瑞稀の季節

compo

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瀬戸井街道

筑波駅前にて

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筑波山。

私の学校の最上階である4階から北を向くと、冬になればくっきりよく見える。

西を向けば、雪を被った富士山と多分、秩父の山々。
手前にスカイツリー。
なんだけど校舎は南向きなので西側にはあまり窓がないので残念。

かったるい授業なんかブッチして、見るたびに旅に出たくなった(意図的交通事故駄洒落)。

で、今はというと。
旅に出たくなったら、金に任せてどっかに行っちゃう男と婚約したので、なんやかんやと理由をつけて婚約者の裾を引っ張る私がいる。
仕事あるだろ。(もう終わったよ)
私を連れて行け。(泊まりだから)
すっかり逆だ。

我が校に幾つかある校舎などの建物のうち1番高い時計塔に登れば、北西の方角に日光男体山や、赤城山・榛名山と言った上州の山々まで見れるそうだけど、私に時計塔に登る機会も資格もないので真偽は定かではない。


「僕は昔、柏のそごうにあった回転レストランに親子で行った事があるけど、男体山は見えたよ。松戸にも回転レストランがあるけど、僕が知った時には閉店してた。」
「今は柏も閉店しちゃってんだっけ?」
「この間ちょっと行ったら、レストランがあったそごう全体の解体工事が始まってたよ。」
「そうなんだ。」


私は基本的に総武線の人間なので、常磐線には土地勘が薄い。
柏にはそごうが、松戸には伊勢丹があったけど、百貨店不況でどちらも閉店したことだけは覚えてる。
自分の活動範囲のうち、船橋や津田沼の大型店舗が次々と閉店して行く事の方が気になっていたからね。

「池袋は東口に西武(百貨店)、西口に東武(百貨店)って洒落があったけど、船橋は北口に東武、南口に西武ってズレてたのよねぇ。」

などと、前にお母さんが呑気なことを言ってた覚えがあるなぁ。
お母さん的にはヨーカドーが残っていれば、お高い百貨店なんかには用がないみたいだし。
しかし、JKJDにしてみたらやっぱり東武より西武の方がオシャレっぽいし、沿線に2件あったと言うPARCOもなくなっちゃった。
かと言って、線路が違うららぽーとは行きづらいし。

「八ツ橋の皮がそごうに売っててね。母が好きでよく買いに行ってだよ。」
「や、八ツ橋の皮?何それ?」
「水曜どうでしょうのサイコロ3で出てきたろ。ミスタさんが食べさせられたやつだよ。餡子が無いからと安心して食べ始めたら、髭に缶入り汁粉を出されて''生き地獄''になってた。」
「あぁ、あったね。」




私達が馬鹿な会話をしている場所は、ええと?どこ?ここ?
バスターミナルかな?

「昔の駅の跡だよ。筑波鉄道筑波駅。」
「鉄道?鉄ちゃんなの?馬鹿なの?死ぬの?」
「ウチの父が大学生の時に廃線になったんだって。土浦に何度か行った時に一駅だけ乗ったって。」
「あ、私がノルマをこなしたのに、流したなぁ!…何しに来たの?」
「知り合いが入院してた病院にお見舞いに行ってたんだって。」

なるほどね。

「この廃線跡は廃止後30年くらい経つけど、全線こうやってサイクリングロードになって辿れるんだ。ところどころに桜が埋まっているから、その季節は筑波山をバックに綺麗な写真が撮れるんだって。」
「因みに瑞稀さん、行く気は?」
「無いなぁ。」
「どして?」
「自転車を買わないと。」
「そこから?」
「考えてみると、高校以来自転車に乗ってないなぁ。バイクと車を買ったら、乗る機会無くなったし、自転車で乗る距離なら歩いちゃうし。」

そうでした。
この人は、そう言う人でした。


「産業遺跡好きの瑞稀さんにしては淡白だね。」
「昔ね。」

お?
ご本人の想い出話かな?

