ご飯を食べて異世界に行こう

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第二章 戦

DIY

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「お馬さんの名前、どうしましょうかねぇ。」 
「玉ちゃんて、割と即物的な命名するよね、モルちゃんとかモーちゃんとか。」
「だって佳奈さん。玉はぺっとを飼うって習慣なかったですから。殿のところに来て、初めて動物を可愛がるって覚えたんですよ。」
「わん」

玉と青木さんとちびは、のんびりと牧草を食んでいる牛馬の様子を見に行った。
庭と花壇の境界にしているツツジの内側では、玉達の接近に気がついたモルモットとミニウサギが並んで待っている。
ツツジにつかまって後ろ脚で一生懸命に立っている姿が可愛いな。

「なぁに?ぽんちゃんがしている首輪が羨ましいの?」
「わふ」
お父さんとの絆の象徴なので。   
「わふ」
良いでしょう。私と弟だけよ。

しずさんは、通じているんだかいないんだか、たぬき達に話しかけている。
あと。

…たぬきちの言うお父さんというのは僕か?
まぁ、初対面の雌雄たぬきが喧嘩もしないで、仲良しになったらしいのは良き良き。ぽん子が若干上から目線なのはちょっとアレだけど。

「……だからお主死ぬ!って言っとるのに、お主の家族共の緊張感の無さはなんじゃい?」
「貴方がそんな警告するの何回目ですか?玉は一度戦場を潜り抜けているし、青木さんもまぁ、僕と知り合いになってから、僕が知らないところでも色々掻い潜って来た様です。何とかなるんじゃない?って感覚かもしれませんね。」
「むぅ。少し勿体振り過ぎたか。」
「実際、僕と玉の刀、そしてフクロウ君が居れば人間相手の近接戦闘は割と何とかなるとわかってますし。青木さんはあれ、弓道の段持ちです。火器で武装した近代軍隊の1個小隊にでも攻められなければ大丈夫じゃないですかね。」
ただの民間人2~3人が、職業軍人相手に戦うとか、いくら出鱈目極まる我が家でも、そんな状況はあり得ないだろうし。

「だったら、一応お主だけには言っておくわい。来たるその日、お主はその神馬に乗り駆けねばならぬ日が来る。」
「ネタバレですか?」
「ネタバレとわかっておったら、もう少し具体的な忠告をするわい。儂らは神故にわかるだけじゃ。その馬に跨るお主が戦場を駆け回る姿がな。」
「畑耕してご飯を食べて、職歴書に添付する資格証どこにしまったっけ?と押入をゴソゴソ探しているアラサーのおっちゃんですよ、僕は。」
「未来の事ゆえ、お主がどの様な選択肢を辿るのかは神にもわからない、ただ見えた未来が死と隣り合わせという事だけはわかる。神の力なぞ、所詮その程度の事じゃて。」 
「そうは言われてもなぁ。」

「まぁ、心に留めておくだけで良いぞ。」
テーブルの下から、一言主の声がする。
見ると、御狐様を枕に寝転がっていた。
テン一家も御狐様を枕にしている。
ご本人(ご本狐)がてんいちをペロペロ舐めて毛繕いしてるから、不快では無いのかな。

「お主とお主の持つ刀が強すぎて儂が手出しする暇がなかったがの。お主自身は、儂の保護下におる。だからお主は老衰による自然死以外出来んよ。」
「と言われましても、僕の父も母も、若くして病死してますが。」
「お主は、儂に溜まっていた穢れを祓ったじゃろ。ただでさえ先祖返りで浅葱の力が強いところに氏神の加護が万全と来とる。」
「はぁ。」
「じゃが、それを保証出来るのはお主だけじゃ。しずも玉も青木とやらも、お主が今後巻き込まれるであろう危機に対し、不死身ではありえない。」
青木とやらて。

