあります。私も弟子にしていただけませんでしょうか。」
「はい?」
「私も、二刀流の剣士として、二刀流を極めたくなりました。」
「はいぃぃ?」

今日、弟子2人目。
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