ご飯を食べて異世界に行こう

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第二章 戦

庭には1羽百舌鳥がいる

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「君はなんでも、動物に異様に好かれるらしいな。」
「動物園にスカウトされても、ほいほいと承諾出来ない理由ですな。」

ちょっと空に向かって口笛を吹いてみる。
…直ぐに梅の木に雀に似た茶色い鳥が飛んで来て留まった。
キーキー甲高い声でわかる。百舌鳥だ。
おやつとして手元に置いてあったカツの駄菓子(ホームセンターのレジにガムと一緒に並んでいたので衝動買い)をあげると、僕の手で啄み始める。
そのまま指を開くと、カツを咥えて飛び梅の枝に刺し始めた。
梅に鶯ならぬ、梅に百舌鳥の早贄だ。

「……君は一体何者なんだ?」
「最近、症状が悪化してね。動物園の園長さんに選ばれし者扱いされて困ってる。ゲームの主人公じゃないんだから。玉もそうだよ。あの子はふれあい広場に行くと、向こうから小動物が近寄って来て埋もれちゃう。」
「そんな人も居るとは聞くけど、そんな人は普通、隣には住んで無いわなぁ。」
「まぁ、そんな奴も居るという事で。」

そのあとは、たわいのない馬鹿話をして、本物ぽん子の引越し日をスマホにメモをした。

「あいつにも、メールアドレスくらい教えてやれば良いのに。」
「同僚になったら教えるのにやぶさかではありませんけど、ご存知の通り僕には何故か女性の知り合いが多いので。いくら独身だとはいえ、あまり無闇矢鱈仲良しを作るわけにもいかないでしょ。まだお子様な同居人の目も痛いし。」
「君がそんなに身持が固い男とは思わなんだ。」
「ほっとけ。」

★  ★  ★

「どうかな?芥子菜と玉葱でサラダを作ってみたの。」

菅原さんを追い出したあと、椅子にニスと防腐剤を塗り、脚に100均で買ったアルミ製の靴下を履かせた。
基本、露天に置きっぱなしのテーブルセットだ。雨の降らない水晶の世界といえど、地面は植物の生育に適した湿度を帯びているので、脚元の防腐(防虫)処理はきちんとね。
と、出来上がったところに2人が帰って来た。

青木さんが抱えた、塗りが少し剥げた木皿(玉の家にあったものらしい)を差し出して来た。
少しオドオドしているのは、芥子菜が僕の好物で、わざわざ育てていて食材に重宝している事を玉に聞いたかららしい。

その玉は、僕が作った椅子に興味津々らしく、庭に飛び出して行った。
塗立て注意!
って書いといて良かった。
あの様子じゃ尻をニスだらけにしかねないぞ。

「芥子菜は湯通しして、ざく切りにした生玉葱と混ぜて、塩と胡麻油で味付けしたの。上に乗せた白胡麻と切り海苔は、お母さんのアドバイス。」
黄色・白・黒のコントラストが美味しそうだ。
「はい、あーん。」
「あーん。」
さっきまで、結構恥ずかしい男女の会話をしてたし、なんか恥ずかしくもなく、青木さんの手ずから1口試食。

もぐもぐ。
「うん、サラダとしてもイケるし、胡麻油の代わりにオリーブオイル使うと、おかずやおつまみになるな。」
ワインに合うし、小皿で置いてあると嬉しい料理だ。
「美味しい?」
「美味しいよ。」
「良かったぁ。」
皿をテーブルにきちんと置いてから、手を向けに当て、ほっとしたポーズを取る。
「別に芥子菜なら畑でいくらでも採れるんだから、1回や2回お試ししても付き合うのに。」
「そうはいかないの!女としての矜持なの!」
「そうですか?」

別に青木さんのご飯なら、しょっちゅう食べてるのにな。
今の我が家は、3人が特に当番を決めるでもなく、みんなで適当に調理をしている。
自分が食べたい献立がある時は立候補することが多い。
早めに言ってくれると、食材もあらかじめ用意出来るから。
朝ご飯だけはジャムとパンを自作している玉が作る事が多いくらいだ。
あと、糠漬けと。

「殿?庭にあの椅子置くんですか?」
「しずさんとこにな。今日みたいに神様まで来ると椅子が足りなくなるから、いっそのこと作ってしまおうとな。」
「こっちのお庭には置かないんですか?」
「どこに置くんだよ。」
知らないうちに梅の木を植樹しやがって。大体今日も、咲き終わったシクラメンの鉢植えの代わりに置かれた、三色パンジーのプランターを退かしながらの作業だったし、相変わらずビニールトンネルの中で咲き続ける一輪草と、新しく作った畝にはチューリップの球根が埋められた我が家の庭には隙間がない。

「なら、うちの方に置く?」
窓から顔だけ出して、まだ侵略の少ない自分の庭を青木さんが眺める。
顔だけ出した窓はうちの窓なんだけど。この人は殆ど自分の部屋に帰らない。
「今朝の大家さんを忘れたかい?」
わざと遠い目をして、回想を2人にうながした。

………

「ちょっと用があって、殿にぺっとしょっぷに連れて行って貰ったんですけど、今ってメダカ凄いんですね。光るメダカとかいて、驚きました。」  

今朝は和食の日。
納豆を右に50回、左に50回かき混ぜて、騒いだ納豆が落ち着くまで待つのが玉の流儀。
納豆をかき混ぜ終わった時に、玉が口を開いた。

「あぁ、遺伝子組換えとか、色々問題になってたっけ。外来種が増えて日本原産か絶滅危惧種になってるとか。」
「そうね。…玉ちゃん、お姉ちゃん。お姉ちゃんの庭に置いてある池、あれ今水草だけ入っているけど、もう少し暖かくなったらメダカ離しましょうか。お婆ちゃんの伝でメダカなら揃えられるわよ。」
「本当ですか?」
「ええ。良いわよね、お父さん。」