思わず隣でお茶を啜るしずさんを見る。
当の本人は、のほほんと微笑んでいる。
『婿殿を信じてますよ』
微笑みの口元からは、そんな言葉が今すぐ溢れてきそうだ。

「道は二つある。お主が3人を護り切るか、お主が3人を正式な家族に、つまり玉と青木の子供を作るかじゃ。そうすれば我が加護は全員に及ぶ。」

あのぉ、テーブルの下から重たい最後通告が流れてくるんですけど。

★  ★  ★

「しず。神馬の世話は頼むぞ。馬を育てた経験が役に立とうぞ。」
「はい、かしこまりました。」

「わふ」
またな
「わふ」
次に来る時はもっと男になりなさい

荼枳尼天が別れの挨拶をしている足元で、たぬきちとぽん子は、何やら恐ろしい約束をしているぞ。

「浅葱の。」
「何ですか?」
一言主のそばには神馬が立っていた。
「乗れる様に、これから毎日特訓せえ。」
「特訓って言われても。」
神馬はポニーサイズの日本原種。
僕が乗ると、辛くないかな。

「ひひん」
馬は僕の胸な頭を押し付けて来た。
やれやれ。可愛い奴め。
武甕槌の配下にいた神馬ならば、''そういう能力''もあるんだろう。
「わかったよ。今日はこれからやる事があるから帰るけど、明日からで良ければよろしく。」
「ひん」
馬くんが右前脚を挙げてきたので、握手した。
あ、コイツも蹄鉄付けてないや。ならば一言。
「あと、モーちゃんが蹄を削るために外を散歩してるから、君も一緒に散歩しなさい。敷地の中はどこも地面が柔らかいからね。しずさんに断ってからな。ぽん子、彼らのボディガードは任せた。」
「わふ」
任されました。

「くにゃ」
ん。どした?御狐様が僕の腿を口で突いてる。
あらら、テンの子供達が御狐様の背中で寝ちゃってるよ。
「くぅ」
「くにゃ」
母テンと御狐様が話し合ってるけど、よく通じんな。関心関心。

「ではの。皆帰るぞ。」
「フクロウ君が帰って来ませんが。」
「アヤツなら勝手に帰ってくるわい。うちの庭の外に時々飛んでってるし。」
聖域の外はどうなっているのか知らないけど、壁を越えて色々な奴の出入りがあるらしいしなぁ。

荼枳尼天一行が帰り、土地神が自分の社に帰り、いつものメンツが残った。

「もう」
ご馳走様でした。
とりあえず、今日の騒ぎは終わったと見たモーちゃんが小屋に戻っていく。
さて、馬くんの小屋も作らないとな。
どこに作ろう。

★  ★  ★

「私達、まだしばらく残って行くから。」
蔵から竹で編んだ背負い籠を引っ張り出してきた青木さんが声を掛けて来た。
畑に行くと判断したのだろう。モルモット達はケージに戻って行った。
水を飲むなら、小川より給水器の方が飲みやすいらしい。
玉は裁ち鋏を持っている。
「殿は今日、何かご予定あるんですか?」
「んん?ちょっとホームセンターに行ってくるよ。」
「あ、でしたら、かぼちゃの種を買って来て下さい。お母さんが言うには馬さんは甘い野菜が好物だそうなのです。」
飼育経験のあるしずさんのアドバイスなら間違いないだろう。
人参畑を拡張するって言ってたし。

因みに馬の小屋は後回し。
モーちゃんの小屋がかなり広いし、2頭はもう仲良しになっているから。
神馬と仲良くなる牛ってなんだよとか思ったけど、考えてみればとっくに廃牛の隠居牛の夫婦から早産で生まれた牛で、飼主の宗次郎さんも浅葱一族、しかも荼枳尼天を信奉していたオマケ付き。
モーちゃんも神の牛なのかな。
天神様の遣いは牛だったよなぁ。

ま、いっか。
久しぶりの単独外出だ。
たまには、羽目を外すかなぁ。

★  ★  ★

羽目を外した僕がした事と言えば。
FM局から流れて来た90年代ポップスを車の中で大声で歌う事でした。
エッチな方向で行く事も考えたけど、うちにいたらいつ帰ってくるかわからないし、お店に行くほどの時間もないし。
…一応、手を出しても拒まないであろう、10代と20代の女の子が側にいるけど、なんか取り返しのつかない事になりそうだし。
 
