瑞稀の季節

compo

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奥州街道

失敗したぁ

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今回のお話しは副題通りだ。

文字のみの作文でメタ発言をする事は、実はウチの社長の得意技で、一度実験小説と題して、小説やエンターテイメントの作法を全部無視して、やりたい放題書きたい放題した事がある。

恐ろしい事に、それが一般小説誌で連載されて、そこそこ好評だったらしい。
もっと恐ろしい事に、社長はどうしようもなくなった話を、途中でわざとぶん投げるって、しっちゃかめっちゃかな構想を持っていたし、作中で登場人物にも語らせていたのに、物語の方で勝手に収束してしまったとか。

「いや、キャラクターが作者の手を離れて動き出すって事は珍しくないけど、ストーリーの方が勝手に動き出した経験は初めてだったよ。」
「…どんなストーリーなんですか?」 
「PCのアーカイブに入っているよ。ドグラマグラの方が発狂しそうな駄文で、編集の方が書籍化しようと言い出した時はどうしようかと思った。」

私も一応、自分のタブレットにインストールして読んでみた。
目と脳が攣るかと思った。
この人が、同じ脳みそで書いた小文を文藝春秋に真面目で高尚な文章として載せているのかと思えば、そりゃ我が愛しき婚約者といえど二度見をすると言うものだ。

以後、社長はメタフィクションには手を出さない。

「作者が統制出来ない創作物なんか嫌じゃん。夜中に原稿から物怪が顕現しそうだし。」
「そんなホラー小説、キング辺りが書いてそうですけどね。」 
あるいは、クトゥルフとか。

「この部屋、夜中はヒロしか居ないんだから、あの仔が可哀想じゃん。」
「相変わらず視点がおかしいですよ。」
まぁ、あの小説に出てきた出鱈目も過ぎるキャラクターなら、ヒロの事だから懐きかねないけど。


で、冒頭に戻る。
お父さんの野郎が、事務所にやって来ちまいやがったのだ。
いや、正確には私が連れて来たんだけど。

まさかさぁ、お姉ちゃんの会社にファンレターを出して来るとは思わないじゃん。

ウチの社長はSNSを一切しない(代わりに私がブログで簡単な返信をたまに返してる)分、今時封書でファンレターが届く指向性アナログ人間だったりする。

勿論、PC関連の知識は私より上だし、それは多分わざとだ。
作風がやたら呑気なせいか、いわゆる変な手紙が来る事は無いし、読者層の年齢が変に高い作家なので(つまり売れ線の小説を書かない)、おじちゃんおばちゃんが息子扱いして来る作家なのだ。
…社長の交友関係がやたら幅広いのは、そのせいかもしれない。

なので大抵出版社側も、上から探って怪しいもの(剃刀とか?)が無さそうなら、そのまま開封せずに付き合いのある編集者が定期的に我が社に顔を出して届ける事になる。
(ついでに原稿だけでなく企画も持って行くので、社長のアーカイブがまた薄くなり、その分仕事と収入が増える。)

「脇」の打ち合わせで、何故か私と打ち合わせに来るお姉ちゃん。
いや、なら自宅でいいじゃん。

私達が台所で、わちゃわちゃ話している間に社長は仕事部屋で、お姉ちゃんが持って来た読者からの手紙に、返事を出すべき手紙かどうか、丁寧に一文字一文字読んでいたわけだ。

そして、お父さんの手紙を見つけたわけだ。

お父さんの手紙を社長に押し付けられた時の、私達姉妹はどんな顔してたんだろ。
あ、お姉ちゃんは、私達が婚約した事知らないから、あまり関係ないか。
のんびり煎餅齧ってる。
妙齢のお美人さんが、胡麻煎餅(しかも100円ショップの)を齧っている姿ってのは、妙チキリンで面白いなぁ。
こんな姿、実家でも見たことないぞ。

「どうしよう。」
「素直に会った方がいいかも。」

しかもウチの社長、オタオタし過ぎ。
男って、いざって時こんなんなるの?

………

んで。
仕方ないと覚悟を決めた私が、社長にアポイント(9月6日の10時に必ず事務所に居なさいよ!って脅した)を取って、ご対めぇん。

「初めまして。理沙の父でございます。」
「初めまし…
「先生の作品、何作か読ませていただきました。あの、竹細工のレポート、面白かったですねぇ。」
「はい?」
「お父さん?」

いきなり社長の両手を握ってブンブン振り回して、マシンガントークが始まった。
竹細工のレポートとは、社長が別の雑誌でやっている楽しいなスキルを身につけようシリーズだ。
例の、トランペットを吹けるようになった連載だよ。

お父さんはどうやら、バックナンバーを全部集めたらしい。
竹細工なんか連載初回の記事で、社長は山で青竹を自ら刈り取り、竹箸から竹籠終いには器用にも竹箕から竹灯りまで、ついていた教師役が呆れるほど、というか教師役がムキになって竹細工工作合戦を始め出してしまった。

因みに一応、秘書役というかマネージャー役で付いていた私も、なんとも分厚いフルタングとか言うナイフと、輪切りにされた竹筒(竹は横に切れば普通輪切りになるけど)を渡されて、呆然としてました。

ここから竹蜻蛉が作れるらしい。
そう言えば「内さま」で、カンニング竹山と作ってたなぁ。
でも、社長の持っている柳刃包丁でお刺身を切るのが精一杯な刃物スキルしかない私は、ナイフを持つだけでおっかない。
なので何もせずにギブアップしたのだよ。
明智くん。

まだ18歳の少女(いけしゃあしゃあと図々しい)に、こんな事させるな。

ま、そんな情け無い裏話は誌面に載る事は当然無くて、社長の無意味な器用さだけが強調される回となり、連載の方向性が決まったのさ。

まさか、お父さんが読んでるとはなぁ。
しかも、お父さんの趣味にドンピシャとはなぁ。

って事で、(裏設定では)婿と義父の邂逅だった筈が、お父さんが1人舞い上がるだけに終わりました。

「とにかく、娘をお願いします。」
「はぁ。」

★  ★  ★

「一応さ、色々考えてはいたんだよ。理沙くんとの関係を何て説明しようか。」
「形だけの秘書じゃなくて、最近する事増えてますからねぇ。」
「お給金だって、僕は誰かから貰った事無いからねぇ。僕が払いたい額を払っているんだけなんだけどね。」
「アルバイトが貰う給料じゃ無いのは事実ですけどね。前にも言った通り、私は給料は人件費として節税の材料にしているだけで、一生懸命経費として領収書を集める為にお金使ってますよ。」
「南さん達と何にも変わんないなぁ。」
「インボイス制度が殆ど影響ない自営業ってのも、どうなのかと。」
「いや、ウチは一応法人成りしてるんだけど。」

★  ★  ★

次の日に交わした会話の一部です。
お互い、婚約の事は触れていないあたりが確信犯(誤用)ですな。

とにかく、お父さんと会わせてしまった事は失敗でした。
このあと、どうやって縁談を進めたらいいのよ。

あと、今月の「脇街道を歩く」。
いつになったら始まるんだろう。
(メタ展開)。
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