朝からガッツリ厚切りベーコンを咥え込む後期高齢者。全部自前の歯だそうです。

「そうは言いましても、僕のうちの庭ではもう池を埋めるスペースないですよ。」
だから、青木さんちの土間に置いてあるんだから。
「うちに埋めて良いわよ。洗濯物を干すスペースが確保出来れば。」
「佳奈さん。本当ですか?」
「あんなプラ池を置きっぱなしにしてあるんだから、計画はしてたんでしょ。」
「ありがとうお姉ちゃん。早速メダカを手配するわね。」

僕には、洗濯物を取り込もうとして、池に落ちる青木さんの姿が明確に目に浮かんだけど、盛り上がっている女子3人(10代、20代、70代)に水を差す真似はしないのだ。

………


「でも大したもんね。さすがは男性というか。私達がちょっと畑仕事して、あれこれ料理を作ってた間に椅子作っちゃうとはねぇ。」
「ちょっとって言っても、そろそろ夕方なんだけど。」
僕がこっちに帰って来たのは昼過ぎだ。

多分、しずさんにあれこれ聞きながら、試行錯誤してたんだろうな。
芥子菜と玉葱って、刺激性の高い野菜だし、合わせるのも大変だったろう。

「殿、本当に食卓作るんですか?あの白いのも、玉は好きですよ。たくさん思い出ありますし。」
「最初に玉と逢った時に使ったんだっけ?」
「はい、神様への貢物を、殿が作ってくれたんです。油揚げの料理でした。」
「キャンプに行った時も使ってたよね。」
たかがアウトドア用の簡易なテーブルセットだけど、僅か半年も経たないのに、僕らは思い出を沢山積み上げていた。

「ただな、プラスチックだから紫外線に弱いのと、ゴムの部分は加水分解するだろう。あくまでも持ち運び重視だから、安定性や耐久性に問題がある。」 
「木ならば経年劣化に耐えられる、か。」
「?どういう事ですか?」
「うんとね。玉ちゃんちって、建ってどのくらい経った?神社は?」
「あ、成る程。」
「木材ってね。カビとか虫食いの対処をきちんとすればいつまでも保つの。世界で一番古い木造建築物って日本にあるのよ。」
「へぇ。」

……今度は奈良に連れて行こうかな。
青木さんがあえて固有名詞は省いてくれているのは、歴史大好き少女の好奇心だけをくすぐってくれているからだね。
玉はなんでも素直に感心してくれるから、見ているこっちも楽しくなってくるんだよね。


「ね、私もテーブル作りたい。ほら、ちびはお母さんと食べたがるから、餌皿を芝生に置いてるじゃない。ぽんちゃんのも。あの仔達がっつくからお皿がひっくり返りそうなのよね。たぬちゃん達の方は、貴方が置いた石の上とか縁台で食べてるけど。だからあの仔達の食台も作りたい。」
簀を置けば良いだけだと思うけど、つまらない正論言って興を挫く必要もあるまい。
「あ、だったら玉も作ってみたいです。」
「わかったわかった。明日には全部材料が届くから、そしたらみんなで浅葱屋敷に持って行こう。」
「はい!です!」
「あ、簡単な設計図作らないと。」
「完成予想図を絵に描いてくれ。CADで明日までに作っておくから。」 
「使えるの?」
「大学時代にな。概要だけは習った事がある。多少古いけど、ソフトはハードディスクにあるはずだ。」
「つくづく思うけど、貴方何者?」
さっき、菅原さんにも言われた気がする。

★  ★  ★

「お母さんに料理を教わったので、今晩は私に任して。」
はい。
立候補した人の邪魔はしません。
大して広くもないダイニングなので3人もうろちょろしたら邪魔になる。
あと、玉が足元で糠味噌をかき回しているから、つまずいちゃう。
そもそも、今日買ったものの整理をしてないので、玄関に置きっぱなしになっている袋を居間に運んで来た。

「あ、かぼちゃの種!」
糠味噌で汚れた手を洗って割烹着を脱いだ玉が、目敏くとことこやってきた。
「?この苗、なんですか?」
ビニール袋を覗いた玉が、小さな苗を2つ、土を落とさない様に、そっと袋から出した。

「バナナとマンゴーの苗。」
「ばなな…育つんですか?」
「普通なら育たない。」
「はい??」
「でもね。」

透明なビニール製のテーブルクロスを取り出した。
あとは小さなLEDランタンと、一輪挿しのガラス花瓶。
しずさんが、暗くなってから外で調理や食事をするとは思わないけど、まぁ飾りだ。
一畳分のコンパネを、そのままテーブルの大きさにするつもりだから、例えしずさん1人の食卓でも、楽しく食事を取れる様にした方が良い。
あとは実際に作ってみてから、考えるつもり。

「石工さんとこの本家の人は、ビニールハウスを使わずに露天でバナナを育てたそうだ。だから、聖域なら育つんじゃないかなぁと。」
「まさか…とは言い切れませんね。殿の血筋だし、神様の土地だし。」
「神馬のおやつにするつもりだから、荼枳尼天の協力を仰げるんじゃないかなぁと。」
「なるほど。」
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