ホームセンターでは2×4材数本とコンパネ数枚。専用の地具数セット。
僕の車では積みきれないので、配達してもらう。
あと、玉のリクエストのかぼちゃの種。
おやおや、バナナの苗木が売ってるぞ。
うちには温室なんかないけど、石工さんとこは育てたそうだな。
よし、物は試しだ。
聖域の方なら何とかなるかも知れない。
バナナのスムージーで手を打って貰おう。

………


「おや珍しい。玉ちゃんじゃ無くて、君が庭仕事しているのか。」

梅の花の下で(2~3日前にはなかったぞこんな木)椅子を組み立てていたら、隣の菅原さんに話かけられた。

「玉なら青木さんと一緒に、玉のお母さんのとこですよ。」
「相変わらず君達の関係性がよくわからないな。」
双方の親や神様から、早く嫁にしろと言われたり無言のプレッシャーを受けている関係性です。
「まぁいいや。」 
「いいんかい。」

2×4材を並べてコンパネを乗せ、木工用ボンドと地具で留める。
要はレゴブロックの大きい版だ。
積み木みたいに適当に並べて留めれば何かが出来る。
アメリカのシステマチックぶりには頭が下がる。
個人的には、ほぞ継ぎの日本工法の方が好きだけどね。

「ボンドが乾いたら、プラネジで留めて、ニスを塗れば出来上がりと。」
「ほう、器用なものだ。」
「誰でも作れますよ。そういうふうに出来ているんです。」
「そもそも私なら、作ろうとすら思わない。」
「必要があるから僕も動いただけで、普段なら出来合いのもの買いますよ。」

お値段以上のCMでお馴染みの家具屋を覗いただけで、玉に叱られましたから。

「玉とお母さんに、余計なお金を使ってはいけません!」

自分で材料を集めて作る分には、玉の理解の範疇を超えるらしく、何も言わない。
あと、家族の事に関する限り、浅葱の力は万能なので、一度手にすれば(自分のものにすれば)無限に出せる。
今作っている椅子の材料は、それで出した。
テストしてみたら出せちゃったので、仕方なく工作開始となった訳だ。

「動物園の件はどうするんだ?」
「一応、候補には入れてますよ。履歴書も書いてます。」
個人的にPC打ち出しよりも手書きの方が好きなので、書き間違えたら捨てて
その日は書くのを止めるの繰り返しなんだよ。
「何でも、メガバンクからの引き合いもあるとか聞いたぞ。」
「ありますけどね。」
あのお姉さんが持って来た資料は、そのまま放置してある。
「まぁ、数字に追われる仕事はやり切った感もあるので、考えどころですね。公務員の安定性を取るか、民間で多少キツいノルマに追われながら高給を取るか。」
「ふむ。」

普段は自分のテリトリーから出てこない菅原さんが、僕の方の庭まで入って来て、僕の顔をじろじろ眺め回す。
この人も、多少目が細いとはいえ、整った顔立ちの人だから、そんなに見つめられると。
「照れますよ。」
「口にしている段階で照れている様子が無いじゃないか。」
「照れ隠しですよ。」
「それも口にするから、ちっとも可愛げがないな。」
「菅原さんに照れたら、貴女どうする気なんですか?」
「私を女と見てくれたんだなぁと、今晩布団の中でジタバタするな。」
「…ひょっとして、貴女の中身は少女ですね。」

何故か菅原さんとは、興が乗ると身も蓋もない話になりがちだ。
まぁ菅原さんがくっくっくっと小さく笑うので、不愉快な思いはさせていないのだろう。

「アイツからの伝言だよ。」
人が座る前に、仮組した椅子に腰掛けて菅原さんが言った。

「雌のたぬきの嫁入り日が決まった。その時に来て欲しいそうだ。」
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