「昔、下総中山に3週間ほど暮らしていた事がある。」
「…筑波からはえらく離れましたな。って何の為に?自宅から通えるじゃん。」
「あぁ、資格取る為にね。合宿したんだ。」
「資格?合宿?下総中山で?何の資格?」
「公認会計士。」
「待てやコラ!」

何で千葉大学文学部卒の文筆業が、公認会計士の資格を取るんじゃあ。


………

さっきからずっと筑波廃駅前で喋ってて、場面展開はしてないけど、3点リーダをつけてひと段落。
理沙ちゃんは読者に親切だ。
…社長しか読まない準備稿だけど。

….……


「…念の為に聞くけど、…受かった?」
「うん。実務経験がないから登録出来ないけどね。ほら、自由業で食べて行こうって決めたからさ。税金の管理くらい出来るかなぁって。」
「あの。私、高校は商業科卒で簿記2級を持ってるの。今は家政科だけど、卒業するまでに1級合格を企んでるの。…なのに何で使いもしない会計士持ってるのよう。」
「うん。受かっちった。」
「受かっちったじゃなぁい。」

本当にこの男は、もう。
あれだけ私(女子高生から女子大生)が、領収書領収書騒いでいたのに、あんた領収書の重要性をきちんと認識してて無駄遣いしてたのかよ。



「今はどうなっているか知らないけど、当時、と言っても3~4年前の事だよ。学生や社会人向けの試験直前集中講座をNPOがやっていたんだ。自宅からの往復の手間が面倒くさくてウィークリーマンションを月極めで借りた。」
「…また無駄遣いを…。」

「まぁ便利な街だったよ。」
「沿線住人だけど、降りたことないなぁ。」

「スーパーが西友とマルエツが2件。ダイソー1件。文教堂書店があって、松屋とてんやと餃子の王将があった。まぁ便利な街ではあったよ。遊ぶ所は全く無いけど。ファミリーユースというか、一人暮らしにはぴったりの街だね。」
「はぁ。」

この人は婚約者だと言うのに、この人の過去をあまり知らない事に、今、茨城県にある廃駅で聞かされている訳だけど、ウチの姉達はまだお花摘みから戻らないから、ひとつほじくり出してやろう。

「んで。貴方は下総中山で何してたの?勉強以外で。」
「ほっつき歩いてたな。本屋には1回入れば品揃えはわかって欲しい物はさっさと買っちゃったし。」
「ご飯は?」
「てんやと王将は好きだけど、松屋や吉野家みたいに店舗が少ないから食べたくなるだけで、いざいつでも食べられるとなると別に行きたくもなかったなぁ。」
「はぁ。」
「それよりも今は潰れたヤマザキ系のコンビニのお弁当でお好み焼きとピラフを毎日買ってたり、喫茶店でベーコンとほうれん草のソテーを毎日注文してたよ。どっちも味が濃くて、当時の僕には美味しかった。今と違って調理はしなかったし。」
「へぇ。今度食べに行こうよ。ほうれん草。」
「その店も潰れちゃった。和風パスタとか美味しかったなぁ。…鶏の唐揚げ頼んだら、明らかに日清の唐揚げ粉で揚げてたけど。」

あははは。
アレが店で出て来たら。そりゃガッカリだね。


「ねぇ。」
「ん?」
「瑞稀さんがたまに作る唐揚げも日清の粉使ってるよね。」
「スパイスにまで気を使う人間じゃないよ。」
「ウチもアレだけど、社長のと味違わない?」
「醤油とかすりおろし大蒜を混ぜてるからね。」
「……帰ったら、私にも教えて。」
「りょぉかい。」


で?
なんで下総中山の話になったんだっけ?

「ほら。ちょっと半端に盛えている駅前によくデザイナービルがあるだろう。大体敷地に合わせた建物を建てるから間取りが変で、人の動線がおかしくなってる。下総中山のマルエツも、上は少し変な空間があるんだよ。階段の下とかね。」
「はぁ。」

この人は何を言いたいの?

「僕がいた時は、そこに古本屋があった。」
「テナントでなくて?」
「うん。10日間だけのね。かと言って古本市とも違う。出店みたいなものだった。」
「古本市?何それ。」
「全国の古本屋がデパートにイベントとして出展するんだよ。行くと喜国雅彦に会えるかもね。」

誰?それ?

「で、その古本コーナーで見つけた廃線跡紀行本が、この筑波鉄道を詳しく紹介していたんだよ。ただ、どこにいったかわからなくてねぇ。Amazonでそれっぽい本を買っているんだけど、全部違うんだよ。」
「あのう、それだけ?」
「それだけ。」

何のために下総中山に(気分だけ)行ったんだよう?
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