瑞稀の季節

compo

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夏休み

雨の佐倉にて

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社長からプロポーズを受けた翌々日、社長(天気予報)の証言通り、しっかりとした雨になった。 
さすがは社長とお天気の森田さんだ。

昨日はと言うと、一度また佐倉まで戻って成田まで初日と同じ様に石灯籠や路傍の石仏・青面金剛などをコツコツと回りました。
お昼は成田山参道にある、駿河屋って鰻屋に入りました。
「特選」鰻重、肝吸い付き6,600円なり。
ついでに川エビの唐揚げと出汁巻き卵焼きをいただきまして、お土産に地酒を買い貯めた編集者チームの無駄遣いを含めて1人頭ほぼ一万円。

だから何度も言いますが、私の普段の食生活はサイゼリヤだって言うの!
鰻なんか家じゃスーパーで買ったものに、タレと山椒で食べるか、すき家でゴムみたいな鰻を食べて、あぁ鰻喰ったぁって自己満決める以外にないっての。

………

「最近引退してしまったのかな?滝本淳助って言うカメラマンがいてね。」
おや、社長がまた無駄知識を披露してくれそうだ。
「聞きましょう。」

「タモリ倶楽部のレギュラーコーナーを、孤独のグルメで有名な久住昌之と引き受けた事があったんだ。」
「タモさんに久住昌之だけで、お腹いっぱいになる組み合わせですね。」
「滝本淳助は、みうらじゅんや喜国雅彦とバンドも組んでた。大島渚って言う。」
「キクニとか大島渚って誰ですか?」
「喜国雅彦は最近手が痛いって引退宣言をした漫画家だね。確かウチの父が持っていた筈だ。全編下ネタだらけの。」

そんなの、お義父さんが居ない時じゃないと読めないじゃないか。
息子の嫁は、下ネタでゲラゲラ笑っている嫁と思われたらどうするんだよ。
内村プロデュースを見ていて、思いっきりバレたんだぞ。

「喜国雅彦は本棚探偵って、古本を扱うエッセイの方が好きかな。漫画で羽目を外す分、活字表現ではシモに行かず,丁寧なエッセイストになってたりする。」

…そっちの方が安心して、お義父さんとお話しが出来そうです。

「大島渚は松竹ヌーベルバーグという政治とセックスを描いた作風の映画監督だよ。理沙くんは''戦場のメリークリスマス''って映画は見たけどなあるかな。」
「見た事ないけど、ビートたけしの''メリークリスマス!ミスター・ローレンス''ってセリフと坂本龍一の音楽を知ってますよ。」
「今まで語種な映画はまだ作れてないって、絞首刑で物凄い映画を作った事がある。死刑囚の死刑を執行しようとしたところ、死刑囚が死にきれないで、更に重篤な記憶喪失になってしまった。さて、この後どうしよう。」
「うわぁ、きっつう。」
 
「晩年は野坂昭如を、自身の真珠婚式の式典に呼んでおいて、いきなり野坂の顔をぶん殴ってた。」
「あぁ、なんかで見た様な…」
「朝まで生テレビって、討論番組があったんだけど、あぁBSに移ったのか。」
「社長、そろそろついて行けませんよ。」
「要は晩年は怒りっぽいお爺さんになってたけど、洒落はわかる人だった。」
「この話がどう転がっていくんでしょうか?」

「うん、みうらじゅんの''大島渚''は、本人の老が齎すハプニングが面白いから、本人の断りなしで勝手につけちゃった。」
「すみません。嫌な予感しかしません。」
月光仮面の本を商業出版させられた方だから、川内康範と森進一のトラブルも知ってるし。

「バンド大島渚の代表曲、『カリフォルニアの青いバカ』を歌ってくれないかって頼んでみたところ、大島渚は大爆笑してOKしたそうだ。」 
「おや?いい人エピソードですか?」

「社長、滝本淳助はどっか行っちゃいましたよ。」
「あぁ、滝本淳助と久住昌之共著の''タキモトの世界''に滝本が激安鰻を食べるって回がある。」

やっと滝本さん、再登場の巻。

「当時ね、確か新宿の飲み屋街の中であった店じゃないかなぁ。鰻じゃ無くてタレで食べる鰻はカケラしか入っていない鰻重が大好きだって回。」
 
孤独のグルメとは、エライ違いだ。

「久住昌之は当時から''マトモなご飯“を求めていたから、その鰻重のフリした何かを馬鹿にしていたんだけど、タキモトさんは、

うん鰻って美味しいよ
僕だって本物の鰻は知ってるよ
もっと大きくてフカフカで美味しいの
でもね、コレを食べると
「あぁ、鰻っぽい物が食べられて、幸せじゃん。」

って丸め込まれちゃった。
久住はなんだその鰻っぽい物?って呆れてた。」
「社長?まさか鰻から、そこまで下らない引用を引き出すんですか?」
「理沙くんがぶつぶつ言ってたから。」

しまった。
社長の話好きを忘れてた。

★  ★  ★

という事で翌々日です。
佐原のお高いお高い旅館をチェックアウトして、佐倉の博物館に戻って来ました。

朝方はまだ結構雨が降っていたので、運転は社長です。

「というか、雨の日は僕もやだなぁ。軽に4人も乗っていると結構スリッピーになりがちだし。」
勿論、私だって嫌ですよ。
「あら、社長?女2人が後部座席に座っているだけなのに、重たいと?」
「うん。」

南さん、皮肉を言おうとして瞬殺されるの巻。
ていうか、ラゲットルームに山になってる日本酒の1升瓶が重たいだけだと思う。

「理沙?宅配便で送って割られた、取り返しがつかないんだよ?」
長命酒ってブランドの、大吟醸酒を2人で10万近く買い溜めやがって。
あぁまぁ頑張れ。
私は運ぶの手伝わないからな。

………

車を降りる頃には雨はすっかり小降りになっていて、もう傘も要らないんじゃないかってレベル。

それでも私は一応傘を片手に、昨日ABCマートに買いに行ったエナメルスニーカーをみなさんに配るのです。
アディダスと提携してるんだったら、お店で1番高いハイカットスニーカーを買ってやれ!って事で、フォーラム84って言う1足2万円くらいするスニーカーを手に入れて来ました。(なお、最寄りの駅は佐原だけど、店は茨城にあります)

「この領収書、どうしよっかなぁ。」
「理沙、当然お姉ちゃんにくれるわよね。」
「あぁら葛城姉妹?この取材の大元の資金は我が社から出ているのよ。スニーカーのページもこちらの本ですから。」
「こちら的にも、確定申告に載せる領収書が足りないのよねぇ。」

「何をやっているんだか。」
女3人がわちゃわちゃ始めると、社長はとっとと駐車場脇にある自販機でペッパーさんを買ってます。
これは社長が冷たいのではなく、変に巻き込まれたくないから。
婚約者と、婚約者の姉で編集者と、この企画のメイン編集者の誰の味方をしても、残り2人に後で叱られる事が分かっているからです。 

今日は今月の取材最終日。
靴4足で14近くになる領収書は、それはそれで奪い合いになりますよ。

「行きますよ。先ずは国立民俗博物館からです。」   
「はぁい。
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